亜鉛欠乏症 zinc deficiency

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

1)亜鉛が欠乏すると亜鉛酵素の活性が低下する.
2)亜鉛はDNAポリメラーゼやZinc Finger Protein(亜鉛フィンガータンパク)などにも不可欠な微量ミネラルであるため,亜鉛欠乏で体内の蛋白合成全般が低下する.
→タンパク合成の盛んな細胞・臓器で障害が生じやすい.

亜鉛 zinc;Zn
亜鉛は鉄の次に多い生体内に必須微量元素で,体重70kgの成人に1.5~3g含まれ,300種類以上の酵素活性に必...

原因

亜鉛特異的輸送タンパクをコードするSLC39A4遺伝子変異による先天性型と,長期の経中心静脈栄養・消化管吸収障害・神経性食欲不振症などによる血清亜鉛低下によって生じる後天性型がある.

血清中に存在する亜鉛の60~80%にAlbと結合しているため,Albの変動が血清亜鉛値に影響を及ぼしている可能性がある.

摂取不足
静脈栄養,高齢者,低栄養,菜食主義者,低亜鉛母乳栄養
・CKDでは食欲不振による亜鉛の摂取不足になりやすい.
・HD患者では食事制限,P吸着薬や多剤薬物による吸収低下から亜鉛が低下しやすい.

吸収不全
炎症性腸疾患,短腸症候群,慢性肝炎,肝硬変,萎縮性胃炎,フィチン酸・食物繊維の過剰,先天性腸性肢端皮膚炎

需要増大
低出生体重児への母乳栄養,妊娠

排泄増加
糖尿病,腎疾患,血液透析,溶血性貧血
・ネフローゼ症候群(特に糖尿病性腎臓病)では尿中タンパク排泄増加による血清アルブミン値が低下し,それに伴い亜鉛欠乏になりやすい.

薬剤性
ビグアナイド,メチマゾール,チオウラシル,アロプリノール,インドメタシン,カルバマゼピン,L-ドーパ,炭酸リチウム,D-ペニシラミン,アンピシリン,アザチオプリン,イミプラン,酢酸フルラゼパン

病態

味覚障害

1)舌の上皮細胞は亜鉛が豊富であり,特に糸状乳頭基底部や有郭乳頭部の味蕾を含めた上皮部分には亜鉛は高濃度に存在し,味蕾内,特に味孔周辺にはアルカリホスファターゼ,酸性ホスファターゼ,Cyclic AMP Phosphodiesterase(サイクリックAMPホスホジエステラーゼ)などの亜鉛酵素が多く含まれる.
2)動物実験では,亜鉛欠乏で乳頭の扁平化,味細胞先端の微絨毛の消失,味細胞の空胞化などが観察され,人においても同様の変化が生じている.

貧血

血液中の亜鉛の約80%は赤血球に存在し,赤血球膜を作るタンパク合成に関与しており,亜鉛が不足すると赤血球膜が脆弱になり,毛細血管などの透過時に膜が破綻し,赤血球が破壊される.

1)赤芽球の分化・増殖にZinc finger proteinであるGATA-1が不可欠で,亜鉛欠乏により赤芽球の分化・増殖が障害され,貧血を生じる.
・亜鉛欠乏性貧血の特徴は,赤血球数が減少し,正球性または小球性貧血で,血清総鉄結合能(TIBC)は低下している.
・鉄欠乏を合併している場合は小球性になる.

2)スポーツ競技者や透析患者では,亜鉛欠乏性溶血により高頻度に貧血になる.
・スポーツ競技者での亜鉛欠乏の原因は,汗や尿からの亜鉛排泄の増加と考えられている.
・亜鉛欠乏により赤血球膜の抵抗性が減弱し,強度の機械的刺激(激しい運動・透析など)で溶血するとの機序が推定されている.

小児科 2003; 44: 832-839

発育障害

1)小児では,亜鉛欠乏で成長障害,すなわち身長の伸びが悪くなり,低身長症になる.
2)亜鉛欠乏での成長障害の病態として,成長ホルモン分泌・肝での成長ホルモン受容体減少・IGF-1産生低下・テストステロン産生低下などが考えられている.

皮膚炎・脱毛

 皮膚・毛髪には,体内亜鉛の約8%が存在し,さらに表皮の亜鉛含有量は真皮に比べて著しく多く,表皮のタンパク合成に関わっている.
→亜鉛欠乏で皮膚の変化・表皮の変化が見られる.

 病理所見としては,表皮内水疱,表皮内・角層の空胞変性などが見られ,進行すると乾癬様となる.

 病態としては、ATP由来炎症を抑制する作用のある表皮ランゲルハンス細胞が亜鉛欠乏で減少し,その結果,ATP分泌過多が生じ,皮膚炎を発症すると言われている.
 角化細胞にも亜鉛が多く含まれており,亜鉛欠乏で角化細胞の分化が障害され,皮膚炎を発症するとの報告もある.

 脱毛は毛包周辺の皮膚障害で発症し,機械的刺激を受ける部位に強く現れる.

性腺機能不全

 亜鉛が欠乏すると,特に男性の性腺の発達障害や機能不全が生じる.
1)亜鉛欠乏でテストステロンの合成・分泌が低下する.
2)精液中の亜鉛濃度と男性の不妊症とには負の相関が認められる.

 亜鉛は前立腺に高濃度で存在するが,その機能は不明.
・最近の報告では,亜鉛欠乏による精子形成障害の原因として,酸化ストレスおよびアポトーシスの増加によるテストステロン産生の減少が示唆されている.

食欲低下

 亜鉛が欠乏すると消化管粘膜が萎縮し,消化液の分泌減少や消化管運動が低下し,その結果,食欲が低下する.
1)亜鉛欠乏は視床下部でのニューロペプチドYの放出を阻害することにより食欲低下を引き起こすとも言われている.
2)食欲低下による摂食量の減少が亜鉛欠乏状態を増悪させ,さらに悪循環に陥る.

下痢

 ZIP4遺伝子異常による先天性腸性肢端皮膚炎の3徴候は,皮膚炎,脱毛,下痢であるように,著明な亜鉛欠乏では下痢を合併する.
1)原因として腸粘膜の萎縮による消化吸収障害によると考えられている.
2)亜鉛欠乏は腸管でのイオン輸送や膜透過性にも影響を及ぼし,下痢を誘発する.
3)亜鉛欠乏により,腸粘膜の免疫機能が変化することも一因と考えられる.

骨粗鬆症

 亜鉛欠乏では骨代謝に関与する亜鉛酵素であるアルカリホスファターゼ,insulin-like growth factor-1(IGF-1),transforming growth factor-β(TGF-β)などの成長因子の合成・分泌が低下している.
 亜鉛欠乏では骨形成の低下が認められる.

創傷治癒遅延

 亜鉛はDNAおよびRNAポリメラーゼ,転写因子やリボソームなどの機能に不可欠であり,核酸やタンパク合成に必須であり,さらに抗酸化作用を有することから,創傷治癒において,亜鉛欠乏状態では炎症の遷延化や線維芽細胞の機能低下により創傷治癒の遅延が見られる.

易感染性

 亜鉛欠乏はTh1およびTh2機能のインバランスを引き起こす.
1)IFN-γ,IL-2の産生が減少する.
2)マクロファージ,好中球の機能,ナチュラルキラー細胞活性,補体活性を低下させると言われており,易感染性になる.
3)特に小児において下痢を引き起こす感染症などに対する易感染性が生じる.
4)亜鉛欠乏を呈する長期入院高齢患者では感染症に罹患しやすく,感染に対する抵抗性が減弱し重症化する.

症候

3主徴は皮膚炎,脱毛,下痢.

診断

Definite(確定診断):下記の1),2),3)-A,4)をすべて満たす場合
潜在性亜鉛欠乏症:下記の1),2),3)-B,4)をすべて満たす場合
Probable:亜鉛補充前に1),2),3)を満たすもの→亜鉛補充の適応になる

1)下記症状/検査所見のうち1項目以上を満たす
A.臨床症状・所見
皮膚炎,口内炎,脱毛症,褥瘡(難治性),食欲低下,発育障害(小児で体重増加不良・低身長),性腺機能不全,易感染性,味覚障害,貧血,不妊症
B.検査所見
アルカリホスファターゼ(ALP)低値

2)上記症状の原因となる他の疾患が否定される

3)血清亜鉛値(血清亜鉛値は早朝空腹時に測定することが望ましい)
A.60μg/dL未満(亜鉛欠乏症)
B.60~80μg/dL未満(潜在性亜鉛欠乏症)

4)亜鉛を補充することにより症状が改善する.

治療

食事療法

亜鉛含有量が多い食品を積極的に摂取するよう推奨する.

亜鉛含有量の多い食品

亜鉛の補充

亜鉛の補充中は,血清の亜鉛・銅・鉄を経時的にfollow up(数カ月毎)

ポラプレジンク(プロマック®)
酢酸亜鉛(ノベルジン®)

酢酸亜鉛水和物 Zinc acetate hydrate
ノベルジン ®(ノーベルファーマ) 25mg 274.5円 50mg 430.1円食後内服低亜...

慢性肝疾患,糖尿病,慢性炎症性腸疾患,腎不全では,しばしば血清亜鉛値が低下している.
→血清亜鉛値が低い場合,亜鉛投与により基礎疾患の所見・病状が改善することがある.

学童以降~成人:50~150mg/day内服
幼児:25~50mg/day内服
乳幼児・小児:1~3mg/day内服
透析患者:50mg/day内服が望ましい

血清亜鉛濃度は80~120μg/dLを目標とする.
投与開始時や,用量変更時は血清亜鉛濃度を必ず確認
・100μg/dL以上になれば,減量を検討
・血清亜鉛濃度が120μg/dL以上になれば,休薬を検討

有害事象

■嘔気,嘔吐,腹痛などの消化器障害→軽度

■血清膵酵素(アミラーゼ,リバーゼ)の上昇→経過観察でOK

■銅欠乏による貧血・神経障害
・亜鉛の長期大量投与は銅の腸管での吸収を阻害するのが原因
血清銅値を経時的(数か月毎)に測定することが必要
→欠乏時は亜鉛製剤を中止し,補充

■鉄欠乏による貧血
・稀
・腸管における鉄吸収阻害
→血清鉄値を経時的(数か月毎)に測定することが必要
→欠乏時は亜鉛製剤を中止し,補充

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