脳血管性認知症 vascular dementia;VaD

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なすび医学ノート

脳血管障害に関連して出現した認知症を総称したもの.

VaD の神経基盤として血管障害の部位が,①局在論的に重要,②重要な部位同士を連絡する神経線維を離断,③高次脳機能を担う重要な神経回路である.

疫学

全認知症の中で,Alzheimer型認知症につぐ2番目の原因疾患.
65歳未満の若年性認知症の中では筆頭で約40%を占める.

VaDの生命予後は正常対照より不良.
・久山町研究では,VaDの10年生存率が13.2%,AD 18.9%と,VaDで不良の傾向がある.

原因

脳卒中発症後の認知症リスクは,虚血性より出血性の方がやや高い.
・発症後1~10年後では約1.5倍,10~30年後では約1.3倍.
・脳卒中の発症頻度は,虚血性:出血性=4:1であるため,有病率は虚血性VaDのほうが高い.

分類

皮質性(多発梗塞性)認知症

主幹動脈本幹・分枝のアテローム血栓症,塞栓症などにより,単発もしくは多発性の皮質枝領域梗塞を生じ,認知症を呈したもの.

・大脳皮質を含む比較的大きな梗塞が認められ,責任血管は大血管で,アテローム血栓または塞栓,心原性塞栓などが原因.
・大脳皮質のみに限局することは稀であり,皮質下の血管障害を伴うことが通常.
・臨床像としては,認知症に加えて,片麻痺や失語症,半盲などの大脳皮質の局所症候も示し,しばしば高度のADL障害を残して重い脳梗塞後遺症というべき状態になっている.

血管性認知障害 vascular cognitive impairment;VCI
高齢者のVaDにはADが合併する頻度が高い,脳血管障害に軽度認知障害を伴う例が存在するといった従来のVaDの枠組みに収まりきらない症例を包括した概念.

皮質下血管性認知症

小細動脈硬化を背景とする小血管病.

・最も多く(VaDの半数前後)かつ重要なタイプで,皮質下VaD,多発性ラクナ梗塞型VaD,Binswanger病,遺伝性脳小血管病(CADASIL,CARASIL)などが相当する.
・穿通動脈の病変による多発性ラクナ梗塞と虚血性白質病変が責任病巣.
Binswanger病は白質が病変の首座(ラクナ梗塞も高頻度に合併). 多発小梗塞(ラクナ)性認知症は,穿通枝領域の小梗塞が中心.
・このタイプは比較的均一な群をなしており,VaDの中核群と言える.
・病初期から歩行障害(小刻み歩行,すくみ足現象;血管性パーキンソン症候群に相当),歩行の不安定,転倒傾向,尿失禁(過活動膀胱),偽性球麻痺(構音・嚥下障害)が目立つことが特徴.
・MRI T2強調画像やFLAIR画像では,白質病変をびまん性高信号域として捉えやすく,診断に有用.
・T2強調画像で検出される微小出血も観察されることが多い.

認知症の成立に必要な領域限局性(局在病変型)認知症

Papezの回路やYakovlevの回路といった記憶・情動に関わる限局した部位に脳血管障害を生じて発症するVaD.
代表的な障害部位は,1)皮質では海馬,角回ならびに帯状回,2)皮質下では視床,脳弓,尾状核,淡蒼球ならびに内包膝部.
慢性期には回復機転を示すこともある.

低酸素/低灌流性認知症

心停止・中毒や著明な低血圧による全脳虚血あるいは頸動脈疾患などによる境界域領域の限局性虚血に起因する認知症.
全脳虚血に際しては,白質に選択的かつ広範な不完全梗塞の存在を示す画像所見がみられる.
皮質下VaDの次に頻度が高く,しばしばAD病理を合併することが知られている.

出血性認知症(出血性疾患による認知症)

くも膜下出血,脳内出血ならびに慢性硬化血腫などに伴う認知症.

脳アミロイド血管症による脳葉型出血も,認知症の原因となりえる.

欧米各国と比較し,本邦では脳卒中に占める脳出血の頻度が高いことから,出血性認知症の有病率も必然的に高い.

混合型認知症(主に脳血管障害を伴うAD)

臨床的には,ADに脳血管障害の合併が証明されるもの,もしくはADとVaD/VCI両者の臨床的特徴を併せ持つ症例.

脳アミロイド血管症に皮質微小梗塞や皮質下白質病変を伴う小冷害,VaDの実に8~10%を占めるという報告もある.

脳アミロイド血管症のなかでもcerebral amyloid angiopathy-related inflammationと呼ばれ,白質病変の出現と共に急速に認知機能が悪化し,免疫抑制薬の投与で一部可逆性の経過をたどる劇症型があることにも留意.

血管性軽度認知障害 mild vascular neurocognitive disorder;VaMCI

脳血管障害を基盤として,少なくとも1ドメインの認知機能障害を認めるものの,認知症には進展していない状態.

血管性の要素が強いことから,しばしば前頭葉機能低下やParkinson症候を合併し,約2/3の症例で皮質下VaDの画像所見を示す.

VaMCIの早期スクリーニングには,MoCAの有用性が指摘されており,MMSEよりも感度よくVaMCIを検出できる.

症候

1)認知症の存在
・実行機能障害や注意障害が現れることが特徴.
・記憶障害は必発ではない.
2)非均一な高次脳機能障害(まだら認知症)
・知的能力の低下や記憶障害があっても,病識や判断力は保たれている.
3)局所脳機能障害
・運動麻痺,偽性球麻痺(構音・嚥下障害,病的泣き笑い),脳血管性パーキンソニズムなどを伴うことが多い.

・VaDの中核症状としては遂行機能障害と記憶障害があるが,ADに比べると記憶は比較的保たれ,むしろ遂行機能障害の方が目立つ傾向がある.
・一般に,初期から身体症状が目立ち,ADLの低下による介護負担が大きい傾向がある.
・認知障害は一般に均一ではなく,洞察力と判断力が比較的保たれることもある.

・初期から神経学的に片麻痺やパーキンソン症候群による歩行障害に加えて,上肢では細かい動作の障害がみられ,呂律の回りにくい構音障害があり,易転倒性,頻尿や尿失禁の排尿障害などがみられる.

・周辺症状としては,抑うつ,無気力・無関心(アパシー),感情失禁,夜間せん妄,行動の遅滞,不安などが多い傾向があり,早期からみられる.

・脳血管障害の再発に伴って病状が階段的に悪化していく経過が特徴的であるが,脳の障害部位によって症候が異なる.
→眩暈や痺れ,構音障害,失語などの症候に加えて,認知能力の低下などには大きなムラがあり,記憶力低下に比して理解力や判断力,人格がしっかりと保持されている「まだら認知症」という特徴をみる.

・進行期にあっても病識や理知的な側面は残っていることが多い.

・遂行機能とは,記憶や言語,視空間認知,行為などの個々の機能をいかにうまく使うかという機能であるが,VaD のうちとくにBinswanger病では無気力,無関心と関連した社会的遂行機能の高度な障害がある.

身体的所見

・腱反射の亢進や左右差,病的反射なども脳血管障害の結果として生じるが,高齢者では変形性脊椎症や末梢神経障害により反射の異常がマスクされていることも少なくない.

画像所見

・頭部CTやMRIなどの固定的な形態画像と SPECT や PET(positron emission CT)などの機能画像が使われる.CT や MRIを行うと,大梗塞,多発小梗塞,大脳白質に広範な虚血性変化,とくに認知機能に重要な役割を持つ部分(前頭葉,側頭葉,後頭葉,視床,尾状核,海馬など)に梗塞が認められる.
・脳血管撮影には MR angiography や血管造影がある.

診断

診断のポイントしては,①認知症がある,②CVDがある,③両者に因果関係があるの3点.

①→病歴,簡易知能検査,高次脳機能検査など
②→病歴,神経症候,画像診断
③→CVD発症と認知症出現との時間的関係,空間的関係.病変部位と大きさが認知症の責任病巣として妥当かどうか.

NINDS-AIREN による血管性認知症の診断基準(要点)

①記憶と 2 つ以上の認知機能障害(見当識,注意,言語,視空間機能など)と脳卒中の身体的障害のみには還元できない日常生活障害
②脳血管障害の存在.脳血管障害に矛盾しない局所神経学的徴候の存在.かつ画像診断(CT・MRI)により基底核領域・白質病変だけでなく多発性の大血管梗塞や単発でも重要部位の梗塞の存在(視床など)
③上記の①と②の関連が以下の 1 つ以上により証明あるいは推論される.
1)脳卒中のみられた 3 か月以内に認知症が発症
2)認知機能の突然の障害あるいは動揺性の経過

認知症と脳血管障害の存在を示した上でこの両者の因果関係を提示する.
特異度93%に対して感度は20%と診断能は十分ではない.
・認知機能障害の評価がADの記憶障害を基準に行われることが多く,VaDで障害される遂行機能障害や注意障害が的確に評価されにくい.
・脳血管障害と認知症発症の時間的関係を必ずしも証明できない.

DSM-5におけるVaD(major vascular neurocognitive disorder)診断基準

A.その基準がmajor neurocognitive disorder(認知症)に合致すること.
B.臨床像が次のいずれかで示唆される血管性の特徴を有すること.
 1.認知機能障害の発症が1つ以上の脳卒中発作に時間的に関連する.
 2.障害が情報処理速度を含む総合的な注意力,前頭葉性の実行機能に顕著である.
C.病歴・理学所見ならびに神経画像所見から,認知機能障害を十分に説明しうる程度の脳血管障害が存在すること.
D.症状は他の脳疾患や全身疾患で説明されないこと.

prolable vasucular neurocognitive disorder
以下の項目の少なくとも1つを満たす.
それ以外はpossible vascular neurocognitive disorderとする.
1.臨床基準が脳血管障害に起因する神経画像の異常で説明可能である.
2.認知機能障害の発症が,1つ以上の文書記載のある脳卒中発作に時間的に関連する.
3.臨床的および遺伝的な脳血管障害の証拠がある.

possible vasucular neurocognitive disorder
臨床像が一致しても,神経画像が得られない場合や,認知機能障害の発症が1つ以上の脳卒中発作に時間的に関連することが確認できない場合.

皮質下血管性認知症の診断基準(要点)

①遂行機能障害と記憶障害(おそらく軽度)の存在と社会生活活動の以前の水準から低下
②以下の両者を含む脳血管障害の存在.すなわち画像診断による関連する脳血管障害の証拠と神経学的症候の存在あるいは既往

*画像診断
CT:半卵円中心に達し少なくとも 1 つのラクナ梗塞を含む著明な白質病変の存在,および,皮質の大梗塞・出血,水頭症や多発性硬化症のような特殊な白質病変の除外
MRI:
1)白質病変優位型:10 mm 以上の PVH,25 mm 以上の連続する白質病変など,または
2)ラクナ優位型:基底核領域の5個以上の多発性ラクナと中等度の白質病変,および皮質の大梗塞・出血,水頭症や多発性硬化症のような特殊な白質病変の除外

ビンスワンガー病(possible Binswanger’s disease)の臨床的診断基準

以下の①,②の条件を満足する.

①臨床症状
1)認知症があり脳血管性認知症の特徴を示す
・思考力の低下,思考の遅さ,記憶,記銘の障害
・精神的に不活発になりやすい
・感情失禁,うつ状態を伴うことがある
・初期はまだら認知症で人格は保たれる
・多弁,多動,多幸状態は一般に示さない
2)仮性球麻痺(構造障害など)動作緩慢,筋固縮,小歩,すくみ足,不全片麻痺,錐体路微候,などの症状を併存するものが多い.これらが1つもないものは本症とは診断しない.
3)高血圧(既往歴を含む)がある.高血圧症の多臓器所見がしばしばみられる.進行して寝たきり状態になると必ずしも高血圧を示すとは限らない.

②画像所見
1)CT/MRI 上,脳萎縮を伴う両側性の広範な大脳白質異常,PVL/PVHは一般に左右差があり(非対称性),かつ,前角部のみならず体部から後方に広がるものが多い.
2)著明な脳室拡大を伴うPVL/PVHでは正常圧水頭症を否定すること

治療

治療可能な認知症(treatable dementia)とも呼ばれ,脳血管障害を予防することで,認知症の発症の予防や進行抑制が可能と考えられている.

予防的治療

生活習慣病の予防と同様にバランスのとれた食生活,適度の運動,肥満予防,飲酒や喫煙の抑制,精神的ストレスの緩和などが重要.

高血圧はラクナ梗塞と密接な関連があり,放置すると明らかに梗塞の数は増える.
・過度の降圧は脳循環不全を誘発し,認知機能低下を招くことがあり,急激な過度の降圧を避ける.

脳塞栓症の原因として重要なのは不整脈,とくに加齢とともに増加する非弁膜性心房細動であり,心原性の脳塞栓症の一次予防として長期の抗凝固療法の有効性が確立されている.

糖尿病,高脂血症に対する治療として食事療法,運動療法,薬物療法などが実施される.

アテローム血栓性梗塞の予防として抗血小板薬の投与を行う.
・出血性合併症に注意.
・脳葉型微小出血が観察されれば,脳アミロイド血管症の合併が示唆されるため,注意.

症状に対する治療

抗AD薬として,コリンエステラーゼ阻害薬であるドネペジル,ガランタミンなどが,NMDA受容体拮抗薬としてメマンチンが用いられるが,VaDには保険適用外であり,ADの合併例でのみ考慮する.
・ドネペジルはVaD患者における認知機能を改善するかもしれない.
・ガランタミンは混合型AD/VaD患者に有用かもしれない.
・リバスチグミンとメマンチンの有益性は十分に確立されていない.

周辺症状である意欲低下,抑うつ気分,不眠,不穏,攻撃的行為,徘徊,せん妄,感情失禁などに対しても積極的に薬物治療が行われる.
・チアプリドは「脳梗塞後遺症に伴う攻撃的行為,精神興奮,徘徊,せん妄の改善」に適応を有す.
・リスペリドンはVaDに伴う攻撃性,焦燥性興奮,精神症状に対して低用量で有効とされる.

脳循環・代謝改善薬が病態に応じて用いられることがある.
・ニセルゴリンやアマンタジンがVaDに伴う意欲・自発性低下に対して用いられる.

BPSD に準じて非定型抗精神病薬,抗うつ薬,コリンエステラーゼ阻害薬,漢方薬なども使用される.

リハビリテーションやレクリエーションといった非薬物療法が認知症の症状や生活の質の改善に有効である.
・VaDの進行に伴い,片麻痺や歩行障害などの局所神経症候を伴うことが多くなる.
・仮性球麻痺に伴う嚥下障害は誤嚥性肺炎のリスクとなるため,口腔ケアや嚥下リハビリも考慮される.

介護サービスなどの公的サービスを活用し,社会とのつながりや人間関係を維持し,日常生活動作をできるだけ維持することは,認知症予防の観点からも望ましい.

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