甲状腺中毒症 thyrotoxicosis

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なすび医学ノート

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甲状腺中毒症 thyrotoxicosis
・血中甲状腺濃度が過剰になっている状態.
・臨床症状のあるなしに関わらず,血中甲状腺ホルモンが多少でも過剰の状態を指す.

甲状腺機能亢進症 hyperthyroidism
・甲状腺から過剰のホルモンが持続的に産生される状態.
「車のギアをニュートラルにして,エンジンをふかしている状態」

潜在性甲状腺機能亢進症 subclinical hyperthyroidism;SCHyper
・FT4基準値内でTSHが低値のもの.

原因

甲状腺に原因があり,ホルモン合成が高まっている病態

 Basedow病やPlummer病など

甲状腺からの甲状腺ホルモンの漏出によるもの

 無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎などの破壊性甲状腺炎

外因性の甲状腺ホルモン過剰

 甲状腺ホルモン補充量の過剰,甲状腺癌に対するTSH抑制療法,漢方薬など

TSHが高値のための甲状腺の機能亢進

 TSH産生下垂体腺腫

ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG:human chorionic gonadotropin)による甲状腺の機能亢進

 妊娠性甲状腺機能亢進症や絨毛性腫瘍

症候

甲状腺中毒症そのものの症状

交感神経刺激症状(基礎代謝の亢進)
高齢者では症状に乏しいことも多い.
・皮膚:発汗亢進,湿潤で温かな皮膚,時に前脛骨に限局した粘液水腫(non-pitting edema)
・体重:体重減少,ただし若年では食欲亢進のために増加することがある.
・循環器系:循環血液量が増大(前負荷が増加→心拍出量増大,収縮期高血圧),全身の血管抵抗減少(後負荷は減少→脈圧開大)
 動悸,息切れ,頻脈,心房細動(コントロール不良例:2~20%),収縮期血圧上昇(脈圧開大),僧帽弁逸脱,心不全(心拍数依存性).心臓のβアドレナリン受容体の数を増加.
・消化器系:便通回数の増加,軟便~下痢,食欲亢進,高齢者では食欲低下も
・神経系:せかせかした行動や思考,いらいら,多弁,早口,精神的な落ち着きのなさ
・運動系:thyrotoxic myopathy,周期性四肢麻痺
・性腺/生殖系:経血量の減少,月経サイクルの乱れ,不妊症,流産,男性では女性化乳房

甲状腺病変

 甲状腺腫,時に圧痛など

甲状腺外症状

〇Basedow眼症
〇限局性粘液水腫症
〇acropachy(肢端[先端]強皮症)など
〇急性甲状腺炎にみられる発熱など
〇周期性四肢麻痺:東洋人男性に多く,低K血症を伴うことも多い.

一般検査

変化は乏しい.
○総コレステロール値の低下:時系列でみると発症時期の推定ができる.
○ALP高値→骨代謝の亢進
○糖代謝異常
1)甲状腺ホルモンによる胃蠕動亢進および小腸からのブドウ糖吸収促進
→経口糖負荷による急峻な血糖上昇:Oxyhyperglycemiaをきたす
2)肝臓での糖新生亢進(甲状腺ホルモンの直接作用およびグルカゴン分泌促進やカテコラミンの感受性亢進などによる間接作用)
3)遊離脂肪酸の増加
4)インスリン分解促進

内分泌検査

 FT4,血中TSHの測定は必須(スクリーニングにはTSH).必要に応じ,FT3を追加

血中遊離サイロキシン free throxin;FT4

・血中のT4のうち,0.02~0.03%程度が結合蛋白に結合していない遊離型で存在.
・全身の標的細胞に作用する真のホルモンレベルを示し,最善の甲状腺機能の指標となりうる.

血中遊離トリヨードサイロニン free triiodothyronine;FT3

・血中のT3のうち0.3~0.4%程度が結合蛋白に結合しない遊離型で存在.
・甲状腺からの分泌比が判る(Basedow病ではFT3/FT4比があがり,2.5以上になることが多い).
・Basedow病の治療経過の指標になる.

TSH受容体抗体 TSH receptor antibody;TRAb

・TSH受容体に対する自己抗体.
・刺激型(TSAb)と阻害型(TSBAb)の2種類がある.
・基準値(第3世代)<2.0IU/L.陰性,弱陽性の判断は難しい.ヨード摂取率,エコーで血流評価.
・甲状腺機能亢進の指標になる.活動性,治療経過,寛解の判定に有用.

甲状腺刺激型抗体 thyroid stimulating antibody;TSAb

・TSH受容体に対する自己抗体のうち,刺激活性を有する抗体の生物学的活性を反映.
・基準値≦180%.未治療Basedow病における陽性率は90~95%.感度良好.
・眼症の活動性と相関するとされる.

TPOAb anti-thyroid peroxidase antibody

画像検査

甲状腺エコー

・びまん性/結節性をより正確に捉えることができる.
・血流量の観察は甲状腺の機能亢進か破壊性の機序かの判別に有用.

123I甲状腺摂取率/シンチグラムまたは99mTc甲状腺摂取率/シンチグラム

・甲状腺でのホルモン合成が亢進しているのか,破壊性の機序によるものかの鑑別に有用.

診断

1)Basedow病:a)の1つ以上に加えて,b)の4つを有するもの
2)確からしいBasedow病:a)の1つ以上に加えて,b)の1,2,3を有するもの
3)Basedow病の疑い:a)の1つ以上に加えて,b)の1と2を有し,FT3・FT4高値が3か月以上続くもの.

a)臨床所見
1.頻脈,体重減少,手指振戦,発汗増加等の甲状腺中毒症所見
2.びまん性甲状腺腫大
3.眼球突出または特有の眼症状

b)検査所見
1.FT4~FT3いずれか一方または両方高値
2.TSH低値(0.1μU/mL以下)
3.抗TSH受容体抗体(TRAb,TBII)陽性.または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性
4.放射性ヨウ素(またはテクネチウム)甲状腺摂取率高値,シンチグラフィでびまん性

<付記>
1.コレステロール低値,アルカリフォスファターゼ高値を示すことが多い.
2.FT4正常でFT3のみが高値の場合がまれにある.
3.眼症状がありTRAbまたはTSAb陽性であるが,FT4およびTSHが正常の例はeuthyroid Graves病またはeuthyroid ophthalmopathyといわれる.
4.高齢者の場合,臨床症状が乏しく,甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする.
5.小児では学力低下,身長促進,落ち着きのなさ等を認める.
6.FT3(pg/mL)/FT4(ng/dL)比は無痛性甲状腺炎の除外に参考となる.
7.甲状腺血流測定,尿中ヨウ素測定が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である.

治療

 以下の治療は対症療法.
 根治療法は原因疾患に準じる.

無機ヨード薬

ヨウ化カリウム丸(KI丸) 50~100mg/日(分1~分2).
ヨードとして38~76mgに相当する.
・ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料として必須の成分であるが,大量の無機ヨウ素をヒトや動物に投与すると甲状腺機能は抑制される(Wolff-Chaikoff効果:過剰の無機ヨウ素は有機化を抑制し甲状腺ホルモンの合成・分泌を抑制する.正常甲状腺では投与後24時間以内に現れ,10日以内にエスケープする).
・甲状腺内の血管分布の減少,腺組織の固化,濾胞細胞の縮小効果などを認める.
・甲状腺クリーゼでは,急速に甲状腺機能を抑制させるために用いる.
・副作用としてはまれに皮疹がみられる.
・破壊性甲状腺炎には無効である.

β遮断薬

・Basedow病に代表される甲状腺中毒症では,甲状腺ホルモンの作用で,心拍出量は増大し収縮期血圧は上昇する.頻脈や高血圧に対してβ遮断薬を使う.
・甲状腺機能亢進症における心不全は心拍数依存性であるため,β遮断薬によるレートコントロールは左室機能を改善する.

プロプラノロール

インデラル®  30~90mg/日(分3)
・β遮断薬(β1非選択性ISA)
・喘息がなければ,非選択的なプロプラノロールが自覚症状緩和には優れるが,頻回内服が必要となる.

■禁忌
気管支喘息,糖尿病ケトアシドーシス,高度の徐脈(50/min以下),高度房室ブロック,洞不全症候群,心原性ショック,肺高血圧による右心不全,うっ血性心不全,低血圧症,重症の末梢循環障害(壊痘など),未治療の褐色細胞腫などである.

アテノロール,ビソプロロール

アテノロール(テノーミン®) 25~50mg/日(分1)
ビソプロロール(メインテート®) 2.5~5mg/日(分1)
・β1選択性かつ持続性であり,日常的にはよく使用される.
・気管支喘息は慎重投与となり,禁忌から外れる.

妊婦・授乳中

・妊婦では流産,胎児の発育不全,分娩の遷延を誘発する恐れがあるため推奨されないが,必要ならアテノロール(テノーミン®)とプロプラノロール(インデラル®)は使用可能である.
・授乳中に必要な場合は,アテノロール(テノーミン®)より乳汁分泌量が少ないプロプラノロール(インデラル®)が推奨されている.

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