甲状腺クリーゼ thyroid storm,thyroid crisis

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なすび医学ノート

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甲状腺中毒症の原因となる未治療ないしコントロール不良の甲状腺基礎疾患が存在し,これに何らかの強いストレスが加わった時に,甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥った結果,生命の危機に直面した緊急治療を要する病態.

おすすめ文献

日内会誌2016;105:653-657(pdf)
甲状腺クリーゼ診療ガイドライン2017(pdf)

疫学

・年間250例程度,入院したBasedow病の1%以下.
・致死率11~33%.迅速な診断と治療がなされた場合でも致死率は10%を超える.
・死亡に相関する因子は,ショック・DIC・多臓器不全などの合併症.

原因

未治療ないしコントロール不良の甲状腺中毒症が存在し,これに何らかの身体的・精神的ストレスがかかったときに,甲状腺ホルモン作用過剰に対する生体の代償機構の破綻により複数臓器が機能不全に陥り,その結果,生命の危機に直面する.

甲状腺基礎疾患としては,Basedow病が最も多いが,機能性甲状腺腫瘍や破壊性甲状腺中毒症に伴って発症した報告もある.
・かつてはBasedow病の甲状腺亜全摘術後に発症する外科的甲状腺クリーゼが多かったが,術前の甲状腺機能コントロールが厳格に行われるようになった現在,内科的甲状腺クリーゼがほとんど.

誘因

本邦の全国疫学調査では,甲状腺クリーゼの約70%に誘因の存在が認められ,抗甲状腺薬の服用不規則・中断と感染症が最も多かった.

甲状腺疾患に直接関連した誘因

抗甲状腺剤の服用不規則や中断
甲状腺手術
甲状腺アイソトープ治療
過度の甲状腺触診や細胞診
甲状腺ホルモン剤の大量服用など

甲状腺に直接関連しない誘因

感染症
甲状腺以外の臓器手術
外傷
妊娠・分娩
副腎皮質機能不全
糖尿病ケトアシドーシス
ヨード造影剤投与
脳血管障害
肺血栓塞栓症
虚血性心疾患
抜歯
強い情動ストレスや激しい運動など

病態

多臓器不全が特徴.
→具体的には,全身性症候,臓器症候ならびに甲状腺基礎疾患関連症候の3つに大別でき,各症状が重度であり,しばしば生体の恒常性を逸脱している.

全身性症候

発熱(しばしば38°C以上),高度の頻脈(130回/分以上)や多汗,意識障害ならびにショック等が代表的.

臓器症候

息切れ・動悸等の循環不全・呼吸不全,興奮・昏迷・昏睡等の中枢神経症状ならびに下痢・嘔吐・黄疸等の消化器症状等が特徴的である.

甲状腺基礎疾患関連症候

甲状腺腺腫や眼球突出.

診断

甲状腺機能検査

FT3(free T3),FT4(free T4),TSH(thyroid stimulating hormone)を測定.
*甲状腺クリーゼが強く疑われ,全身状態が重篤である場合,ホルモン測定結果が出るまでに治療を開始する!

甲状腺ホルモンレベルは,非甲状腺クリーゼの甲状腺中毒症と有意な差異はない.
・重症のnon-thyroidal illness(NTI,非甲状腺疾患)状態でもあるため,FT3やFT3/FT4は低下傾向にある.

一般検査

全身状態の把握のため,一般的な血液・生化学検査,胸部X線撮影ならびに心電図は必須.

肝機能異常(黄疸を含む)や腎機能異常をしばしば伴い,それらの重症度は予後との関連が深い.

重症度の指標として,動脈血酸素化能(FiO2),動脈血pH,血清ナトリウム,血清カリウム,血清クレアチニン,ヘマトクリット値ならびに白血球数を測定する.

一般的に,甲状腺クリーゼでは,相対的副腎皮質機能低下状態になり,時には副腎皮質機能低下症を合併するため,その点からも電解質のチェックは重要.

診断基準(第2版)

確実例
必須項目および以下を満たす.
a.中枢神経症状+他の症状項目1つ以上
b.中枢神経症状以外の症状項目3つ以上

疑い例
a.必須項目+中枢神経症状以外の症状項目2つ
b.必須項目を確認できないが,甲状腺疾患の既往・眼球突出・甲状腺腫の存在があって,確実例条件のaまたはbを満たす場合.

*高齢者は,高熱,多動などの典型的クリーゼ症状を呈さない場合があり(apathetic thyroid storm),診断の際注意する.

必須項目

甲状腺中毒症の存在(遊離T3および遊離T4の少なくともいずれか一方が高値)

症状

明らかに他の原因疾患がある場合は除く.
クリーゼによる症状か単なる併発症か鑑別が困難な場合は誘因により発症したクリーゼの症状とする.

1.中枢神経症状
不穏,せん妄,精神異常,傾眠,けいれん,昏睡.Japan Coma Scale(JCS)1以上またはGlasgow Coma Scale(GCS)14以下.

2.発熱(38度以上)

3.頻脈(130回/分以上)
心房細動などの不整脈では心拍数で評価する.

4.心不全症状
肺水腫,肺野の50%以上の湿性ラ音,心原性ショックなど重度な症状.New York Heart Association(NYHA)分類4度またはKillip分類 Ⅲ度以上.

5.消化器症状
嘔気・嘔吐,下痢,黄疸(血中総ビリルビン>3 mg/dl)

重症度判定

APACHE(acute physiology and chronic health evaluation)II score

ICUの入室基準(9以上).

呼吸,循環,血液検査,GCSの12項目に,年齢や慢性疾患,原因疾患の重み付けを加味して,院内死亡率を算定する.
中身はこちらを.

SOFA(sequential organ failure assessment)score

 重要臓器の障害度を数値化した指標.
 呼吸器,凝固系,肝機能,心血管系,中枢神経系,腎機能の6項目について臓器障害の程度を評価する.
→5を超えると,院内死亡率は20%程度といわれている.
中身はこちらを.

治療

放置すれば致死的になるので,甲状腺クリーゼの可能性がある場合は,疑診の段階でも治療を始めることが必要.
→ICUに入室させ,以下の治療を速やかに同時並行的に実施する.
→循環器科内科医,感染症科医,精神科医の協力を仰ぐことが重要.

甲状腺ホルモン産生・分泌の減弱

大量の抗甲状腺薬(MMI)

経口
MMI(methimazole)60 mg/日 or PTU(propylthiouracil)600 mg/日投与
→経口投与が困難な場合は,静注や胃管投与(粉砕)を行う
・MMI 20mgを4~6時間おきに内服
・全国疫学調査では,MMIとPTUの使用間に予後の差はなし

静注
MMI 30 mg/日投与

無機ヨード・副腎皮質ステロイド

抗甲状腺薬投与と共に,無機ヨウ素(ヨウ化カリウム200 mg/日)と副腎皮質ホルモン(ハイドロコルチゾン300 mg/日)を投与する.

・PTU,副腎皮質ホルモン,βブロッカーにはT4からT3への変換抑制作用がある.
・従来,無機ヨウ素は,抗甲状腺薬投与後,1時間以上空けるとされていたが,無機ヨウ素の薬理作用やBasedow病における最近の無機ヨウ素治療のエビデンスからできるだけ早期の投与が勧められる.
・ストレス下及び相対的副腎不全の状態にあると考えられるため,副腎皮質ステロイドを投与する.

無機ヨウ素と副腎皮質ステロイドによる治療は,症状の改善に伴って中止可能.

全身管理

一般的緊急処置,十分な輸液と電解質補正,徹底した身体の冷却と解熱薬の使用を行う.

一般的緊急処置

呼吸管理,酸素吸入,鎮静薬など

輸液

脱水,電解質異常の改善

高体温

解熱(身体の冷却,解熱薬アセトアミノフェン)

遊離型甲状腺ホルモンの上昇を来たす可能性のあるNSAIDsより,その作用が少ないアセトアミノフェン(アンヒバ坐剤Ⓡ[1回500 mg,1日1,500 mg],カロナールⓇ,アセトアミノフェン「JG」Ⓡ)の使用が勧められる.

頻脈,心房細動

β遮断薬
・脈拍のコントロール.
・できるだけβ1選択性且つ短時間作用性遮断薬を用いる.
→インデラル® 20~40mgを4~6時間毎内服.
・気管支喘息では禁忌,心不全での使用は要注意.
・βブロッカーの過剰投与には注意が必要
・点滴静注(2mgを10分かけて)を考慮する場合は必ず循環器科相談.
・心不全や頻脈が回復すれば減量,さらには,中止が可能.

心不全

心不全を伴う場合は,厳格な心血行動態モニターとそれに応じた治療を行う.
*循環器症状による死因が最多であるため,重症例では,専門家による集学的治療を図ることが重要!

副腎皮質ステロイド

相対的副腎不全に対して

中枢神経症状

鎮静薬,抗痙攣薬

肝不全

黄疸を伴う重症肝不全では,血漿交換(+[高流量]血液濾過透析)も考慮する.

誘因除去

感染による場合は,抗生物質の投与等を行う.

感染・外傷例では透析も検討

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