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妊娠による影響
妊娠初期:~満15週
妊娠中期:満16~27週
妊娠後期:満28週~
・妊娠初期は繊毛性ゴナドトロビン(hCG)の影響で遊離サイロキシン(FT4)は上昇し,甲状腺刺激ホルモン(TSH)は抑制される.その後,TSHは基準値内に戻りFT4は低下してくる.
・妊娠中期以後の遊離トリヨードサイロ二ン(FT3),FT4は健常人の基準値に比べて,やや低めになり,そのまま出産まで続くが,TSHが正常範囲であれば,問題はない.
甲状腺機能の判定
TSHとFT4で行う.
*FT3は妊娠悪阻が強く,食事摂取が不十分な時は甲状腺機能に関係なく低下する場合がある.
甲状腺機能亢進症合併妊娠
Basedow病は妊娠適齢期の女性に多いので,妊娠・出産について特に考慮が必要である.
疫学
妊婦の0.1~0.4%に合併.
原因の85%をBasedow病が占める.
妊娠前
挙児希望者には,甲状腺機能がコントロールされていれば,安全に妊娠・出産が可能であることを説明する.
・甲状腺機能亢進症を放置すると流産・早産・死産や妊娠高血圧症候群,低出生体重児の頻度が上昇する.
・無治療orコントロール不良のBasedow病合併妊婦が分娩や手術のストレスにより,甲状腺クリーゼを起こすことがあり,死亡率は10%超とされる.
妊娠初期のMMI服用をできるだけ避けるため,妊娠は計画的に行う.
1)MMIで治療を続けておいて,月経が遅れたら早めに受診するように指示する.
2)基礎体温をつけ,妊娠の可能性がある場合は市販の妊娠診断薬で確認する.
3)妊娠が確認されれば,MMIを中止し,PTUや無機ヨウ素に変更する.
手術やアイソトープ治療の既往があり,TSH受容体抗体が陽性であるBasedow病合併妊娠は,胎児甲状腺機能異常発症において,高リスク.
妊娠初期
胎児の器官形成が行われるため,甲状腺ホルモン過剰状態と抗甲状腺薬の使用が問題となる.
妊娠第1,2三半期に甲状腺機能亢進があれば,妊娠第3三半期にeuthyroidでも,産科合併症の発生リスクは,妊娠全期間を通してeuthyroidであった妊婦より高いとされる.
妊娠初期以外は先天異常との関連はないとされ,抗甲状腺薬の服用についても一般妊婦における奇形と頻度には差が無いと報告されている.
・先天異常は健常者の妊娠でも一定の頻度(1~3%)で発生すること,MMIと先天異常の因果関係がはっきり証明されたわけではないことなどを説明する.
MMIとPTUの胎盤通過性に差はない.
・MMIでは頻度は少ないが後鼻孔閉鎖症,食道閉鎖症,気管食道痩,食道狭窄,臍腸管痩,頭皮欠損症などの胎児奇形の報告がなされている.
→ガイドラインでは,MMIを避け,PTUの使用を勧められている.
KIによる治療は,先天異常のリスク回避,母体の新規の抗甲状腺薬導入に伴う副作用のリスクを回避する上では大変有用.
・MMI 5mgを超える場合はKI 1丸に変更し,2~3週後に再検査して調整する.
・切り替え後に甲状腺機能が悪化する症例が存在する.
・抗甲状腺薬よりも胎児の甲状腺機能抑制作用は少ない.
妊娠後半
胎児の甲状腺も発達し,TRAbの胎盤通過性も増すため,胎児が機能亢進症になる可能性が生じる.
逆に過量の抗甲状腺薬を服用すれば,胎児は機能低下症となる.
→母体のFT4濃度を正常上限かやや高めに保つ.
胎児の甲状腺機能は母体の機能よりやや低く,つねに胎児の状態(心拍数など)を把握しておく.
*T4は胎盤を通過しないため,block and replace療法は禁忌.
・母体に残存しているTRAbが(特に10IU/L以上のときに)胎児甲状腺機能亢進症や新生児一過性甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性があることの説明が必要.
抗甲状腺薬で重篤な副作用がある場合や,甲状腺機能亢進症をコントロールできない場合は甲状腺亜全摘術の適応となる.
・適切な時期は妊娠第2期(流産や早産のリスクが比較的低い).
・アイソトープ治療は禁忌.
・母体の甲状腺機能は正常であっても,母体TSH受容体抗体の移行により胎児甲状腺機能亢進症になることがあり,胎児甲状腺のみをターゲットとして抗甲状腺薬の投与が必要.
周産期
TRAb,TSAbが高値の妊婦では,出産によって母体からの薬の供給がなくなるので,新生児が機能亢進症を起こすことがある.
授乳期
授乳については,MMIであれば1日10mg(2錠)まで,PTUの場合は1日300mg(6錠)までの服用であれば制限する必要がない.
母乳中への移行はPTUに比べて,MMIの方が多いといわれているが,服用から12時間あけて授乳すれば問題ない.
副作用で抗甲状腺薬が使えない場合は無機ヨウ素を使うが,乳児の甲状腺機能を検査する.
Basedow病は出産後に再燃しやすい.しかし,出産後甲状腺炎も同程度の頻度で起こる(30~40%).
→再燃では妊娠中と比較した抗体価の上昇が指標になる.
→FT3/FT4比やドプラエコーによる甲状腺内血流量も参考になるが例外も少なくない.
→確定診断にはシンチグラフィが必要であるが,一時的な(テクネチウムの場合は2~3日間)授乳中止が必要である.
β遮断薬
妊娠中のβ遮断薬の使用で新生児の発育遅延,低血糖,呼吸抑制や徐脈が生じたという報告や,抗甲状腺薬との併用で自然流産の頻度が増加したという報告があり,推奨されない.
甲状腺クリーゼなどで必要な場合はアテノロール(テノーミン®)かプロプラノロール(インデラル®)が使用できる.
授乳中に必要な場合は,アテノロール(テノーミン®)より乳汁分泌量が少ないプロプラノロール(インデラル®)が推奨されている.
・授乳移行性はあるが,安全性が高いだろうとのことで有益性が高いときのみ
甲状腺機能低下症合併妊娠
疫学
頻度は0.11~0.16%であり,原因として自己免疫疾患である橋本病が多く,次いで甲状腺亜全摘後の機能低下症がある.
橋本病は自己免疫疾患であり,バセドウ病と同様,妊娠中に寛解し出産後増悪することが多い.
原因
原発性
橋本病,慢性ヨード摂取不足,放射線ヨード治療,甲状腺摘出手術既往
続発性
Sheehan症候群,リンパ球性下垂体炎,下垂体摘出手術既往
臨床症状
無気力,動作緩慢,記憶力低下,発汗減少,皮膚乾燥,嗄声,浮腫,便秘,体重増加,眼瞼浮腫,甲状腺腫,膝蓋腱反射低下,寒がり
妊娠への影響
妊娠12週から胎児甲状腺が働き始めるため,それ以前の胎児甲状腺機能は母体からの移行してくるホルモンに依存している.
→母体に顕性ならびに潜在性甲状腺機能低下症があると,胎児の神経発達が障害される.
・未治療で顕性の甲状腺機能低下症では流産率が高く,妊娠高血圧症候群やIUGR の合併も多い.
・甲状腺機能が治療により正常化していても,甲状腺自己抗体が陽性の場合,流産率が約2倍となるとの報告もある.
・甲状腺機能低下症と奇形発生率については明らかな関係は報告されていない.
妊婦への影響
妊娠高血圧症候群,胎盤早期剥離,早産,死産,心機能低下,分娩後出血
胎児への影響
胎児発育不全
新生児への影響
一過性甲状腺機能低下症(橋本病),弧発性低サイロキシン血症において神経発達障害の報告あり
管理
「妊娠に関する国際ガイドライン」
妊娠前および妊娠第1三半期→TSH<2.50μU/mL以下
妊娠第2三半期・第3三半期→TSH<3.00μU/mL以下
内服薬:チラーヂンS®投与
・妊婦の甲状腺機能低下症では,診断がつけば直ちにT4維持量を投与する.
・一般には妊娠すると甲状腺ホルモンの需要が増すため,補充療法の場合は薬の増量(1.5~2倍)が必要となる.
・妊婦ではTBGが増加し,総T4は高値になる.
・サイロキシン(チラーヂンS®)は胎盤通過性が少ないとされているが,十分量のチラーヂンS®で補充していれば,児の知能低下などの悪影響を防ぐことができる.
・授乳に関してはチラーヂンSの服用は量を問わず影響はないとされる.
産後甲状腺炎 Postpartum thyroiditis
産後1年以内によくみられる甲状腺疾患.
次の3つの甲状腺機能異常のどれかを示す.
1)一過性甲状腺機能亢進症
2)一過性甲状腺機能低下症
3)一過性甲状腺機能亢進症の後に一過性甲状腺機能低下症
病因
妊娠中に抑えられていた免疫能が産後にリバウンド(跳ね返り現象)して,もともと持っていた自己免疫性甲状腺炎が増悪するために起こると考えられている.
・母親にとって,胎児は父親からの遺伝子も受け継いでいるため,母体の免疫系が自分以外のものと認識して排除しようとすると困るので,妊娠中は自分の免疫能を低下させ,胎児を守っている.産後にこの免疫能の抑制がなくなるので,一気に免疫能が元に戻る(リバウンド).
ヒト白血球抗原(HLA)DR-3、DR-4、DR-5を持っている女性で,産後甲状腺炎を起こしやすい.
産後甲状腺炎を起こす女性では,妊娠中および産後にCD4+/CD8+、CD4+2H4+比が増加している.
組織学的には穿刺吸引細胞診を行うと,慢性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎でみられる散発性またはびまん性リンパ球浸潤がみられる.
→妊娠前には臨床的には症状がなかった慢性甲状腺炎が,産後に免疫系のリバウンド現象を契機として症状が発現した.
頻度
1.1%~16.7%までと報告によりかなり差がある.
1型糖尿病患者では産後甲状腺炎の頻度は3倍に増える.
流産後にも甲状腺炎が起こるが,頻度は不明.・産後甲状腺炎の再発率は高い.産後甲状腺炎を起こした女性の70%は,次の出産後にも産後甲状腺炎を起こす.
最も多いパターンは先行する甲状腺機能亢進症がみられない甲状腺機能低下症(43%).甲状腺機能亢進症のみが32%,最も少ないのは先行する甲状腺機能亢進症がみられる甲状腺機能低下症(25%).
症状と診断
甲状腺機能亢進症の症状は軽度であることが多い.
甲状腺機能低下症の診断がついた後に,産後甲状腺炎の診断がつくことが多い.
甲状腺機能低下期も気づかれずに自然に回復することもある.
産後甲状腺炎の甲状腺機能亢進期は産後2~10ヶ月の間に起こる.
通常産後3ヶ月目が多い.
甲状腺機能亢進期の産後甲状腺炎患者でよくみられる症状は動悸,疲労感,暑がり,いらいら感.
甲状腺機能亢進期に無症状である症例は33%.
治療しなくても甲状腺機能亢進症は2~3ヶ月で自然に良くなる.
産後甲状腺炎の甲状腺機能亢進期は抑制されたTSH値,抗TPO抗体陽性,TSHレセプター抗体陰性から診断できる.
FT4値は高いこともあるが正常なこともある.
産後に発症するBasedow病は産後甲状腺炎の頻度の1/20であるが,Basedow病の発症はその他の時期と比べると産後に多い.
TSHレセプター抗体が陽性の場合,眼球突出か甲状腺の血管雑音があればBasedow病の診断はより確実になる.
Basedow病患者の甲状腺腫は産後甲状腺炎の甲状腺腫に比べると大きい.
産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期では産後2 ~12ヶ月に起こり,甲状腺に痛みは出ない.
通常産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期は産後6ヶ月ころに起こる.
・産後1年以上続く甲状腺機能低下症は産後甲状腺炎とはいわない.
集中力低下,注意力低下,乾燥皮膚,記憶力低下,無気力は甲状腺機能低下症の症状.
産後に血清TSHが高値になり、抗TPO抗体陽性なら産後甲状腺炎と診断してよい.
治療
甲状腺機能亢進症
いろんな症状がみられ生活の質(QOL)に悪影響を与える.
→甲状腺機能亢進症の症状が強い場合,治療が必要なら医師と患者の合意のもとに行われるべき.
β遮断剤は動悸,イライラ感,神経過敏を改善する.
プロプラノロール(インデラル®) が使いやすい.
通常3ヶ月以内で終了する.
症状や甲状腺ホルモン値をみながら,投与量を決める.
FDAでは授乳中のプロプラノロールの使用を許可している(授乳移行性はあるが,安全性が高いだろうとのことで有益性が高いときのみ).
甲状腺ホルモン高値は甲状腺炎による甲状腺組織の破壊のために起こっているので抗甲状腺薬は使用してはいけない.
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症合併妊娠の治療を参照.
予後
通常、産後甲状腺炎は1年以内までには甲状腺機能は正常に戻る.
長期間,観察していると永続性甲状腺機能低下症になる症例が出てくる(頻度は産後3.5年で23%,産後8.7年で29%).進展しやすいのは産後甲状腺炎の甲状腺機能低下期にTSH値が高く,抗TPO抗体価が高い症例で,産後甲状腺炎はもともと存在する橋本病の臨床症状であることの証拠を示している.