血栓性血小板減少性紫斑病 thrombotic thrombocytopenic purpura;TTP

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なすび医学ノート

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全身の微小血管において病的血栓を形成する致死的血栓症.

1924年,米国のMoschcowitzは高熱と1週間の急激な臨床経過後に死亡した16 歳女子の病理解剖にて,肺を除く全身諸臓器の細小動脈に硝子体血栓を認め,これを「ヒアリン膜血栓症」と名づけて報告した.
1966年にAmorosi & Ultmannが自験例16 例と既報告の255 例の類似症例を解析し,これらは,1)消耗性血小板減少,2)微小血管症性溶血性貧血,3)腎機能障害の3 主徴に加え,4)発熱,5)動揺性精神神経障害の5 徴候(pentad)を特徴とする全身性重篤疾患である事を示しTTPと命名した.

長らく病因が解明されず,未治療で致死率90%を超える不治の病であったが,少しずつ病態が解明され,2001年に血管内皮細胞に産生された超高分子量VWF多重体(unusually-large von Willebrand factor multimers1;UL-VWFM)の特異的切断酵素ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)が発見された.

疫学

アメリカでは,年間100万人あたり4人の発症率と報告されている.
・本邦では正確な発症率は不明だが,稀.

病態

病理解剖にて,肺を除く,心臓,大脳,腎,副腎,肝臓,脾臓など全身緒臓器の細小動脈,毛細血管に多数の血栓を認め,これらの血栓が抗VWF抗体で濃染されるが,抗フィブリノーゲン抗体では弱く染色されるのが特徴とされている.

ADAMTS13の活性低下

ADAMTS13が活性低下し, UL-VWFMが蓄積し,細小動脈で高ずり応力が生じることで過剰な血小板凝集と血栓形成が起こる.

・von Willebrand因子(von Willebrand factor;VWF)は血漿中に存在する重要な止血因子で,血流の速い高ずり応力下での血小板血栓形成に関与する.
・血管内皮細胞はVWFの主たる産生部位で,VWF subunitがN末端およびC末端同士でジスルフィド結合し,折りたたまれたUL-VWFMとしてWeibel-Palade小体に貯蔵されている.
・血管内皮から分泌されたばかりのUL-VWFMは球状に折りたたまれた構造をとっており,血小板との結合に関与するA1ドメインやADAMTS13切断部位であるA2ドメイン面に露出していない.
・大動脈,中動脈,小動脈と血管径が細くなるにつれて,VWFが受けるずり応力は増していき,毛細血管直前の細小血管で最大となる.
・ずり応力に応じて球状のUL-VWFMは線状に伸展した形態へと変化し,各ドメインが露出する.
・VWFの血小板との結合能は重合度(分子量)に比例するため,伸展したUL-VWFMは非常に血栓形成能が強く,細小血管で血小板を巻き込み,病的な血小板血栓を形成する.

・健常人では,血漿中にメタロプロテアーゼであるADAMTS13が存在し,ずり応力下にVWFのA2ドメイン内Tyr1605-Met1606を加水分解し,適度な重合度のマルチマーに分解することで生理的に必要な最小限の血栓形成に関与している.
→「止血には適するが,過剰な血小板血栓の形成は抑制する働き」
・TTPでは,ADAMTS13の活性が健常人の10%未満に著減しているため,細小血管において本来存在し得ないUL-VWFMがADAMTS13によって切断されずに,循環中の血小板を巻き込んで血栓を形成する.

先天性TTP congenitial TTP

別名:Upshaw-Schulman症候群 Upshaw-Schulman syndrome;USS

TTPの5%程度

ADAMTS13変異を原因とする常染色体劣性遺伝の遺伝形式をとる遺伝疾患.

その特徴として,「新生児期に交換輸血が必要とされるCoombs試験陰性の重症黄疸の存在」と,この年齢以降には「新鮮凍結血漿の輸血で劇的に改善する慢性血小板減少」の2 点で知られていた.

後天性TTP acquired TTP;aTTP

別名:免疫原性TTP immune-mediated TTP

TTPの95%程度.

自己抗体産生のメカニズムは完全には明らかにはなっていないが,白人の疾患感受性HLAであるDRB*11:01にcodingされたDR分子はADAMTS13のCUBドメイン内の”FINVAPAR”と高親和性を示すことが報告されている.
・FINVAPARに対して交差性を示す細菌やウイルスなどの外来タンパクはDRB*11:01にcodingされたDR分子と複合体を形成し,CD4+T細胞の活性化,ひいてはB細胞でのADAMTS13抗体産生に関与すると推測されている.
・自己抗体のサブクラスはIgGがメインであり,白人ではIgG4の頻度が高いが,日本人ではIgG1が多い.

特発性(一次性)に生じるものと,基礎疾患,薬物,移植等の二次性に生じるものがある.

最近は,ADAMTS13 活性の著減が確認されれば,症状とは殆ど無関係に「定型的TTP」と診断されている.殆どでADAMTS13 自己抗体が検出される
・ADAMTS13 活性は略正常であっても古典的5徴候(pentad)で診断される群は「非定型TTP」と呼ぶ.
・「定型的TTP」と「非定型TTP」の比率は概ね7 割:3割程度である.
・「定型的TTP」では再発率が高い事,また「非定型TTP」ではこれが少ない事も近年報告されている.

症候

古典的5徴候(pentad)

ADAMTS13とVWFの病態解明が進むまでは,古典的5徴候(pentad)の存在をもとに行われていたが,すべてを呈することは稀であり,臨床症状のみでは鑑別は困難であった.

消耗性血小板減少

1~3万/μLと高度の血小板減少を呈する場合が多い.
・日本人でのデータにおける血小板数の平均値は1万/μL.
・血小板数≧5万/μLのTTP症例は極めて少ない.

DICとの鑑別診断のために,凝固・線溶系検査を含むDICマーカーも測定しておく.

微小血管症性溶血性貧血

赤血球の機械的破壊による貧血.
・直接Coombs試験は陰性(赤血球膜表面に対する反応性はなし).
・LDH↑,間接ビリルビン↑
・ハプトグロビン低値

日本人では中央値7.3g/dL.
・5~6g/dL台まで貧血が進行することは稀.

破砕赤血球はTTPを含む血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy;TMA)でみられるが,DICでもみられること,TTPでも認めない場合があり,重要視しすぎてはいけない.

腎機能障害

必ずしも血清Cr高値の症例ばかりではなく,他のTMA(HUSなど)と比較して,TTPでは腎機能障害の程度が軽度であることが知られている.
・血清Cr<2.0mg/dL未満であることが多い.
・血液透析が必要な重症の急性腎不全を呈する場合は,HUSが疑われる.

古典的5徴候においては,尿潜血や尿蛋白陽性の症例も腎機能障害に含められていた.

発熱

サイトカインストームによる影響と考えられる.
37~39℃まで観察される非特異的な所見.

動揺性精神神経障害

頭痛や気分不良といった軽度のものから,昏睡・痙攣・四肢麻痺など重度のものまでさまざまな症状を呈する.

症状の改善と増悪,部位の移動などの動揺性が特徴.

日本人では79%の症例に認められる.

診断

ADAMTS13測定

2018年4月より,ADAMTS13活性・ADAMTS13インヒビターの測定が保険収載.

VWF73を用いたADAMTS13活性測定法として,FRET法・Act-ELISA法が日本国内で開発され,ADAMTS13活性の結果が数時間で得られるようになった.
・EDTA採血を用いた検体は正確に測定できない.
 EDTAはADAMTS13活性に不可欠な2価の陽イオンを不可逆的にキレートするため,活性著減・インヒビター強陽性となるため,後天性TTPと誤診される.

健常人プール血漿のADAMTS13活性を100%(1U/mL)とした単位で表記される.

インヒビター力価測定には,健常人のプール血漿と患者血漿を等量ずつ混和し,そのADAMTS13活性を測定することで,その活性阻害程度を評価する方法を一般的に用いる.
・間接的に活性阻害物質の存在を確かめる.
・活性値を半減させる抗体価を1 Bethesda unit(BU)/mLと規定し,0.5BU/mL以上を陽性と判定することが多い.

診断基準(後天性TTP)

①原因不明の血小板減少および溶血性貧血
②ADAMTS13活性が健常人の10%未満
③ADAMTS13インヒビターが陽性(1BU/mL以上)
をすべて満たす

従来のTTPの古典的5徴候を満たすが,ADAMTS13活性が低下していない症例は,TTP類縁疾患に分類される.

インヒビター陰性の場合は,先天性TTPを疑う.
・先天性TTPでは,両親のADAMTS13活性が20~40%程度に低下しており,参考所見になる.
・最終的には,ADAMTS13解析による1対の責任遺伝子変異の同定が確定診断に必要

治療(先天性TTP)

新鮮凍結血漿輸注 fresh frozen plasma;FFP)

ADAMTS13の補充目的に経験的に行われている.
・インヒビターが存在しないため,血漿交換ではなく,輸注のみで溶血所見は改善する.

2週間に1回にFFP 5mL/kg/回の輸注.
・TTP発作を起こさないために必要なFFP輸注量は個人差が大きく,実際には血小板数やLDHなどを指標に輸注量と輸注間隔を決定することが多い.
・FFPによる同酵素活性の生体内半減期は約2.5日.

問題点
頻回のFFP輸注による感染症のリスクやアレルギー反応.
FFP輸注のために時間的に拘束される.

遺伝子組み換えADAMTS13製剤(BAX-930)

現在,臨床試験中.

承認されれば,自宅で補充療法が可能になり,QOLの向上が期待される.

治療(後天性TTP)

血漿交換療法  plasma exchange;PE

①ADAMTS13 インヒビター除去,②UL-VWFMの除去,③ADAMTS13の補充,④止血に必要な正常サイズのVWFMの補充,⑤炎症性サイトカインの除去などの作用が期待されている.

FFP 50~75mL/kgを置換液として,1日1回施行する.
・血小板≧15万/μLに回復した2日後まで,連日施行.

保険適用の問題から,連日の血漿交換施行が困難であったが,2018年4月より制限が撤廃され,治療上重要な十分な回数の血漿交換を施行することが可能となった.

ステロイド療法

抗体産生を抑制する目的で,経験的に血漿交換にステロイド療法を併用することが一般的となっている.
・血漿交換へのステロイドの上乗せ効果を評価したRCTは実施されていないが,理に適った治療法であり,血漿交換との併用が強く勧められる.

・PE終了直後にソル・メドロール注® 1,000 mgを生理食塩水100 mLに溶解し,1 日1 回約1時間かけて点滴静注する.これを3 日間連続して行う.
・4 日目からはプレドニン錠®5 mgを1 mg/kg,分1 で投与開始する.

ステロイドの減量は,血小板数やLDH,可能であればADAMTS13活性とインヒビター力価を目安に行われている.

リツキシマブ

抗ヒトCD20クローナル抗体(ヒト・マウスキメラ抗体)

2020年2月末に再発性及び難治性後天性TTPに保険適応が追加
・初回治療としてリツキシマブvs血漿交換を比較した試験は報告されておらず,主に初回治療の血漿交換療法にリツキシマブを併用したもの.
→リツキシマブを投与する場合は,血漿交換療法を行うことが大前提.

英国のガイドラインでは,①神経障害または心血管障害を伴う急性後天性TTP,②難治性または再発性の後天性TTPに対して,推奨度1Bで投与が推奨されている.

本邦では,血漿交換を5回以上行っても血小板数<5万/μLである場合,一旦≧15万/μLに回復しても再度<5万/μL未満に低下した場合には,血漿交換に加えてリツキシマブ投与が好ましいとしている.

(カプラシズマブ)

抗ヒトVWF A1 bivalent nanobody

VWFのA1ドメインをターゲット
・ヒトVWF A1に対する重鎖抗体の可変領域のフラグメントのみを発現させ,リンカーで二量体としている.

初回の血漿交換療法前に11mgを静脈内投与し,以降,血漿交換終了後に11mgを皮下注射する.

カプラシズマブ自体に免疫抑制効果がないため,中止に際しては,病勢がコントロールできている(ADAMTS13活性が十分に回復している)ことが必須.

1ヶ月あたりの治療費が1000~3000万円ほどかかると予想されている.

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