梅毒 syphilis

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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Treponema pallidum subs. pallidum(TP,梅毒トレポネーマ)による細菌感染症

 TPは長さ5~20μm,幅0.09~0.5μmの細長くらせん状のグラム陰性菌.

1)代表的な性感染症であり,梅毒病変から粘膜,小外傷のある皮膚を介して感染する.
2)体液を介する感染もある.
3)梅毒の母親より児へ,経胎盤的,経産道的に感染し得る.

1)TPは感染局所で増殖して初期の病変を形成し,リンパ流,血流に入り全身に散布される.
2)感染後の時期により,臨床像はそれぞれ特徴的かつ多彩である.
3)感染源となりやすい病変は,硬性下疳,扁平コンジローマ,口腔内病変(粘膜斑・乳色斑,梅毒性アンギナ)である.
4)HIV感染など宿主が多様化しているので,各病期の症状,経過などにも定型像と異なる症例があり注意しなければならない.
5)今や忘れられた疾患である大動脈や中枢神経の梅毒にも遭遇する可能性もある.

 2019年1月1日から感染症発生届けが一部改訂され,年齢・性別などの項目以外にも,HIV感染症合併の有無,過去の治療歴,性風俗産業の従事もしくは利用歴の有無などの記載が必要となった.

疫学

1)日本において,梅毒は,男性の報告数は一貫して女性よりも多い.
2)2011年からは男女ともに報告数が増加してきており,2017年も前年を上回る報告数となっており,再興感染症と認識されつつある.
・以前より,男性,特にmen who have sex with men(MSM)の集団のなかでの感染が多いとされており,この傾向は続いている.
・近年,性風俗の女性から男性への感染機会も少なからず認められている.
→性行為により感染が伝播することから,比較的若い男女での感染者数が多い.
・2015年より,15~24歳では女性の報告数が多くなっている.
3)報告数の内訳でみると,顕症梅毒のみならず,無症候梅毒も増加してきている.

1)米国でも,MSMでの感染が問題となっている.
2)米国からの報告では,MSMの梅毒罹患率は,女性の221倍,男性(heterosexual men)の106倍とされ,20~34歳の女性での増加傾向がみられてきている.
・この傾向は,カナダや西ヨーロッパでも同様にみられる.
3)low-income and middle-income countriesとされている国々では,性感染症の危険因子を有しない集団では感染は問題となっていないが,危険因子を有する集団(女性のsexual workerとその相手の男性)では罹患率が高いと報告されている.

1)梅毒とHIVの重複感染患者の増加が世界中で問題となっている.
2)HIV感染症に合併した梅毒は非典型的な臨床像をとることがあり,梅毒感染初期より神経梅毒へ移行する症例もある.

病態生理

1)TPに感染すると,初期硬結が生ずる時期(感染後平均3週間)前後にTPに対するIgM抗体,次いでIgG抗体が産生される.
2)抗体産生とともにTPに対する細胞性免疫ができてきて,初期硬結,硬性下疳は治癒に向かう.
3)梅毒はこれで治らず,TPはいったん潜伏したのち再び増殖して全身に散布され,バラ疹に始まる第2期梅毒となる.
・再び抗体価が上昇するとともに,病像は修飾され第2期のさまざまな臨床型を呈する.
・この時期にはTPに対する細胞性免疫は消失しているが,第2期潜伏期に入るにつれて復活してくると,その後に出没する病変は次第に限局して肉芽腫性組織像を呈するようになる.
3)治療を受けず放置されて自然の経過を辿っている場合には再感染はしない.
・治療後の個体では抗体は残っていても再感染を防ぐことはできない.

母子感染・先天梅毒

1)無治療の梅毒罹患女性から生まれた児の40%は,死産もしくは出産後に感染により死亡するとされている.
2)日本において,先天梅毒は,2014年に10名,そして,2015年には13名が報告されている.
3)妊娠中の検査と治療が有効であるとされているが,世界中では500,000人以上の妊娠中の無治療梅毒感染者が存在し,300,000人以上の死産もしくは出産後に感染による死亡が発生していると推定されている.
・キューバ,タイ,ベラルーシ,モルドバ等では,妊娠中の検査(特にpoint-of-care;POC検査)と治療により母子感染の防止を積極的に進めており,成果が出ている.

1)先天梅毒は,重篤な転帰となる可能性があることから,その発生を防ぐ必要がある.
2)妊娠中期・後期のスクリーニング検査についても考慮すべきである.
・スクリーニング検査については,妊娠初期には性感染症,特にクラミジア・トラコマティスが陰性であっても,妊娠中期~後期に感染したと思われる例もみられている.
→パートナーへの情報提供と共に,梅毒のスクリーニングにおいても,妊娠初期のみでは不十分である可能性があり,対応が必要になると考えられる.

神経梅毒

1)主病変のある神経系の部位により,無症候性,髄膜型,髄膜血管型,実質型に分類される.
2)第3期梅毒と考えられていたが,現在はTPは,感染直後から中枢神経に浸潤することが知られており,早期から症状を呈することもある.
3)髄膜型は,Ⅱ,Ⅶ,Ⅷを中心とした脳神経障害の頻度が高く,中枢神経系ゴム腫が感染早期に生じることもある.

HIVとの重複感染

1)増加が世界中で大きな問題とされる.
2)HIV感染を有するMSMでは梅毒の罹患率が5倍高いとされ,潜伏梅毒の頻度も高い.
3)非HIV合併例と比較して,非典型的な臨床像をとることも多く,梅毒感染初期より神経梅毒へ移行する症例もみられる.

症候

一般的に第1期梅毒,第2期梅毒,潜伏梅毒,第3期梅毒の順に進行する.

第1期梅毒(感染後10日~90日,平均3週間)

1)TP侵入部位に生じる.
2)無痛性の紅色硬結として始まる(初期硬結と呼ばれる).
3)やがて潰瘍化してくる.潰瘍底には硬結が触れて,硬性下疳(げかん)という.
・外陰部に生じるのが圧倒的に多いが,感染状況により,指先,乳房,口唇などに生じる場合(陰部外下疳)がある.
・定型的には単発であるが,局所的に多発することもまれではない.
4)領域リンパ節は通常は無痛性に,時に有痛性に腫大する.
5)初期硬結,硬性下疳は治療しなくても自然に消退して,潜伏梅毒となる.

第2期梅毒(感染後平均3か月)

1)バラ疹が第二期梅毒疹として最初に出現する.
・爪甲大までの淡い紅斑が手掌,足底を含めて全身に汎発する.
・自然光で診察しないと見逃すこともある.
・定型的な二期疹は,軽度の浸潤を触れる淡紅色,暗紅色の紅斑・丘疹性病変で全身に多発するが,限局性のこともある.
・概して対側性.
2)手掌,足底に多発して生じる浸潤のある,ハム色ないし銅紅色と形容される色合いの,扁平な丘疹が特徴的.
・二期疹は融合してより大型,不規則型病変となることもある.
3)有髪部位では虫食い状に小型脱毛斑が多発する.
4)通常はリンパ節が腫大する.
5)梅毒性肝炎を合併することもある.
6)第二期疹の始まりに,全身倦怠,咽頭痛,関節痛,発熱などのかぜ症状を伴うことも稀ではない.
7)口腔粘膜では,粘膜斑plaques muqueuses,乳色斑plaques opalinesと呼ばれる,白く浸軟する斑状病変が口唇粘膜,舌,頬粘膜,咽頭にみられる.
8)軟口蓋,口峡,咽頭に発赤が生じる(angina syphylitica).
9)扁平コンジローマは,湿潤し,浸軟する扁平な丘疹が集簇性に生じる.
・肛門周囲,会陰部に好発するが,時に,口角,口唇にもみられる.
10)第二期梅毒は時に再燃しつつ潜伏(晩期潜伏梅毒)していく.

潜伏梅毒(感染後数ヶ月~4年後)

早期潜伏梅毒(感染後1年以内)と後期潜伏梅毒(感染1年以降)に分類される.

1)早期潜伏梅毒では時に再発病変を生じるが,次第に限局した病変となる.
2)多くの場合,梅毒血清反応が陽性のみで症状なく経過し晩期潜伏(感染後1年以上)を経て第三期に入る.

第三期梅毒(感染後平均3年以降)

1)第三期顕症梅毒は,無治療で経過した場合でも,症例の1/3以下でみられるにすぎない.
2)結節,浸潤性局面,ゴム腫である.
・ゴム腫は深在性肉芽腫性病変で進行して組織破壊性となり,あらゆる臓器を侵す.
4)心血管系梅毒は動脈炎,大動脈瘤などとなり,神経梅毒は髄膜,脳実質,脳血管を侵しさまざまな症状を呈する.

先天梅毒

1)早期先天梅毒(生後2年以内)では,紅斑・丘疹,コンジローマ,口腔粘膜斑,梅毒性鼻炎,リンパ節腫大などがみられる.
2)鼻中隔が侵されると鞍鼻となる.
3)口周囲の病変後には放射状の浅い瘢痕(Parrot(パロー)徴候)が残る.

 晩発性先天梅毒(生後2年以上)ではHutchinson(ハッチンソン)3徴候(ビール樽形となり咀しゃく面が半月状に陥凹するHutchinson歯,実質性角膜炎,内耳性難聴)がみられる.
・肝・脾腫を伴うこともある.まれにゴム腫.

診断

TPの検出

1)梅毒の診断は,病変部からのTreponema pallidum subspecies pallidum (T. pallidum)を直接検出することが最も優れていると考えられる.
2)直接検出法である暗視野顕微鏡による観察,直接蛍光抗体免疫染色法,免疫組織学的診断,検体のpolymerase chain reaction(PCR)法を用いた検出について,方法が煩雑であり,残念ながら,陰性所見が得られても梅毒を除外することができない等の欠点から,臨床現場での日常的な使用は困難である.
3)硬性下疳,扁平コンジローマから浸出液を採取してパーカーインク法で検出する.
・口腔粘膜からは常在のスピロヘータが検出されるので検査材料にならない.
4)浸出液が十分採取できれば,暗視野で検鏡すると,らせん状に運動するTPをみることができる.
5)蛍光標識抗TP抗体が手に入れば蛍光抗体直接法で特異的にTPを検出できるので,口腔粘膜材料,腸管材料にも応用できる.

梅毒血清反応

 T. pallidumを抗原とする抗体検査法と,T. pallidumの感染により放出されるカルジオリピンを抗原とする抗体検査法の2種類がある.

T. pallidumを抗原とする抗体検査法

FTA-ABS(fluorescent treponemal antibody absorption test)法
TPHA(Treponema pallidum hemagglutination test)法
TPLA(Treponema pallidum latex agglutination)法
等があり,我が国では自動化法としてTPLA法が普及している.

1)従来は,梅毒血清反応の検査法は,用手法による半定量値の報告であった.
2)現状では,自動化法が普及してきており,自動化法では,定量値による報告となる.
・自動化法の利点としては,低コスト,検査技師の検体曝露の危険性軽減,プロゾーン現象による偽陰性の防止が挙げられる.

■TPLA法
1)自動化法であり,TPHA法よりも早く陽性化し,カルジオリピンを抗原とする抗体検査法よりも早く陽性となるとされている.
2)感染している,もしくは感染の既往がある場合に陽性となる.

■TPHA法
1)TP菌体または菌体成分を抗原としているため,STSと比較してもきわめて特異的である.
2)早期陽性化となるのがSTSと比較して遅れ,治療により抗体価は低下するが,概してSTSの抗体価より変動が少なく,第2期梅毒に入ってしまうと治療によって陰性化するのが難しくなる.
→生涯陽性が持続し,病勢を反映しないため,診断以外に用いることはない.

カルジオリピンを抗原とする抗体検査法 serologic test for syphilis;STS

1)ガラス板法とRPR(rapid plasma regain)法があるが,RPR法が代表的であり,こちらもラテックス凝集法を用いた自動化法で検査される.
2)カルジオリピンを抗原とする抗体検査法であるため,他の疾患でも同様の血清反応となることが知られており,生物学的偽陽性(biological false positive:BFP)とされる(5-20%).
・T. pallidumを抗原とする抗体検査法が陰性で,カルジオリピンを抗原とする抗体検査法が陽性であれば,BFPの可能性を考える.
・妊娠によりBFPとなることがあるが,妊娠そのものよりもBFPを呈する他の疾患が関係している場合がある.

判定

1)診断としては,この2種類の梅毒血清反応が陽性であれば,梅毒,または梅毒治療後の抗体保有者と判断される.
2)治療経過は,カルジオリピンを抗原とする抗体検査法が治療経過を反映するので,こちらを追跡することになる.
3)T. pallidumを抗原とする抗体検査法が陽性で,カルジオリピンを抗原とする抗体検査法が陰性であれば,感染初期を除いて,梅毒は治癒していると判断してよい.

TPHA(-),STS(-)
非梅毒か早期梅毒.FTA-ABS IgM(+)ならば早期梅毒.
STS,TPHAともに感染後4週間で陽性となる.

TPHA(+),STS(+)
梅毒である.
両者高値の場合は活動性梅毒で治療が必要.
STS低値(+)<8,TPHA低値(+)<1,280では,治療後梅毒,あるいは,早期梅毒〔この場合FTA-ABS IgM(+)〕.

TPHA(-),STS(+)
生物学的偽陽性(biological false positive;BFP).
念のため,FTA-ABSで陰性を確認.
BFPはウイルス感染症,慢性感染症,膠原病,妊娠などでみられる.

TPHA(+),STS(-)
TPHA低値(1:160以下)では偽陽性もあり得るのでFTA-ABSで確認する.
陳旧性梅毒か十分治療された梅毒である.

病期の判断

 患者の年齢,詳細な病歴,臨床所見,過去の治療歴とSTS,TPHAの抗体価,IgM抗体の有無をもとに判断する.

1)IgM抗体は第一期梅毒では早期より陽性となり,第二期梅毒では全期間を通じて高値である.
2)第三期梅毒以降では,潜伏梅毒も臓器梅毒もIgM抗体は陰性である.
3)十分な治療の後はIgM抗体は速やかに消える.
4)第一期および第二期梅毒では,STSは治療後3~4か月で少なくとも4倍,6~8か月で8倍下がる.
・早期梅毒では治療後1年でSTSは陰性かきわめて低値となる.
5)治療後の妊婦梅毒の母から生まれた児のSTSは生後6か月で陰性化する.

治療

海外

1)日本以外での標準治療法は,ベンザチンペニシリンG 240万単位,筋注(単回)である.
・世界的には最も推奨される標準治療法であり,長い間の臨床的な経験により確立されてきた.
→比較研究により最適な治療法が確立されてきたわけではない.
・日本国内では,ペニシリン・アレルギーによる死亡例が発生したため,ベンザチンペニシリンGの筋注は使用することができない.
2)梅毒に感染している妊婦に対しても,ベンザチンペニシリンG 240万単位,筋注(単回)が推奨されている.
3)ペニシリン・アレルギーのある患者に対しては,ドキシサイクリン,テトラサイクリン,セフトリアキソンが有効とされている.
4)アジスロマイシンの2 g単回経口投与も有効であるとされてきた.
・既にアジスロマイシンを含めたマクロライド耐性の染色体変異が明らかになっており,治療不成功も報告されてきている.
→アジスロマイシンは,他に選択肢が全くない場合以外には治療に用いることができないと考える.

日本

 本邦では,ベンジルペニシリンベンザチンとアモキシシリンが推奨されているが,ベンジルペニシリンベンザチンは,製造工場の問題で2018年初めまでは入手が不可であり,「リウマチ熱の発症予防」に対して国内での代替薬がないことから,そちらが優先されている.
→日本性感染症学会のガイドラインでは,アモキシシリンが推奨されている.

1)アモキシシリンの投与量については,1日1.5 gが推奨されているが,HIV陽性の梅毒患者に対して1日3 gでの治療の有効性が報告されている.
・投与量が多い方がよいのかどうかの比較試験は報告されてはいない.
2)アモキシシリンを投与して治療を行った報告では,プロベネシドを併用しており,ペニシリンの血中濃度の維持を図っている.
→治療を経口ペニシリンで行う場合,プロベネシドの併用も積極的に考慮.
・プロベネシドは,一般的には痛風に対する効果を期待されているが,「効能又は効果」と「用法及び用量」に,「ペニシリン,パラアミノサリチル酸の血中濃度維持」と記載されている.

妊婦

1)アセチルスピラマイシン1回200 mg,1日6回の経口投与が推奨されている.
2)妊婦への治療法として,ペニシリン以外の抗菌薬(アモキシシリン・プロベネシド,アモキシシリン・プロベネシド・セフトリアキソン)による治療も有効との報告がある.

Jarisch-Herxheimer反応

梅毒治療後24時間以内に頭痛,筋肉痛,発熱等の症状が発現すること

 治療により,T. pallidumの菌体が破壊され,特に菌量の多い早期の梅毒では高頻度で発生し,妊婦での胎児仮死を誘発する場合があるため,この反応による症状について,患者に十分伝える必要がある.

治療後の治癒判定

 用手法による半定量の検査では,カルジオリピンを抗原とする抗体検査法で治療前の4分の1まで低下し,その後も値の上昇を認めなければ治癒と判断するとされている.

 T. pallidumを抗原とする抗体検査法は,治療により値は低下する場合もあるが,低下しない場合もあるので,治癒判定には用いない.
・現状では自動化法による検査が普及しており,定量値が報告される.
・定量値では,半定量値とは治療後の動きが異なることから,判断に苦慮する場合がある.
・自動化法での治癒判定は,治療前値の半分である,あるいは4分の1に低下とする等,十分な検証はされていないため,治療により低下した後に,十分な期間の定期検査を行い,再び上昇してこないかどうかを確認する必要がある.

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