脊椎関節炎 spondyloarthritis;SpA

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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当ブログは一切の責任を負いません.

以前は血清反応陰性脊椎関節症(炎)といわれた疾患群.

リウマトイド因子(rheumatoid factor;RF)(血清反応)陰性の脊椎(spondylo-)や末梢関節を侵す炎症性関節炎(-arthritis)疾患.

全例でHLA(human leukocyte antigen)-B27陽性になるわけではなく,特に日本では陽性頻度が低いがHLA-B27関連疾患として知られ,強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis;AS),乾癬性関節炎(psoriatic arthritis;PsA),反応性関節炎(reactive arthritis;ReA,クラミジア感染症後や細菌性下痢症後など),炎症性腸炎関連関節炎(IBD associated arthritis,Crohn病や潰瘍性大腸炎関連),分類不能脊椎関節炎(undifferentiated SpA:uSpA)に分けられる.

日常診療では決して稀な疾患ではなく,関節リウマチの鑑別疾患として重要.

疫学

日本のSpAで患者数が最も多いのは,乾癬性関節炎.

男女比は約3~5:1 といわれ,男性が女性に比べて多いのも特徴.

原因

遺伝的背景

SpAはHLA-B27 が疾患と強い相関を示すため,何らかの遺伝的要素が関与していると考えられている.

欧米ではSpA患者の30~35% でSpA関連の家族歴があるといわれている.

HLAB27の陽性率は欧米では一般人口の8~12% に認められるため,スクリーニングとしては偽陽性の危険もあり不向きであるが,日本では一般人口におけるHLA B27 陽性率は極めて低く(1%以下),SpAを疑ってHLA-B27 陽性の場合,診断的価値は高いと考えられる.
・SpAであったとしてもHLA-B27 の陽性率は欧米に比べ低いことが予想され,陰性だからといって診断を否定することはできない.
・欧米におけるHLA-B27 の陽性率はSpAのそれぞれの疾患で異なり,ASで約90~95%,ReAで約20~70%(重症例,慢性例で高い),炎症性腸炎関連関節炎で約20~50%(体軸関節病変合併時に高い),PsAで約15~50%(体軸関節病変合併時に高い),uSpAでは最大で約50% という報告がある.
・日本のアダリムマブ治験でのHLAB27陽性率は約50% であり欧米より低い.

遺伝的リスクはRAより高く,SpAを疑った際には乾癬,腸炎,慢性腰痛,ぶどう膜炎(虹彩炎)の家族歴(2 親等まで)を聴取する.

病態

関節所見

以下の4つの点でRAと異なる.
(1)体軸関節の症候(仙腸関節や脊椎の炎症)
(2)下肢優位の末梢性関節炎
(3)腱の付着部炎(enthesitis)
(4)指趾炎(dactylitis)

約30%に何らかの体軸病変は認めるが,多くの患者では末梢関節炎が優位であり,末梢性SpAに分類される.

SpAは「関節炎」ではあるが,「関節滑膜炎」が主体である関節リウマチと異なり,機械的刺激のかかる付着部に炎症が惹起され,関節滑膜炎は二次的.
→付着部炎や,腱や靭帯が指趾骨と擦れることで発生する指趾炎を認め,DIP関節付近に付着部炎が起き,爪母に炎症が波及する爪の異常も同様の機序とされている.

付着部の微小トラウマに対する反応には,IL-23の産生とそれに反応してIL-17,IL-22,TNF-αを産生する炎症細胞や,刺激された間葉系細胞から産生され,骨新生に働くWntシグナル,PTHrP・BMPs(bone morphogenic proteins)などが重要なエフェクターと報告されている.

体軸関節の症候(仙腸関節や脊椎の炎症)

AS患者では通常10~20代で症状が現れる.

“腰痛持ち”ということで見逃されていることが多く,スポーツ後など活動で増悪する通常の腰痛と異なり,“炎症性背部痛”の所見[ASAS基準:1.発症が40 歳以下,2.緩徐発症,3.運動で改善する,4.安静で改善しない,5.夜間疼痛(起床で改善する)の5 項目中4 項目を満たす場合,SpAの診断感度77%,特異度91.7%]がある場合には“ただの腰痛”や“ヘルニア”と決めつけず,SpAを念頭に診療を行う.

仙腸関節炎では,大腿後部に放散痛を伴う臀部痛として発症することもある.

発症早期では腰背部の訴えが主であるが,その後進行すると胸椎,頸椎にも病変がおよび,頸部痛,胸背部痛やこわばりなどの訴えも見られるようになる.

AS以外のSpAでは,体軸関節炎の頻度はASほど高くなく,炎症性腸炎関連関節炎の約10~20%,PsAでは約20~40%,ReAでは14~49%といわれている.

特にPsAでは腰痛がなく,頸部痛,上背部痛など上部脊椎病変も日常診療では経験されるため,注意が必要.

下肢優位の末梢性関節炎

ASでは末梢性関節炎の頻度は約30%と高くないが,通常は股関節,膝,足首や足趾など下肢優位の左右非対称性関節炎であり,RA患者の罹患関節の約90% がMCP(metacarpophalangeal)やPIP(proximal interphalangeal)関節などの手指関節を左右対称性に侵すのとは異なる.

ReAや炎症性腸炎関連関節炎でも同様に下肢優位の関節炎を呈するため,前者ではクラミジアトラコマティス(Chlamydia trachomatis:CT)感染の診断の手がかりとなることもある.

例外として,PsAでは様々な関節炎のタイプがあり,Moll&Wright criteriaにより,PsAの関節炎は①多関節炎型,②少関節炎左右非対称性型,③DIP(distal interphalangeal)関節炎型,④脊椎炎型,⑤ムチランス型の5つのタイプに分けられたが,これらの病型は重複することも多く,最近は使用されていない.

付着部炎 enthesitis

腱や靱帯が骨に付着する部位の炎症を付着部炎といい,SpAの特徴の1 つ.

好発部位は,負荷の多いアキレス腱や足底腱膜が踵骨に付着する部位で朝起きて足をついたときや歩行時の踵の痛みとして発症し,全身どの部位でも起こり得る.

組織学的には付着部近傍に炎症細胞浸潤がみられ,MRIでは付着部骨部の骨髄浮腫,付着部周囲軟部組織の炎症所見が認められる.

放置すると単純X線でも付着部の毛羽立った靭帯骨化enthesophytesとしてみられることもある.

指趾炎 dactylitis

関節の近傍に限局した腫脹ではなく,指趾全体が腫脹するため“ソーセージ指“といわれる.

SpAで共通の所見で,日常診療では“痛風“と誤診されることもあり,注意が必要.

最近では,指全体がsynovio-entheseal complexとして腫脹するためと考えられている.

関節外所見

炎症反応

活動性SpA病変があっても炎症反応上昇がみられない場合も多い.

眼病変

ReAでは結膜炎,その他のSpAではぶどう膜炎(多くが急性片側性前部ぶどう膜炎:虹彩炎)を合併することがある.

結膜炎は無症状のことも多く診察時注意する.

ぶどう膜炎は,一過性で軽快するものから慢性的な視力低下に至る症例まで様々.

結膜炎とは異なり,結膜充血のみならず,羞名感,眼痛,視力障害を伴うことが多く注意する.

ぶどう膜炎の頻度はAS患者で最も高く,経過中25~40% でみられ,特にHLA B27 陽性患者ではリスクが高いといわれている.

下痢(体重減少)

炎症性腸疾患の既往がなくてもSpA全般に非特異的腸炎の合併が認められることがある.

AS患者における炎症性腸疾患の合併頻度は5~10%との報告があるが,大腸内視鏡検査において非特異的腸粘膜の炎症所見は,AS患者の約60%で認められるという報告もあり,一連の症候群の合併症として認識する必要がある.

大動脈弁閉鎖不全症

大動脈起始部の弁の付着部の炎症(大動脈炎)が原因で房室ブロックや大動脈弁閉鎖不全症がみられることがあるため,SpA患者では胸部聴診を行う.

皮膚症状

AS患者の約20~40%に乾癬病変が認められる.

PsAでは爪病変に注意する.ReAで認められる膿漏性角化症や亀頭炎は他のSpAでは通常みられない.

診断

単純X線の異常が出るのは仙腸関節炎発症後約3~7年かかるといわれており,診断基準が厳密に使われるとASの診断・治療が遅れ,関節破壊進行・身体機能障害が進み,取り返しのつかないことになりかねない.

ASでは体軸関節基準を,PsAやReA,その他の疾患では通常背部痛がなければ末梢関節基準を使用する.

PsAにおいてはより診断感度の高いCASPAR(Classification Criteria for Psoriatic Arthritis)分類基準が使用されることが多い.

診断のポイント:原因検索

SpAを疑ったら,ReAを考え,性行歴や旅行歴,最近数週間以内の尿路や腹部症状の有無を聴取する.
・25% の症例で先行感染が明らかとならず,特に女性では無症状の尿道炎や頸管炎もあり得る.
・HIV(human immunodeficiency virus)感染症や梅毒感染症でも皮膚や関節にReA類似病変を来たすため,除外も行う.

炎症性腸炎関連関節炎を考え腹部症状,体重減少などの有無,PsAを考え,全身皮膚の身体診察を行う.

評価項目

RAにおいては,疾患活動性はDAS28(disease activity score in 28 joints)やSDAI(simplified disease activity index)など,身体機能障害はHAQ(health assessment questionnaire)スコアを評価することが日常診療で確立している.
→SpA,特にASにおいても,治療中のモニタリングとして以下の4 項目を評価する(注:PsAの疾患活動性評価法はここでは述べない.

炎症反応

CRP(C-reactive protein),ESR(赤沈)など.
*活動性病変があっても炎症反応が正常なこともあり注意が必要.

身体機能障害

体軸関節機能評価にはthe bath ankylosing spondylitis functional index(BASFI:0~10)を,可動域はthe bath ankylosing spondilitis metrology index(BASMI:0~10)で評価を行う.

疾患活動性

総合的な指標としてthe bath ankylosing spondylitis disease activity index(BASDAI:0~10)を使用する.

ASASおよび本邦のTNF(tumor necrosis factor)阻害薬の開始基準にも使用されているため,RAにおけるDASのように数カ月に1 回は効果判定も含め評価を行うことが望ましい.

ASDAS(ankylosing spondylitis disease activity score)がASASグループから提唱され,ASDASが脊椎の強直病変の進行と相関することも示された.

画像所見

単純X線(脊椎,仙腸関節,および病変のある末梢関節,付着部の靭帯骨化の評価に踵骨を含める),MRI (仙腸関節および脊椎病変の評価:STIR(short T1 inversion recovery)およびT1強調画像を含める,時に末梢関節や付着部炎の評価を行うこともある),関節超音波検査(末梢関節炎や付着部炎の評価)がある.

治療

ReAでは,80~90% が自然軽快するため初期感染の治療と関節炎に関しては対症療法で十分なことが多い.

PsAにおいては専門家によるGRAPPA(Group for Research and Assessment of Psoriasis and Psoriatic Arthritis)治療推奨がある.

ASの治療は,SpAの専門家による2010 年ASAS欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)合同AS治療推奨の11 項目が治療の参考となる.

PsA,ASともに共通する治療戦略として,まずは非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)を使用し,末梢性関節炎ではRA治療同様に経口疾患修飾性抗リウマチ薬(disease modifying antirheumatic drugs:DMARDs)を使用し,治療抵抗例ではTNF阻害薬,一方,体軸関節病変や付着部炎指趾炎では経口DMARDsの効果が乏しく,局所コルチコステロイド注射も考慮されるが,NSAIDs抵抗例ではTNF阻害薬の使用が推奨されている.

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