睡眠時無呼吸症候群 sleep apnea syndrome;SAS

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

夜間睡眠中に吸気時の上気道虚脱による気流停止から,周期的な低酸素血症を繰り返す疾患で,夜間の心臓突然死に加え,冠動脈疾患や心不全などの循環器疾患,および無症候性脳梗塞を含む脳血管障害の危険因子となる.

無呼吸・低呼吸指数(apnea hypopnea index;AHI) が5以上かつ日中過眠などの症候を伴うとき.

無呼吸:口・鼻の気流が10秒以上停止すること
低呼吸:10秒以上換気量が50%以上低下する
無呼吸・低呼吸指数(AHI):1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせたもの.

疫学

本邦の一般人口における有病率について,AHI≧5は60%,AHI≧15%は22%,AHI≧5で日中の過眠症状を認めるのは17%.
・中等度以上の成人OSA有病者数(各国の人口から換算)が900万人も存在すると推測されているが,治療の恩恵を受けているOSA患者数は50万人にも達していない.
・中等度以上の対象者においてSASを有する率は,男性の23.7%,閉経後女性の9.5%と報告されている.

Impact of sleep characteristics and obesity on diabetes and hypertension across genders and menopausal status: the Nagahama study - PubMed
Notwithstanding the cross-sectional design, SDB and obesity, but not short sleep duration, were independently associated with diabetes and hypertension, with ge...

本邦のOSA患者の4割は肥満ではなく,約半数は日中傾眠を感じていない.
・日本人は欧米に比べて肥満の割合は低いが,SASの有病率は欧米と同等と高く,体重増加に対する上気道の脆弱性や顎顔面形態異常の関与が考えられている.

“いびき”をかくと言われませんか?無呼吸の検査をしてみませんか?”と問うことから診療が始まる.

冠動脈疾患患者の40~65%にSASが合併する.
心不全患者の11~37%にOSAを,29~40%にCSAを合併する.

病因

閉塞性睡眠時無呼吸 obstructive sleep apnea;OSA

閉塞型呼吸イベントが優位のもの.
睡眠中に出現する上気道(特に咽頭部)の狭窄・閉塞で,10秒以上持続したとき,無呼吸と定義.

1)極めて大きないびきや無呼吸が典型的症状.
2)肥満→上気道の軟部組織の発達や過度の脂肪沈着のため,常に狭小化.

原因

主たる原因は肥満.
本邦では,小顎症など顔面骨格の特徴,扁桃肥大などによる非肥満例も多い.

1)脂肪組織増加による上気道の構造変化や狭窄
2)過体重に伴う機能残気量の減少・全身の酸素必要量増加による低酸素血症

形態学的異常によるもの(上気道の狭小化)

・下顎発育異常:小顎症,下顎後退症
・アデノイド口蓋扁桃腫大
・咽喉頭軟部組織の異常:奇形,喉頭浮腫,粘膜過形,軟口蓋低位(舌圧子で舌を押下しても口蓋垂や咽頭後壁が見えない状態)
・痰,浮腫
・気管/気管支異常
・内分泌疾患:甲状腺機能低下症,末端肥大症,糖尿病
・変性疾患:脊髄小脳変性症,筋緊張性ジストロフィ症
・中心性肥満(内臓脂肪による圧迫にて肺気量が減少→上気道の尾側への牽引力が低下→咽頭部が虚脱)
・心不全・腎不全(臥位で下半身から上半身への水分の移動→咽頭部の狭小化)

機能性異常によるもの
睡眠関連低換気→動脈血CO2分圧55Torr以上になるか,睡眠で10Torr以上の増加を伴い,50Torrより高くなっている状況が10分以上ある場合

・Pickwick症候群(BMI≧30で,覚醒時の動脈血CO2分圧≧45Torr)
 換気の低下に伴うCO2分圧の上昇に対し,呼吸努力の増加が十分でなく,呼吸の不安定とは正反対に,変化に対し反応性が乏しい状態にあるため.

中枢性睡眠時無呼吸 central sleep apnea;CSA

中枢型呼吸イベントが優位のもの

1)呼吸中枢から呼吸筋への出力が消失するため,胸郭および腹壁の動きがなくなる.
2)心不全患者では,呼吸中枢からの呼吸ドライブの低下による中枢性睡眠無呼吸と引き続いて起こるドライブの亢進による過換気を周期的に繰り返す(Cheyne-Stokes respiration;CSR)を呈することが多い.

原因

代謝性(化学)調節系の障害
・原発性肺胞低換気症候群

周期性呼吸(Cheyne-Stokes呼吸を呈するもの)
・脳障害:血管障害,腫瘍
・心障害:心不全,A-V block

病態

睡眠分断と深睡眠の欠落によって睡眠の質的低下がもたらされ睡眠不足になる.

睡眠時無呼吸は肥満や喫煙などによらない,高血圧,虚血性心疾患,糖尿病などにおける独立した危険因子・予後因子になる.

1)無呼吸によって引き起こされる低酸素血症や高炭酸ガス血症は化学調節系を介して換気刺激(いびき)を引き起こし,低酸素からの回復が促進される.
2)「低酸素」と「低酸素からの回復」の繰り返しからなる「間歇的低酸素(intermittent hypoxia:IH)」は再灌流障害と同様の病態をもたらし,過剰な酸化ストレスを惹起する.

血行動態への影響

1)気道閉塞下の呼吸努力に伴う胸腔内圧の低下
・静脈還流増加から右室容量負荷
・無呼吸による肺胞低酸素からの肺動脈攣縮→右室圧負荷増大
→心室中隔の左室側へのシフトから左室充満が妨げられ,心拍出量が低下
・左室壁も外から陰圧に抗して内側へ収縮
→transmural pressure上昇・左室後負荷増大→左室肥大

2)低酸素血症
・無呼吸時の一過性低酸素と引き続く再酸素化→酸化ストレスの亢進と炎症カスケードの亢進→血管内皮障害や動脈硬化

3)覚醒反応
・低酸素/高二酸化炭素血症から化学受容体を介し,心拍出量低下から圧受容体を介し,繰り返し生じる覚醒反応も加わり,交感神経活性が亢進.
・肺進展受容体を介する交感神経活性低下が無呼吸によって生じない→睡眠中抑制されるはずの交感神経活性が高い状態が続く.

高血圧

1)二次性高血圧のもっとも多い要因

2)昼間の血圧上昇に加え,夜間高血圧・non-dipper型を示すことが多く,家庭血圧では早朝高血圧として検出されることが多い.

3)高度の酸素飽和度低下に伴う無呼吸イベント後の回復期には著名な夜間血圧サージがみられ,夜間血圧は変動し,夜間発症の脳心血管イベントの誘因となる可能性がある.

4)交感神経活性亢進,圧受容体・化学受容体感受性低下やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化,酸化ストレスや炎症反応の増加などが複合的に関与する.
・OSASの重症度と血漿アルドステロン濃度は有意な相関が認められており,高アルドステロン血症や食塩過剰摂取によるNaや体液貯留が咽頭周囲の浮腫や上気道抵抗の増加を惹起することが示唆されている.

インスリン抵抗性

OSAの40%がやがて糖尿病になり,DM患者の23%はOSA.

交通事故

OSA患者は,日中の眠気を自覚していなくても判断力・集中力が低下しており,健常者と比べて交通事故リスクが約1.2倍~4.9倍と報告されている.

症候

睡眠中

いびき
・いびきの程度はさまざまだが,動物のうなり声のように激しいこともある.
・いびきの繰り返しの後に10秒以上,時には60秒以上いびきが止まり,再度激しいいびきを繰り返す.
・いびきが止まっているときには「無呼吸状態」になっている.

激しい体動
・寝返りが多い.夢遊病者のように動き回ることもある.

日中

居眠り
・重要な会議中に居眠りをして,周囲からひんしゅくをかう.
・居眠り運転による事故

頭痛
起床時の頭痛

人格変化
イライラ,興奮しやすい,突然の怒り,うつ状態

エプワース睡眠尺度 Epworth sleepiness scale;ESS

以下の質問であてはまると思う項目の点数の合計.

5点未満:日中の眠気少ない
5点~10点:日中の眠気あり
11点以上:日中の強い眠気あり(16点以上で重症と判定する)

0…決して眠くならない
1…稀に眠くなる
2…1と3の中間
3…眠くなるときが多い

①座って読書しているとき
②テレビを観ているとき
③公の場で座って何もしないとき(観劇や会議など)
④1時間続けて車に乗せてもらっているとき
⑤状況が許す場合で、午後に横になって休息するとき
⑥座って人と話しているとき
⑦アルコールを飲まずに昼食をとった後、静かに座っているとき
⑧車を運転中、交通渋滞で2~3分停止しているとき

夜間尿,夜間呼吸困難(窒息感),心不全,夜間発症の脳心血管イベント(心筋梗塞・脳卒中・急性大動脈解離・上室/心室不整脈など)の既往や,治療抵抗性高血圧(特に早朝高血圧),正常血圧にも関わらず左室肥大などを有する症例,透析患者では,OSASを積極的に疑うことが重要

診断

診断基準(ICSD-2)

A+B+D または C+D で基準がみたされる.

A.以下のうち少なくとも1つ以上が該当する
1)患者が,覚醒中に不意に眠り込むこと,日中の眠気,爽快感のない睡眠,疲労感,または不眠を訴える.
2)患者が,呼吸停止,喘ぎ,または窒息感で覚醒する.
3)ベッドパートナーが,患者の睡眠中の大きないびき,呼吸中断,またはその両方を報告する.

B.PSG記録で以下のものが認められる
1)睡眠1時間あたり5回以上の呼吸イベント(無呼吸,低呼吸,または呼吸努力関連覚醒)
2)各呼吸イベントのすべて,または一部における呼吸努力のエビデンス

C.PSG記録で以下のものが認められる
1)睡眠1時間当たり15回以上の呼吸イベント
2)各呼吸イベントのすべて,または一部における呼吸努力のエビデンス

D.異常が,他の現行の睡眠障害,身体疾患や神経疾患,薬物または他の物質使用で説明できない.

酸素飽和度低下指数 oxygen desaturation index;ODI

・指尖や耳朶にプローベを装着することにより非侵襲的に動脈血酸素飽和度(SpO2)を光学的な原理により測定する方法.
・3%ODIならベースラインのSpO2から3%の低下した回数を記録時間(推定の睡眠時間)で割って,1時間あたりに換算したもの.

睡眠ポリグラフ検査 polysomnography;PSG

睡眠中の中枢・呼吸・循環機能を総合的に知るための検査法
ゴールドスタンダード

睡眠の状態を把握するために,脳波や眼電図,筋電図などを装着する.
入院が必要.

AHI 5~15未満→軽度
AHI 15~30未満→中等度
AHI 30以上→重度

検査施設外睡眠検査(簡易モニター) out of center sleep testing;OCST

PSGが施行できない施設では,まずOCSTを施行されることが多い.

検査までの待ち時間が短く,手軽さという面で非常にメリットが多い.
→スクリーニング的な意味合いで使用することが多い.

総睡眠時間(total sleep time;TST)が測定できないため,呼吸イベント指数(respiratory event index;REI)はAHIと呼ばず,REIと呼んでいる.

問題点
1)総睡眠時間が分からない.
2)覚醒反応に基づく低呼吸が分からない.
3)自宅で患者自らが装着する.
4)自動解析されることがある.
5)OCSTのスコアリング・トレーニングしたスタッフが少ない.

睡眠障害関連症状:十分な睡眠をとっていても日中傾眠,ESS≧11,集中力低下,起床時の熟睡感欠如,日中の倦怠感がある.
既往疾患:心筋梗塞,脳血管障害,心不全,コントロール不良の高血圧症など

治療

AHI 15以上で症状や臓器障害のある高血圧患者→治療を考慮
AHI 30以上→CPAPを含めた積極的治療

減量

肥満はOSASの最も重要な危険因子

生活習慣の是正と運動

節酒,就寝前の禁酒,睡眠剤の中止,禁煙など

・規則正しい十分な睡眠時間
・アルコール:上気道の拡張筋の緊張を弛緩させ,上気道抵抗を増幅させる.
・喫煙:気道系に炎症をもたらして上気道の閉塞を誘発.

体位療法

睡眠中の体位の維持(側臥位)

・テニスボール法:パジャマの背中側の首下にポケットを縫い付けて,その中にテニスボールを入れる.睡眠中に寝返りを打つと,背中のボールがあたって刺激となり,身体の向きを元に戻す.

経鼻的持続陽圧呼吸療法 nasal Continuous Positive Airway Pressure;nCPAP

睡眠中に上気道を陽圧状態に保つことで,閉塞起点となる上気道軟部組織を押し上げ,気道の開存を維持.

1)PEEP効果による肺容量の増加が上気道の開大につながる.
2)対症療法となるが,治療継続率は65~90%と治療アドヒアランスが低い.
3)CPAP療法(アドヒアランスのよい)で大半の重症患者で降圧効果が得られ,non-dipperがdipperに移行し,夜間血圧サージが低下し,脳心血管予後も改善する.
 少なくとも一晩4時間以上のCPAPが必要とされている
4)主観的な眠気の改善には4時間以上,客観的な眠気の改善には6時間以上,睡眠機能転帰では7.5時間以上必要との報告がある(個人差が大きい).

保険適応
以下の全てを満たす.
1)PSGでAHI≧20
2)日中の傾眠,起床時の頭痛などの自覚症状が強く,日常生活に支障を来たしている.
3)PSG上で,頻回の睡眠時無呼吸が原因で,睡眠の分断化,深睡眠が著しく減少または欠如し,持続陽圧呼吸療法により睡眠ポリグラフィー上,睡眠の分断が消失,深睡眠が出現し,睡眠段階が正常化する.
*AHI≧40の場合は,3)を満たす必要はない(簡易モニターでも保険適応になる)

良好なアドヒアランス
4時間以上の使用回数が使用日の70%以上

CPAP療法ができない,アドヒアランス不良の場合は,口腔内装置が有用であるため,耳鼻科や歯科口腔外科を含めた専門医への紹介も考慮する.

通信機器を用いたCPAPデータを参照したCPAPの遠隔モニタリングが,2018年の診療報酬改定で認められた.

順応性自動制御換気 adaptive servo ventilation;ASV

CSAのcheyne-Stokes呼吸を制御するために作られた機器.

慢性心不全患者において,ASVはCSRのみならず閉塞性睡眠時無呼吸を含む睡眠呼吸障害を抑制し,心機能障害を改善することが報告されている.

口腔内装置 oral appliance;OA

下顎を前方に移動・保持するmandibular advancement divice(MAD)と,舌全体を前方に引き出すように保持することが目的のtongue retaining device(TRD)があり,一般的に用いられているのはMAD.

解剖学的に軟口蓋は口蓋舌筋でつながっているため,下顎を前方に移動させれば舌や軟口蓋が前方に移動させることができる.

・保険適応

外科療法

口腔咽頭の解剖学的な気道狭窄を解除する,

口蓋垂軟口蓋咽頭形成術 uvulo-palato-pharyngoplasty;UPPP

・口蓋垂,口蓋扁桃,軟口蓋の一部を切除して,気道を広げる.
・約50%の症例でAHIが半分以下になると報告されている.
・多くの場合,扁桃腺的手術が同時に行われる.
・CPAPおよびOA治療への忍容性が得られない症例で,手術リスクおよび期待される効果と副作用について十分説明したうえで検討する.

顎矯正手術 orthognathic surgery

上下顎同時前方移動術(maxillo-mandibular advancement;MMA)
上顎と下顎を同時に骨切りすることで,中咽頭および下咽頭の気道の両方の拡大が期待できる.
・上顎骨梨状口側縁から犬歯窩,翼口蓋窩を通る水平骨切りであるLe Fort 1型骨切り術と,両側の下顎枝を分割して骨体部と分離し上下顎骨体部を可及的に前方に移動する術式.
・合併症は,顔面の感覚異常,不正咬合などの軽度の合併症が3.1%報告されており,下歯槽神経損傷もみられる.

植込み型舌下神経刺激療法 upper-airway stimulation system

オトガイ舌筋の支配神経である舌下神経に直接電気刺激を与える.

1)鎖骨下の皮下に植え込まれるパルスジェネレータには圧検知用リードがあり,内肋間筋層と外肋間筋の間に設置され,呼吸サイクルを圧情報として検出する.
2)圧情報に基づき,舌下神経に留置して電気刺激を送る.
→オトガイ舌筋とオトガイ舌骨筋の筋活動を選択的に刺激し,舌を前方に移動,または舌骨を前方に挙上させることで上気道容積を増加させる.
→無呼吸低呼吸の有無に関わらず,毎吸気時に舌下神経に刺激を与え,吸気に伴う上気道内陰圧化による上気道虚脱性に対して代償的に働くことで,就寝中を通して呼吸を安定化させる.

内服治療

・三環抗うつ薬,アセタゾラミド

血圧コントロール

降圧目標レベルは,胸部大動脈や心臓への無呼吸イベント時の胸腔内陰圧負荷の増大(80mmHgに達することがある)を加味し,特に夜間血圧を含めたより厳格な降圧療法を行うことが望ましい.

1)特定の降圧薬の有用性を示す明確なエビデンスはない.
2)肥満を合併する場合は,RAA系が亢進し左室肥大の合併が多いので,RAS阻害薬が有用かもしれない.
3)心不全を合併する場合は,利尿薬投与により喉頭浮腫が改善し,OSASの改善が期待できる.

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