セレン欠乏症 selenium deficiency

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なすび医学ノート

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セレンとは

原子番号34番,原子量78.96の原子.

生体内含有量が体重1kg あたり 100mg以下あるいは鉄および鉄より少ない含有量のミネラルを微量元素(ミクロミネラル)といい,そのなかでも生存に必須な微量元素としては鉄(Fe),亜鉛(Zn)など9種類がある.
・体内成分の 0.7%程度にすぎないが,生命活動に必須.
・9種のなかで1mg/kg体重以下または1日の必要量がμgレベルのミネラルは超微量元素といい,セレン(Se)を含めて5種に及ぶ.

セレンは抗酸化作用に関与するグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)活性の必須構成要素.

セレンの多くは生体においてアミノ酸成分としてたんぱく質に存在し,セレノプロテインは25種類が発見されている.

セレンは食事摂取によりヒトの体内に取り込まれるが,動物性からはセレノシステイン,植物性からセレノメチオニンとしてたんぱく質から摂取される.

腸管からの吸収率は90%以上で,排泄は主に尿からであるが,セレン過剰の際には,呼気からもセレンの揮発性成分が出現する.

強力な抗酸化酵素(グルタチオンペルオキシダーゼ,GPX),甲状腺ホルモンであるチロキシン(T3)をトリヨードサイロニン(T3)に変換する酵素(ヨードチロニン脱ヨウ素化酵素,DIO),DNA合成に関与する酵素(チオレドキシン還元酵素,TXNRD)などとして重要な役割を担っている.

GSH-Pxは,ビタミンEと共同で過酸化酵素や遊離酸素基のfree radicalの分解を触媒し,細胞膜をその障害から保護している.
→セレンが欠乏すると,free radicalにより細胞膜が障害され,さまざまな症状を呈する.

原因

通常の食事を摂取している場合は,欠乏や過剰をきたす心配はないとされる.
・魚介類を中心とする動物性たんぱく質に多く含まれている.

セレンを含有していない経腸栄養剤等の使用,セレン補充がない静脈栄養患者,透析患者,拡張型心筋症,C 型慢性肝炎・肝硬変などでは血清セレン値が低下しており,セレン欠乏状態になっている場合が多いと考えられている.

末期腎不全

・食事たんぱく質の摂取減少に伴うセレン摂取低下
・貧血
・セレン結合たんぱくの減少
・セレン必要量の増加
・尿への排泄が増加(糸球体基底膜の透過性が高くなるため)
・透析ダイアライザーの膜からの喪失(賛否両論ある)
・生体内のセレン分布の変化

症候

セレンが欠乏すると,爪の白色化,皮膚炎,皮膚の乾燥と薄片化,脱毛,心筋症,不整脈,筋肉痛,筋力低下,歩行障害,大球性貧血,甲状腺ホルモンT3低値などの症状・所見が出現する.

長期的には動脈硬化,発癌,免疫力低下の原因になると考えられている.

風土病としてはチベット自治区東部を中心にみられ,主に思春期・青年期に発症する骨関節炎であるカシンベック病(Kashin‒Beck 病),中国黒竜江省克山県で認められ心筋障害(拡張型心筋症)を主徴とする克山病(ケシャン病,Keshan 病)がある.

心疾患

セレノプロテインであるGPXは,過酸化水素やリン脂質過酸化物をグルタチオンの存在下で還元することで抗酸化作用を示し,広範囲にわたり酸化ストレスに対する防衛因子として心筋保護に作用すると考えられている.

動脈硬化

セレン欠乏症における抗酸化作用の低下すなわち酸化ストレス亢進は,透析患者における動脈硬化の要
な原因の一つであり,冠動脈疾患やそのための死亡につながる.

感染症

セレンとウイルス感染・真菌感染・寄生虫感染との関連を示す報告が散見される.

機序として,①免疫反応において中心的な役割を果たす転写因子の一つであるNFκBの活性化調節,②T細胞活性調節などが報告されている.

甲状腺機能障害

甲状腺ホルモンの代謝はセレノプロテインであるDIOの作用に依存している.

少数例であるが透析患者におけるセレン投与前と投与2,6か月後の甲状腺ホルモンの変化をみた報告では,セレン投与によりTSH濃度は有意な低下,freeT3値は有意な上昇を認めている.

悪性腫瘍

セレン欠乏が悪性腫瘍と関連するメカニズムとして,セレンの抗酸化作用が余分な活性酸素を分解し,がん細胞の発生や増殖を抑制すると考えられている.

透析患者において血球のDNA損傷はがんの原因になると報告されている.

皮膚症状

一般的に頻度が高いセレン欠乏症の皮膚症状として,爪の白色化が知られている.

皮膚症状を呈している症例では血清セレン値が,測定感度以下~5.2 μg/dL(平均 2.33 μg/dL).

筋症状

セレン欠乏症では,その症状として筋肉痛や筋力低下が多数報告されている.

筋症状が出ている患者の血清セレン値は,測定感度以下~8.3 μg/dL(平均 2.81μg/dL).

診断基準

1.下記の症状/検査所見のうち1項目以上を満たす
1)爪・皮膚 爪白色化・爪変形,皮膚炎,脱毛・毛髪の変色
2)心筋障害 心筋症,虚血性心疾患,不整脈,頻脈
3)筋症状 下肢の筋肉痛,筋力低下,歩行困難
4)血液症状 赤血球の大球性変化,大球性貧血
5)検査所見 T3 低値,AST・ALT 上昇,CPK 上昇
6)心電図変化 ST 低下,T 波陰転化

2.上記症状の原因となる他の疾患が否定される(ビタミン異常・Fe・Zn・Cu異常など)

3.血清セレン値
0~5歳:≦6.0μg/dL
6~14歳:≦7.0μg/dL
15~18歳:≦8.0μg/dL
19歳~:≦10.0μg/dL

4.セレンを補充することにより症状が改善する

Definite(確定診断):上記項目の1,2,3,4をすべて満たすもの.
Probable:セレン補充前に1,2,3を満たすもの.セレン補充治療の適応となる.

治療

本邦にて透析患者で低セレン血症を認める症例に対しては,近年セレンの静脈投与製剤であるアセレンドⓇ(亜セレン酸ナトリウム)が発売となっており,最も確実な方法と考えられる.

アセレンドの投与方法として,添付文書上は1日50~200μg の投与で効果不十分なら300 μgまで増量可となっている.
→50~300 μg/透析後に点滴投与する方法がよいと思われる.

食事からは,魚介類・畜肉・卵類および北米産小麦を原料とするパン,パスタ,中華麺などセレン含有量の多い食材を摂取することで効率よくセレン欠乏を補うことができる.

セレンの含まれるサプリメントも複数認められ,1 日摂取量は100~400μg/日(多くは200μg/日)の容量となっている.

至適血中濃度は8~25μg/dLと狭いため,中毒にも注意が必要.

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