この10数年で治療が劇的に進歩した.
メトトレキサートをアンカードラッグとした併用療法に加えて,生物学的抗リウマチ薬やJAK阻害薬など従来の抗リウマチ薬と比較して臨床的有効性・関節破壊抑制効果の高い薬剤が登場し,予後を著明に改善させることが可能となった.
総合的疾患活動性指標 disease activity score(DAS) 28が考案され,寛解の基準をその数字で定義して治療目標とし,達成まで治療を是正し,達成後はこれを維持するTreat to Target(T2T)が実践されるようになったことも大きい.


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治療目標
1)関節リウマチの治療は,患者とリウマチ医の合意に基づいて行われるべきである.
2)関節リウマチの主要な治療ゴールは,症状のコントロール,関節破壊などの構造的変化の抑制,身体機能の正常化, 社会活動への参加を通じて,患者の長期的QOLを最大限まで改善することである
3)炎症を取り除くことが,治療ゴールを達成するために最も重要である.
4)疾患活動性の評価とそれに基づく治療の適正化による「目標達成に向けた治療(Treat to Target;T2T)」は, 関節リウマチのアウトカム改善に最も効果的である.
目標達成に向けた治療 Treat to Target;T2T
設定した治療目標に向かって,厳密な疾患管理をしていくアプローチ法で,RA治療において将来の関節破壊を防止するためには極めて重要なプロセスとなる.
寛解とは,将来的に関節破壊や機能障害が進行しない臨床的状態
1)関節リウマチ治療の目標は,まず臨床的寛解を達成することである.
2)臨床的寛解とは,疾患活動性による臨床症状・徴候が消失した状態と定義する.
3)寛解を明確な治療目標とすべきであるが,現時点では,進行した患者や長期罹患患者は,低疾患活動性が当面の目標となり得る.
4)治療目標が達成されるまで,薬物治療は少なくとも3ヵ月ごとに見直すべきである.
5)疾患活動性の評価は,中~高疾患活動性の患者では毎月,低疾患活動性または寛解が維持されている患者では3 ~6カ月ごとに,定期的に実施し記録しなければならない.
6)日常診療における治療方針の決定には,関節所見を含む総合的疾患活動性指標を用いて評価する必要がある.
7)治療方針の決定には,総合的疾患活動性の評価に加えて関節破壊などの構造的変化及び身体機能障害もあわせて考慮すべきである.
8)設定した治療目標は,疾病の全経過を通じて維持すべきである.
9)疾患活動性指標の選択や治療目標値の設定には,合併症,患者要因,薬剤関連リスクなどを考慮する.
10)患者は,リウマチ医の指導のもとに,「目標達成に向けた治療(T2T)」について適切に説明を受けるべきである.


疾患活動性評価
VAS:visual analog scale
DAS28

DAS28-ESR
DAS28-ESR = 0.56×√(TJC)+0.28×√(SJC)+0.7×LN(ESR)+0.014×(VAS)
LN: 自然対数,ESR (mm/hr),VAS (患者による全般評価: 0-100mm)
5.1< 高疾患活動性 high disease activity
3.2~5.1 中疾患活動性 moderate disease activity
<3.2 低疾患活動性 low disease activity
<2.6 寛解 remission
DAS28-CRP
DAS28-CRP = 0.56×√(TJC)+0.28×√(SJC)+0.36×LN( (CRP)×10 +1)+0.014×(VAS)+0.96
LN: 自然対数,CRP (mg/dL),VAS (患者による全般評価: 0-100mm)
4.1< 高疾患活動性 high disease activity
2.7~4.1 中疾患活動性 moderate disease activity
<2.7 低疾患活動性 low disease activity
<2.3 寛解 remission
SDAI:simplified disease activity index
圧痛関節数 + 腫脹関節数 +患者による全般的評価(10cmVAS)+医師による全般的評価(10cmのVAS)+CRP(mg/dL)
医師による全般的評価(VAS)に加えて,圧痛関節痛,腫脹関節痛,患者による全般的評価,CRPを単純に足したもの.
CDAI:clinical disease activity index
圧痛関節数 + 腫脹関節数 +患者による全般的評価(10cmのVAS)+医師による全般的評価(10cmのVAS)
関節破壊評価
vdH-modified Total Sharp Score;vdH-mTSS
手足の単純X線で骨びらんと関節裂隙狭小化を評価し,スコア化したもの.
RAのアウトカム評価,特に自然歴を変え得る薬剤抗リウマチ薬の薬効評価の最も重要な指標となった.
患者報告アウトカム patient reported outcome;PRO
医師による活動性の評価と患者自らによる評価や訴えは必ずしも一致せず,治療に目標に対する医師・患者間での乖離がみられることは少ないため,PROの重要性が認識されている.
Health Assessment QuestionnaireDisability Index;HAQ-DI
関節炎特異的なQOL評価法
RA治療のアウトカム評価として,関節破壊評価と共に重要な薬効評価の指標.
Routine Assessment of Patient Index Data 3;RAPID3
患者による疼痛評価,患者による全般評価,身体機能(modifiedHAQ;mHAQ)によって構成され,最大30点.
疾患活動性をよく反映するとされる.
治療アルゴリズム
原則として,
①6カ月以内に治療目標である「臨床的寛解 or 低疾患活動性」が達成できない場合は,次のフェーズに進む.
②治療開始後,3ヵ月で改善がなければ治療を見直し,RF/ACPA陽性や早期からの骨びらんを有する症例は関節破壊が進みやすいため,より積極的な治療を考慮する.
③MTXを基本的なRA治療薬とする.
フェーズⅠ
RAと診断された患者は,まずMTXの使用を検討する.
*禁忌事項の他に,年齢・腎機能・肺合併症などを考慮して,MTXの適応の有無と開始量を判断する.
*使用が難しい場合は,イグラチモド・タクロリムス・サラゾスルファピリジン・ブシラミンなどの従来型合成抗リウマチ薬を使用.
*MTX単剤で効果不十分な場合は,他の従来型合成抗リウマチ薬を追加して併用療法を検討する.
*副腎皮質ステロイドは補助的治療の位置づけとなった.
フェーズⅡ
従来型合成抗リウマチ薬で治療目標が達成できない場合,MTX併用/非併用のいずれの場合も,TNF/IL-6阻害薬やT細胞選択的共刺激調節薬などの生物学的製剤,JAK阻害薬の使用を検討する.
*長期安全性・医療経済の観点から生物学的製剤の使用を優先する.
*MTX非併用の場合は,生物学的製剤ではnon-TNF阻害薬(IL-6阻害薬)を優先する.
*従来型合成抗リウマチ薬非併用の場合,生物学的製剤 or JAK阻害薬の単剤療養も考慮できる.
フェーズⅢ
フェーズⅡで生物学的製剤 or JAK阻害薬を使用しても効果不十分である場合,他の生物学的製剤 or JAK阻害薬への変更を検討する.
TNF阻害薬が効果不十分で他の生物学的製剤への切り替えを考慮する場合,非TNF阻害薬への変更を優先する.
補助的治療
NSAIDs,ステロイド(経口・筋肉注射などによる全身投与)は補助的治療に位置付けされている.
ステロイドは,早期のRA患者で少量短期間の使用にとどめ,減量可能な限り短期間で漸減中止する.
抗RANKL抗体による治療は,海外のリコメンデーションやガイドラインでの推奨がなく,本邦独自の補助的治療薬に組み入れられている.
・骨破壊抑制効果を有している.
・疾患活動性改善効果や軟骨破壊抑制効果はなし.
薬物の減量
治療目標達成・維持,関節破壊進行抑制,身体機能維持ができた場合に,薬物の減量を考慮する.
抗リウマチ薬 disease-modifying antirheumatic drug;DMARD
禁忌がなければ,メトトレキサートを使用し,十分量でも3ヵ月以内に改善しない,6カ月以内に寛解に到達しない場合には,生物学的製剤orJAK阻害薬を追加することが推奨されている.
メトトレキサート methotrexate;MTX
臨床症状の改善,関節破壊の進行抑制,機能的改善効果が実証されている治療の中心を担う標準治療薬.
単剤による治療はもとより,他の合成抗リウマチ薬や生物学的製剤と併用する場合も基本.
→軸に治療を固定する意味でアンカードラッグとも呼ばれる.
ジヒドロ葉酸レダクターゼの阻害により効果を発揮する.
血中TNF-αを減少させないが,血中IL-6を減少させる.
使用方法
通常は,8mg/週で開始し,16mg/週まで増量可能
少量を12時間おきに2~3分割して,1週間に1回経口投与し,口内炎・胃腸障害・肝障害ならびに血球減少などに注意しながら,2~4週間後に2~4mgずつ漸増し,最大耐性用量まで増量し,臨床的効果を確認する.
最大16mg/週まで使用可能
妊婦・授乳婦,活動性の感染症や腎機能障害,間質性肺炎を有する患者に原則禁忌.
MTXの尿中排泄率は他のDMARDsより高く90%であり,GFR<30の高度な腎不全患者や透析患者ではMTX中毒を起こしやすい.
副作用
低分子化合物であることから,代謝・分解・排泄に関わる腎機能・肝機能の低下,合併症などに対する多剤薬剤投与による相互作用により,血中濃度が上がりやすい.
口内炎,肝障害,胃腸障害,血液障害,間質性肺炎等が上げられるが,間質性肺炎以外の副作用の多くは葉酸を併用することで減る.
高齢者では,骨髄抑制,間質性肺炎,日和見感染症に留意する.
骨髄抑制,肝機能障害,粘膜・消化管障害等の細胞毒性に起因する副作用が発現した場合には,本剤の拮抗剤であるホリナートカルシウム(ロイコボリンカルシウム)を投与することで対応が可能.
メトトレキサート関連リンパ増殖疾患 Methotrexate-associated lymphoproliferative disorders;MTX-LPD
原因不明の発熱やリンパ節腫脹,寝汗,体重減少などを認める疾患.
B細胞リンパ腫ではDLBCLが多く,Hodgkinリンパ腫では混合細胞型が多い.
約2/3の患者ではMTX中止後に消退する.
・自然退縮傾向がない場合は,早期に血液内科専門医にコンサルトして化学療法を開始する.
末梢リンパ球絶対数が発症,消退,再燃・再発と関連があることが示唆されている.
同様の病態は,抗TNF-α抗体などでも発生し,「その他の医原性免疫不全に関連したリンパ増殖性疾患」と分類される.
従来のDMARDs conventional synthetic DMARD;csDMARD
イグラチモド・タクロリムス・サラゾスルファピリジン・ブシラミン
長期使用により効果が減弱する(エスケープ現象)ことがある.
一般的には効果の発現が遅いので,効果が出るまでにNSAIDsやステロイドと併用されることが多い.
ステロイド
初発時および関節炎が再燃した場合などに,疼痛や腫脹の緩和を目的とした補助療法として,3ヵ月を限度に一時的な使用は推奨される.
・初期に活動性の高い場合,抗リウマチ薬とステロイドの併用は有用.
・症状改善に伴い漸減,中止する.
高齢発症RAの場合は極力避けることが重要.
日常生活動作改善目的の場合は,関節内注射や筋肉注射での投与が基本.
生物学的リウマチ薬(バイオ抗リウマチ薬) biological DMARD;bDMARD
1)生物から産生される抗体などのタンパク質を治療薬として用いた分子標的治療薬で,標的分子に特異性の高い抗体分子や受容体・免疫グロブリン融合蛋白からなる.
2)経口無機化合物が,代謝系の肝臓・腎臓に対して副作用を生じやすいのに対し,生物学的製剤そのものによる臓器障害は少ないとされる.
3)標的分子のみの活性を抑えることができる.
4)標的分子としては,滑膜細胞の増殖に不可欠な血管新生を促す血管内皮増殖因子(VEGF)や,その作用を増強するTNF,IL-1 とIL-6などの炎症性サイトカインの受容体,免疫応答細胞B細胞上のCD20,T細胞活性化調整を目的としたCD80/86がある.
5)強力な抗炎症作用,非常に速い効果発現,強力な関節破壊の抑制作用をもつ.
・メトトレキサートとの併用により,約半数で寛解の導入が可能.
・寛解が達成されなければ,6カ月毎に治療は見直す.
6)重篤な副作用の約半数が感染症.
TNF標的薬
Fab部分をポリエチレングリコール修飾した抗TNFペグ化抗体
インフリキシマブ infliximab;IFX(MTXとの併用)
エタネルセプト etanercept;ETN
アダリムマブ adalimumab;ADA(MTXとの併用)
ゴリムマブ golimumab;GLM
セルトリズマブ
(いくつかはバイオシミラーが使用でき,薬価が2/3)
1)速やかで高い寛解導入率が特徴的.
2)メトトレキサートとの併用により,関節の構造的損傷を抑止できる.
3)心・脳血管障害を著明に減少させる.
IL-6 標的薬
トシリズマブ tocilizumab;TCZ
サリルマブ sarilumab;SAR
1)TNF標的薬と同等の疾患制御効果・関節破壊抑制効果を示す.
・メトトレキサートを使用できない患者に単剤でも高い効果を発揮する.
T細胞選択的共刺激調節剤
T細胞の活性化に必要な共刺激シグナルを阻害するCTLA4と免疫グロブリンの結合タンパク
アバタセプト abatacept;ABT
1)TNF標的薬と同等の疾患制御効果
2)安全性が高く評価され,高齢者にも汎用されている.

JAK阻害薬
サイトカイン受容体と直接会合するJAKを標的とする経口無機化合物
サイトカインや増殖体には,受容体と結合すると,多様な細胞内シグナルを伝達し,細胞機能や新たな分子の転写を誘導する(シグナル伝達分子をリン酸化する酵素をキナーゼと呼ぶ).
→518のキナーゼのなかで,JAKは代表的なキナーゼ.
→JAKは受容体の細胞内成分をリン酸化し,STAT(signal transducer and activator of transcription)と結合する.
→4種類のJAKと7種類のSTATの組み合わせで,多様なシグナルを伝達する.
・細胞内のシグナル伝達を阻害するためにマルチターゲット効果を有するため安易な使用は避ける.
・それぞれ特徴的な半減期,代謝酵素ならびに代謝経路があり,肝臓や腎臓の合併症および併用薬剤などを考慮し,用量調節や薬剤選択を行う必要がある.
帯状疱疹の副作用の頻度が増加するとされる.
トファシチニブ tofacitinib
JAK3のATP結合部位に競合的に結合阻害する低分子量化合物
用量:5mg×2回/day
消失半減期:3時間
排泄:肝臓20%,腎臓80%
代謝酵素:肝臓70%,CYP3A4,CYP2A19
薬物相互作用:ケトコナゾール,フルコナゾール,シクロスポリン,タクロリムス,リファンピシン,ミタゾラム
バリシチニブ baricitinib
JAK1/2を阻害
用量:2-4mg×1回/day
消失半減期:11時間
排泄:腎臓75%
代謝酵素:OAT3,CYP3A4
薬物相互作用:プロベネシド
ペフィシチニブ peficitinib
用量:100-150mg×1回/day(40kg以下:50mg/day)
消失半減期:14-18時間
排泄:肝臓60%,腎臓40%
代謝酵素:肝臓60-80%,SULT2A1
薬物相互作用:P-gp,CYP3A,2C8を抑制
ウパダシチニブ upadacitinib
JAK1を阻害する.
用量:7.5-15mg×1回/日
消失半減期:8-14時間
排泄:肝臓 未変化体60%,腎臓 未変化体40%(代謝物は全体の34%)
代謝酵素:CYP3A4,2D6
薬物相互作用:ケトコナゾール,リトアビル,クラリスロマイシンなど
難治性RA refractory RA
Persistent inflammatory refractory RA
・多剤DMARDs抵抗性
・炎症の現存所見あり
早期治療における治療抵抗性が慢性的な炎症を来たし,DNA methylationなどのエピジェネティックな変化,de novo mutation,構造的ダメージ,中枢性感作などを起こして持続的な治療抵抗性につながると考えられている.
Non-inflammatory refractory RA
・客観的な炎症よりも症候性RA
・既存のダメージ,二次性OA
・機能的低下
・慢性疼痛,線維筋痛症の合併
・中枢性感作
多剤アレルギー,抗製剤抗体の出現,合併症や副作用による治療制限,合併症,服薬アドヒアランス,経済状況などの社会的因子を含む.
→客観的な炎症を欠くものの臨床症状があり,患者による全体的評価が高く,腫脹関節数よりも圧痛関節数が多い傾向にある.
→総合的疾患活動性指標が高値となる.
非薬物療法・外科的治療
薬物治療を行っても,四肢関節症状・機能障害が併存する場合に,非薬物治療・外科的治療の併用を検討する.
フェーズⅠ
関節X線,超音波,MRI,CTなどの画像診断を含め,関節破壊と身体機能を慎重に検討し,1つ1つの関節の機能評価・いくつかの関節にまたがる複合的な機能評価を行う.
↓
装具療法,生活指導を含むリハビリテーション治療,短期的なステロイドの関節内注射などの保存的治療を実施する.
↓
有効であれば継続し,機能的寛解の達成・維持を目指す.
フェーズⅡ
機能障害や変形が重度である場合,薬物治療抵抗性の少数の関節炎が残存する場合は,関節機能再建手術(人工関節置換術・関節形成術・関節固定術・滑膜切除術)を検討する.
・手術不適応の場合には,再びフェーズⅠに戻り,可能な限りの保存的治療を検討する.
・術後は,当該関節に対する早期リハビリテーションを行うが,その後もリハビリテーションを継続し,長期的な身体機能維持を目指す.