腎性貧血 renal anemia

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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腎臓においてヘモグロビンの低下に見合った十分量のエリスロポエチン(erythropoietin;EPO)が産生されないことによってひき起こされる貧血であり,貧血の主因が腎障害(CKD)以外に求められないもの.

・GFR<60mL/min(Stgae3以降)をきると腎性貧血により貧血が進行してくる.
・GFR<30mL/min(Stgae4以降)になれば,腎性貧血のみでHb<11.0g/dLになることもありえる.
→逆にいえば,Stage3まででは腎性貧血のみでHb<11.0g/dlになることは考えにくく,他の原因の検索が必要!!

原因

赤血球の寿命

生存シグナル
・通常,EPO受容体は,赤芽球前駆細胞(colony-forming unit-erythroid;CFU-E)から発現し,正染性赤芽球まで存在している.
・血中EPO濃度は,その後の成熟赤血球の数に大きな影響を及ぼし,十分量のEPOは赤芽球前駆細胞のFas/FasL発現を抑制するため,およそ半数はアポトーシスへの道を回避して成熟赤血球になる.
・腎性貧血では,EPOが不足しており,当然アポトーシスへの比率が増えている.

○EPOのプロモーターにはhypoxia-responsive element(HRE)という転写調節領域が存在し,低酸素状態で働く転写調節因子hypoxia-inducible factor(HIF)が貧血による酸素供給の低下を感知することによりEPOの産生を促す.
・HIFにはいくつかのisoformがあるが,ヒトでのEPO産生調節にはHIF2 が重要であると考えられている.

前赤芽球から正染性赤芽球まではTFR1が存在しており,この間に血清鉄が十分に取り込まれ,ヘモグロビン鉄となるため,血清鉄濃度は低下する.
→TFR2が感知してヘプシジン発現を低下させ,FPNからの鉄供給を増加させ,血清鉄濃度を回復させる.
→十分量投与されたESAに骨髄が反応すれば,ヘプシジンは必ず低下してくる(ESRに対し,抵抗性か否かはすぐに把握できる).

ネオサイトライシス
脱核直後の正染性赤芽球に十分量のESAが作用しないと,赤芽球はネオサイトライシスに陥る.
→未熟な赤血球がマクロファージに処理されるため,造血時に低下したヘプシジンとフェリチンが上昇してくる.
→投与したESAの半減期過ぎで認めることが多く,この時期に次のESAが投与されれば,ネオサイトライシスは回避できるため,効率のよい治療につながる.

エリスロポエチン erythropoietin;EPO

165個のアミノ酸からなるペプチドホルモンであり,骨髄において赤血球前駆細胞上の受容体に結合して,これの分化と増殖を促進する.

・主に腎臓で産生されるので,腎臓が荒廃している腎不全患者では腎臓におけるエリスロポエチンの産生が行われないか,あるいはこれが極めて低下している.

EPOは主に皮随境界付近の間質に存在する繊維芽様細胞で産生される.
・低酸素状態では皮質全体および髄質外層でもEPOが産生されるようになり,EPO産生量が増加する.
・CKDが進行すると,エリスロポエチン産生細胞はmyofibroblastに形質転換しEPO産生能が失われる.
○GDF15などの因子を介して,hepcidinの産生を抑制し,鉄の網内系を介した再利用を亢進する(Kidney Int 2009;75:976-981).

ヘプシジン hepcidin

鉄代謝制御の中心的役割を担っているペプチドホルモン.

8つのシステイン残基を含む25アミノ酸のタンパク質で,肝臓で合成される.

ヘプシジンは,血清鉄量,肝細胞内の鉄量,腸上皮での吸収鉄量などの変動で刺激され,血清鉄濃度の恒常性を保つように作用している.
・負のモジュレーターで,フェロポーチンを不活性化することによりマクロファージからの鉄吸収および鉄の放出を減少させる.
・腸管での鉄吸収量は,ヘプシジン濃度で決定される.

腎性貧血では,エリスロポエチン産生能の低下に伴う造血機能の低下が発端となるヘプシジンの上昇や,赤血球造血刺激因子製剤や鉄製剤による治療時のヘプシジン発現異常は,いずれも血清鉄濃度の恒常性を保つためのフィードバック反応である.

ESA投与量に左右されるFas/FasLを介した生存のシグナルや,EPO受容体に対するESAの持続的作用不足が誘因となるネオサイトライシス(赤血球崩壊)の病態は,ヘプシジンの反応で捉えることができる.

慢性炎症

CKD患者では腎機能の低下により,IL-6やTNF-αなどの血中炎症性サイトカインが上昇し,慢性炎症状態にあると考えられている.

HD患者は透析膜の生体非適合性,エンドトキシンの混入,バスキュラーアクセスの感染などにより,赤血球寿命の短縮や赤血球産生能の低下だけでなく,さまざまな鉄代謝異常が起こる.
→ACD(Anemia of Chronic Disease),鉄の細胞外放出抑制と細胞内取り込みが亢進され,細胞内鉄過剰+血中鉄欠乏の状態に陥る.

肝臓におけるヘプシジンの発現は,Fe-Tf の他に,炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL-6)刺激によっても増加する.
→感染症に対する生体防御反応,すなわち,病原微生物の利用できる鉄を減らす反応として理解できる.

asymmetric dimethylarginine;ADMA

内因性NO合成酵素(NOS)阻害物質.
・NOはL-arginineを基質としてNOSより産生されるが,ADMAなどのメチル化アルギニンにより競合阻害され,NO産生不全や生物学的活性低下を招く.
・ADMAは,CVD,糖尿病,メタボリック症候群,特にCKD患者血中に高濃度で存在し,その上昇が,内皮障害や動脈硬化の程度のみならず,CVD発症,CKD進展や生命予後の重要な規定因子であることが相次いで報告されている.

赤血球ADMA濃度は腎機能や栄養状態に関わらずヘモグロビン(Hb)濃度と強く関係していたという報告あり.

(テストステロン)

直接造血細胞に作用し,その増殖や生存を促し,エリスロポエチン作用を増強するという報告がある.

テストステロンはアンドロゲンレセプターを介して,Smad1/5/8のヘプシジンプロモーターへの結合を抑制
→ヘプシジンプロモーターへの結合を抑制
→ヘプシジンの発現を抑制→造血促進効果

(エストロゲン)

ヘプシジン遺伝子のプロモーター領域にエストロゲン応答要素(estrogen response element;ERE)が存在することが証明されている.
→ヘプシジン遺伝子プロモーション領域での機能的EREを介して,肝臓ヘプシジン発現を直接発現することによって,腸管鉄吸収輸送体を調整して鉄吸収に関与していることが示唆されている.

病態

cardio-renal-anemia症候群

心不全と慢性腎不全と貧血は互いに悪影響を及ぼし,互いの病態を悪化するという悪循環を形成している!
 心不全→腎虚血により腎機能悪化,貧血をもたらす
 腎不全→体液貯留,貧血→心不全の悪化
 貧血→心不全・腎不全の悪化

腎臓への影響

○CKDの進行には腎臓の慢性低酸素状態が重要であり,貧血は腎不全進行自体に影響する.
・井関らの行った大規模な後ろ向き多変量解析(71,802 例)では,末期腎不全に至るリスクは女性ではヘマトクリット 35%未満で約 3 倍,男性ではヘマトクリット 40%未満で約 2 倍であった.

心臓への影響

○CKDに伴う代償性の心肥大は主に容量・圧負荷に関連する慢性的な心仕事量の増加によるものだが,貧血が生じると組織への組織供給量を維持しようとするため,前負荷の増大,末梢血管抵抗の低下,心拍出量の増大が起こり,心肥大を悪化させる.
○貧血に対応して起こる頻脈も,冠動脈血流を低下させ,貧血に伴う酸素供給能の低下とともに虚血性心疾患悪化の原因となる.

診断

ヘモグロビン濃度

○Hb値を用いるべきであり,日本人における貧血の診断は年齢,性差を考慮して,以下の基準で行う.
60歳未満 60歳以上70歳未満 70歳以上
男性 Hb<13.5 Hb<12.0 Hb<11.0
女性 Hb<11.5 Hb<10.5 Hb<10.5

○正球性正色素性貧血
・EPOの相対的不足による骨髄での造血低下が原因
・MCVは90台が多く,80台であった場合は鉄欠乏性貧血の合併を疑わないといけない.

○同じeGFRでも糖尿病や多発性嚢胞腎では程度が強くなる(エリスロポエチン産生部位の障害との関連が推測されている).

血中エリスロポエチン濃度

○「貧血の程度を勘案すると想定される程には上がっていない」ことが多いため測定の診断的意義は少ないが,eGFRの低下が軽度であるにも関わらず他に貧血の原因が明らかでない場合は血中EPO濃度測定が参考になることもある.
○Hb<10 gdLのCKD患者では,eGFRにかかわらず血中EPO濃度<47 mIUmLであれば腎性貧血を疑ってよい.

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