肺アスペルギルス症 pulmonary aspergillosis

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

○アスペルギルスは土壌,大気中などに広く分布する環境内常在真菌である。
・病原性を有するものはAspergillus fumigatus が最も多く,ついでAspergillus niger,Aspergillus flavus,Aspergillus nidulans, Aspergillus terreus などである.
・本邦ではA. niger の頻度が比較的高い。

○空気中を浮遊するアスペルギルスの分生子を経気道的に吸入することにより体内に侵入し,肺胞あるいは気管支や空洞など既存の気腔内に定着し増殖することで発症する.
・通常は気道の線毛運動により喀痰として排出されるか,肺胞マクロファージにより貪食され処理される.

○発病した場合は,菌自体の病原性と宿主の免疫状態(免疫能の低下やアレルギー素因),および肺の構造改変(空洞・嚢胞や気管支拡張)との相互関係により種々の病像を呈する.

病態

A. fumigatus関連菌種

・Aspergillus lentulus,Aspergillus udagawae,Aspergillus viridinutans などがA. fumigatus関連菌種とされるが,問題はこれらが通常A. fumigatusと鑑別が困難であり,ポリエン系,アゾール系抗真菌薬に耐性傾向を有する.
・A. fumigatus は通常胞子形成能が高く,48℃ 以上でも発育することがこれら関連菌種との鑑別のポイントとされているが,実際各医療施設においては,鑑別困難な場合が多く,菌種同定を専門機関に依頼する。

分類

■慢性型  Chronic pulmonary aspergillosis;CPA
1)単純性肺アスペルギローマ Simple pulmonary aspergilloma;SPA
・1個の空洞に真菌球を呈するもの
2)慢性進行性肺アスペルギルス症 Chronic progressive pulmonary aspergillosis;CPPA
①慢性空洞性肺アスペルギルス症  Chronic cavitary pulmonary aspergillosis ;CCPA
・肺に複数の空洞が存在し,周囲に炎症がある.
・菌球はあってもなくてもよい.
・病理学的に組織侵襲を認めない.
②慢性壊死性肺アスペルギルス症  chronic necrotizing pulmonary aspergillosis ;CNPA
・結節やコンソリデーションがある.
・空洞はあってもなくてもよい.
・病理学的に組織侵襲を認める.

■急性型(侵襲性肺アスペルギルス症) invasive pulmonary aspergillosis;IPA
・免疫不全を背景に発症し,病理学的に組織侵襲を認める.

■アレルギー型(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)Allergic broncho-pulmonary aspergillosis;ABPA
・アスペルギルス属に誘発される気道の炎症性破壊を伴うアレルギー性疾患.

慢性肺アスペルギルス症  Chronic pulmonary aspergillosis;CPA

○陳旧性肺結核の浄化空洞や嚢胞,気管支拡張など慢性呼吸器疾患に関連した形態的変化や,それに伴う気道クリアランスの低下など,いわゆる局所免疫機能の低下がある場合には菌糸の腐生性発育の結果形成される単純性肺アスペルギローマ(Simple pulmonary aspergilloma:SPA)や慢性進行性肺アスペルギルス症(Chronic progressive pulmonary aspergillosis:CPPA)などのCPAの病態を呈する.

単純性肺アスペルギローマ Simple pulmonary aspergilloma;SPA

○陳旧性肺結核などによる既存の空洞性病変や気管支拡張,肺嚢胞内に分生子が侵入,腐生性に増殖を来し菌球を形成する.
○多くは長期無症状であるが,時に血痰や発熱,喀血を認める.

○胸部X 線では空洞壁および胸膜の肥厚像を呈し,空洞内の類円形の菌球,その周囲の含気層(meniscus sign)を認める.
・部分的な胸膜肥厚像がアスペルギローマの初期の所見ともいわれる.

診断

○喀痰や気管支肺胞洗浄液の培養を行って菌を検出することや,経気管支肺生検を行い組織内の菌を証明することによって行う.
・抗アスペルギルス沈降抗体はアスペルギローマでは約90~100%の症例で陽性となり補助診断として有用である.

治療

○外科的切除が原則であるが,高齢や基礎疾患のため手術ができない症例(低肺機能や癒着による術中大量出血の可能性など)では内科的治療を行う。
・無症状の場合には治療を行わず経過観察する場合もある.
○主に外来治療がなされることが多いため,選択薬としては経口薬のVRCZ,ITCZ が中心となる.
・RCTにより有効性が検証された薬剤はない.
・VRCZを使用する場合は血中濃度測定を行うべき.
・従来はAMPH-Bの空洞内注入も行われたが,大量喀血の原因になることもあるので近年では行われない.
○数カ月から年余にわたって治療が継続される例もあるが,治療終了の明確な指標は確立されておらず,個別の判断が必要.
○アスペルギローマは経過中,画像上ほとんど変化なく,無症状であることが多いが,まれにCNPA,IPA への移行を認めることもあり注意を要する.

慢性進行性肺アスペルギルス症 Chronic progressive pulmonary aspergillosis;CPPA

○慢性空洞性肺アスペルギルスや慢性壊死性肺アスペルギルス症を包含する疾患概念.
○陳旧性肺結核,非結核性抗酸菌症,肺内空洞(嚢胞も含む),気管支拡張症,慢性閉塞性肺疾患(COPD),間質性肺炎,胸部外科手術などの既往を有する患者で,緩徐に進行し,増悪,寛解を繰り返すことが多い.
・基礎疾患としては従来,陳旧性肺結核が最も頻度が高いが,近年非結核性抗酸菌症の頻度が増加してきている.

診断

○活動性の評価としては,1 カ月以上続く咳嗽,喀痰(血痰も含む)や呼吸困難などの呼吸器症状と発熱,体重減少などの全身症状があり,画像所見の増悪,一般抗菌薬や抗抗酸菌薬の投与に反応しない,炎症性マーカーの上昇がある場合活動性ありと判断する.

○画像所見として,新たな空洞陰影の出現,空洞陰影の拡大,壁の肥厚,周囲の浸潤影の拡大等があげられる.
・菌球様陰影は有しないものもあるが,通常伴うことが多い.
・さらに両側肺に広範な浸潤影を呈し呼吸不全となることもある.

○血清診断における抗アスペルギルス沈降抗体検査,あるいは呼吸器検体の病理組織学的診断が陽性であれば臨床診断例となる.
・さらに真菌培養検査が陽性であれば確定診断となる.
・CPA におけるそれぞれの血清診断では,抗アスペルギルス沈降抗体,アスペルギルスガラクトマンナン(GM)抗原,β-D-グルカンの感度はそれぞれ88.6%,27.3%,23.0% との本邦における報告がある.
・CPAでは抗アスペルギルス沈降抗体の有用性が高い一方,IPA で補助診断に用いられるGM 抗原はCPA では感度が低く有用性は劣る.

○病理所見においてはfungus ball,空洞壁の潰瘍形成の他,器質化肺炎,肉芽腫性肺炎,Bronchocentric granulomatosis(BCG),好酸球性肺炎など種々の所見を呈するとされるが,明確な病理組織学的な診断定義はないために,病理所見のみでは確定診断とはならない.

治療

○活動期には症状,所見の程度に応じて治療を選択する.
○血痰,喀血や呼吸不全,全身状態不良の場合は入院治療と判断する.
・まずは出血のコントロールが困難な場合は気管支動脈塞栓術あるいは手術適応について考慮する.
・同時に抗真菌薬の注射剤を開始する.

○初期治療としてはmicafungin(MCFG)とvoriconazole(VRCZ)を第一選択薬として推奨している.
・MCFG とVRCZ のRCT でMCFG とVRCZ の有効性は,それぞれ60.0%,53.2% と有意差を認めなかったが,副作用の発現率は,MCFG が26.4%,VRCZ が61.1% とMCFG で有意に低頻度であったことから,臨床的な有用性はMCFG が高いと考えられる.

○第二選択薬としてcaspofungin(CPFG),itraconazole(ITCZ),liposomal amphotericin B(L-AMB)があげられている.
・MCFGとCPFG を比較した国内III 相試験のサブ解析ではMCFG で46.7%,CPFG 45.0% と有意差は認めなかった。

○初期治療は2 週間以上を目安にし,症状の軽快,安定化まで行うことが勧められる.
・その後,維持療法として,VRCZ やITCZ の経口薬で治療を続行する。
・特にVRCZ は非線形の血中濃度分布を示すとされ,可能な限りTDM を行うことが望ましい.

○本邦の抗菌薬TDM ガイドラインでは投与5~7 日以降にTDM を実施し,有効面からはトラフ値が1~2 μg/mL 以上を目標とし,安全面からは4~5 μg/mL を超える場合には肝障害に注意するよう勧告している.
・「深在性真菌症の診断・治療ガイドライン2014」では血液疾患におけるIPA では有効性の目標トラフ値を2~3 μg/mL 以上としているが,CPA においては明らかなエビデンスがない.

○治療期間については,通常6 カ月以上の長期投与が必要と考えられる.
・長期治療評価のエビデンスはないが,1~3カ月ごとに病状をチェックし,症状,病態が安定していれば中止を検討してもよい.
・薬剤中止後は慎重に経過観察を行う.

○アゾール耐性アスペルギルスの問題があるが,本邦においても報告があり,動向には十分な注意が必要.
・今後は感受性測定まで行うことが必要になることが予測される.

侵襲性肺アスペルギルス症 Invasive pulmonary aspergillosis;IPA

○化学療法や骨髄移植などによる好中球減少が著しい場合,定着した菌は容易に肺胞や血管など周囲の肺実質へ組織侵襲性に増殖し,IPA の病態を呈する.
・他臓器への播種性病変形成を認めることもある.

○侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)では好中球減少は重要なリスクファクターであり,好中球数 500/μL未満で発病リスクが高まる.
・ステロイド大量長期投与,免疫抑制薬投与,生物学的製剤投与,抗菌薬長期投与,低栄養状態でのADL 低下,肝不全,COPD,間質性肺炎(肺線維症),慢性肉芽腫症,臓器移植後(特に肺移植術後)などのcompromised hostにおいても稀ながら発症がみられる.

○本邦ではインフルエンザ後のIPA 発症が少なからず報告されている.
・この場合は病勢が急性なだけではなく,呼吸不全を伴う重症肺炎(化膿性炎症)の病態を呈し,空洞形成や急性呼吸不全を伴うことがある.

血管侵襲型 angio-invasive aspergillosis

○肺血管を主に侵襲し,病巣内の菌糸の血管侵襲による菌塞栓像などが代表的所見とする.
○通常病変は結節(球形)であり,病巣の中心部から菌糸が3 次元的に放射状に既存の構造に無関係に組織侵襲しつつ球形の病変を形成する(halo sign)ことから,血管侵襲や菌塞栓が病変形成における一義的なものではないと考えられる.

気道侵襲型 airway-invasive aspergillosis

○気道を主に侵襲する.
○強い好中球浸潤壊死を伴い,菌糸による気管支上皮や肺胞壁,時に血管侵襲像が観察されるが,全身状態不良のため,生検診断は困難.
○画像所見から判断は難しい.

診断

○喀痰や気管支肺胞洗浄液(BALF)の培養によるアスペルギルスの証明と血清補助診断による.
・好中球減少状態で発症したIPA ではアスペルギルスGM 抗原の基準値が0.5 に引き下げられたことで,感度が上昇し有用性が高くなったが,好中球減少のないIPA での血清診断のエビデンスはない.

治療

○初期治療の遅れが生命予後に直結するので,可能な限り早期に治療を開始する必要がある.
○第一選択薬としてVRCZ,L-AMBがあげられている.
・VRCZは初期治療において従来のAMPH-Bに有意差をもって優れた成績が示されている.
・L-AMBは3 mg/kg/日と10 mg/kg/日の比較試験で臨床効果に有意差はなかったものの,安全性で3 mgkg日が優れていたとする報告がある.
・MCFG,CPFG,ITCZ注も高い抗アスペルギルス活性を有しているので代替薬として臨床効果を期待できる.
・アムホテリシンB製剤はA. terreusに対する活性が劣るため,原因真菌がA. terreusの場合には他剤を選択する.

○好中球減少のないIPA においても臨床経過は急性であり,急速に進展し呼吸不全に陥るなど重篤な疾患である.
○インフルエンザ感染後においても発症しえることは認識する必要がある.

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症 Allergic broncho-pulmonary aspergillosis;ABPA

○アスペルギルスに対してアレルギー性炎症を伴った場合はアレルギー性気管支肺アスペルギルス症(Allergic broncho-pulmonary aspergillosis;ABPA)を発症する.
・稀ながら気管・気管支に侵襲性病変を形成する気管・気管支アスペルギルス症もみられる.

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