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肺胞壁にかかる表面張力を和らげている肺サーファクタントに由来するリポ蛋白様物質が肺胞内に異常に蓄積し,呼吸不全や肺の易感染性を呈する疾患.
進行すると呼吸不全を呈する.
疫学
自己免疫性肺胞蛋白症は,有病率が100万対6.2,罹患率は100万対0.49 と推定される.
有病率に地域差はない.
男女比は2.1:1 と男性に多く,診断時年齢のピークは男女とも51歳であった.
喫煙率は一般人口の喫煙率と差がないが,職業性粉塵吸入歴が26%にあり,粉塵吸入との因果関係が示唆される.
原因
病因により,自己免疫性,続発性,遺伝性に分類される.
全体の91%をGM-CSF自己抗体陽性の自己免疫性が占め,8%が続発性,1%が未分類の肺胞蛋白症.
自己免疫性肺胞蛋白症
患者に豊富に存在する抗顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony stimulating factor;GM-CSF)に対する自己抗体(以下,GM-CSF自己抗体)が病因.
標準療法は全身麻酔下での肺胞洗浄.
近年,GM-CSF吸入療法の有効性が示唆されている.
続発性肺胞蛋白症
血液悪性腫瘍や呼吸器感染症,リジン尿症などがあり,8割が血液疾患に続発する.
そのうち65%が骨髄異形成症候群(MDS)で最も多い.
最近では,免疫抑制剤の投与後に続発するものが報告されている.
骨髄異形成症候群(MDS)
MDSに合併する肺胞蛋白症は,異常な造血細胞(MDSクローン)に由来する肺胞マクロファージの機能異常が病因となっている.
MDSが低リスクでも,肺胞蛋白症を合併すると予後不良であることが報告されている.
先天性肺胞蛋白症
GM-CSF受容体やサーファクタントに関わる遺伝子の変異が原因とされる.
・GM-CSF受容体はα鎖とβ 鎖からなり,後者はinterleukin-3(IL-3)とIL-5 のβ鎖とも共通.
・受容体α鎖の変異は当初小児例で報告されたが,成人例もある.
・受容体β鎖の変異は,9 歳発症例,36 歳発症例が相次いで報告されている.
・血清のGM-CSF自体が本疾患のバイオマーカーとして有用であることが知られている.
病態
GM-CSFシグナル異常
肺胞蛋白症は,非常にゆっくりと進行し,GM-CSFシグナル異常による障害からくる連続的な変化が病態をもたらすと考えられている.
1)GM-CSFシグナル伝達異常は肺胞マクロファージの成熟障害を引き起こす.
・肺胞マクロファージはサーファクタントを取り込み,phagolysosome内で分解するが,GM-CSFシグナルの遮断は取り込んだサーファクタントのライソゾームへの移行を障害する.
・GM-CSFシグナル伝達欠損により起こる成熟障害はサーファクタント分解に必要なkey enzymeを欠乏させる.
2)数カ月のうちに泡沫状マクロファージとなり,さらに1年以内に崩壊して顆粒状無構造物となり,肺胞内に貯留する.
3)数カ月から数年にわたり,この状況が続くと,肺胞内の無構造物はHRCTでスリガラス影として認識されるようになる.
→生理学的シャントと換気血流不均等を増大させて,年余にわたって酸素の取り込みを減少させる.
本症においてはperoxisome proliferator-activated receptor-γ(PPAR-γ)が欠乏し,脂肪の代謝が強く障害され,脂肪のscavenger receptor(CD36)の発現も低下している.
→泡沫状マクロファージが増加し,肺のリン脂質含量が増加し,コレステロール排出が低下(ABCG1の発現が低下).
肺胞マクロファージの数の減少と機能低下
この異常は,サーファクタントの肺における分解の障害と関係しているから.
続発性肺胞蛋白症における肺胞マクロファージの異常は,恐らくこのような機序.
症候
呼吸器の症状としては,労作時息切れ・咳・痰などがみられる.
発症は緩徐で,患者はいつごろから症状を感じるようになったかはっきり思い出せないことも多い.
・病初期には軽度のことが多く,それに比べ画像所見が進んでいて,乖離を感じることが特徴.
呼吸不全(PO2 が60 mmHg未満)が全体の22%を占めるが,無症状でPO2が70mmHg以上あるものも26%いる.

受診のきっかけは,散歩や外出時の息切れなどの症状や,胸部X線写真の異常所見であることが多い.
胸部単純X線,HRCT
両側肺に,すりガラス影(ground-glass opacity;GGO),小葉内間質肥厚像・小葉間隔壁肥厚像,これらの組み合わさったcarzy-paving patternなど.
血清マーカー
KL-6(Krebs von den Lungen-6),SP(surfactant protein)-D,SP-A,LD,CEA,CYFRAなどが用いられる.
PO2により定義された重症度は,%DLco,血清KL-6,CEA,SP-A,SP-D濃度と相関するが,血清自己抗体価とは相関がない.
診断
気管支肺洗浄 bronchoalveolar lavage;BAL
PAS染色陽性物質が肺胞内に貯留することで,気管支肺洗浄液が米のとぎ汁様になる.
経気管支肺生検 transbronchial lung biopsy;TBLB
胸腔鏡下外科的肺生検
診断確定が難しい場合
病型診断(PAP診断後)
血清抗GM-CSF抗体陽性→aPAP
抗体陰性+基礎疾患あり→続発性PAP
抗体陰性+基礎疾患なし→血清学的解析・細胞学的解析・遺伝子解析→先天性・遺伝性PAP
上記に該当しない→未分類PAP
治療
重症度1:症状なし,PaO2≧70Torr
重症度2:症状あり,PaO2≧70Torr
重症度3:症状不問,70Torr>PaO2≧60Torr
重症度4:症状不問,60Torr>PaO2≧50Torr
重症度5:症状不問,50Torr>PaO2
重症度1→経過観察(自然寛解例も2割程度みられる)
重症度2以上→去痰剤・対症療法・酸素療法
増悪する場合や重症度4~5→肺洗浄(全肺洗浄・区域洗浄)
試験的治療としては,GM-CSF吸入などを考慮する.
全肺洗浄法
aPAPの標準治療.
二次性においても有効.
全身麻酔下に大量(計20~50L)の生理食塩水を注入・排液を繰り返して肺に貯留したサーファクタントを取り除く.
・侵襲性の大きさから,より簡便な治療法が検討されて,GM-CSF治療の研究が進んだ.
GM-CSF(自己免疫性肺胞蛋白症)
PAPでは肺以外の臓器での病変はほとんどみられないことから,肺局所でのGM-CSFとGM-CSF抗体のバランスをGM-CSF側に傾けることを目指すネブライザーによる吸入治療が現在では行われる.
吸入療法は皮下注投与に比べて副作用は少なく,用量が少なく,かつ奏効率が高い.
隔週で1日1~2回,1回15~20分程度の吸入を行うもので外来で吸入薬とネブライザーを処方し,自宅で行える.
喫煙者では効果が乏しいかも?
原疾患の治療(続発性)
MDSが原因の場合,同種造血幹細胞移植による造血細胞の正常化が根治療法となる.
先天性PAP
対症療法などを行うが,予後の期待は難しい.