primary hyperparathyroidism;PHPT
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副甲状腺の腫瘍化または過形成により,副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)が自律的かつ過剰に分泌される結果,引き起こされる疾患.
疫学
1万人に数人の有病率.男女比は1:3に多く,特に中高年女性に好発する.
特徴的な自覚症状に乏しいため,多くの患者は偶然の機会に診断される.
多発性内分泌腫瘍(MEN)が潜んでいる可能性があり,尿路結石などの家族歴も確認する.
予後
1)無症候性例で15年間自然経過を観察した報告では,63%は病態の悪化はみられなかったが,37%では症候の進展を認め,皮質骨骨密度の有意な減少も生じている.
2)腺腫例では,副甲状腺摘出術により予後は良好であるのに対し,過形成や癌では再発する例がしばしばある.
原因
病理学的に腺腫,過形成,癌腫に分類される.
腺腫(80~85%)
1)ほとんどが単発性.
2)まず一連の体細胞突然変異が生じ,それらの突然変異が細胞に増殖優勢を与え,モノクローナルな腫瘍を形成する.
3)腫瘍化にはサイクリンD1の過剰発現などが関与.
病理
・充実性の腫瘤であるが,腫瘍割面では嚢胞化,線維化,石灰化,出血などといった変性像がしばしば観察される.
・組織学的には多くの過形成と異なり,通常単結節であり,主細胞の充実性,索状,濾胞状増殖よりなる.
過形成(10~15%)
多くが多発性内分泌腫瘍(MEN)に伴う.ほとんどが全腺過形成.
病理
・組織学的には脂肪織を混じ,通常多結節状構造を示すが,びまん性の増殖パターンを呈す場合もある.
・主細胞が充実性,索状,濾胞状などの配列をとることが一般的であるが,好酸性細胞の結節が混在することもある.
・核は円形で異型性は目立たない.
癌腫(2~3%)
癌抑制遺伝子であるretinoblastoma(RB)やp53の変異などが関わる.
極めて稀であるが,異所性PTH産生腫瘍も報告されている.
病理
・厚いfibrous band,核分裂像,被膜浸潤,脈管侵襲を認める.
病態
正常副甲状腺に比べて,Ca感知受容体(CaSR),ビタミンD受容体(VDR),線維芽細胞増殖因子受容体-Klotho複合体(FGFR-Klotho complex)の発現量が低下しており,ネガティブフィードバックが働かず,PTH分泌を十分抑制できない.
・特にCaSR蛋白発現量の低下は,細胞外Ca濃度の感知機構に異常を来し,PTH-Caシグモイド曲線は右方に偏位する.
高Ca血症,高Ca尿症

低P血症

骨粗鬆症
PTHの持続高値により破骨細胞の分化・活性化が生じ,骨吸収が促進する.
高骨代謝回転を呈するため,骨石灰化が不十分となり,骨密度が低下する(皮質骨>海綿骨).
代謝性アシドーシス
近位尿細管でのHCO3-の再吸収を抑制し,代わりにCl-を再吸収
・本症の多くはビタミンD不足状態にあると知られている.
・本邦では25水酸化ビタミンDは,ビタミンD欠乏性くる病(小児)およびビタミンD欠乏性骨軟化症(成人)の診断と治療のモニタリングに限ってCLIA法による測定が保険収載された(2016年8月)
症候
無症候性原発性副甲状腺機能亢進症の頻度が上昇してみる.
高血圧
約45~60%に高血圧を認め,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進,抵抗血管の拡張能の低下,昇圧ホルモンの反応性亢進などの関与が示されている.
臨床病型
骨型
線維性骨炎,わが国では非常に稀.
手指などに骨膜下骨吸収像,皮質骨優位の骨量減少,歯槽硬線の消失,頭蓋骨の脱灰像(salt and peppar skull),嚢胞性線維性骨炎(褐色腫,brown tumor)
腎型
尿路結石や腎石灰化症
化学型
無症候型
高Ca血症
10.5~12.0mg/dlは軽度
12~14mg/dlは中等度→入院の適応
14mg/dl以上は高度で生命の危険あり
1)非特異的なものが多く,軽度ではほとんど自覚症状が認められない.
2)血中Ca 12mg/dL以上になると,症状が出現してくる.

高Ca尿症
1)UCa/Ucr>0.2.UCa/Ucr<0.2はビタミンD不足を示唆する.
2)24時間尿中Ca排泄 400mg/dL以上
FECa={(尿中Ca/血中Ca)/(尿中Cr/血中Cr)}×100
*単位はいずれもmg/dL
*24hrsCcr<40mL/minでは使用できない
FECa≧1.0%,Cca/Ccr≧0.01→家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症の否定
・健常者:1~2%
・家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症:1%未満
血清PTH高値
PTH作用の亢進はP再吸収率(%TRP)の低値により確認する.
%TRP={1-(尿中P/血中P)/(尿中Cr/血中Cr)}×100
*単位はいずれもmg/dL
・尿細管障害がない場合,PTHは尿細管においてリン酸の再吸収を抑制し,血清Pを低下させる.
・%TRPを測定することにより,腎臓におけるPTH/PTHrPの作用の程度を評価できる.
・健常者 80~92%
・原発性副甲状腺機能亢進症 80%未満
・副甲状腺機能低下症 92%以上
その他
軽度の低P血症
高Cl性代謝性アシドーシス
骨代謝マーカー:骨吸収↑,骨形成↑
活性型ビタミンD(1,25-dihydroxyvitamin D3)高値:不足していても,続発性で同様の所見になる場合あり.
骨塩定量:皮質骨優位の骨密度の低下
腹部CT:腎結石や尿路結石の有無
診断
1)活性型ビタミンD3製剤を内服中に高Ca血症に気づかれた場合は,本症を疑う.
2)高Ca血症にもかかわらず,血中PTH濃度が相対的に高ければ,診断できる.
3)血清Ca>13mg/dL,intactPTH>300pg/mLの場合は副甲状腺癌を考慮する.
腎不全+原発性副甲状腺機能亢進症
1)腎不全の割に血清Pが高くなく,intPTH≧1000pg/mLなどPTH異常高値
2)急速に腎障害が進行しつつある場合は,副甲状腺治療により腎機能が改善できる見込みがある.

MENⅠ型の鑑別のため,家族歴の聴取や,各種ホルモン測定・画像診断を必要に応じて行う.
頸部カラードプラーエコー
1)正常副甲状腺は米粒大で,描出不能.
2)副甲状腺存在部位に低エコーかつ血流のある腫瘤影を認める場合は,責任病巣である可能性が高い.
3)手術を前提としない場合はこれのみでよい.
4)複数腺の腫大がある場合には,必ずMENの合併を疑う.
99mTc-methoxyisobutyl-isonitrile(MIBI)シンチグラフィ
1)静注10分後の早期相と2時間後の後期相で撮像を行う.
2)副甲状腺腫瘍および過形成は後期相まで放射活性が残存することで,甲状腺とコントラストをもって描出される.
3)感度は腫瘍体積に依存するため,小さい腺腫や過形成な正確な描出は難しいが,SPECT(single photon emission computed tomography:単光子放射線CT)を組み合わせると診断能の向上が期待できる.
4)約10%に胸腔内など異所性の副甲状腺が存在する.
CTやMRI
1)エコーには及ばない.
2)副甲状腺癌が疑われる場合には,その拡がりや浸潤の有無を評価するのに有用.
治療
手術療法(病的副甲状腺の摘出) 副甲状腺的手術 parathyroidectomy;PTx
単腺腫大の腺腫→腺腫のみ摘出
過形成→亜全摘 or 全摘+一部皮下に自家移植
癌→拡大頸部手術により周囲組織を含め広範な摘除.再発例や肺転移例は予後不良.
1)根治治療.手術により,著明な骨量増加と尿路結石の防止が期待できる.
2)治癒率は98.5%と高い.
適応
症候性
①尿路結石がある
②骨病変がある
③高Ca血症によると思われる症状
無症候性原発性副甲状腺機能亢進症の手術適応基準
①血中Ca濃度:正常上限より1mg/dL以上の上昇
②DXA法による骨密度が,腰椎・総大腿骨・大腿骨頸部・橈骨遠位端1/3のいずれかの部位で,Tスコア-2.5未満
③単純X線,CT,MRI,VFAによる椎体骨折判定
④CCr<60mL/min
⑤1日の尿中Ca排泄量>400mg and 生化学的腎結石リスク評価により高リスク
⑥単純X線,超音波検査,CTによる腎結石 or 腎石灰化の存在
⑦年齢<50歳
術後低Ca血症(hungry bone症候群)
1)骨病変の強い患者では,術後に骨へのCaの急速な取り込みが起こり,一過性の低Ca血症をきたし,テタニーやしびれ感が生じることがある.
2)グルコン酸Caの点滴静注,アルファカルシドールの経口投与を行う.
*グルコン酸Ca 20mLを5%ブドウ糖100mLに混ぜて,1~2時間で投与する(急速静注は禁忌!).
3)術前のintactPTH高値と尿中NTX高値が予測因子としてある程度有用
intactPTH>180pg/mLで感度・特異度が共に50%程度.
4)術後も遷延する場合は,アルファカルシドールの経口投与を継続する.
保存的治療
1)手術非適応例には,脱水・不動を避けるよう指導.
2)骨量減少例には経口ビスホスホネートなど骨吸収抑制薬の投与を考慮.
3)Ca摂取制限は不要.いずれも改善せず,骨障害が進行する.
・むしろ,天然型ビタミンD摂取が推奨される.
4)大きな腺腫や癌により高Ca血症性クリーゼを起こした例では,高Ca血症の治療に準じる.
→クリーゼから離脱でき次第,速やかに手術を行う.
PTXの適応と判断された場合でも,画像上腫大副甲状腺が発見できない・手術のリスクが高い・患者本人の承諾が得られない場合でPTXに至らない場合に,Ca感知受容体作動薬(カルシミメティクス)が使用される.
Ca感知受容体作動薬(カルシミメティクス)
シナカルセト塩酸塩 レグパラ®
1日1回25mgから開始,以後100mgまで増量可(25mgずつ,3週間おきに).25mg 534.5円,75mg 983.6円.
エボカルセト
「副甲状腺摘出術不能又は術後再発の原発性副甲状腺機能亢進症における高カルシウム血症」に対して,使用できるようになった.
主に副甲状腺細胞膜上に発現するCaSRにアロステリックに作用し,副甲状腺細胞をあたかも細胞外Ca濃度が上昇したかのように錯覚させることで,亢進したPTH分泌を抑制する.
*副甲状腺細胞のCa受容体に作用して,PTH分泌を持続的に抑制,細胞の増殖も抑制.

血清Ca濃度を低下させることで,腎病変の進行予防に寄与するが,骨密度は必ずしも上昇しない.
→骨病変の予防に対しては,ビスホスホネート製剤などの骨吸収抑制薬を使用する.