溶連菌感染後急性糸球体腎炎 poststreptococcal acute gomerulonephritis;PSAGN

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なすび医学ノート

急性糸球体腎炎は,急性に発症する血尿,蛋白尿,高血圧,糸球体濾過の低下,Naおよび水の貯留を主徴とする疾患であり,その代表的疾患が溶連菌感染後急性糸球体腎炎(poststreptococcal acute gomerulonephritis;PSAGN)である.

感染症を病因として発症する糸球体腎炎を感染関連糸球体腎炎(infection-related glomerulonephritis;IRGN)と総称するようになった.
・感染症が治癒せず継続中のものを狭義のIRGN
・腎炎発症時に感染症が既に治癒している感染後糸球体腎炎(postinfectious glomerulonephritis;PIGN)を含めると広義のIRGN

感染症罹患後,1~2週間の潜伏期があることがが特徴.

3主徴:血尿(100%),浮腫(89%),高血圧(82%)
上に乏尿(50%),腎不全を伴って,発症する.

疫学

本症は若年者に多く,好発年齢は3~10歳で,男女比は約2:1である.

予後

予後は良好.
・急性期死亡,非可逆的腎不全は1%以下である.
・慢性化例は,小児では5%以下であるが,成人では約30%存在する.
・慢性化患者の腎病変像は軽度から中等度のメサンギウム増殖を主体とし,IgAが陰性のいわゆるnon-IgA腎症の病型をとる.

原因

レンサ球菌はC-物質と呼ばれる多糖体抗原の特異性により,A~V群に分類される.
・A群溶レン菌は,菌体表層に存在するM抗原により80型以上に細分化されており,腎炎の発症は特定のMtypeに偏る傾向がみられている(腎炎惹起性菌株).
・先行感染が咽頭炎の場合は1,3,4,12,18,25が多く,膿皮症の場合には2,49,55,57,60が多い.

他にも黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌(緑膿菌),パルボウイルスB19,B型肝炎ウイルスなどが原因になる.

パルボウイルスB19 parvovirus B19
感染症後に生じる管内増殖性腎炎は比較的稀であるが,報告例が散見され,女性に多く,紅斑,白血球減少,補体の減少,抗核抗体の陽性を伴い,免疫複合体型腎炎が示唆されている。

病態

 腎炎惹起性菌株による溶レン菌感染症に罹患すると腎炎惹起性抗原が感染局所より血中に放出され,抗原は糸球体(主にメサンギウム基質とGBM)に沈着する.
 次に同抗原に対して宿主が産生する循環抗体が糸球体局所(in situ)で免疫複合体(IC)を形成し,さらに循環免疫複合体(circulating IC)もこれに加わって糸球体病変が惹起されると考えられている.

この際,糸球体に沈着した抗原成分が,直接補体系を活性化して糸球体病変を惹起する機序も考えられている.

腎炎惹起性抗原

溶連菌性の腎炎惹起性抗原としては現在,SPEBとNAPlrという2種類の抗原が主流をなしている.

streptococcal pyrogenic exotoxinB;SPEB

菌体外抗原で46kDaのカチオン性蛋白で,zymogenがそのprecursor.

・APSGN患者の血清中にはSPEB抗体が高頻度に存在し,しかもリウマチ熱患者,猩紅熱患者,正常小児よりも高い抗体価を示す.
・APSGN患者の糸球体には12/18例(67%)にSPEB抗原が証明されている.
・このSPEBはカチオン性物質であるので陰性に荷電しているGBMに容易にplantedされる.

nephritis-associated plasmin receptor;NAPlr

溶連菌感染

NAPlrの循環血液中への流入

糸球体係蹄内側へNAPlrが沈着し,plasmin活性と関連した管内炎症を誘導

免疫複合体や補体,血漿タンパク等が係蹄を通過して沈着し,”humps”を形成

Yoshizawaらが発見した43kDaの菌体内抗原で,そのアミノ酸シーケンスがA群溶レン菌の表面にあるplasmin receptorおよびGAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)とほとんど100%のhomologyを有する(同一).

・APSGN患者の血清中にはNAPlr抗体が92%に存在し,正常小児・成人,単なる溶レン菌感染患者よりも高い抗体価を示す.
・APSGN患者の糸球体には発症14日以内では25/25例(100%)にNAPlr抗原が証明されている.
・プラスミン結合能,GAPDH活性およびalternative pathwayを介した強い補体活性化能を持っている.
・NAPlr,plasmin活性が陽性の肺炎球菌-IRGN・マイコプラズマ-IRGNもあり,NAPlrの陽性所見が溶連菌に特異的でないことが判明している.

症候

臨床病期は,以下のように分類される.
1)先行感染・潜伏期(1~3週間,平均10日)
・先行感染原因菌の感染部位としては扁桃や上気道が最も多い.
・皮膚感染症のほうが潜伏期が平均20日と上気道感染の10日前後に比し長い傾向にある.
2)乏尿期(数日間)
3)利尿期(数日~1週間)
4)回復期(1~2ヶ月)
5)治癒期(2~3ヶ月)

浮腫,高血圧

・顔面,上肢に強い浮腫と,軽度から中等度の高血圧を75%以上の症例に認める.
・糸球体濾過量(GFR)の急激な低下、tubuloglomerular feedbackの異常からNa・水分貯留をきたす。
・高血圧性脳症は近年まれであるが,小児では注意が必要である.
・心不全徴候で初発する場合があるので,検尿所見を見落とさないよう注意する.

乏尿,腎機能低下

・約半数の患者に3~4日持続する乏尿を認める.
・腎機能では糸球体濾過値(GFR)が発症初期に低下するが,腎血漿流量(RPF)は比較的保たれる.
・BUNの上昇は一過性に約40%の患者にみられるが,血清クレアチニンの上昇例は2mg/dL以上で25%である.

尿検査

血尿
・本症に必発で,肉眼的血尿の頻度は約1/3である.
・尿沈渣では赤血球円柱が認められる.
・顕微鏡的血尿を含めて,通常は半年以内に消失する

蛋白尿
・軽度から中等度の蛋白尿もほぼ全例にみられるが,ネフローゼ症候群を呈するのは10%以下.
・蛋白尿の消失までの期間はさまざま.

無菌性白血球尿
・発症初期には無菌性白血球尿が出現する.

血液検査

抗ストレプトリジン-O(anti-streptolysin O;ASO)
抗ストレプトキナーゼ(anti-streptokinase;ASK)

・先行感染局所からの溶レン菌の検出率は50%以下と低いため,ASO(80%の陽性率),ASK(40%未満の陽性率)など菌体外産物に対する抗体価の上昇を先行溶レン菌感染の指標とすることが多い.

血清補体価の低下
・補体C3は発症1週目に93%で低下し,平均6週間持続し,8週目には94%で正常化する.
・CH50の一過性の低下はほぼ全例にみられ,通常発症後6週以内に正常化する.
 C3の減少が著しく,C1q,C4の低下は軽度であることからalternative pathway(副経路)を介した補体消費の亢進が考えられている.

無症候性急性糸球体腎炎 asymptomatic APSGN

症状に乏しく,尿所見の異常および低補体価などの検査値の異常でのみ発見される無症候群は,明らかな症候をもって発症するAPSGN患者の約4倍存在するといわれる.
・prospective study(副経路)でも,A群溶レン菌による咽頭炎患者の約25%に無症候性APSGNが認められている.

腎病理

光顕所見

特徴は管内増殖糸球体腎炎像

・糸球体への白血球の浸潤と,内皮細胞やメサンギウム細胞の増殖・腫脹により糸球体は富核となって腫大し,毛細血管腔は狭窄し,Bowman(ボーマン)腔は狭小化する.
・病変は急性期はdiffuse globalだが治癒期に向かいfocal segmentalとなり,6週以後では浸潤細胞はほとんど認められなくなる.
・時に,係蹄壊死,半月体,糸球体周囲への細胞浸潤がみられる.
・間質,尿細管,血管には著明な変化はない.

蛍光抗体所見

急性期における係蹄へのC3の強い顆粒状沈着が特徴で100%認められる.

・初期にはC3が主にGBMに沿って星を散りばめたよう(starry sky)に沈着する.
・極期になるとメサンギウム領域にも強く沈着してくる(mesangial pattern).
・回復期に向かうと陽性所見は次第に減少してゆき,主にメサンギウム領域にのみC3の沈着を残す.

early componentのC1q,C4の蛍光は弱く,陽性率も低いのに比し,properdinの陽性率が高いことから,主に補体のalternative pathwayが関与していると考えられている.

免疫グロブリンの沈着は補体に比し顕著でなく,IgGの陽性率は65%,IgA,IgMは共に45%程度である.

糸球体が分葉化している場合にはC3/IgGがgarland pattern(花輪状)を呈することが多い.

電顕所見

もっとも特徴的な所見はラクダの瘤状の上皮下沈着物“hump”である.

humpも発症早期に顕著で,3か月ごろまでは確認できる.
←抗原,抗原,免疫複合体の一部が,糸球体基底膜の透過性亢進に伴って,糸球体基底膜上皮側に移動し,humpを形成する.

診断

Nasrらの感染関連糸球体腎炎(IRGN)の診断基準

5項目のうち3項目以上を満たす
1)腎炎発症前あるいは発症時における感染症の存在
2)低補体血症
3)腎生検組織光顕上の管内増殖性糸球体腎炎像
4)蛍光抗体法上のC3優位沈着所見
5)電顕上のhump様の上皮下デポジットの存在

血清補体価が低下し,管内増殖を伴い,C3の沈着がある多くのC3腎症やMPGN,管内増殖を伴うループス腎炎が感染の有無に関係なく,基準を満たすので注意.

治療

治療の主体は対症療法で,急性期には安静臥床,保温が重要である.

本症は自然治癒傾向が強いので,ステロイド,免疫抑制薬,抗凝固療法などの有効性は確認されていない.

急性期

徹底した塩分と蛋白制限が中心となり,乏尿期には水分制限も必要.
・塩分は0~3 g/日以下に制限する.
・乏尿期の水分制限は前日の尿量に不感蒸泄分を加えた程度に制限する.
・塩分制限では改善しない浮腫,高血圧に対しては,ループ利尿薬あるいはACE阻害薬,Ca拮抗薬などを投与する.

蛋白は0.5 g/kg/日以下とするが,カロリーはむしろ十分に摂ることが必要で35 kcal/kg/日を目処に炭水化物を中心とした食事の摂取を勧める.

カリウム摂取は血中カリウムが5.5 mEq/L以上では制限するが,それ以下では不要である.

抗生物質
すでに発症した腎炎の経過に影響を与えることはないが,感染病巣の除去や再燃防止の目的で発症初期にペニシリン系ないしセファロスポリン系の抗生物質を1~2週間投与する.

(ステロイド)
急性期におけるステロイド使用はむしろNa,水貯留による浮腫,高血圧を増悪させるが,RPGNあるいは半月体形成≧30%,ネフローゼ症候群ないしnephrotic rangeの蛋白尿,garlandタイプの場合にはステロイド療法が考慮される.

回復期

カロリーを同様に十分に摂取し,蛋白摂取制限を1.0/kg/日に上げる.

塩分は引き続き制限が必要であるが,3~5 g/日まで制限を緩める.

カリウム,水分の摂取は制限が不要となる.

臨床所見が消失しても組織所見の回復には長期間を要するため,少なくとも1年以内は激しい運動および妊娠を避ける.

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