portal vein thrombosis
急性門脈血栓症の合併は,肝予備能・食道胃静脈瘤・腹水などの悪化を引き起こし,肝移植後の死亡率を増加させる.
→重篤な疾患の1つであり,速やかに治療を開始する.
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ヘパリン,ウロキナーゼ,ワーファリンなどに加え,低分子ヘパリノイドであるダナパロイドナトリウムも有効とされる.
2017年には,アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)製剤がAT-Ⅲ低下(≦70%)を伴う門脈血栓症に対して保険適応となった.
疫学
肝硬変における門脈血栓症は1年に約7.4~12.8%程度合併するといわれている.
病態
肝機能低下例では,以下のインバランスが崩れる状態が起こっている.
①血小板の減少
②肝臓由来の凝固因子(第Ⅱ・第Ⅶ・第Ⅸ・第Ⅹ因子など)の低下
③肝臓由来の抗凝固因子(活性型プロテインS,活性型プロテインC,アンチトロンビン)の低下
↓
門脈血栓が形成
過度な抗凝固療法は出血などのリスクが増大する.
診断
血清学的検査
重要とされているのが,FDP,Dダイマーの測定
FDP:フィブリノゲン由来(一次線溶)とフィブリン由来(二次線溶)の両者の分解産物
Dダイマー:二次線溶由来のみを測定
↓
両者の比をみることで,凝固・抗凝固の状態を把握することが可能
腹部エコー
極めて重要で,経過観察や新たな症状の出現時に行われた腹部エコーで発見されることが多い.
Bモードでは,急性門脈血栓は門脈内の比較的淡いエコーとして描出され,血栓化された陳旧性門脈血栓は高エコーに描出されることが多い.
通常のBモードでは血栓像が明らかでない場合もあり,門脈腫瘍栓との鑑別のためにも超音波ドプラでの血流欠損を確認することが重要.
・ドプラエコーは,完全閉塞した門脈血栓に対しては約90%の感度,部分閉塞に対しては約50%の感度
単純・造影CT,単純・造影MRI
急性門脈血栓は,単純CTでやや高いCT値を示し,その後低下する.
造影CTの門脈相においては,門脈内の欠損像として描出される.
単純MRIでは,
急性門脈血栓:T1・T2強調画像において,肝実質に比べて高信号
陳旧性門脈血栓:T1強調画像では信号の低下,T2強調画像では高信号
治療
門脈に占める血栓の割合は,非常に重要な情報.
→完全閉塞症例における血栓溶解療法の効果は非常に少ない.
常に消化管出血のリスク,特に食道胃静脈瘤出血のリスクを考慮しながら,慎重に行っていく必要がある.
低分子ヘパリン(エノキサパリンナトリウム),ヘパリノイド(ダナパロイドナトリウム)
いずれもアンチトロンビンの存在下に抗Ⅱa・抗Ⅹa活性を有する薬剤.
→AT活性値>70%が条件
*未分画ヘパリンは,抗Ⅹa/抗Ⅱa活性比がほぼ同等とされており,ヘパリン起因性血小板減少症を起こしやすく,本症においては出血傾向を助長するため望ましくない.
低分子ヘパリン(エノキサパリンナトリウム)
抗Ⅹa/抗Ⅱa活性比が2~4と高く,未分画ヘパリンに比べて出血などのリスクが低くモニタリングも不要なため,肝機能低下例における門脈血栓症に使いやすい.
ヘパリノイド(ダナパロイドナトリウム)
ブタの小腸粘膜由来の低分子ヘパリノイド.
抗Ⅹa/抗Ⅱa活性比が22以上と,抗Ⅹa活性が非常に高い一方で,抗トロンビン活性が非常に低いため,血小板への影響は極めて少ないとされている.
アンチトロンビンを介し作用を発揮するため,その活性値が70%未満の症例に対しては補充しつつ投与することが望ましい.
投与方法は,1,250単位を12時間ごとに1日2回14日間投与とする報告が多い(完全消失と部分消失を併せた奏効率は約80%).
ワルファリン
ビタミンK拮抗薬として,肝臓においてビタミンK依存性蛋白である第Ⅱ・Ⅶ・Ⅸ・Ⅹ凝固因子の活性を阻害する.
PR-INR 2.5をターゲットとして,2~3の範囲に保つことが望ましいとされ,奏効率は42~82%とされる.
肝機能低下症例に投与された場合,頭蓋内出血などの頻度が増加する可能性がある.
アンチトロンビン(アンチトロンビンⅢ)製剤
アンチトロンビン自体は肝臓由来の生体内物質であり,ヘパリンと異なりヘパリン依存性の自己抗体が生成されず,血小板機能が抑制されないため,他の抗凝固薬と比べて比較的安全に使用可能.
→AT活性値≦70%で使用する.
プラセボ群に比して有意に奏効率が高く(55.6% VS 19.4%),出血に対する有害事象もプラセボ群と同様
→2017年8月に保険収載
新規経口抗凝固薬(DOAC)
門脈血栓症に対する効果は症例報告が中心で,確立したエビデンスが少ない.
門脈血栓が完全消失した後の維持療法として使用する(エドキサバンなど).完全消失していなくても検討.