最近,診断が困難であった立位・体動・視覚で誘発される持続時間の長いめまい症.
何らかの急性めまいに続発する,浮動性めまい(dizziness),姿勢の不安定さ(unsteadiness),非回転性めまい(non-spinning vertigo)を主訴とする.
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特徴
①慢性の浮遊感
・ほぼ1日中持続的に存在
②何らかの急性めまいエピソードが先行
・多くは末梢性
③1)立位・歩行,2)能動的or受動的な体動,3)複雑な視覚パターンや動く動的刺激で悪化する.
④他の前庭疾患や精神疾患を合併する場合もあるが,これらの症状が合併する前庭疾患や精神疾患のみでは説明できない.
原因
PPPDの70%では前庭疾患など何らかの器質疾患が先行し,元から合併していたり続発した不安症などの心理要因により悪化しPPPDへ移行する.
残りの30%は,急性の心理ストレスによる精神疾患が先行し,機能性疾患(PPPD)へ発展していく.
通常では時間経過とともに末梢前庭機能が回復するか中枢性の代償(前庭代償)により軽快するが,PPPDでは,何らかの理由で視覚・体性感覚依存が持続していると考えられる.
末梢性の急性めまいの症状軽快には,前庭代償とともに感覚再重み付け(sensory reweighting)も関与している.
→急性期には,障害された前庭機能を補うために視覚・体性感覚依存へ一時的にシフトし,体平衡を保つと考えられる.
PPPDでは,動く視覚刺激や体動に伴う体性感覚刺激に過敏となり,めまいが増悪する.
→持続する限り症状誘発が続くため,めまいは慢性化することになる.
診断
診断基準
PPPDは以下の基準A~Eで定義される慢性の前庭症状を呈する疾患.
診断には5つの基準全てを満たすことが必要.
A)浮遊感,不安定感,非回転性めまいのうち1つ以上が,3ヶ月以上にわたってほとんど毎日存在する.
1.症状は長い時間(時間単位)持続するが,症状の強さに増悪・軽減がみられることがある.
2.症状は1日中持続的に存在するとはかぎらない.
・症状は1ヶ月のうち15日以上存在する.
・ほとんどの患者は毎日あるいはほぼ毎日,症状を自覚する.
・症状はその1日の中で時間が進むにつれて増強する傾向にある。
B)持続性の症状を引き起こす特異的な誘因はないが,以下の3つの因子で増悪する.
1.立位姿勢
(起立あるいは歩行.立位姿勢の影響に特に過敏な患者は,支えのない座位で症状が増悪すると訴えることがある)
2.特定の方向や頭位に限らない、能動的あるいは受動的な動き
(能動的=患者が自ら起こした動作)
(受動的=患者が乗り物や他人によって動かされること)
3.動いているもの、あるいは複雑な視覚パターンを見たとき
(視覚的環境の中の大きな物体の場合もあり,あるいは近距離から見た小さな物体の場合もある)
・3つの増悪因子すべてを経過中に認める必要があるが,それらが同等に症状を増悪させなくてもよい.
・患者は前庭症状の不快な増悪を最小限にするために,これらの増悪因子を回避しようとする場合があり,そのような回避が見られたときはこの基準を満たすと考えてよい.
C)この疾患は,めまい・浮遊感・不安定感・あるいは急性/発作性/慢性の前庭疾患,他の神経学的/内科的疾患,心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する.
1.急性または発作性の病態が先行する場合は,その先行病態が消失するにつれて,症状は基準Aのパターンに定着する.
しかし,症状は初めは間欠的に生じ,持続性の経過へと固定していくことがある.
2.慢性の病態が先行する場合は,症状は緩徐に進行し,悪化することがある.
D)症状は,顕著な苦痛あるいは機能障害を引き起こしている.
E)症状は,他の疾患や障害ではうまく説明できない.
問診票 Niigata PPPD Questionnaire;NPQ
問診をできるだけ漏れなく効率的に行うための問診票.
72点満点中27点をカットオフ値とすると,PPPD診断の感度70%,特異度68%.
頭部傾斜SVV検査 head-roll tilt SVV;HT-SVV
PPPDでは,視覚刺激や体動で前庭症状が誘発されることから,体平衡維持に関わる感覚系の感覚刺激が存在する可能性が考えられる.
自覚的視性垂直位(subjective visual vertical;SVV)は重力方向の知覚に関する指標であるが,頭部傾斜SVV検査では頭部を傾斜してSVVを測定する.
頭部傾斜時のSVV(head-tilt perception;HTP)と実際の頭部傾斜角(head tilt angle;HTA)から求めた頭部傾斜感覚ゲイン(head tilt perception gain;HTPG=HTP/HTA)は,PPPDでは心因性めまいに比べ有意に大きく,PPPDでは頭部傾斜感覚が過敏になっていることが示された.
治療
SSRI/SNRIによる薬物治療,前庭リハビリテーション,認知行動療法の有用性が報告されているが,無作為化比較試験は行われていない.
SSRI/SNRI
抑うつや不安症合併の有無に関わらず有効であり,精神作用以外の奏功機序が考えられている.
投与量はうつに用いられる量の半分程度で有効とする報告が多い.
1/4程度は腹部症状の副作用により内服困難で,奏効率は70%程度.
前庭リハビリテーション
compensation(代償),adaptation(適応),substitution(代行),habituation(慣れ)の4つのうち,PPPDに対してはhabituationが有効と考えられている.
前庭リハビリテーション施行時にはめまいが誘発・悪化する場合が多く,プロトコールの最適化には問題がある.
認知行動療法
病態を複数の要因から成る悪循環として捉え,認知(思考)と行動を変容することで,悪循環を形成し,症状を緩和させる精神療法と定義される.