末梢動脈疾患 Peripheral Arterial Disease;PAD

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
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動脈硬化により動脈壁内腔が狭窄や閉塞して,循環障害をきたした状態で主に腎動脈分岐後の腹部大動脈から下肢動脈に好発する.

閉塞性動脈硬化症 Arteriosclerosis oblierans;ASO
・本邦ではASOと呼び,バージャ病などのTAO と区別して表現することが多いが,世界的にはPADと呼称されることが一般的.

動脈硬化は全身性であるため,虚血性心疾患・脳血管疾患・腎動脈狭窄などを合併していることが多く,全身管理が必要.

疫学

高齢化・食生活の欧米化ならびに動脈硬化因子(喫煙・糖尿病・高血圧・高脂血症・肥満など)の増加に伴い,ASOの罹患率も増加している.
・糖尿病が最も強い影響を及ぼしている.

間欠的跛行が重症虚血肢に進行し,血管内治療が必要にあるのは約5%,切断術が必要になるのは1~2%で,むしろ合併する脳血管・虚血性心疾患が予後を左右するため,全身管理が重要.

糖尿病症例に特有ではないが,糖尿病患者の10~15%と高頻度に合併する.
・神経障害の存在は自覚症状の発現を妨げ,下肢動脈の動脈硬化の無症候性の進行を進めることになる.
・糖尿病を合併すると腸骨動脈よりも膝下動脈や浅大腿動脈領域などの下肢末梢レベルでの動脈硬化性病変の出現頻度が高くなる.

間歇性跛行を有するPAD患者は,下肢に関しては5で27%が症状の進行を認め,4%が下肢切断に進行するが,20%に心血管イベント(心筋梗塞,脳梗塞)を発症し,30%が死亡する.
・より進行したPADの状態である重症下肢虚血(CLI)では6ヵ月以内に30%が下肢切断に至り,20 %が死亡に至る.

日本のPAD患者の5年生存率は68.8%と報告されており,死因の66.2%は心血管イベント.

下肢動脈の解剖

総腸骨動脈 common iliac artery;CIA
外腸骨動脈 external iliac artery;EIA
内腸骨動脈 internal iliac artery;IIA
総大腿動脈 common femoral artery;CFA
大腿深動脈 profunda femoris artery;PFA
浅大腿動脈 superficial femoral artery;SFA
膝窩動脈 politeal artery
前脛骨動脈 anterior tibial artery
腓骨動脈 peroneal artery
後脛骨動脈 posterior tibial artery
外側足底動脈 lateral plantar artery
内側足底動脈 medial plantar artery
足背動脈 dorsalis pedis artery

病態

慢性的に虚血になると・・・
1)下肢の筋肉量が減り,線維化が進む→筋肉量が減る.
2)筋肉が酸化する.TypeⅡ(速筋)の筋肉が減っていく→歩き出せない.
3)筋線維の変性→浮腫↑
4)酸化ストレスの増大でミトコンドリアが機能不全

臨床所見

問診

高齢者,喫煙者,糖尿病,心血管疾患の存在,間欠性跛行,下肢挙上での痛み,難治性の下腿潰瘍

Fontaine分類

StageⅠ:無症状
StageⅡa:軽度の間欠性跛行
StageⅡb:中等度~高度の間欠性跛行
StageⅢ:虚血性安静時疼痛
StageⅣ:潰瘍,壊疽

理学的所見

視診
皮膚の蒼白,チアノーゼ,筋委縮,爪の変形,脱毛,潰瘍
*毛が生えているかどうかが重要!

下肢挙上試験
両下肢をできるだけ高く挙上し,足指を15秒間屈伸.陽性⇒皮膚蒼白.

下腿下垂試験
挙上試験に続けて,座位にして両下腿を下垂させる.皮膚紅潮までの時間・左右差を観察.

触診
足背動脈・後脛骨動脈・膝窩動脈・大腿動脈
*拍動:減弱・消失・左右差
*皮膚温:左右差
*capillary refilling time:遅延,左右差 

聴診
頸部・腹部・鼠径部における血管雑音の有無

血管機能検査

血管機能検査 Vascular function tests
CAVI・ABIともに高血圧・糖尿病・脂質異常症・メタボリックシンドロームなどの生活習慣病,虚血性心疾患,慢性...

ABI (Ankel Brachial Index:足関節上腕血圧比)

50歳以上の糖尿病患者には5 年毎にABIをPADのスクリーニング検査として行う事を推奨.
*50歳未満であっても,喫煙,高血圧,高脂血症,10年以上の糖尿病歴のある患者にはABI検査を勧めているが,下肢の症候を有する患者にはABIは必ず行わねばならない.

ABI≦0.90 下肢閉塞性動脈硬化症
 0.71~0.90 Mild
 0.41~0.70 Modertate
 0.00~0.40 Severe
ABI 0.91~0.99 境界域
ABI 1.0~1.40 正常
ABI>1.40 動脈の石灰化の疑い

非典型的な下肢症状や典型的な間歇性跛行を認めるがABIが正常な時はトレッドミル運動負荷後ABIが有効.

PADが存在すれば20 mmHg以上足首圧が低下して,ABIは異常値となる.

トレッドミル運動負荷検査は跛行の程度を絶対歩行距離として客観的に評価する上でも有効である.

透析患者
血管の高度石灰化によりABIが偽性高値を示し,PADを検出できない場合が多い.

皮膚組織灌流圧 skin perfusion pressure;SPP

皮膚のレベルの灌流圧を意味し,皮膚のレベルの微小循環の指標で,どの程度の圧で微小循環が灌流しているかを示す.

レザードプラ法を用いた測定法が発見され,手軽に検査が出来るようになった.

測定原理は,レーザードプラーセンサーより皮下組織へ照射されたレーザー光が,皮下の真皮下微小循環血流中の血球成分(主に赤血球)の灌流量として数値化する.

難治性潰瘍の治癒予測や四肢切断レベルの評価,CLIに対する血管内治療後の治癒予測などに用いられている.

健常肢79±14mmHg.創傷治癒には最低30~40mmHg必要.
SPP<30 mmHg:重症虚血肢
SPP≧40 mmHg:潰瘍治癒の可能性が高い

非透析患者のPAD検出率は,約80%.

透析患者
・ABI(<0.9)とSPP(<50mmHg)のPADに対する検査精度の比較では,ABIのPAD検出感度は30.0%であったのに対し,SPPは感度 84.9%,特異度76.6%.
・測定時期では透析後半にSPP値が低下することを考慮する必要がある.
→透析前で64mmHg,透析後半で54mmHgに設定することで検査精度が向上.

画像検査(局在診断)

血管エコー

検者の熟練度が必要となるが,造影剤を使用せず,最も簡便.

パルスドップラー波形により狭窄/閉塞病変を把握する.狭窄部の加速血流部と中枢側の最高血流速を測定し,狭窄前後の血流速比(ratio of systolic velocity:RSV)が2.0m/sec以上で有意狭窄と診断しており,狭窄が高度であるほど高値を示す.

MDCT

血管の走行や石灰化,病変長/血管系,病変の形態などを把握でき,診断だけでなく治療する際にも画像から得られる情報が多い.

VR(volume redering)による三次元画像により,血管走行などの全体像の情報が得られる.

MRI検査に比べ解像度が高く,検査時間も短時間である.

造影剤腎症と被爆が問題となる.

膝窩/膝下病変では解像度に問題がある.

石灰化病変に使用しにくい.

MRA

主にガドリニウム造影剤が使用され,アレルギーや造影剤腎症が少ないこと,被爆がないことがCT検査より優れている.

空間分解能としてはCTよりやや劣る.

一部のペースメーカー/人工弁/人工関節置換者,安静保持が困難な場合は使用は難しい.

腎機能低下患者に使用しにくい.

血管造影

重症下肢虚血患者は多分節に病変を有する事が多く,in-flowの下肢血流が低下していると膝下動脈の病変評価を困難となるため,最終的には必要になる.

診断

PAD診断のアルゴリズム(TASCⅡ)

症候性PADに対して,無症候性PADは約3倍存在するとされており,無症候性であっても症候性と同等の心血管イベントのリスクがあるとされている.Circulation 2009;120(21):2053-2061
→リスクのある症例には積極的にABIを行う.

治療

PADの全体的治療戦略(TASCⅡ)

生活習慣改善

禁煙,運動が重要

一次予防

スタチン

LDL-コレステロール<130mg/dL
*糖尿病患者は心血管疾患がなくてもLDLの目標値が100mg/dL
→スタチンを使用する.

血圧管理

適正血圧<140/90mmHg
*糖尿病および腎不全では<130/80mmHg).

(抗血小板薬)

基本的に抗血小板療法は行わない.

クロピドグレル(プラビックス®)は一次予防に使える?
1日1回75mg.末梢動脈疾患における血栓・塞栓形成の抑制.

二次予防

抗血小板療法を処方する.

抗血小板薬

アメリカ糖尿病学会はアスピリンの投与を推奨しているが,CAPRIE試験ではPAD患者においてクロピドグレル75 mgがアスピリン325 mgよりも24%心血管イベントを低下させ,AHA-PADガイドラインではアスピリンと同様のClass Iレベルに推奨された.
・アスピリンとクロピドグレルの併用は出血のリスクと併用の効果のバランスを考慮し個別症例でその適応を検討するClass IIbに位置づけられている.

スタチン

LDL<100mg/dL,ハイリスクの場合は<70mg/dL
→スタチンを使用する.

EPAは脂肪酸バランスを適正化してPAD患者の心血管イベントを低下させる事がJELIS試験より報告されている.

血圧管理

適正血圧<140/90mmHg(糖尿病および腎不全では<130/80mmHg).

跛行距離の改善

運動療法

運動療法の効果は多くのエビデンスを有しているが,1 週間に少なくとも3回,3 カ月間以上トレッドミルを用いた監視型の運動療法を推奨している.

薬物療法

シロスタゾールが跛行距離を改善する薬物として推奨されている.

ナフチドフリル(セロトニン拮抗薬)も跛行治療の為に考慮し得ると記載されている.

血行再建術

基本的治療にもかかわらず間歇性跛行や重症下肢虚血が出現し,仕事や日常生活に支障が生じる時は血管内治療や外科的血行再建術の適応となる.

血行再建の方法として同等の短期及び長期成績が得られるのであればより低侵襲な血管内治療が第一選択であるとTASC-IIガイドラインには明記されているが,血管内治療と外科手術のいずれを選択するかは,解剖学的所見と患者因子を考慮して,目的を達成するために,最も有効かつ安全で,費用対効果比の高い,長期成績の良好な治療法を選択しなければならない.

血管内治療,外科手術の短期および長期成績のEvidenceを把握した上で,患者の全身状態と自施設の技量,成績を考慮して血行再建の方法を決定することが重要である.

患者が訴える症状が間歇性跛行なのか重症下肢虚血なのか血行再建の治療戦略を考える上で重要である.
→跛行患者の下肢切断のリスクは2%未満と低いが,重症下肢虚血では下肢切断の危険性が高い.間歇性跛行の治療目標は跛行症状を改善し下肢の機能を回復させ,動脈硬化の進行を予防し心血管イベントを抑制する事であるが,重症下肢虚血では疼痛を緩和し,下肢を切断から回避することである.

血管内治療 Endovascular Therapy;EVT

バイパス

F-Pバイパス:大腿動脈と膝下動脈のバイパス

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