天疱瘡 pemphigus

スポンサーリンク
なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

皮膚・粘膜に病変が認められる自己免疫性水疱性疾患であり,病理組織学的に表皮細胞間の接着が障害される結果生じる棘融解(acantholysis)による表皮内水疱形成を認め,免疫病理学的に表皮細胞膜表面に対する自己抗体が皮膚組織(表皮角化細胞表面)に沈着するあるいは循環血中に認められることを特徴とする.

天疱瘡抗原蛋白は,表皮細胞間接着に重要な役割をしているカドヘリン型細胞間接着因子,デスモグレイン.

疫学

病態

IgG自己抗体が表皮細胞間接着において重要な役割をしているカドヘリン型の細胞間接着因子デスモグレインに結合し,その接着機能を阻害するために水疱が誘導されると考えられる.

尋常性天疱瘡抗原はデスモグレイン3(Dsg3),落葉状天疱瘡抗原はデスモグレイン1(Dsg1)である.

尋常性天疱瘡は,さらに粘膜優位型と粘膜皮膚型に分類される.
・一般的に粘膜優位型尋常性天疱瘡では抗Dsg3 IgG 抗体のみを認めるのに対し,粘膜皮膚型尋常性天疱瘡では,抗Dsg3 IgG 抗体および抗Dsg1 IgG 抗体の両抗体を認める.
・落葉状天疱瘡では,抗Dsg1 IgG 抗体のみを認める.

デスモグレイン代償説(desmoglein compensation theory)
同じ細胞に2 種類以上のデスモグレインアイソフォームが発現している場合,細胞間接着機能を補い合う
・表皮においてDsg3 は表皮下層,特に基底層・傍基底層に強く発現しており,Dsg1 は表皮全層に発現が見られ,上層に行くに従い発現が強くなる.
・粘膜では,Dsg3 が上皮全層に強く発現しており,Dsg1 は基底層を除く全層に弱く発現している.

血清中に抗Dsg1 IgG 抗体のみが含まれる落葉状天疱瘡の場合,表皮では,Dsg3 による接着機能の代償がない表皮上層に水疱形成が誘導されるが,粘膜では,全層で多く発現しているDsg3 によりDsg1 の接着機能障害が代償され明らかなびらんを形成しない.血清中に抗Dsg3 抗体のみが認められる粘膜優位型尋常性天疱瘡の場合,皮膚ではDsg1 が表皮全層にわたり発現が認められるため,抗体によるDsg3 の接着機能阻害をDsg1 が代償し,水疱形成は認められないか,認められても限局されたものとなる.一方,粘膜では,発現レベルの低いDsg1 は失われたDsg3 の接着機能を補いきれず,びらんが形成されることになる.同様に,血清中に抗Dsg3 抗体のみならず抗Dsg1 抗体も含まれる粘膜皮膚型尋常性天疱瘡の場合,Dsg3,Dsg1 ともに機能を阻害されるため,粘膜のみならず皮膚にも広範囲な水疱,びらんを生じる.

デスモグレインの接着機能阻害の機序としては,自己抗体の結合によりデスモグレインの機能を空間的に直接阻害する,あるいは,自己抗体結合後カルシウムイオンや各種のキナーゼを介した細胞内シグナル伝達が誘導され,デスモグレインあるいは裏打ち蛋白質のリン酸化を介して細胞膜上から細胞内に引き込まれ,細胞膜上のデスモグレインが減少するなどと考えられている.

腫瘍随伴性天疱瘡は,悪性または良性の新生物(主にリンパ球系増殖性疾患)に伴い,びらん形成を主体とした重篤な粘膜病変と多彩な皮膚病変を認め,デスモグレインおよびプラキン分子に対するIgG 自己抗体を有する自己免疫性皮膚疾患である.液性免疫のみならず細胞性免疫による粘膜上皮,皮膚への傷害も特徴的である.

尋常性天疱瘡 pemphigus vulgaris

天疱瘡中最も頻度が高い.

最も特徴的な所見は,口腔粘膜に認められる疼痛を伴う難治性のびらん,潰瘍.

初発症状として口腔粘膜症状は頻度が高く,重症例では摂食不良となる.
口腔粘膜以外に,口唇,咽頭,喉頭,食道,眼瞼結膜,膣などの重層扁平上皮が侵される.
約半数の症例で,口腔粘膜のみならず皮膚にも,弛緩性水疱,びらんを生じる.
水疱は破れやすく,辺縁に疱膜を付着したびらんとなる.
びらんはしばしば有痛性で,隣接したびらんが融合し大きな局面を形成することがある.

皮疹の好発部位は,頭部,腋窩,鼠径部,上背部,臀部などの圧力のかかる部位で,拡大しやすい.
一見正常な部位に圧力をかけると表皮が剥離し,びらんを呈する(ニコルスキー現象).
臨床症状から,粘膜病変が主で,皮膚の水疱,びらんはあっても限局している粘膜優位型と,粘膜のみならず皮膚も広範囲に侵される粘膜皮膚型に分類できる.

生検は,新しい小水疱か水疱辺縁部を採取する.
表皮細胞間接着が失われ,表皮基底層直上の表皮細胞間に裂隙形成が認められる.
水疱内に棘融解細胞(acantholytic cell)が認められる.
基底細胞は上下もしくは隣接する細胞間の接着が障害されているが,基底膜との接着は保っており墓石状(row of tombstones)となる.

落葉状天疱瘡 pemphigus foliaceus

臨床的特徴は,皮膚に生じる薄い鱗屑,痂皮を伴った紅斑,弛緩性水疱,びらんである.
紅斑は,爪甲大までの小紅斑が多いが,まれに広範囲な局面となり,紅皮症様となることがある.
好発部位は,頭部,顔面,胸,背などのいわゆる脂漏部位で,口腔など粘膜病変を見ることはほとんどない.ニコルスキー現象も認められる.
表皮細胞間接着が失われ,角層下から顆粒層の表皮上層に裂隙形成が認められる.水疱内に認められる棘融解細胞は,数が少なく注意深く探す必要がある.

腫瘍随伴性天疱瘡 paraneoplastic pemphigus

最も頻度の高い臨床症状は,難治性の口腔内病変.
口腔内から咽頭にかけた広範囲の粘膜部にびらん,潰瘍を生じ,赤色口唇まで血痂,痂皮を伴うびらんを認めることを特徴とする.

大多数の患者は眼粘膜病変を伴い,偽膜性結膜炎を認め,高度の病変のため眼瞼癒着を生じることもある.
食道,鼻粘膜,膣,陰唇,亀頭部粘膜病変も好発する.

皮膚病変は多彩であり,紅斑,弛緩性水疱,緊満性水疱,びらん,多形滲出性紅斑様皮疹,扁平苔癬様皮疹などを認める.
手掌・足蹠に多形滲出性紅斑様皮疹を認めれば,手掌・足蹠に皮疹をほとんど認めない尋常性天疱瘡との鑑別に有用.
慢性型では,苔癬型皮疹が目立つ.

随伴する腫瘍は,その多くがリンパ球系の増殖性疾患であり,一般的に頻度が高い固形腫瘍である消化管,肺,乳線における腺癌,扁平上皮癌,あるいは皮膚における基底細胞癌,扁平上皮癌を随伴することは稀.
閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans)様肺病変による進行性の呼吸器障害に注意する.

病理所見は,臨床症状を反映して多彩.
皮膚病変部は,尋常性天疱瘡様の所見,多形滲出性紅斑様の所見,扁平苔癬様の所見を混じる.
水疱部は,基底層直上で棘融解を認めるが,表皮細胞壊死および表皮内へのリンパ球浸潤を伴う.
基底細胞の空胞変性,真皮上層に帯状の密なリンパ球浸潤が見られることもある.
好酸球浸潤は稀.

増殖性天疱瘡 pemphigus vegetans

尋常性天疱瘡の亜型で,水疱,びらんの病変から増殖性変化を生じるNeumann型と,間擦部などの膿疱性病変から増殖性変化を生じるHallopeau型の2型がある.

自己抗体は,尋常性天疱瘡と同じ抗Dsg3IgG 抗体であり,一部の症例では抗Dsg1 IgG 抗体も有する.

病理学的に,基底層直上での裂隙形成に加え,表皮の著明な乳頭状増殖,好酸球性膿疱を特徴.

Neumann型は比較的進行性で難治であり,Hallopeau型は自然消退もあり予後良好とされる.

紅斑性天疱瘡 pemphigus erythematosus,Senear-Usher syndrome

落葉状天疱瘡の局所型.

顔面の蝶形紅斑様の皮疹を伴うことが特徴.

天疱瘡群に特徴的な抗表皮細胞膜IgG 抗体を認め,天疱瘡としての特徴を持つことが明らかとなった.

疱疹状天疱瘡 herpetiform pemphigus

古典的天疱瘡の亜型とされる臨床的にジューリング疱疹状皮膚炎に似て,掻痒性紅斑と環状に配列する小水疱を特徴とするが,蛍光抗体法所見にて天疱瘡と同様にIgG クラスの表皮細胞膜表面に対する自己抗体が検出される疾患.

病理学的には古典的天疱瘡で見られる棘融解が明らかでなく,好酸球性海綿状態が主な所見である.

薬剤誘発性天疱瘡 drug-induced pemphigus

明らかな薬剤投与の既往の後に,天疱瘡様の所見を呈するもの.

種々な薬剤の関与が報告されているが,D-ペニシラミン,カプトプリルが有名.

多くの症例では,薬剤中止後に症状は軽快.

治療

天疱瘡は自己免疫性疾患であることより,抗体産生を抑制するためのステロイド内服療法が主体となり,これに感染予防とびらん面の保護,上皮化促進のため外用療法を併用する.

初期治療が重要であり,治療の目標は,プレドニゾロン0.2mg/kg/日または10mg/日以下で臨床的に症状を認めない寛解が維持されることを目指す.

ステロイド内服療法の併用療法として,免疫抑制剤,血漿交換療法,γ グロブリン大量静注療法などがある.

タイトルとURLをコピーしました