発作性夜間血色素尿症 paroxysmal nocturnal hemoglobiuria;PNH

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なすび医学ノート

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後天的にPIGA遺伝子に変異を持つ造血幹細胞の1 つ,あるいは複数のクローンが拡大することで起こる,造血幹細胞疾患.

血管内溶血,血栓症,造血不全を3 主徴とするが,症例によりそれぞれの症状の程度とバランスは様々.

しばしば再生不良性貧血(aplastic anemia:AA)や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)といった造血不全疾患と合併,相互移行することが知られている.

疫学

本邦における推定有病者数は420 人(100 万人あたり3.6人)と非常に稀.

診断時の平均年齢は日本で45.1歳,アメリカで32.8歳と本邦が有意に高い.

死因のトップは造血不全に伴う重症感染症(36.8%), 出血(23.7%),腎不全(18.4%),白血化(15.8%)となっている.
・アメリカでの死因は血栓症(42.1%)と重症感染症(36.8%)が主だが,日本では血栓症による死亡は7.9%と低く,こうした民族間差の機序は不明.

診断後の平均生存期間は,日本において32.1 年,50%生存率の期間は25.0 年と報告されているが,抗補体薬であるエクリズマブの登場により,予後の改善が期待されている.

病態

細胞膜上の補体制御因子であるCD55(decay-accelerating factor;DAF)やCD59(membrane inhibitor of reactive lysis;MIRL)の後天的欠損により補体が異常が活性化されることによる.

CD55とCD59といった補体制御因子は,糖脂質であるGPI(glycosylphosphatidylinositol)によって細胞膜にアンカー(保留)されているGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)であり,PNHではGPIの生合成の最初の段階に働くPIG-A変異が明らかにされている.
→GPI-APの発現が低下or欠損したPNH赤血球では,感染などを契機として補体経路が活性化し,血管内溶血を来たす.
→溶血発作を起こさなくても,補体による血管内溶血は常に起こっている.
・GPI-APは現在までに100 種類以上同定されており,CD55,CD59,好中球アルカリホスファターゼなども含まれる.

血管内溶血は貧血にとどまらず,PNH患者の様々な症状を引き起こしている.
→溶血により血漿中に放出された遊離ヘモグロビンが,平滑筋弛緩作用や血小板凝集抑制作用を持つ一酸化窒素(NO)を強力に吸着し,NOの作用を急激に阻害することで,肺高血圧,男性機能不全,腹痛などの消化器症状,また血管内血栓症を来たすと考えられている.

PNHクローンの割合が1%を超えると,何らかの溶血所見を認めるとされている.
→PNH発症にはPNHクローンが造血プールで拡大する必要がある.

多段階説

代表的な仮説の1 つ

健常者でもごく少数のPNHクローンが見つかることから,PIGA 変異だけ(step1)ではPNHクローン拡大には不十分であると考えられており,これはPNHモデルマウスの研究結果からも支持されている.

AA患者の約半数に微少なPNH型血球(>0.003%)が検出されることや,AAの経過中にPNHを発症するAA-PNH症候群の存在など,AAでの病態で想定されている自己免疫的機序が,PNHクローンの相対的増加(step2)に関与していると考えられている.
→GPIアンカーの欠損により,PNHクローンが造血不全を来たす自己免疫の攻撃から逃れるという機序であるが,MDSやAAに伴うPNHクローンは30%程度までにとどまるとされ,造血がほぼPNHクローンで置き換えられている古典的PNHを説明するには不十分.

近年良性腫瘍の原因遺伝子であるHMGA2 が2 例のPNH患者で異所性に発現していることが判明し,また約40%のPNH患者でその発現量が増加していることが報告された.
こうした良性腫瘍的な遺伝子変異が相対的に増加したPNHサブクローンに生じ,PNHクローンの拡大につながっていると考えられている(step3).

症候

病名の由来となった,早朝の肉眼的ヘモグロビン尿を診断時に示すPNH症例は本邦では26~34%程度にとどまり,多くのPNH患者はその他の症状で鑑別する必要がある.
・睡眠時の呼吸抑制により血液のpHが低下して補体を活性化すると推測されているが,詳細は不明.

貧血

貧血,血清の血清乳酸脱水素酵素(LDH)高値,間接ビリルビン上昇,ハプトグロビン低下など,溶血性貧血を疑う症例ではPNHの鑑別が必要.

正球性正色素性貧血の場合が多いが,ヘモグロビン尿が続く患者では,鉄欠乏のため小球性を,また高度の血管内溶血のために網状赤血球が著しく増加している場合は大球性を示すこともある.

溶血性貧血を疑った場合は,まず直接Coombs試験により自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia;AIHA)を除外し,球状などの赤血球形態異常がなければPNHを疑う.

消化器症状など

嚥下障害,腹痛などの症状を訴える患者,また肺高血圧や男性機能不全の診療においても,貧血を認めれば,溶血性貧血かどうかの確認が必要である.

血栓症

他の溶血性貧血にはみられないPNHに特異的な合併症で,その多くは深部静脈血栓症である.

日本のPNH患者の初発症例のうち,5~6%程度にしかみられないため,血栓症の全例をスクリーニングする必要はないが,腹腔内(Budd-Chiari症候群,腸間膜静脈)や頭蓋内(脳静脈),あるいは通常とは異なる部位(皮膚静脈,副睾丸静脈)で起こった場合は,PNHの可能性を考慮する必要がある.

Ham試験,砂糖水試験

補体活性状態における易溶血性が確認できる.

診断

確定診断には,PNH型血球の検出と定量が必須.

PNH型赤血球の検出には,古くからHam試験(酸性化血清溶血試験)と砂糖水試験(sugar water test)が主に用いられてきたが,感度と簡便性から,フローサイトメトリー(FCM)によるPNH血球の検出が主流となっている.

先天的なGPI-APの欠損症例が報告されており,診断のためには少なくとも2 種のGPI-APを検出する必要がある.

CD55 とCD59 は全血球に発現しており,これらの抗体がFCMに汎用されている.

PNH型赤血球が1~10%あれば溶血所見を認めることが多いことから,①1%以上のPNH型赤血球があり,②LDH値が正常上限の1.5倍以上あることが臨床的PNHの診断のポイントとなる.

PNHはしばしば造血不全を伴うため,骨髄穿刺,骨髄生検,染色体検査などによる他の造血不全疾患との鑑別が必要.
・臨床的PNHに認められるが,それとは別に骨髄不全症の中にPNHタイプ血球を認めるものがあり,臨床的PNHとは区別する必要がある.
・PNHタイプ血球を認める骨髄不全症は,免疫抑制療法の奏功率が高いと報告されている.

治療

PNHの根治治療は造血幹細胞移植であるが,明確な適応基準はなく,3大主徴(血管内溶血,造血不全,血栓症)に対する対症療法が治療の中心となる.

血管内溶血の治療

エクリズマブ(ソリリス®,Alexion社)はヒト化抗補体C5モノクローナル抗体であり,終末補体活性化経路を完全に阻止することで,極めて有効にPNHにおける補体による溶血を防ぐ.

エクリズマブの適応については,厚生労働省「特発性造血障害に関する調査研究班」による「発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド 改訂版」の中で「GPI欠損赤血球クローン(PNHタイプIII)が10%以上のPNH症例で,補体介在性の溶血所見を有し,溶血のため赤血球輸血の必要性が見込まれる患者に投与されることが望ましい」とあるが,必ずしも輸血依存症例のみが適応というわけではない.
→血清LDHの高度上昇があり,溶血に起因する重篤な症状が認められる症例は,エクリズマブの適応と考えられる.

エクリズマブ治療の注意点
・少なくとも治療開始2 週間前までに髄膜炎菌ワクチンを接種する.
・エクリズマブ投与によりPNHクローンは縮小せず,むしろ溶血阻止によりPNH型赤血球は造血プール内で蓄積・増加するため,中断により激しい溶血発作を来たす可能性がある.
→エクリズマブ投与をいったん開始した場合は,生涯投与を継続する必要がある.

エクリズマブの効果がない,あるいは不十分である場合
エクリズマブを使用しても,輸血依存から脱却できるのは半数~2/3 程度にとどまる.

不応例
・LDH値が全く変化しない場合,補体C5遺伝子多型による不応例を疑う.
・日本人の3~4%でC5 遺伝子のエクソン21 上にヘテロの変異c.2654G>Aが認められ,エクリズマブのC5への結合を阻害する.
・こうした症例ではエクリズマブ以外の治療法を選択する.

造血不全の合併
・PNHに造血不全を合併している場合,エクリズマブを使用しても輸血依存から脱却できない例も多い.
・特に血小板が低い症例は,貧血の回復に対して過度に期待しないよう,事前に患者に説明しておく必要がある.
・臨床上問題となる貧血が続く場合は,AAに対する免疫抑制薬の投与を考慮する必要がある.

腎性貧血

クレアチニン高値で,エリスロポエチンが貧血の程度に対し比較的低値の場合,慢性腎不全による腎性貧血を考え,エリスロポエチン製剤の使用を積極的に考慮する.

血管外溶血

エクリズマブ投与後も貧血の回復が十分でなく,網赤血球増加,間接ビリルビン上昇,直接Coombs試験陽性などが認められる症例では,血管外溶血の顕在化が疑われる.

エクリズマブ投与により,補体活性化経路でC5 の上流に位置するC3bがPNH型赤血球膜上に蓄積し,脾臓での血管外溶血が亢進する例がある.

ステロイドや摘脾が有効であったという報告もあるが,感染や手術に伴うリスクもあり,適応については慎重な検討を要する.

溶血発作時の治療

感染や外科的侵襲などを契機に,エクリズマブ投与中であっても溶血発作を起こし得る.

誘因除去のための治療を行い,補液,ハプトグロビン,輸血などにより全身状態の改善と腎保護を図る.

輸血における洗浄赤血球の必要性については疑問視されており,通常の赤血球濃厚液(red cell concentrates:RCC)で問題ないと考えられている.

造血不全の治療

骨髄不全型PNHで,かつPNH赤血球の割合が10%以下の症例には,免疫抑制療法は奏功率が高く,安全性も高いと考えられる.

AAの治療に準じ,免疫抑制療法を検討する.

好中球減少を伴う骨髄不全型PNHで,反復性の感染を伴う場合は,G-CSFの継続投与により感染症の軽減が期待できる.

蛋白同化ステロイド薬は骨髄不全型PNHの半数以上になんらかの効果が期待できると報告されている.

症状に合わせて輸血療法が必要となるが,適正な輸血量については十分な検証がなされていない.

血栓症の治療

血栓症の急性期には,ヘパリン(または低分子ヘパリン)による抗血栓療法が必要.

Budd-Chiari症候群などの重篤な血栓症に対しては,組織型プラスミノゲン活性化因子(tPA)による,より積極的な血栓溶解療法を考慮する.
・血小板低下を伴う骨髄不全型のPNHでは,出血の合併症に注意が必要である.

PNH顆粒球の割合が50%以上の場合は血栓症のリスクが上昇し,ワルファリンによる予防投与が有効であるという報告がある.
・最近エクリズマブ投与がワルファリン投与以上に血栓予防効果があるという報告があり,また,もともと本邦では血栓症のリスクが低いため,その適応については今後のデータ集積が待たれる.

PNH患者の妊娠

2015 年にPNH妊娠の参照ガイドが発表された.

PNH患者が挙児希望の場合は,血栓症を中心とする重篤な合併症のリスクを説明し,同意を得たうえで速やかに産科医と連携すべきである.

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