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疫学
コホート研究に基づくメタ解析では,糖尿病による全骨折リスクは1.32倍(95%CI 1.17-1.48).
・特に重要な大腿骨近位部骨折のリスクは,全体で1.77倍(95%CI 1.56-2.02),T1DMで4.35倍,T2DMで1.27倍.
1型糖尿病で多く.メタ解析にて骨密度が有意に低く,大腿近位部骨折リスクが約6倍に高まることが示された.IGF-1も低レベルであることが指摘されている.
2型糖尿病ではメタ解析では骨密度が有意に高いにも関わらず,大腿骨近位部骨折リスクが1.4~2倍に高まるとされる.
・罹病期間が長くなるほど,骨粗鬆性骨折,大腿骨近位部骨折リスクが増加する.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5095256/
・2型糖尿病でHbA1c 7.5%以上のコントロール不良患者は,非糖尿病,2型糖尿病でHbA1c 7.5%未満のコントロール良好患者と比較して,それぞれ1.47倍,1.62倍有意に骨折リスクが増加した.
https://care.diabetesjournals.org/content/36/6/1619
本邦の研究では,2型糖尿病において既存椎体形態骨折のリスクは非糖尿病対照群と比較して,男性で4.7倍,女性で1.9倍と上昇していることが報告されている.
HbA1c 7~8%以上で有意な骨折リスクがみられ,HbA1cと共に骨折リスクも増加する.
・最近では,HbA1cの変動が大きいほど骨折リスクが高いことも報告されている.
病態
①膵β細胞からのインスリン分泌低下によって起こるT1DMではBMDが低下するが,それ以上に骨折リスクが高い.
②肥満を伴うT2DMではBMDはむしろ増加しているが,有意に骨折率が高い.

T2DMにおける骨折リスクには骨質劣化の貢献が大きいと考えられる.
骨質劣化
骨量ではなく骨質低下
→骨密度で予測されるより骨折リスクが高い.
2型糖尿病では,皮質骨多孔化が進行している.
・2型糖尿病では健常者に比べ,海綿骨スコア(trabecular bone score;TBS)が低下.




【骨質劣化の機序】
1)骨代謝回転(骨リモデリング)の全般的低下
2)皮質骨多孔性増加による皮質骨脆弱性
3)海綿骨微細構造の変化に伴う海綿骨の脆弱性
4)AGE架橋の増加に伴うⅠ型コラーゲン線維の強度低下など
↓
検査では,
・HR-pQCT(high resolution peripheral quantitative computed tomography)による皮質パラメータの変化
・DXAによる骨密度データに基づき計算されるTBS値の低下
・血中/尿中のペントシジンの増加
高血糖
骨吸収↑ 骨形成↓ 骨基質の劣化
糖化,酸化ストレスの増大などに起因する終末糖化産物(AGEs)が多面的に骨代謝に影響する.
→骨芽細胞に存在するAGE受容体(RAGE)と結合することで骨形成の抑制・骨細胞のアポトーシス誘導が生じる
1)AGEsは骨芽細胞アポトーシスや分化障害を引き起こすのみならず,骨細胞のアポトーシスを促進し,RANKL発現を低下,スクレロスチン発現を増強することにより骨リモデリング障害,骨代謝回転低下に影響すると考えられている.
2)AGEsは骨芽細胞のオステオグリシン発現を抑制することにより,骨芽細胞の分化抑制に作用する.
3)ホモシステインは骨芽細胞アポトーシスを誘導し,骨芽細胞分化障害を引き起こす.
4)細胞外の生理的コラーゲン架矯形成を抑制し,逆にAGEs架橋を増加させる.
5)骨細胞のアポトーシスを誘導する.
インスリン分泌量・作用低下
インスリンやIGF-Ⅰは,骨芽細胞による骨形成の促進,骨形成経路の活性化の作用を持つ.
肥満と密接に関係するインスリン抵抗性は,骨芽細胞においてインスリンシグナルの増強により,Forkhead boxO1(FOXO1)を不活化して酸化ストレスを増強し,骨芽細胞分化を抑制して骨形成を低下させる.
骨形成シグナルとして注目されているWnt経路や成長ホルモン-IGF-1経路の抑制,副甲状腺ホルモン低値などに起因する骨形成低下を伴う低骨代謝回転が骨の脆弱性に関わっていると考えられている.
検査
問診
FRAXTM(fracture risk assessment tool)
問診で得られる情報をもとに今後10年間の骨折確率を推定できるツール.
評価項目の1つである続発性骨粗鬆症の原因疾患として,1型糖尿病が採用されているが,2型糖尿病は考慮されていない.
骨塩定量
薬物療法中の2型糖尿病では,非糖尿病に比べて,骨折リスクが高くになるにも関わらず,有意に骨密度が高い.
→骨塩定量では過小評価してしまう.

骨代謝マーカー
PTH,オステオカルシン(骨形成),βCTX(骨吸収)は低下
→骨代謝回転は低下
治療
糖尿病合併の有無は,骨粗鬆症治療薬の骨密度増加効果に有意な影響を及ぼさないと考えられる.
→一般的な原発性骨粗鬆症治療に準ずる.
主に大規模治験のサブ解析で,アレンドロン酸,リセドロン酸,ラロキシフェン,テリパラチド,デスノマブの投与によりDM患者においても非DM患者と遜色ないBMD増加効果が得られている.
骨密度が保たれている例→骨質劣化型を考え,SERMなどの骨質を改善する薬剤
骨量減少例→ビスホスホネートなど骨密度上昇効果が期待できる薬剤
骨折リスクがとくに高いと思われる例(1型糖尿病)→テリパラチドも適応となる.
合併症などにより転倒リスクが高い例→活性型ビタミンD3の併用も考慮される.

耐糖能には影響を与えない上,カルシウム代謝を安定させることで心血管負荷を減らし,また動脈硬化に伴う血管石灰化を抑制するため,利益はあっても悪影響は考えにくい.

高齢で罹病期間が長い症例は,皮質骨骨密度低下や多孔性が進展し,大腿骨近位部骨折のリスクが高い.
→ガイドラインで推奨グレードAは,アレンドロネート・リセドロネート・デノスマブの3剤.
SERM・活性型ビタミンD3・ビタミンK2・テリパラチドは生理的架橋を増やし,SERM・テリパラチドがAGEs架橋を低下させることが報告されている.
予防
血糖コントロール
インスリン→本来は骨形成にプラスだが,高濃度になると酸化ストレスからFOXO1を不活性化して,骨破壊を招く.高インスリン血症の病態を改善する.
SU薬,グリニド,α-GI→データが揃っていない.
メトホルミン→骨折への影響が少ないとする報告が多い.
DPP-4阻害薬→データ不十分
GLP-1RA→C細胞を介して破骨細胞を抑制→カルシトニン(骨形成)分泌を促進
SGLT2阻害薬→影響なかったという報告もあれば,骨折リスクが上昇したという報告もある.
・CANVAS試験では,サブ評価項目である全骨折イベントリスクはカナグリフロジン群でプラセボ群に比べて有意に高かった.
チアゾリジン(増悪させる)
1)骨折リスクを1.5~2.5 倍に上昇させると考えられている.
・閉経後女性の脊椎骨折リスクを上昇させる
・女性では骨折のリスクになることが示されているが,男性では報告はなし.
・メタ解析の結果では,閉経後女性で骨折歴がある,チアゾリジンの投与期間が長い,動脈硬化の存在が骨折リスクに関与している.
2)核内受容体のPPAR-γを介して,間葉系細胞の脂肪細胞への分化を誘導する一方で,骨芽細胞への分化を抑制する.