悪性腫瘍と腎障害 onconephrology

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なすび医学ノート

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悪性腫瘍患者に腎障害が高頻度に発症することや,腎障害合併悪性腫瘍患者の予後が非合併患者に比べて不良であることが広く認識されるようになっている.

急性腎障害

悪性腫瘍の経過に最も高頻度に関連し,生命予後に最も悪影響を及ぼす.

米国における悪性腫瘍入院3558名を対象とした横断研究では,12%がAKIを発症し,入院期間延長やコスト増大,死亡率上昇(4.7倍)をもたらしたと報告されている.

デンマークにおける37,267人のがん発症患者を対象とした研究では,がん発症1年間のAKI発症リスクは17.5%,5年間の累積発症リスクは27.0%と報告されている.
・AKI発症患者の5.1%は1年以内に維持透析が必要になった.
・特に血液系悪性腫瘍や多発性骨髄腫の患者,敗血症を合併した患者にそのリスクが高かった.

AKIの原因に関連するAKIの原因を検索する際には,腎前性・腎性・腎後性に分けて鑑別を進めるのが原則であるが,複数の要因がオーバーラップすることも多い.

AKIは完全寛解などのがん治療成績にも影響を及ぼすことが知られており,腎機能障害によって抗がん薬が本来投与すべき量より減量して投与せざるを得ず,期待した薬効が得られないなどの理由があると考えられている.

【腎前性】
・腎の低灌流(敗血症・腹水など)
・経口摂取低下,下痢
・高Ca血症
・腎静脈血栓症
・薬剤(NSAIDs・RAS阻害薬・CNIなど)
・毛細血管漏出症候群

【腎性】
・ATN(虚血の持続・抗癌薬・造影剤)
・腫瘍崩壊症候群
・腎へのリンパ腫浸潤
・急性間質性腎炎
・円柱腎症
・GVHD
・TMA(腫瘍関連・骨髄移植後・抗がん薬)
・CNI毒性

【腎後性】
・尿路への直接浸潤
・後腹膜リンパ節腫脹
・後腹膜線維症
・結晶(アシクロビル・尿酸・メトトレキサート)

高Ca血症

腎血管収縮や腎でのNa再吸収低下を来たして腎前性AKIをきたす.

腫瘍から産生される液性因子(PTHrHや活性型ビタミンDなど)によって発症するhumoral hypercalcemia of malignancy(HHM)と,広範なな骨転移に伴うlocal osteolytic hypercalcemia(LOH)とに大別される.

治療の基本は,十分な生理食塩水の補液.
・腎でのCa再吸収を抑制する効果を期待してループ利尿薬を用いるが,腎前性AKIを助長しないよう,体液過剰の状況下に限る.
・高度な高Ca血症に対しては,ビスホスホネート(主としてゾレドロン酸)やカルシトニンなどが用いられる.

腫瘍崩壊症候群 tumor lysis syndrome;TLS

腫瘍の急速な崩壊により,細胞内成分(K,P,核酸など)やサイトカインが血中に大量に放出され,腎での排泄を中心とした身体の恒常性維持能力を超えた場合に生じる.

腫瘍の急速な崩壊により,細胞内成分(K,P,核酸など)やサイトカインが血中に大量に放出され,腎での排泄を中心とした身体の恒常性維持能力を超えた場合に生じる.
・悪性度が高く腫瘍量の多いものに対する治療に伴って生じることが多い.
・細胞増殖が速く,急速な増大・壊死を起こしている腫瘍では自然経過の中で生じることもある.

尿酸・リン・カリウムの血中濃度上昇,低カルシウム血症,乳酸アシドーシスなどを生じる.
大量の核酸が代謝され,過剰に産生された尿酸は尿酸塩となって尿細管を閉塞することでAKIを来たす.
高サイトカイン血症や腎動脈収縮に起因する腎血流低下もAKIの発症に関与する.
AKIの他にも,心不全・不整脈・痙攣など多様な症状を来たし,突然死に至る場合もある.

無症状の段階での十分な経過観察と正確なリスク評価(検査値異常の有無,腫瘍量や増殖速度,使用される化学療法薬,年齢など),適切な介入が必要.

中等度~高リスク群ではアロプリノールorフェブキソスタットの使用,高リスク群に対しては,補液と組み換え型尿酸オキシダーゼ(ラスブリガーゼ)の投与が推奨される.

敗血症性AKI

血液悪性腫瘍や抗がん薬による骨髄抑制を来たした患者では,敗血症の合併頻度が高い.

腎灌流圧の低下,糸球体内皮細胞傷害,糸球体内血栓,腎間質への炎症細胞浸潤などの複数の要因が互いに関連しあう.

免疫抑制下に生じた敗血症性AKIは特に治療抵抗性.
→腎代替療法が必要となる症例が多いばかりか,生命予後も不良.

多発性骨髄腫関連の腎障害

多発性骨髄腫の20~50%にAKIが合併する.

最も多い原因として円柱腎症があるが,その他に軽鎖関連近位尿細管障害や,軽鎖沈着症やALアミロイドーシスなどによる糸球体障害など,さまざまな病変が原因となりうる.

悪性腫瘍の直接浸潤

リンパ腫の腎臓への直接浸潤の頻度は報告によりさまざまであるが,腎への浸潤に特異的な所見がないため,臨床的には見過ごされていることが多い.

尿所見や画像検査でも診断可能な場合があるが,腎生検がより確実.

腫瘍細胞の浸潤により間質や糸球体内圧が上昇することがAKIの背景にあると考えられている.

治療として背景にあるリンパ腫に対する治療と適切な体液管理が重要.

造血幹細胞移植に関連するAKI

体液量減少,敗血症,腎毒性薬物,GVHD,類洞閉塞症候群などがリスクになるほか,ウイルス感染症(アデノウィルス・BKウイルス・サイトメガロウイルスなど)もAKIに関与する.

カルシニューリン阻害薬

特に高用量の使用によりAKIを来たすことが知られている.

1)輸入細動脈優位な収縮による腎血漿流量や糸球体濾過量の低下
2)細動脈収縮による虚血性内皮細胞障害を基盤とする血栓性微小血管症(TMA)
3)近位尿細管上皮細胞における均等な泡沫状変化(isometric vacuolization)などを特徴とする尿細管障害
など

放射線腎症

造血幹細胞移植の前処置として行われる放射線照射による放射線腎症も造血幹細胞移植レシピエントにおけるAKIの原因となりうる.

放射線曝露後遅発性(6~12ヵ月後)にみられることが多く,通常は軽度の腎機能障害を緩やかに発症しCKDへと移行するが,AKIとして発症する例や,進行して末期腎不全へ至る例があり,注意が必要.

病理組織学的には,糸球体内皮細胞障害を基盤とするTMAの所見が主体.

腎後性AKI

尿路系への腫瘍の直接浸潤,後腹膜リンパ節腫脹がリスクとなる.

尿管ステント挿入や経皮的腎瘻造設が必要になる場合がある.

がん薬物療法における薬剤性腎障害(分類)

腎血管病変

毛細血管漏出症候群
シスプラチン
マイトマイシンC
インターフェロン
インターロイキン2

血栓性微小血管症
ベバシズマブ
ソラフェニブ
スニチニブ
パゾパニブ
アキシチニブ
ゲムシタビン

糸球体病変

微小変化群
インターフェロン
ペメトレキセド

巣状糸球体硬化症
インターフェロン
ペメトレキセド
ゾレドロン酸
パミドロネート

尿細管病変

急性尿細管壊死
白金製剤
イホスファミド
ペメトレキセド
ゾレドロン酸
インターフェロン
ペントスタチン
イマチニブ
パミドロン酸

尿細管炎(Fanconi症候群)
シスプラチン
イホスファミド
アザシチジン
イマチニブ
ペメトレキセド
パミドロン酸

腎性塩類喪失
シスプラチン
アザシチジン

Mg喪失
シスプラチン
セツキシマブ
パニツムマブ

腎性尿崩症
シスプラチン
イホスファミド
ペメトレキセド

SIADH
シクロホスファミド
ビンクリスチン

間質病変

急性間質性腎炎
イピリムマブ
ニボルマブ
ペムブロリズマブ
ソラフェニブ
スニチニブ

尿細管閉塞性腎障害
メトトレキサート

がん薬物療法における薬剤性腎障害(各論)

白金製剤(特にシスプラチン cisplatin;CDDP)

頻度は20~30%程度とされている.

障害ネフロンは主に近位尿細管の特にS3セグメントと考えられている.
・有機カチオントランスポーター(organic cation transporter 2;OCT2)を介して,近位尿細管細胞内に取り込まれた結果,蓄積して細胞障害をきたす.

急性尿細管壊死が最も一般的であるが,近位尿細管性アシドーシスやFanconi症候群を呈する症例も存在する.

腎性低Mg血症が半数以上で出現する.
・少数例でのランダム化比較試験であるが,Mg投与群では非投与群と比較して尿NAGが有意に低値であったという報告や,GFRが維持されていた報告もある.

急性腎障害を予測する因子としては,低Alb血症,喫煙,女性,高齢,他の抗癌薬使用,心・血管系疾患や糖尿病の合併などが知られているので,投与前に腎障害の危険因子として評価することは重要.

カルボプラチンやオキサリプラチンは,シスプラチンに比べて腎障害を惹起することは少ないが,積算投与量が多くなると,相応のリスクを示すようになるため,特にリスク因子を有する患者に投与する場合には注意が必要.

予防

腎機能が低下している場合は,減量投与する.

通常は生理食塩水による補液(生理食塩水 or 1/2生理食塩水を3L/日以上)を十分に行い尿量を保ち,他の腎毒性薬剤を極力避ける.

ガイドライン上はCDDPによる腎障害の予防にMg投与を推奨している.

利尿薬は予防薬として尿量を増やすために使用されてきた.
・いくつかの臨床試験で利尿薬によるCDDP腎障害の予防効果が検証されたが,明確にその有効性を示すランダム化比較試験がなく,推奨されるだけの根拠は得られていない.
・現時点では利尿薬は長年にわたり広く使用されており,この方法を用いて様々な治療エビデンスも創出されているため,ガイドライン上は「弱く推奨する(提案する)」となっている.

透析療法については推奨されない.
・生体内に投与されたCDDPは短時間のうちに血漿や組織中の蛋白と結合して透析されなくなり,約4時間の透析で10%前後が除去されるにすぎない.

メトトレキサート methotrexate;MTX

MTXの主たる代謝産物(7-OH MTX, 2,4-diamino-N10-methylpteroic acid;DAMPA)は糸球体で濾過され近位尿細管で分泌されるが,これらはMTXに比較して6~10倍溶解度が低く,遠位尿細管以降で結晶が析出し,結晶誘発性腎症を発症し得る.

MTXによる腎障害を予防するためには,積極的な輸液による尿量を保ち,結晶化防止のための尿のアルカリ化を行うことが推奨される.

ペメトレキセド

ペメトレキセドはMTXに構造的に類似した葉酸拮抗薬であるが,近位尿細管細胞に取り込まれて細胞内の薬物濃度が上昇することにより葉酸代謝が強く抑制され,尿細管障害が生じると考えられている.

急性尿細管壊死によるAKIの他,腎性尿崩症や尿細管性アシドーシスの発症も報告されている.

イフォスファミド ifosfamide;IFM

アルキル化薬であり,多くの固形癌およびリンパ腫や肺細胞性腫瘍の治療に使用されている.

腎障害の頻度は約30%と報告されているが,CDDPと異なり,急性尿細管壊死よりもFanconi症候群が認められることが多い.

IFMおよびその代謝物は,近位尿細管細胞に対する直接障害作用を持つことが知られている.
・IFMは,チトクロームP450により,細胞内で腎毒性を持った代謝物による障害を受けやすいと考えられている.
・CDDPと同様に,血管側に発現するOCT2を介して尿細管細胞に能動的に取り込まれるにも関わらず,急性尿細管壊死の危険性はCDDPより低い.
・IFMの蓄積量が45g/m2に達すると腎毒性が生じやすいとされている.

CDDPの事前使用はIFM腎障害発症の独立した危険因子であることも指摘されている.

出血性膀胱炎の有害事象報告もあり,25.0%で尿潜血が,15.6%で肉眼的血尿(重複例あり)をきたすとされている.

VEGF阻害薬

抗VEGF抗体:ベバシズマブ
抗VEGF受容体阻害薬:アキシチニブ
マルチキナーゼ阻害薬:スニチニブ,ソラフェニブ,パゾパニブなど

血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)経路を標的とし,腫瘍による血管新生の抑制および腫瘍内血管の機能の正常化を介して,腫瘍増大抑制や他の抗腫瘍薬の作用増強などの効果を発揮する.

比較的高頻度に高血圧や蛋白尿がみられ,病理組織学的に血栓性微小血管症(TMA)の像を呈する.
・糸球体において,VEGFは内皮細胞の機能や形態の維持と,ポドサイトの細胞骨格や濾過障壁スリット膜の制御に関与している.
→VEGFシグナル伝達阻害により,TMAが惹起される.

EGF受容体のモノクローナル抗体

セツキマシブ

大腸癌や頭頸部癌で使用.

有害事象として,低Mg血症が報告されている.
→遠位尿細管の管腔側から細胞内へマグネシウムを取り込むチャネルtransient receptor potential melastatin 6(TRPM6)の発現を制御している上皮成長因子(EGF)がセツキシマブにより抑制されているため.

免疫チェックポイント阻害薬

抗PD-1(programmed cell death 1)抗体:ニボルマブ,ペムブロリズマブ
抗PD-L1(programmed cell death-ligand 1)抗体:アテゾリズマブ,デュルバルマブ,アベルマブ
抗CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)抗体:イピリムマブ

 ICIs投与患者に認められる糸球体病変の内訳

急性間質性腎炎によるAKIの発症が報告されている.
・投与後,遅発性に発症し(投与後発症までの中央値91日),ステロイド投与を受けた患者は10名中9名が完全または不完全寛解まで反応したことが報告されている.
・イピリムマブとニボルマブの併用で発生率が4.9%,グレード3以上のAKIが1.7%.

AKIの発症率は1.4~4.9%程度と推定される.
原因病型は,急性尿細管間質性腎炎(AIN)>> 急性尿細管壊死> 血栓性微小血管症

Crが1.5~2.0倍以上の上昇の場合は慎重に経過観察し,それ以上の上昇の場合には治療中断が考慮される.

Grade 2 以上の腎機能低下が持続する場合にはステロイド療法を開始する.
・ステロイドによっても十分な反応が得られない場合にはミコフェノール酸モフェチル(MMF)をはじめとした免疫抑制薬が考慮される.
・難治例には他の免疫抑制剤やインフリキシマブ,トシリズマブ,アバタセプトなども考慮されるが,十分な知見は得られていない.

ICIs 関連AINはステロイドによる反応性が乏しい,反応までに時間がかかる,あるいは減量中に再燃するなど,難治例も多いことから,数カ月単位での慎重なステロイド減量,中止が勧められる.

末期腎不全患者に発生する悪性腫瘍とスクリーニング検査

維持透析患者

維持透析患者の死亡原因は,心不全24.0%,感染症21.1%,悪性腫瘍9.0%に次いで3番目に多い.
・一般人口に対する標準化罹患比は1.1~1.5程度と報告されている.

米国では,平均余命が5年以内の透析患者に対する癌のスクリーニング検査は生存率改善につながらず,費用対効果も高くないことを踏まえ,「平均余命が短い透析患者で無症状であれば,悪性腫瘍に対する定期的なスクリーニング検査は行わない」ことが推奨されている.

本邦では長期透析患者が多いため,そのまま適用することは適切でない可能性がある.

維持透析患者に生じる癌として最も多いのは,多嚢胞化萎縮腎に生じる腎癌は無症状であることが多い.

消化器系癌の頻度も高い.
→年1回程度のスクリーニング検査が行われていることが多い.

腎移植患者

移植後の発がんが多いことが報告されている.
・一般人口に対する悪性腫瘍の標準化罹患比は2~3倍程度
・欧米では皮膚癌や腎癌の発生が多いとされる.
・本邦では,260名/4600名(2001~2010年の腎移植症例).移植から悪性腫瘍診断までの中央値は46ヶ月.発生部位は尿路系癌(13.5%),移植後リンパ増殖性疾患(12.3%),乳癌(8.8%)の順.

免疫抑制療法により,発癌に関連するウイルスに対する防御能が低下することや,腫瘍細胞に対する免疫監視能を低下させる可能性などが考えられている.

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