肺非結核性抗酸菌症 nontuberculous mycobacterial infectious pulmonary disease;NTM-PD

医学ノート(なすび用)

なすび専用のまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
ちゃんとした正書や情報提供サイトを強く推奨します.
当ブログは一切の責任を負いません.

非結核性抗酸菌症(nontuberculous mycobacteria;NTM)は,土壌や水系の自然環境に生息する環境常在菌で人への病原性は高くないが,多彩な感染症を惹起する.
最も頻度が多いは呼吸器感染症.

本邦では,NTM-PD患者の80%以上が肺Mycobacterium avium complex(MAC)症であるが,最近急激に迅速発育菌のMycobacterium abscessusM. abscessus)感染症の報告が増加している.

非結核性抗酸菌症 nontuberculous mycobacterial infectious;NTM

抗酸菌に属し,結核菌・らい菌以外をいう.

180種類以上に及び,背景となる環境の差(気温・湿度など)で各国での菌種の頻度に差が生じる.

環境から人に感染するが,結核と同様の生活史を人体で持つかは不明.
・人から人への感染は欧米で嚢胞性線維症患者において報告されているが,それ以外は認めない.

菌体がエアロゾルとなり,吸入され気道を通じて感染が生じると考えられるが,外傷からの侵入や腸管を通じて血行性に播種するなど,肺外病変の報告も多い.

抗酸菌は発育速度により分類され,培地上で7日を超えてコロニー形成が認められるものを遅発育菌
,7日以内にコロニー形成するものを迅速発育菌とする.
・結核や多くのNTMは遅発性.

疫学

2014年に人口10万人あたり14.7と推定され,菌陽性肺結核患者数を超えている.

菌種別の肺感染症の推定の罹患率が,MAC菌では13.1,M.kansasii菌では0.6,M.abscessusが0.5.

多くの患者で,肺に基礎疾患を有すると報告されている.
呼吸器:気管支拡張症23.5%,間質性肺炎9.9%,慢性閉塞性肺疾患6.9%,結核後遺症6.3%,肺アスペルギルス症6.1%,肺癌5.3%
全身疾患:関節リウマチ8.8%,糖尿病8.4%
その他:先天性免疫不全,免疫低下をきたす疾患,肺の構造的損傷,遺伝子多型の問題,宿主の背景(女性・胸郭変形など)

病態

肺MAC症

本邦のNTM-PDのおいて最も患者数が多い.

1)結節気管支拡張型 nodular/bronchiectatic type;NB type
・患者数が増加しており,中高年の女性に多く,緩徐進行性であることが多い.

2)線維空洞型 fibrocavitary type;FC type
・患者数は減少傾向にあるが,進行が比較的早い.
・NB typeで空洞を有さない症例に比して予後は不良.

3)その他:結節型,播種型,過敏性肺臓炎型

M.abscessus症

M.abscessusは迅速発育菌に分類される.

肺MAC症に比べ明らかに頻度は少ないが,本邦では増加傾向にある.

M.abscessus subsp. abscessusM.abscessus subsp. bolletiiM.abscessus subsp. massilienseの3亜種に分類され,マクロライド薬に対する感受性が異なる.

M.abscessusのCAM耐性機序
1)23SrRNAのrrl遺伝子に突然変異が生じる
2)erm(41)遺伝子がCAM投与によってリプレッサーが解除され,erm(41)遺伝子が作動してマクロライド耐性が誘導される.

M.kansasii症

男性喫煙例に多く,上肺野に薄壁の空洞を有する症例が多いという特徴があったが,最近では気管支拡張型を示す症例もあり,患者数全体が減っている.

症状

呼吸器感染症として緩徐に進行するため,健診時,無症状ながら胸部X線写真で軽微な病巣を指摘されることも多い.

主たる症状は,喀痰・咳嗽.
「咳や痰は出ないが,喉に何か絡む感じ,いつも咳払いをしたいような感じ」

さらに進行すると,膿性痰の喀出,血痰,微熱,体重減少が出現し,喀血,息切れ,呼吸困難と進行していく.

診断

以上の A,Bを満たす.

A.臨床的基準(以下の2項目を満たす)

1)胸部画像所見(HRCTを含む)で,結節性陰影,小結節性陰影や分枝状陰影の散布,均等性陰影,空洞性陰影,気管支または細気管支拡張所見のいずれか(複数可)を示す.
*先行肺疾患による陰影が既にある場合は,この限りではない.

2)他の疾患を除外できる.

B.細菌学的基準(菌種の区別なく,以下のいずれか1項目を満たす)

1)2回以上の異なった喀痰検体での培養陽性.
*稀な菌種や環境から高頻度に分離される菌種の場合は,検体種類を問わず2回以上の培養陽性と菌種同定検査を原則とし,専門家の見解を必要とする.
(本邦では同一月内に同じ検体種で抗酸菌培養を繰り返した場合には保険で査定されるため,月をまたいで複数回の培養,同定検査を実施することがすすめられる)

2)1回以上の気管支洗浄液での培養陽性.

3)経気管支肺生検または肺生検組織の場合は,抗酸菌症に合致する組織学的所見と同時に組織,または気管支洗浄液,または喀痰での 1 回以上の培養陽性.

(気管支鏡検査)

喀痰検査が行えない場合,観血的な検査である気管支鏡下生検を即時に行うことが必須であるが,負荷が大きいため,慎重に適応を考える.
→画像所見や症状の悪化が生じる時点など

補助診断

抗GPL(glycopeptidlipid)抗体

MAC,M.abscess,M.scrofulaceum,M.fortuitum,M.chelonae,M.smegmatisの細胞壁の最外層に存在する glycopeptidlipid(GPL)のcore成分に対するIgA抗体価をELISA法で評価する.

カットオフ値を0.7IU/Lとすると感度約70%,特異度約90%と報告されている.

活動性であれば,コンタミネーションや他の呼吸器疾患の症例に比較し,明らかに高値となる場合が多い.

治療中の患者の病勢の判断,治療後の患者の経過観察,喀痰が得られないNTM-PD疑い患者などに

治療

生活の指導

環境に存在し,人の生活周囲の水回りや土壌に成育しているため,感受性を持った人に感染し,発病する.

自宅の空気と水の質の改善
バスルームやシャワー,サウナの換気をする.
土壌の曝露を避ける.

治療開始の目安

重要なポイントは,診断基準を満たしても治療の適応については個別に考慮する点.
・慢性疾患であるため,個人差が大きく,約10%が無治療で自然に排菌停止すると報告されている.

診断確定後治療を開始するか,患者ごとに検討する(菌の毒力,菌の抗菌薬の感受性,有空洞例,低体重,低Alb血症,炎症性マーカーなど).
・胸部画像については可能な限り過去の画像と比較し,病変の出現時期・変化などを確認

治療がQOLや予後に与える意義は不明であり,治療開始前には患者に使用薬剤の副作用,治療期間,服薬の意義,喀痰検査の重要性,排菌陰性化しても再燃や再感染があることなども十分にICする.

診断後すぐ治療すべき症例
1)血痰・喀血症状がある.
2)空洞形成がある.
3)高度な気管支拡張がある.
4)病変範囲が一側肺の1/3を超える.
5)喀痰塗抹菌量が2+以上

経過観察可能症例
1)自覚症状がほとんどなく,画像で空洞病変を認めず,気管支拡張病変が軽度で,病変範囲が一側肺の1/3以内の喀痰塗抹陰性例
2)75歳以上の高齢者症例
*上記以外は治療開始を勧める.

薬剤感受性試験

治療開始前に非常に重要.

ブロスミックNTM®→遅発育菌
ブロスミックRGM®→迅速発育菌

薬剤感受性は菌ごとに定まっており,MICを確認すべき薬剤も異なる.

MAC
マクロライド,AMK
NTMのうち遅発育菌用の試験(結核菌用の感受性試験を用いない)

M.kansasii
RFP
結核菌用の感受性試験

M.abscessus species
マクロライド,AMK
NTMのうち迅速育菌用の試験,マクロライドについては14日間培養実施後に判定(結核菌用の感受性試験を用いない)
erm(41)による誘導耐性を評価するためその塩基配列の検査を実施

排菌陰性化 culture conversion

治療継続中,少なくとも4週以上の間隔を空けて,3回連続で呼吸器系検体の抗酸菌培養陰性が達成されること.

3回培養陰性の最初の検体を採取した日を排菌陰性化達成日とする.

ガイドラインでは,排菌陰性達成後最低1年間は喀痰培養検査を定期的に行い,喀痰培養結果を確認し続けることが重要.

肺MAC症

治療期間は,排菌陰性達成後最低12ヵ月とされているが,それを支持する質の高いエビデンスはない.

マクロライド(クラリスロマイシン clarithromaycin;CAM),エタンブトール ethambutol;EB,リファマイシン系薬剤(リファンピシン rifampicin;RFP or リファブチン rifabutin;RBT)の3剤投与が基本

CAM 600~800mg/日(15~20mg/kg) or AZM 250mg/日(週3回 間欠療法を実施する場合は1回500mgの投与可)

EB 750mgまで/日(10~15mg/kg)

RFP 600mgまで/日(10mg/kg) or RBT 300mgまで/日

1)key drugであるマクロライドは十分量使用するのが重要.
2)CAM単剤による治療は×(耐性菌が生じる)
3)キノロンのみとの併用を行わない.
4)マクロライド耐性化を抑制するEBを可能な限り併用する.
5)アジスロマイシン(azithromycin;AZM)が2020年~保険適用で使用可能になった.
・CAMとAZMの有用性は同等であるが,服薬回数・アドヒアランス・RFPとの薬物相互作用などの点から,最近はAZMが推奨されている.
6)EBは開始前に必ず眼科に相談し,開始後も定期的に眼科で経過観察を行う.
7)RFPはまず150mgから開始し,発熱・皮疹がないことを確認してから増量する.マクロライドとの併用時はぶどう膜炎に注意.

重症例(空洞・進行した気管支拡張像などがある,排菌量が多い)や治療効果が乏しい症例には,アミノグリコシド薬(ストレプトマイシン streptomycin;SM or カナマイシン kanamycin;KM)を投与する.

硫酸ストレプトマイシン 15mg/kg以下(1000mgまで)/日 週2or3回筋注
or
硫酸アミカシン 15mg/kg 週2~3回静注 血中濃度(ピーク・トラフ)を評価

1) 硫酸アミカシン(amikacin;AMK) が2019年~保険適用で使用可能になった.
リポソーム化AMKの吸入:リポソーム化により気道分泌物を通過し薬剤がより効率的に病巣局所へ到達することが期待される.
*KMは保険適応外
2)第8脳神経障害に留意する(聴力低下・めまい・ふらつきなどの前庭機能障害)

M.abscessus症

本邦では治療ガイドラインは策定されていない.

key drugであるマクロライドに対する感受性の有無が重要.
・マクロライドにより誘導されるerm(41)遺伝子の発現と機能,23r-RNAの1塩基置換によりマクロライド耐性が決まる.
→3つの亜種があり,亜種によりマクロライドへの耐性率が異なる.

マクロライドに感受性を有する場合
導入期には,マクロライドに加えてAMK・イミペネム(適応外)の点滴が併用され,維持期にはマクロライドを含む複数種類の薬剤が使用される.

マクロライドに耐性の場合
実際に使用可能な薬剤はAMKのみとなり,治療に難渋する.

M.kansasii症

本邦のガイドラインでは,RFP+EBに,INH(イソニアジド isoniazid) or マクロライドを加えた3剤で治療する.

key drugであるRFPに耐性でなければ,治療反応性は良好.
・RFP 600mg使用し,排菌陰性化達成後1年間治療を行う.
・RFP耐性or副作用で使えない場合,RFPの代わりにMFLXのようなフルオロキノロン薬を第二選択として用いるとされる.

外科治療

①空洞性病変や気管支拡張像など非可逆的な既存肺構造の破壊性病変(血流が乏しく薬物が十分に到達しない)
②喀血や繰り返す血痰

年齢,基礎疾患,術式,術後の残存肺機能などを考慮し,適切に症例を選択し,外科的治療を行うことも考慮される.

医学ノート(なすび用)
スポンサーリンク
なすび院長

勤務医に疲れ,定期非常勤と投資でなんとかしのごうというひっそり医.
好きな分野は,糖尿病・腎臓病です!(゚∀゚)

ネット上で念願のなすびクリニックを作るも,今日も改装中で,いつ再開するのやら・・・
勉強好きで,私用に細々とまとめています.

妻:りんご
長女:いちご
次女:れもん
三女:みかん
事務長:かえる

なすび院長をフォローする
なすびクリニックは今日も改装中!
タイトルとURLをコピーしました