浮腫
病態
・浮腫の形成機序として循環血液量の低下を主体とする機序(underfilling説)と循環血液量増加に基づく機序(overfilling説)の2 つが提唱されているが,病期の違いにより,同一症例において両者がみられることもある.
Underfilling説
低アルブミン血症による血漿膠質浸透圧低下により,血漿から間質への体液移動が促進され浮腫が形成される.
同時に有効循環血液量減少のためレニン—アンジオテンシン—アルドステロン系(RAA 系),交感神経系亢進,抗利尿ホルモン分泌促進,心房ナトリウム利尿ペプチド分泌抑制による尿細管での水・Na 再吸収亢進が生じる.
これらによる体内総水分量増加により血漿膠質浸透圧低下がさらに促進され,組織間質における浸透圧・静水圧差の不均衡により浮腫が増悪するとの考え方.
Overfilling説
遠位尿細管でのプラスミンの活性亢進により,上皮Na チャネルが活性化されNa再吸収が亢進し,循環血液量は正常もしくは増加することにより膠質浸透圧低下と併せて間質への体液移動が促進されるとの考え方.
対応
利尿薬
腸管浮腫がとれず,内服抵抗性の場合
フロセミド20mg 2Aを1日2回(朝夕)まで静注
(アルブミン+利尿薬)
アルブミン製剤のネフローゼ症候群における浮腫や低蛋白血症に対する改善効果はなく,高血圧を悪化させる可能性があり推奨しない.
ただし,重篤な循環不全や大量の胸腹水を呈する場合には,効果は一時的ではあるもののアルブミン製剤の使用が有効なことがある.
アルブミン25% 50mL 2A→フロセミド 20mg静注
アルブミン製剤はアルブミン25% 100mLが月3回まで使用できる.
塞栓症
静脈血栓症が合併しやすく,まれではあるが,動脈血栓症の報告もある.
ネフローゼ症候群に合併する血栓塞栓症の頻度は,小児では9.2%,成人では26.7%とされている.
ネフローゼ症候群の原因によって腎静脈血栓症の頻度は異なり,高頻度に認められるのは膜性腎症(37%),膜性増殖性糸球体腎炎(26.2%),微小変化型ネフローゼ症候群(24.1%),巣状糸球体硬化症(18.8%)およびその他(28.3%).
病態
血液凝固能の亢進
フィブリノーゲンやⅡ,Ⅴ,Ⅶ,Ⅹなどの凝固因子の肝合成増加や尿中への抗凝固因子(アンチトロンビンⅢ,遊離型プロテインS)の漏出
線溶能の低下
線溶系蛋白(プラスミノゲン)の漏出とα1—アンチトリプシン増加など
血小板凝集能亢進
血管内脱水による血液濃縮
ステロイド薬などによる凝固能亢進
評価
初期検査として,凝固検査は重要.通常の凝固機能検査に加えて,FDPやDダイマーなども検査する.
予防
弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法
日本血栓止血学会の「肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン」では,ネフローゼ症候群は内科系疾患のなかで中等度のリスク疾患であり,高齢や脱水,静脈血栓塞栓症の既往や血栓性素因の有無を加味して,予防法を実施することが推奨されている.
予防法としては,長期臥床の際は弾性ストッキングあるいは間欠的空気圧迫法での対応が推奨されている.
ヘパリン
低用量未分画ヘパリンを実施する場合は,8 時間もしくは12 時間ごとに5,000 単位の皮下注が推奨されている.
用量調節未分画ヘパリンを実施する場合は,APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)の正常上限を目標とするように未分画ヘパリンの投与量調節が推奨されている.
・ヘパリン 10000単位(10mL)+5%TZ 38mL→2mL/hr(APTT正常上限を目指して調整)
ワーファリン
予防が長期になる場合は,ワルファリン内服によってINR が1.5~2.5 になるように用量調節することが推奨されている.
(DOAC)
選択的直接作用型第Ⅹa 因子阻害剤のリバーロキサバンや,直接トロンビン阻害剤のダビガトランは,ネフローゼ症候群の動静脈血栓症の合併に対して使用された治療経験が報告されているが,血栓症予防目的では保険適用がない.
脂質異常症
病態
①膠質浸透圧の低下→肝細胞に直接作用→アルブミン合成回路と同時にリポ蛋白合成回路も活性化→高LDL コレステロール血症
②内皮細胞でのリポ蛋白リパーゼ活性低下→リポ蛋白分解が阻害
・肝におけるVLDL合成亢進,lipoprotein lipaseやlecithin cholesterol acyltransferase などの酵素活性低下によるリポ蛋白異化の低下によりVLDL,LDL,IDL が増加する.
・リン脂質,中性脂肪の増加もみられる.
・HDL-Cは一般的に正常だが,高度ネフローゼ状態では尿中に漏出する.
対応
スタチン
ネフローゼ症候群の症例にスタチン製剤を使用しても,一般人と同様に総コレステロール,LDL コレステロール,中性脂肪低下作用,HDLコレステロール増加作用がある.
・しかし,心血管疾患予防効果や生命予後改善効果を一次エンドポイントとした前向き研究がなく,生命予後改善効果は不明である.