ナトリウム利尿ペプチド natriuretic peptide

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なすび医学ノート

心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP),脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)は,分子内に類似の環状構造を有するペプチドホルモンであり,ナトリウム利尿ペプチドファミリーを形成している.

ANPとBNPは心筋細胞で生合成・分泌される循環ホルモン.

心房性ナトリウム利尿ペプチド atrial natriuretic peptide;ANP

DWの決定(血液透析)

透析前後で大きく変動することから,透析終了時体重の設定の指標として用いられる.
→透析後にANPが測定

透析後の血漿ANPは,50 pg/mL未満で心臓死のリスクが低くなるため,目標値とされている.

脳性ナトリウム利尿ペプチド brain natriuretic peptide;BNP

本邦ではBNPとNT-proBNPでは歴史的背景もありBNPの方が広く使用されてきた.

BNPはナトリウム利尿ペプチドファミリーの2 番目のペプチドホルモンであり,主として心臓で産生されている.

ANPとBNPは心臓が主たる産生臓器でヒトの場合心臓以外の臓器でのこれらペプチドの産生はごく微量.
・血中循環しているANP,BNPはほぼ100%心臓由来
・ANPは主として心房で,BNPは主として心室で産生されることが明らかとなった.

BNP遺伝子からは,転写・翻訳後,BNP前駆体(proBNP[1-108])が生成される.
その後,この前駆体は,心筋細胞の中で生理活性を有さないNT-proBNP(proBNPのN端から76 個のアミノ酸[1-76])と生理活性を有する成熟型BNP(残りの32 個のアミノ酸[77-108])に切断される.
→BNPとNT-proBNPは心筋から等モルで分泌される.

流血中には,切断されていないBNP前駆体と成熟型のBNP[77-108],N端のフラグメントであるBNP[1-76]のペプチドが循環していることになる.

N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)

・主に心室の壁応力(進展ストレス)に応じて遺伝子発現が亢進し,生成・分泌

健常者の場合
極めて低い血中濃度

心不全(内腔拡大→壁応力増大)
重症度に応じて血中濃度増大
→心不全の有用なバイオマーカー

NT-proBNPは血中半減期が長く,腎排泄率が高いために,腎機能障害の患者でより高くなりやすい.

物質としての安定性はNT-proBNPが高く,BNPを外注するところではこっち.
自院でBNP測定できるなら,そこまでの価値はないかも・・・

BNP,NT-proBNPの測定系とBNP遺伝子発現亢進機序

現在臨床的に使用されているBNP,NTproBNPに対するキットは双方ともサンドイッチイムノアッセイで,前者はBNP[77-108]に対する2 種類の抗体,後者はBNP[1-76]に対する2種類の抗体を用いている.

成熟型のいわゆるBNPに対するEIAはBNP[77-108]とBNP前駆体の双方を,また,NT-proBNPに対するEIAはBNP[1-76]とBNP前駆体の双方を認識する.

BNPとNT-proBNPの値は,基本的にはBNP遺伝子発現の増減に比例している.
BNP遺伝子発現は,心室への負荷の増加によって亢進する.

心室へのストレッチが増加すると遺伝子発現が亢進する.
・左心不全,右心不全ともにその重症度に比例して血中BNP,NTproBNP濃度は上昇する.
・心室のリモデリングを伴う疾患ではBNP遺伝子発現が亢進し血中BNP,NTproBNP濃度が上昇する.
→拡張型心筋症,陳旧性心筋梗塞,弁膜症,閉塞性肥大型心筋症,高血圧性心疾患などが含まれる.
→狭心症や心室性期外収縮等ではこれらペプチドの血中濃度はそれほど上昇していないことも多い.
→収縮性心膜炎は心室のストレッチが少ないために軽度の上昇にとどまっていることが多い.

BNP遺伝子は主たる産生部位は心室であるが,心房でも全体の約10% 産生されている

発作性心房細動や慢性心房細動時には,心房由来のBNP,NTproBNPが上昇する.

心臓に対する負荷以外には,腎機能と加齢が,血中濃度に影響を与える大きな因子であるが,一般に腎機能低下例ではBNP値,NT-proBNP値は高値を示す.

この機序は完全には不明であるが,腎機能低下症例では容量負荷に起因する心臓への負荷亢進,腎臓におけるペプチドの分解,排泄の低下等が関与していると考えられている.

高齢者でもBNP値,NT-proBNP値が高値を示すが,これは高齢者のサブクリニカル心機能障害や,加齢に伴う腎機能低下に関連する機序が考えられているが詳細は未だに不明である.
・NT-proBNPはその代謝の殆どが腎臓からの濾過による排泄に依存しているために軽度の腎機能低下でも大きな影響を受けることが知られている.
→eGFR30 mL/min/1.73m2 未満の症例では増加の程度が大きくなることには注意が必要であり,通常のカットオフ値は当てはまらない.

一般に女性(特に高齢)が高値を示す.

要因は明らかではないが,ホルモン補充療法を受けている女性では高値を示す報告があり,血中エストロゲンとの関与も推定されている.

BNP,NT-proBNPのカットオフ値

本邦でのBNP値のエビデンスを優先し,まずBNPのカットオフ値を設定し,その後そのBNP値に相当するNT-proBNP値を記載している.

ARNI内服している場合は,NT-proBNP一択.

~18.4 pg/mL(正常値)

BNP 18.4 pg/mLに相当するNT-proBNP値は未だエビデンスが不足している.

この値より低い場合には,潜在的な心不全の可能性は極めて低いと判断される.

18.4~40 pg/mL

NT-proBNP ~125 pg/mL

心不全の危険因子を有している症例でも,直ちに治療が必要となる心不全の可能性は低いと判断される.

BNPだけでは心不全の程度を過小評価してしまう場合(収縮性心膜炎,僧帽弁狭窄症,発作的に生じる不整脈,一部の虚血性心疾患,高度肥満などを伴う心不全)もあるので,症状や症候を十分に加味して判断する.

40~100 pg/mL

NT-proBNP 125~400 pg/mL

軽度の心不全の可能性がある.

危険要因が多い症例や心不全を発症する基礎疾患を持っている症例では,胸部X線,心電図,心エコー図検査の実施をお勧めする.

この範囲では,重症心不全である可能性は低く,BNP上昇の原因がある程度特定できれば,そのまま経過観察することも可能.

100~200 pg/mL

NT-proBNP 400~900 pg/mL

治療対象となる心不全である可能性がある.

心エコー図検査を含む検査を早期に実施し,原因検索をする.

200 pg/mL以上

NT-proBNP 900~ pg/mL

治療対象となる心不全である可能性が高いと思われる.

原因検索に引き続き,症状を伴う場合は心不全治療を開始する.

BNPガイド下治療

基本的に,BNPやNT-proBNP値をある数値以下に維持しなければいけないという絶対的な目標値はなく,実臨床では個々の症例に最適なBNP値やNT-proBNP値を見つけ,その値を維持する包括的な疾病管理,つまり,生活習慣の是正(断煙,断酒,減塩,食事や運動の適正化など)と適切な薬物治療が重要.

1)心不全管理中のBNPやNT-proBNP値は過去との比較が大切.
・前回に較べて2倍以上に上昇した時には,原因を探索し,介入が必要.
2)ある絶対的な目標値を掲げてしまうと,重症心不全のために,BNPが低下し難い症例でも,BNPを低下させる為に利尿剤等の過剰投与を招き,返って腎機能低下に陥る可能性がある.
3)心機能が改善しやすい症例では,本当はもっと低値までBNP値を低下させることが可能であるにも関わらず,レニン・アンジオテンシン阻害薬やβ遮断薬を十分に増量せずに管理してしまう危険性もある.

まずはBNP値で300 pg/mL以下を目標にして治療を開始し,そこまで低下させると腎機能が上昇するようなら,利尿剤を減量し腎機能の安定するバランスを見つける.
レニン・アンジオテンシン系阻害薬やβ遮断薬を増量し,自然とBNP値が下がるようであるなら,目標値を低下させていくようにしている.

C型ナトリウム利尿ペプチド C-type natriuretic peptide;CNP

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