膜性腎症 membranous nephropathy

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なすび医学ノート

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糸球体基底膜上皮下への免疫複合体(immune complex;IC)の沈着と基底膜の肥厚により生じる疾患.

潜行性に発症し緩慢な経過をとり,ネフローゼ症候群を呈するものが多い.

糸球体係蹄壁はびまん性に肥厚し,メサンギウム領域の増殖性変化は乏しい.
・このため腎炎nephritisではなく腎症nephropathyと呼称されることが多い.

大部分が原疾患の不明な特発性(一次性)のものであるが,一部には多彩な病因による続発性(二次性)の膜性腎症も認められる.

疫学

本症は成人に発症し,成人の原発性ネフローゼ症候群で最も頻度が高い(約1/3~1/4).

・特に30~50歳代の発症が多い.
・ J-RBR登録において膜性腎症は原発性ネフローゼ症候群の36.8%が膜性腎症.
 30歳以降に増加し,60歳をピークとした年齢分布となり,ネフローゼ症候群の過半数を本症が占めるようになる.
・小児期はきわめて稀.
・性別では2:1で男性に多い.

原因

非ネフローゼ症候群を含む膜性腎症例の解析(J-RBR)では,77.9%が原発性,22.1%が二次性膜性腎症(最多はブシラミン腎症)と分類された.

原発性

PLA1RおよびTHSD7Aは糸球体上皮細胞上に発現しており,これらの蛋白に対する自己抗体としてPLA2R抗体またはTHSD7A抗体が生じると,免疫複合体の形成や補体の活性化を通して上皮細胞の障害を引き起こす機序が想定されている.

M型フォスフォリパーゼA2受容体 M type phospholipase A2 receptor;PLA2R

2009年にSalantらのグループが足細胞の成分である,PLA2Rを抗原とするIgG4を中心とする抗体に70%認められることを報告した.
→in situで抗原抗体複合体を形成し,ポドサイト障害を起こし,ネフローゼ症候群をきたす可能性が示された.

トロンボスポンジン1型ドメイン含有7A thrombospondin type-1 domain-containing 7A;THSD7A

・2014年にPLA2Rにつぐ抗原として,THSD7Aが発見された.
・一次性膜性腎症の原因抗原であり,自己抗体が一次性膜性腎症患者の約5%に陽性となることが報告された.

二次性

膠原病(SLE・関節リウマチ・Sjoegren症候群),感染症(B型肝炎・C型肝炎・梅毒・マラリア),薬剤(金製剤・D-ペニシラミン・ブシラミン・TNF-α阻害薬),悪性腫瘍(肺癌/胃癌/大腸癌などの固形癌・胸腺腫・悪性リンパ腫など)などに続発する膜性腎症が知られている.

・高齢者では悪性腫瘍を合併する頻度が高い.
・中年女性の場合は自己免疫疾患による場合が多い.
・小児の膜性腎症はまれであるが,肝炎ウイルスが関与していることが多い.
・2012年の集計では,悪性腫瘍の合併は813例中8例(1.0%)であり,欧米人の悪性腫瘍の合併率は7~10%と報告されていることから,日本人の悪性腫瘍合併率は欧米人に比して明らかに低い.

IgG4関連疾患や骨髄移植後の移植片対宿主病(GVHD)に伴う疾患,腎移植後に再発もしくは新規発症する症例も報告されている.

病態

免疫複合沈着型腎炎の典型といわれているが,ICのGBM上皮下への沈着様式には次の2説が提唱されている.

IC沈着による糸球体基底膜の病変が血漿蛋白に対するバリアーを障害し,蛋白尿を呈するものと考えられる.

circulating IC formation説
流血中にある抗原と抗体が小サイズのICを形成し,GBMを通過して上皮側に沈着する.

in situ IC formation説
抗原成分が単独でGBM上皮側に沈着し,これに対する抗体があとからGBMを通過して,その場所にてICを形成する.

静脈塞栓症

ネフローゼ期に血液凝固能の亢進を認めるものが多く,腎静脈血栓症を合併することが注目されている.
ネフローゼ症候群全体でみた場合,病理学診断では膜性腎症が最多.

・膜性腎症での血栓症発症割合は7~8% と報告されている.Kidney Int 2012; 81: 190‒195,Clin J Am Soc Nephrol 2012; 7: 43‒51
・凝固阻止因子の尿中喪失によるものと考えられているが詳細は不明.
・動脈血栓症も起こすことが知られている.

症候

高血圧症は10~35%に併発するが,研究班の報告では約20%.

浮腫が目立たないため,脂質異常症などが発見のきっかけになることも.

尿検査

多量の蛋白尿を認めるものが多く,血尿は軽度.

・70~80%はネフローゼ症候群を呈する.
・ネフローゼ症候群を呈しても,尿蛋白の増加が必ずしも急速ではない.
・チャンス蛋白尿あるいは無症候性蛋白尿として発見されるものが増加している.
・血尿は調査によると約40%くらい.

尿蛋白選択性は0.2前後と比較的低下している.
・尿蛋白の選択性はMCNSや膜性増殖性腎炎,糖尿病性腎症の中間に位置する.
・尿蛋白選択性は高いものから低いものまでさまざま.
・高いものほど予後良好.

血液検査

腎機能は保たれているものが多く,尿蛋白の持続期間や病期との間にはほとんど相関がみられない.
・後期の症例では腎機能低下例が増加する.
・性別で明らかな違いがあり,腎機能低下例は女性にはきわめて少ない.

抗体検査

抗体は,一次性および二次性の鑑別に有用である上に,治療反応性を予測する意味でも利用でき,臨床上の測定意義は大きい.
・抗体濃度は疾患活動性と並行して低下することが知られており,また尿蛋白の減少に先行することが報告されている.

PLA2R抗体

PLA2Rに対する自己抗体(抗PLA2R抗体)が一次性膜性腎症の約70%で陽性になるが,日本人の膜性腎症における血中の抗体陽性率は約50%であることが報告されている.
・陽性例のうち,98.7%で糸球体のPLA2R抗原を認める.
・陰性例のうち,70.6%で糸球体のPLA2R抗原は陰性.
・血清抗体陽性 and 糸球体抗原陽性では,尿蛋白量も多く,寛解率が低い.

膜性腎症以外でPLA2R抗体陽性となることはこれまでに報告がなく,特異度が高い検査であるといえる.
・診断研究のメタ解析の結果では,膜性腎症における血清中の抗PLA2R抗体の一次性膜性腎症と二次性膜性腎症の判別能は,感度68%,特異度97%,AUROC(area under the receiver operating characteristics) 0.82.

特発性膜性腎症の診断のための,血清抗PLA2R抗体の測定は,腎生検の実施が難しい場合には測定してもよい(保険適応外).

THSD7抗体

PLA2R抗体陰性の一次性膜性腎症の患者に特異的に検出されている.
一次性膜性腎症患者の約5%に陽性となる.

病理

光学顕微鏡

典型例では,PAM染色で糸球体基底膜のスパイク形成や虫食い像,PAS染色で糸球体係蹄のびまん性肥厚が観察される.

・糸球体係蹄壁はびまん性に肥厚するのが特徴で,メサンギウムの増殖性変化はないか,あっても軽度.
・初期では係蹄の肥厚は軽微で,微小変化型ネフローゼと鑑別がつかず,蛍光所見や電顕所見により初めて診断がつくことがある.
・Masson染色では基底膜上皮側に赤染する沈着物を認める.

組織病型は,基底膜の免疫複合体に対する立ち上がりの程度によりChurgⅠ~Ⅳまで分類されている(銀染色).
StageⅠ:沈着部分が泡状(バブリング)に抜けてみえる.
StageⅡ:再生した基底膜が,沈着物の間に進展しspike状にみえる.
StageⅢ:さらに進行すると再生した基底膜が沈着物を覆うような形になり,ドーム様変化と呼んでいる.
StageⅣ:最終的には,沈着した免疫グロブリンが吸収され,スイス・チーズ様構造となる.

蛍光抗体法

糸球体係蹄壁に沿ってIgG,C3がびまん性顆粒状沈着がみられる.

一般的に,一次性膜性腎症では,IgG以外の免疫グロブリンやC4,C1qなどの補体成分は染色されないことが多いが,膠原病や感染症などによる二次性膜性腎症では,IgA,IgM,C1q,C4などが沈着することがある.
・中でもC1qの沈着はループス腎炎の存在を示唆する所見.

IgGサブクラス染色も重要で,糸球体に沈着するIgGのサブクラスを検討すると,一次性と二次性では異なっていることが報告されている.
・一次性ではIgG1とIgG4の染色性が強く,特にIgG4が染色されることが特徴的.
・二次性では他のサブクラス,IgG1,IgG2(悪性腫瘍),IgG3(薬剤ブシラミン),IgG2,IgG3(ループス腎炎ISN/RPSⅤ型)も陽性になる.

わが国での原発性膜性腎症に関する腎生検での免疫組織学的解析で,M-type ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R1)は52.7%,トロンボスポンジン1 型ドメイン含有7A(THSD7A)は9.1%で陽性が確認されているとの報告がある.PloS One 2015; 10: e0138841

電子顕微鏡

電子密度の高い沈着物が基底膜上皮下(subepithelial deposit)に認められ,これらdepositに反応して基底膜が肥厚すると考えられている.
・spike形成はdepositそのものでなく,この基底膜の肥厚を観察していることに注意する.

電顕所見によってI~IV期にStage分類がなされる.

治療

一般に緩慢な経過をとるものが多く,予後は比較的良好である.
・最近の報告(JNSCS)では,平均4.2年の観察期間,完全寛解は67.8%,不完全寛解Ⅰ型が75.0%,不完全寛解Ⅱ型86.5%.
・高齢(65歳以上)の報告(J-RBR)では,1~3年間の観察期間において,完全寛解は55.2%,不完全寛解Ⅰ型が62.1%.
・ネフローゼ症候群を呈するものは,その病態によって経過・予後に違いがある.

死因は,近年,腎死に加え心血管障害や悪性腫瘍などによるものも増加している.
高齢者の膜性腎症では悪性腫瘍を検索することが重要であり,悪性腫瘍が存在していた場合は腫瘍摘出により,膜性腎症が寛解することもある.

支持療法

膜性腎症は自然寛解例の報告が多いのが特徴(約20~30%).

ステロイドや免疫抑制薬を使用しない支持療法のみの場合でも,37.4%が完全寛解となっていることが示されてる.

高血圧
ACEIやARBの使用を考慮する.
*CyA使用時の輸入細動脈を主体とした狭窄による高血圧はCa blockerが適応

脂質異常症
HMG-CoA還元酵素阻害薬やezetimibeの投与を考慮する。
スタチンとcyclosporineの併用は禁忌!(横紋筋融解症)

抗血小板薬,抗凝固薬
血液凝固能亢進を考慮し抗血小板薬を併用することが望ましい.
・特に腎静脈血栓症を合併している例では,ステロイドにより過凝固状態が悪化し,肺塞栓を招く危険もあるため,強力に抗凝固療法を行う.
・動静脈血栓形成の恐れに対しては抗凝固薬を考慮する.
 ワーファリン 1~5mg経口.PT-INR 1.3~1.5に調整

特発性

支持療法単独よりもシクロホスファミド(CY),ミゾリビン,タクロリムス,クロラムブシルのいずれかとステロイド(GC)の併用,もしくはACTHによる治療を提案する.
*タクロリムスは保険適用外
*クロラムブシルは本邦未承認

KDIGO糸球体腎炎プラクティスガイドライン2012では,ネフローゼ症候群による重度の徴候を示す場合を除き,レニン・アンジオテンシン系阻害薬を含む保存的治療で6ヶ月観察した後,4g/day以上の高度の蛋白尿が持続する場合や,血清Cr値の30%以上がみられる予後不良例に限定して,免疫抑制療法を行うことが推奨されている.

発症年齢,薬剤の副作用を十分考慮して個々の患者に最も相応しい治療法を選択することが重要.

本邦ではネフローゼ症候群を呈している場合は,ステロイド薬を主体にした治療が行われることが多い.
・欧米の成績より良好.
・ステロイド薬を主体とした治療では約60%で完全寛解となっている.さらに免疫抑制薬をステロイド薬と併用すると約80%は完全寛解になる.

第一に推奨されているレジメンは,GCとアルキル化剤(内服CYまたはクロラムブシル)を1ヶ月毎に6ヶ月間交互に投与する(Ponticelliレジメン).

本邦では,CYの副作用が懸念され,GC+シクロスポリン(CyA)が使用されることが多く,2017年のガイドラインではGC+CyAはGC+CYよりエビデンスレベルは低いものの,推奨度が高くなっている.

初期治療

prednisolone(PSL) 0.6~0.8mg/kg/day相当を投与.

・ステロイド抵抗性か見極めるために、4週間は単独投与.
・高齢者などで副作用の恐れがある場合には2週間程度で他の免疫抑制剤を併用し,減量する.
→PSL+ミゾリビン

ステロイド抵抗性

*ステロイドで4週以上治療しても完全寛解あるいは不完全寛解Ⅰ型(尿蛋白1g/day未満)
免疫抑制薬で下記のいずれかの併用考慮(保険適応はCyAとMZRのみ)

cyclosporine 2.0~3.0mg/kg/day(食前1日1回)
C2 600-900ng/mlに設定
calcineurin阻害薬.骨髄抑制作用がない.
副作用:高血圧,腎障害(尿細管障害/細動脈病変/間質線維化など),神経障害など

mizoribine 150mg/day(分1~分3食後)
purine代謝拮抗薬.細胞毒性が弱く,長期使用も可能(2年程度).
腎排泄性.過剰とならないよう量に注意.

cyclophosphamide 50~100mg/day(分1 or 分2食後),未承認
3ヶ月以上は好ましくない.骨髄抑制,出血性膀胱炎,間質性肺炎

リツキシマブ

現時点で第一選択にはなりえないが,難治病態のおいては効果が期待できる.

MENTOR試験 N Engl J Med. 2019 ; 381(1): 36-46
特発性膜性腎症(PLA2R抗体陽性 70%以上)に対して、リツキシマブ(RTX)とシクロスポリン(CSA)の効果を比較した.
→RTXは長期間の蛋白尿の寛解に関してCSAに対して非劣性であり,安全性プロファイルも良好だった.

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