ミトコンドリア糖尿病 maternal-inherited diabetes with deafness;MIDD

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なすび医学ノート

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糖尿病のサプタイプのひとつで,ミトコンドリアDNA(mtDNA)異常によるインスリン分泌低下型の糖尿病.

新しい糖尿病の分類・診断基準では「Ⅲ.その他の特定の機序,疾患によるもの,A遺伝因子」として遺伝子異常が同定されたもののうち,「(1)勝β細胞機能にかかわる遺伝子異常」に分類され,遺伝子異常が同定された糖尿病のなかでもっとも頻度が高い.

病態

mtDNAの割合が増加し,ある関値を超えるとミトコンドリア呼吸鎖活性低下により細胞機能不全をきたす.

・とくに脳神経,筋肉,膵島などエネルギー依存度の高い臓器で機能不全をきたしやすい.
・脳神経,筋肉がおもに障害される病態がミトコンドリア脳筋症である.
・心臓が障害されるとミトコンドリア心筋症や心伝導障害となり,膵ラ島β細胞障害ではMIDDとなる.

・糖尿病を合併しやすいmtDNA異常疾患としては,mitochondrialmyopathy encephalopathy,lactic acidosis and stroke-like episode (MELAS),myoclonus epilepsy associated with ragged-red fiber(MERRF),chrinic progressive external ophthalmoplegia(CPEO),Kerns-Sayre症候群,ミトコンドリア心筋症Pearson-Pancreas症候群などがある.
→いずれもインスリン分泌低下型の糖尿病

ミトコンドリア

・細胞の核DNAとは別にミトコンドリアDNAが存在し,あたかも1つの細胞であるかのようにDNA複製が行われる.
・1個の細胞にはいくつものミトコンドリアが存在し,1個のミトコンドリアにはいくつものミトコンドリアDNAが存在する.
・細胞分裂時には細胞質のミトコンドリアは2個の細胞にランダムに振り分けられる.
・ミトコンドリアは細胞質に存在するため,ほとんど細胞質を有さない精子を介しては遺伝しない.

ミトコンドリアDNA変異とアポトーシス

プログラムされた細胞死,アポトーシスにおいてミトコンドリアが中心的な役割を果たすことが明らかになった.
1)細胞死のシグナルが開始されると,まずミトコンドリア膜電位の低下と膜透過性遷移が起こりミトコンドリアからチトクロームCが放出される.
2)チトクロームCは細胞質因子と共同でカスパーゼを活性化し,不可逆的な細胞死のプロセスが進行する.
3)ミトコンドリアから放出されるapoptosis-inducing factorは,核DNAの断片化を促進する.

ミトコンドリアDNA変異の蓄積は,呼吸鎖の脱共役を増加させてミトコンドリア膜電位低下と膜透過性選移に移行しやすくする.
・ミトコンドリアDNA変異が細胞のアポトーシス感受性を高めることは,細胞の種類を問わず一般的に認められる現象.
→膵β細胞においても,ミトコンドリアDNA変異がアポトーシス感受性を高める機序が想定される.これがMIDDにおけるインスリン分泌障害の機序のひとつと考えられている.

インスリン分泌とmtDNA

1)グルコースは膵β細胞に取り込まれ,グルコキナーゼによりグルコース-6-リン酸に変換され,解糖系でピルビン酸にまで分解される.
2)ピルビン酸はミトコンドリアのTCAサイクルに流入する.
TCAサイクルによって炭素部分は炭素として除かれ,水素部分はおもにNADHとして内膜の電子伝達系に渡される.
3)電子伝達系のチトクローム酸化酵素は,酸素を用いてNADHの水素を酸化して遊離されるエネルギーを内膜のATP合成酵素に伝え,ADPとPiからATPを合成させる.
4)ATPは内膜の輸送蛋白ATP/ADP translocaseを介してミトコンドリア外に運びだされ,細胞質のATP/ADP比が上昇する.
5)ATP/ADP比上昇によりATP感受性Kチャネルが抑制され,細胞膜のK+に対する透過性が低下し,細胞膜の脱分極が起こる.
6)細胞膜の脱分極に伴って電位依存性Caチャネルが聞き,細胞外からCa2+が流入し,細胞内Ca2+上昇によりインスリン分泌穎粒の開口放出が起こる.
→ミトコンドリア電子伝達系機能低下は,グルコース刺激インスリン分泌の低下をきたす.

mtDNA3243点変異糖尿病

tRNA3243A-G点変異によるMIDDは母系遺伝,感音性難聴を高率に合併する特徴的な臨床像を示す

3243A-G点変異は日本人糖尿病患者の約1%に認められ,この頻度はオランダ,フランスやフィンランドでもほぼ同じ程度であり,あまり人種差を認めない.
・遺伝子異常による糖尿病のなかで,もっとも高頻度に認められる遺伝子変異.

MELAS患者線維芽細胞を用いた検討では3243点変異率が70~80%以上を超えないと電子伝達系の低下をきたさないことが報告されている.

糖尿病の病態

・糖尿病の診断時年齢は平均32.8歳と,比較的若年発症.
・糖尿病家族歴では母親に59.1%,父親に4.3%の糖尿病を認めた.
*全例に母系遺伝を認めるものではないことには注意が必要.

・糖尿病の病型診断は,1型糖尿病37.4%, SPIDDM 12.2%, 2型糖尿病50.4%であり,多様な病型をとりうる.
・半数が1型糖尿病またはSPIDDMと診断されたが,発症後平均8.2年目の測定ではGAD抗体は全例陰性であり,病因に自己免疫的機序の関与が少ないことが示唆された.
・インスリン分泌能は低下例が多いが,完全に枯渇例はなかった.

・3243点変異症例の剖検報告では膵ラ島の減少,とくにβ細胞数の減少が著明.
→インスリン分泌障害の機序として,①電子伝達系の低下によるグルコース感受性の低下,②mtDNA異常がアポトーシス誘導することによるβ細胞数の減少が機序として考えられている.

・治療はインスリン治療例が86.1%と高率.
・診断からインスリン療法まで平均3年で移行している.

特徴

・低身長,やせが特徴.

・血球細胞の3243変異率は13.1%と比較的低い.

・血中乳酸値とL/P比の上昇を認めた.

合併症

・感音性難聴の合併頻度が92.2%と高率であり,かつ難聴の診断年齢は33.2歳とほぼ糖尿病診断と同時期に診断されている.

・心筋症を30.4%,心刺激伝導障害を27.8%,脳筋症を25.2%に認めており,糖尿病発症後にMELASを発症した症例を14.8%に認めている.

・糖尿病性慢性合併症では49.6%に末梢神経障害を,26.1%に自律神経障害を認めた.
・有痛性末梢神経障害を比較的高率に認め,かっ神経因性勝脱,起立性低血圧,勃起障害,糖尿病性下痢,胃無力症など多彩な自律神経障害を認めることが特徴.
・網膜症を56.5%,腎症を49.6%に認めた.糖尿病擢病期間が12.9年の割には合併症に進行例が多い.

・MIDDの特異的な網膜所見としてmacular pattern dystrophyが報告され,MIDDの診断に有用性が高い臨床所見と考えられる.

遺伝子診断

・3243A-G点変異の遺伝子診断は,ほとんど3243点変異により制限酵素Apa-1により切断される部位が出現することを利用したrestriction-fragement-length-polymorphism(PCR-RFLP)法で実施されている.→外注検査でBMLやSRL社が利用でき,まだ健康保険適応でないものの,十分日常臨床レベルのものになっている.

・遺伝子検査は,かならず被験者本人に医療スタッフが遺伝子診断の意味を十分説明してインフォームドコンセントを得て実施する必要がある.

・検査結果は母系遺伝を配慮して個別に説明する.遺伝子診断には十分な時間をとったカウンセリングが欠かせない.

ミトコンドリア病の認定基準

確実例:(1)①から③のうち1項目以上を満たし,かつ(2)①から⑤のうち,2項目以上を満たすもの(計3項目必要)

疑い例:(1)①から③のうち1項目以上を満たし,かつ(2)②から⑤のうち,1項目以上を満たすもの(乳酸値は非特異的であるので①は除く)(計2項目必要)

1.主要項目

(1)主症候

①進行性の筋力低下,又は外眼筋麻痺を認める.

②知的退行,記銘力障害,痙攣,精神症状,失語・失認・失行,痙攣,強度視力低下,一過性麻痺,半盲,皮質盲,ミオクローヌス,ジストニア,小脳失調などの中枢神経症状のうち,1つ以上を認める.

③心伝導障害,心筋症などの心症状,糸球体硬化症,腎尿細管機能異常などの腎症状,強度の貧血などの血液症状,中等度以上の肝機能低下などの肝症状のうち,1つ以上を認める.

(2)検査・画像所見

①安静臥床時の血清又は髄液の乳酸値が繰り返して高い,又はMRスペクトロスコピーで病変部に明らかな乳酸ピークを認める.

②脳CT/MRIにて,梗塞様病変,大脳・小脳萎縮像,大脳基底核,脳幹に両側対称性の病変等を認める.

③筋生検又は症状のある臓器でミトコンドリアの形態異常を認める.

なお,必要に応じて,以下の検査を行った場合
④ミトコンドリア関連酵素の欠損又はコエンザイムQ10などの中間代謝物の欠乏を認める.
⑤ミトコンドリアDNAの質的,量的異常,またはミトコンドリア関連核遺伝子変異を認める.

2.参考事項

(1)病理検査

・特異度が高い.
・筋病理における,赤色ぼろ線維(ゴモリ・トリクローム変法染色における RRF: ragged-red fiber),高SDH 活性血管(コハク酸脱水素酵素における SSV:strongly SDH-reactive blood vessel),シトクロームc酸化酵素欠損線維,電子顕微鏡によるミトコンドリア形態異常,さらに骨格筋以外でも症状のある臓器・組織の病理学的検索で,明らかなミトコンドリア形態異常を認める.

(2)酵素活性・生化学検査

・特異度が高い.
・罹患組織や培養細胞を用いた酵素活性測定で,電子伝達系,ピルビン酸代謝関連 及び TCA サイクル関連酵素,脂質代謝系関連酵素などの活性低下(組織:正常の20%以下,培養細胞:正常の 30%以下)やコエンザイムQ10などの中間代謝物の欠乏を認める.

(3)DNA 検査

・特異度が高い.
・病因的と報告されているミトコンドリアDNAの質的異常である欠失・重複,点変異(MITOMAP:http://www.mitomap.org/を参照)や量的異常である欠乏状態(正常の 20%以下)があること,もしくはミトコンドリア関連核遺伝子の変異を認める.

(4)心症状の参考所見

・心電図で房室ブロック,脚ブロック,WPW症候群,心房細動,ST-T 異常,心房・心室負荷,左室側高電位,異常Q波,左軸偏位を認める.
・心エコー図で, 拡張型心筋症様を呈する場合は左心室径拡大と駆出率低下を認める.肥大型心筋症様を呈する場合は左室肥大を認める.拘束型心筋症様を呈する場合は心房の拡大と心室拡張障害を認める.
・心筋シンチグラムで,MIBI早期像での取り込み低下と洗い出しの亢進,BMIPPの取り込み亢進を認める.

(5)腎症状の参考所見

・蛋白尿(試験紙法で1+(30mg/dL)以上),血尿(尿沈査で赤血球5/HPF以上),汎アミノ酸尿(正常基準値以上)を認める.
・血中尿素窒素の上昇(20mg/dL以上),クレアチニン値の上昇(2mg/dL以上)を認める.
・腎生検で,糸球体硬化像や尿細管変性を認める.

(6)血液症状の参考所見

・強度の貧血(Hb 6g/dL以下),もしくは汎血球減少症(Hb 10g/dL,白血球 4000/μL以下,血小板10万/μL以下)を認める.

(7)肝症状の参考所見

・中等度以上の肝機能障害(AST,ALTが200U/L以上),血中アンモニア値上昇(正常基準値以上)を認める.

(8)乳酸値

・安静臥床時の血中乳酸値,もしくは髄液乳酸値が繰り返して,2mmol/L(18mg/dL)以上である,又はMRスペクトロスコピーで病変部に明らかな乳酸ピークがある.

治療

・MIDDに有効性が確立した治療はまだない.

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