鉄欠乏性貧血 iron-deficiency anemia;IDA

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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鉄の不足はヘモグロビン合成障害の原因となり,鉄欠乏性貧血の発症に至る.

鉄欠乏性貧血は日常診療において最も高い頻度で診る貧血であるが,その主たる原因は月経,消化管出血などの鉄喪失,成長や妊娠による需要の増大.

最近,これらの原因が同定されない鉄欠乏性貧血の発症にHelicobacter pylori が関与しているとの報告がある.

鉄について

役割

鉄は代謝・細胞増殖などの生命現象に必須の元素であるが,その多くは赤血球のヘモグロビンの構成元素として使われ,酸素運搬に機能している.

代謝

体内の鉄の総量は3~4 gであり,ヘモグロビン,ミオグロビン,電子伝達系,代謝酵素などの補欠分子としてのヘム鉄,網内系細胞での貯蔵鉄として存在する.

鉄の70%は赤血球に含まれるヘモグロビン鉄として利用されている.

体内で利用される鉄のほとんどは,老廃化しマクロファージで処理された赤血球由来の再利用鉄であり,少量の鉄が食事から供給される.

赤血球の寿命は120日→毎日1/120の赤血球が処理され,新生されている.

ヒトにおいて鉄の能動的な排出機構は存在せず,汗や粘膜,上皮細胞の剝離などで少量が失われるのみで,喪失量に相応する少量の鉄が食事から吸収される.
・具体的には,20~25mgの鉄が新たな赤血球のヘモグロビンとして用いられるが,食事由来の吸収鉄は1~2 mgであり,それ以外は老廃化して処理された赤血球由来の鉄になる.

十二指腸,上部空腸から吸収された鉄 or マクロファージ由来の鉄はトランスフェリンによって骨髄へと運搬され,ヘモグロビン合成に用いられる.

1)腸管からの吸収鉄,マクロファージからの再利用鉄は,トランスフェリンと結合し,赤血球造血の場である骨髄へと運搬される.
2)トランスフェリン結合鉄はトランスフェリン受容体と結合し,細胞内に取り込まれた後,pHの低いエンドソームでトランスフェリンと解離し,金属トランスポーターであるdivalent metal transporter 1(DMT1)を介してエンドソーム外に排出される.
3)エンドソームからミトコンドリアに移動した鉄はヘム合成に用いられる.

ヘプシジン-フェロポーチンによる鉄利用調節

血清中のトランスフェリンに結合するためには腸上皮細胞,マクロファージから細胞外へと排出される必要があるが,この排出を担うたんぱく質がフェロポーチンである.

フェロポーチンの発現を調節している分子が,肝臓から分泌されるペプチドであるヘプシジン(ヘプシジンは生体における鉄利用の抑制因子になる).

腸上皮細胞,マクロファージにおいてフェロポーチンの発現が上昇すれば,トランスフェリンに受け渡される鉄が増加=体内で利用可能な鉄が増加することになり,逆にその発現が低下すれば,利用可能な鉄が減少することになる.

ヘプシジンはフェロポーチンと結合し,細胞内リソゾームへと誘導することにより,フェロポーチンを分解へと導く作用を有する.
→ヘプシジンの分泌が亢進すると, フェロポーチンが腸上皮細胞やマクロファージのリソゾームで分解され,その発現が低下し,結果的にこれらの細胞からの血液中へ鉄の排出が抑制される.

ヘプシジンの発現は複数の因子により制御されている.
・細菌感染や炎症などでは鉄を栄養源とする細菌や酸化ストレスからの防御反応としてヘプシジンの分泌が亢進し,血液中の鉄レベルが抑えられる.
→ヘプシジンの分泌亢進が持続すると,マクロファージからの鉄排出が抑制された状態が継続し,結果的に造血に用いる鉄が不足することになる(慢性炎症に伴う貧血).

鉄の吸収

微量ながらも,毎日鉄が喪失されることを考えると,鉄のプールを維持するためには一定の鉄の補給が必要.

微量であれ,病的な出血による鉄喪失が加わると,生理的な鉄吸収が少ないだけに容易に体内の鉄量は負のバランスへと傾く.
・定期的に月経で鉄を失う閉経前の女性で鉄欠乏性貧血の比率が高率になる.

食事に含まれる鉄は主として十二指腸,空腸上部で吸収されるが,食事に含まれる鉄は非ヘム鉄とヘム鉄の2種類あり,それぞれ吸収のメカニズムが異なっている.

3価鉄は胃酸による低いpH状態で可溶化され,腸管上皮の腸管内腔側細胞膜に存在するduodenal cytochrome b(Dcytb)によって2価に還元された後,DMT1を介して吸収される.

ヘム鉄は別のトランスポーターであるHCP1(heme carrier protein 1)によって吸収される.

基本的にヘム鉄の吸収率は10~30%,非ヘム鉄の吸収率は1~8%とされており,ヘム鉄の方が吸収が良好.

ヘム鉄は肉類に多く含まれ,非ヘム鉄は植物系食品に多く含まれている.

1日あたりの鉄必要量はおおよそ10 mgであるが,成長期の若年者,閉経前の女性や妊娠中の女性においてはより多くの鉄摂取が必要.

病態

鉄欠乏状態が続くと,貯蔵鉄→血清鉄→ヘモグロビン鉄の順番で減少し,貧血が明らかとなる.
=貧血に至る前の潜在的鉄欠乏状態を経て,さらに鉄欠乏が進むと貧血の発症に至る.

成長期の年齢層では,鉄の需要が亢進することから高率に鉄欠乏状態にあるものの,貧血に至る率はさほど高くなく,潜在的鉄欠乏状態にとどまっている.

閉経前の成人女性は,月経により定期的に鉄を喪失することから,高頻度で鉄欠乏状態にあり,さらに潜在的鉄欠乏にとどまらず,10~20%が鉄欠乏性貧血を発症している.

(感染症)

感染症に対する影響は少ないと考えられている.

基礎研究において,鉄欠乏は,細胞性免疫の減弱,好中球の殺菌能低下,NK細胞の活性低下につながるとされているが,臨床的に鉄欠乏で感染性疾患が増加するかについては,明確になっていない.

症候

身体所見

貧血症状(易疲労感、動悸、息切れ、眩暈、異嗜味症、嚥下困難)や、貧血の身体所見(顔色、眼瞼結膜、舌・口角炎、匙状爪、脾腫)を認めることがある.

ヘモグロビン

日本鉄バイオサイエンス学会は,鉄欠乏性貧血の診断基準として,ヘモグロビン12 g/dl以下,総鉄結合能360 μg/dl以上,血清フェリチン値12 ng/ml以下を挙げている.

血清フェリチン値

生体内の鉄の貯蔵を最も鋭敏に反映する指標.

血清フェリチン値は基本的に組織フェリチン値を反映しており,鉄欠乏状態では低値を示し,鉄過剰状態では高値を示す.

鉄欠乏性貧血に至る前の潜在的鉄欠乏では,ヘモグロビン値は正常であるが,フェリチン値が低下している.

鉄欠乏性貧血の治療後の経過では,ヘモグロビン値が正常化した後にフェリチン値が正常化してくる.

臨床的には小球性貧血を呈し,血清鉄が低下している場合,鉄欠乏性貧血として治療を開始することが多いと思われるが,慢性炎症に伴う貧血との鑑別や鉄剤の治療効果の判定に血清フェリチン値の測定は必須.

治療

鉄の需要が高まっている成長期もしくは妊娠中の症例,月経を有する若年女性であれば,鉄剤の投与を開始する.

閉経後や成人男性の場合は積極的に消化管検査などの検査を実施し,出血源のスクリーニングを行う.

鉄剤

通常の治療においては100~200 mg/日の経口鉄剤が用いられるため,鉄の吸収量を考慮すると十分な量の鉄が投与されることになる.

治療開始後,数日で網赤血球の上昇が認められ,開始時の重症度や出血のレベルにもよるが,通常2カ月程度で貧血は正常化する.

→鉄欠乏性貧血に対しては原則的に輸血は不要.

ヘモグロビン値の正常化した時点で直ちに鉄剤の投与を中止せずに,フェリチン値が正常化した時点で中止するのが望ましい.

Cmaxを比べると、フェロミア100mg分1=フェロ・グラデュメット105mg分1=フェルム100mg分1がほぼ同じく血清鉄を50~70μg/dL上昇させる。

Tmaxを比べると、フェロミア=フェルムでその2倍がフェロ・グラデュメットとなっている。

フェロミア®(クエン酸第一鉄Na) 有機鉄

有機鉄なのでpHに影響されにくく食後服用が可能(空腹時は胃に負担がかかる).

鉄イオン単独では人体にとって有害作用を及ぼすため基本何かと結合した状態で存在する.
・血清鉄は主にトランスフェリン内のFe3+ということになる.

フェロミア経口投与後のTmaxは約4時間,12時間後にはほぼ血清鉄増加分は0となり,24時間後では生理的な日内変動の変動内にあり,血清中の鉄の貯蔵鉄プールへの移行が高まったために投与前よりも低下している.

フェロ・グラデュメット®(乾燥硫酸鉄) 無機鉄

錠剤を構成する多孔性のプラスチック格子(グラデュメット)の間隙に硫酸鉄を含有し,内服後,消化管内で物理的拡散により鉄を徐々に放出する徐放製剤.

Tmaxは約12時間と長く,24時間後に血清鉄増加分が0となる.

胃の中で急速に鉄を放出することがないので,胃粘膜に対する刺激が少なく,鉄吸収効率の高い空腹時にも投与することができる.

粉砕できない

クエン酸第二鉄水和物錠 リオナ®

通常,成人には,クエン酸第二鉄として1回500mgを1日1回食直後に経口投与する.
患者の状態に応じて適宜増減するが,最高用量は1回500mgを1日2回までとする.

GBB4-2試験

静注鉄剤 フェジン®

貧血に対して静注鉄剤を過剰投与すると,感染症発症リスクが高まるため,頻回に鉄剤静注や輸血を実施する症例では,フェリチン値のフォローが必要.

静注鉄剤や頻回輸血により鉄過剰状態となると,
1)菌血症のリスクが高くなる.
2)Listeria monocytogenes,Vibrio vulnificus,Yersinia enterocoliticaなど,主に細胞内寄生菌による感染症のリスクが増加することが報告されている.

鉄は,ほぼ全ての生物の生存と増殖に不可欠な微量元素であるが,病原微生物もそれを利用するため,病原性や増殖能が刺激される可能性が指摘されている.

鉄過剰状態においては,単球の貪食能低下が起きることも指摘されている.

出血源のスクリーニング

出血源が明らかになった場合は原疾患の治療が原則であるが,同時に鉄剤の投与を行う.

(ピロリ菌除菌)

消化管スクリーニングなどによっても,鉄喪失の原因が同定されない症例もしばしばある.
・原因がはっきりしない or 鉄剤に不応の鉄欠乏性貧血300例を解析した結果では,28%は自己免疫性萎縮性胃炎,5%はセリアック病であったが,50%以上がピロリ菌陽性であった.

ピロリ菌と鉄剤不応性の鉄欠乏性貧血との関連を指摘している研究は多く,メタアナリシスで,ピロリ菌に感染している症例では,鉄剤単剤よりも除菌+鉄剤治療の方が有意に貧血の改善が良好であることが報告されている.

ピロリ菌感染による鉄欠乏性貧血発症のメカニズムは,胃炎による微小出血,ピロリ菌と生体との鉄吸収の競合,ピロリ菌感染による萎縮性胃炎による胃酸分泌不全等提唱されているが,現時点では断定されていない.

予防

栄養指導

ビタミンC摂取
・食事からの鉄の吸収率を数倍に高める

内服ではシナール

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