インスリノーマ Insulinoma

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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インスリノーマはインスリン自律性分泌を特徴とする膵β細胞由来の機能性腫瘍であり,インスリン過剰産生によって低血糖を呈する疾患.

低血糖症状は,頭痛,脱力,傾眠傾向,意識消失,痙攣や昏睡などの意識障害や神経学的異常であり,長期に及ぶ場合には,摂食過多による肥満や精神科疾患と誤診されることもある.

疫学

インスリノーマは機能性の膵臓NETの中で最も頻度が高く(60%),約90%が単発の良性腫瘍で,70~80%は膵体尾部に発生する.

5~10%が悪性で,5~10%で腫瘍が膵臓内に多発する.

男女比は1:1.7と女性に多い.

本邦の好発年齢は50~60歳代であるが,10%以上が70歳以上の高齢発症である.

MEN1(多発性内分泌腫瘍症1型)の7.4%にインスリノーマが合併する.

腫瘍径は<1cm:4 0%,<1.5cm:6.6%,<2cm:90%と小さい.

病態

多くはグルコース応答性が欠如し,血糖値に関係なく,自律的にインスリンを分泌する.
・グルコキナーゼ応答性が欠如している.
・グルコース感知受容体(Glucose sensing receptor;GSR)に対してカルシウム感知受容体(calcium-sensing receptor;CaSR)が過剰発現している.
・膵β細胞上のグルコーストランスポーターの異常な発現

膵insulinomatosis

2009年に提唱された疾患概念.Am J Surg Pathol 2009; 33: 339-346

同異時性に膵インスリノーマが多発し,インスリノーマの前駆病変があり,転移自体は稀であるが,病変摘出後に高頻度に高インスリン血症性低血糖症を再発し,MEN-1や他の孤発性インスリノーマとは異なる.

16例の報告しかない.

診断

Whippleの三徴候

①空腹時の低血糖症状
②低血糖症状出現時の血糖値が低値〔血糖値<45mg/dL〕
③血糖の上昇処置で症状が改善)

・空腹時の血糖/インスリン値測定でインスリンが高値(IRI>6μU/mL)となる.Fajan’s index(血漿インスリン濃度/空腹時血糖>0.3)などが知られているが,陰性症例も存在するため,インスリンと血糖値の比(Fajian指数)は推奨されなくなった.
・血糖に影響する薬剤やコルチゾールなどのホルモン欠乏や膵島腫瘍以外の腫瘍の除外も重要である.

72時間絶食試験

入院管理のもとに低血糖を誘発する試験で感度・特異度ともに高い.

絶食とし,6時間ごとに採血し血糖,IRI,Cペプチドを測定するとともに低血糖症状の出現をみる.

血糖<60mg/dLより1時間ごとに採血し,血糖<45mg/dLで検査を終了する(最長72時間).
検査終了時にグルカゴン(1mg)を静注し,血糖の上昇をみる.

低血糖発作時のIRI(>6μU/mL),Cペプチド(>0.6ng/mL),グルカゴン静注後に血糖上昇(25mg/mL)があればインスリノーマの可能性が高い.

局在診断

インスリノーマは腫瘍径が小さいことや複数の腫瘍が存在することがあり,術前の局在診断が困難なことがある.
→術前に局在診断ができず術中の超音波検査に依らなくてはならない場合もある.

腹部超音波検査

・検出率は腫瘍径や部位によって異なる(10~60%).

超音波内視鏡

・検出率の高い報告もあるが,膵臓内の好発部位である膵尾部の検出能は他の部位に比べ低低い.

造影CT

・動脈早期相で濃染する.陽性率はさまざまな報告があり,MDCT(多列検出器)など機器の進歩による検出感度の向上が期待されている.

MRI

・T1強調像で低信号,T2強調像で中等度の高信号を呈する.

血管造影

・選択的な造影で腫瘍が濃染する.ただし確診率は65~70%である.

選択的動脈内刺激物注入試験 selective arterial secretagogue injection test;SASIテスト

・右肝静脈にカテーテルを留置した後,グルコン酸Ca(カルチコール®)を胃十二指腸動脈,上腸間膜動脈,脾動脈からそれぞれ選択的に注入する.右肝静脈に留置したカテーテルから静脈血を採取しインスリン濃度を測定する(注入前と20秒おき120秒まで).インスリン濃度の上昇によりインスリノーマの局在領域を決める.

ソマトスタチン受容体シンチグラム

・インジウム-111で標識されたオクトレオチドのシンチグラムで,欧米では膵臓NETに広く用いられている.ただし,インスリノーマの陽性率(40~50%)は,ほかの膵臓NETに比べ低い.わが国では未認可である.

治療

外科的切除

腫瘍を含めた膵臓の切除が原則.

悪性度が低いことから局在によっては核出術が施行される.

最近普及しつつある腹腔鏡下の膵臓手術の適応でもある.

切除術後の術中にCa負荷検査を施行し,インスリン値を術中迅速測定し完全切除を確認する.

約10%にはリンパ節転移を伴うため,腫瘍径や画像所見,術中所見を参考にリンパ節郭清の必要性を判断する必要がある.

肝臓転移なども積極的に切除する方針である.

内科的治療

ジアゾキシドの他に,ソマトスタチンアナログ,ストレプトゾトシン,分子標的薬などが選択される.
・ジアゾキシドに抗腫瘍効果は期待できないが,ストレプトゾトシン,ソマトスタチンアナログ,分子標的薬は抗腫瘍効果もあることから,悪性インスリノーマにもその効果は期待される.

ジアゾキシド

2008年からはジアゾキシド(アログリセム®)が使用可能になった.
・膵β細胞上のに作用して,インスリン分泌を抑制する.
・嘔気,浮腫,うっ血性心不全,多毛,高血糖,ケトアシドーシスなど様々な服用を引き起こす可能性がある.

ジアゾキシドは,膵β細胞に存在するATP感受性K チャネル(KATP channel)を開口させ膜電位を再分極化し,電位依存性Ca2+チャネルを閉鎖することにより細胞内Ca2+濃度を低下させ,インスリンの分泌を抑制する.

ジアゾキシドの副作用としては,嘔吐などの消化器症状,体液貯留による浮腫やうっ血性心不全,多毛,血小板減少,ケトアシドーシス,薬疹などがあり,重症薬疹例ではスティーブン―ジョンソン症候群を来した報告もある.

本邦高齢者に対するジアゾキシド長期有効例に関するこれまでの報告からは,投与量は75~250 mg/日(1.25~2.7mg/kg/日)と添付文書の記載量である3~8 mg/kg/日に比べていずれも少量.

ジアゾキシドの有効率は50~60 %程度との報告が多いが,インスリノーマの腫瘍径が15 mm 以上のものや増大傾向にあるもの,転移のある症例は効果が期待しにくいとされている.

ソマトスタチンアナログ

ソマトスタチンアナログであるオクトレオチドやそのマイクロスフェア型徐放性製剤の高齢者インスリノーマに対する有効性に関する報告は比較的多く,本邦でも長期有効例が報告されている.

オクトレオチドの作用効果は主にソマトスタチン受容体(SSTR)2を介して得られるが,SSTR2 を発現しているインスリノーマは50~70 %程度とされ,一般に有効率は50 %程度.

オクトレオチドの半減期は2~3 時間と短く,通常1 日3 回の皮下注射が必要であるが,効果発現は投与直後から見られるため,オクトレオチドの効果予測として,オクトレオチド負荷試験が有用であるとの報告もある.

オクトレオチド徐放性製剤は,高齢者のインスリノーマ症例に対して,低血糖の防止とともに血糖変動の安定化にも有効であったことも報告されている.
・月1 回の投与が可能であるため,アドヒアランスの観点からも,自己管理の困難な高齢者に対して有用.

副作用として胆汁鬱滞や脂肪便等,栄養吸収不良のリスクがある.

オクトレオチドは成長ホルモンやグルカゴンの分泌を抑制する効果もあるため,SSTR2 の発現が無いインスリノーマに対する投与はかえって低血糖を助長するリスクもあり,我が国では保険適応とはなっていない.

ストレプトゾトシン

抗腫瘍性抗生物質であり,DNA合成阻害により膵β 細胞を選択的に破壊する.

欧米ではインスリノーマに対して多く用いられており,約50 %に腫瘍の縮小効果がみられるとされている.

神経内分泌腫瘍に対して保険適応が認められているが,腎毒性予防として十分な補液が必要であるため,心・腎の予備機能の低下した高齢者には慎重な投与が必要.

mTOR阻害剤

エベロリムスが悪性インスリノーマに対して抗腫瘍効果と同時に低血糖予防効果をもたらしたことが報告されている.

mTOR阻害剤は腫瘍の増殖抑制効果とともに,膵β 細胞でのインスリン分泌の抑制や末梢でのインスリン抵抗性増大効果を有することが低血糖改善の作用機序として考えられている.

対症療法

低血糖に対する経口的あるいは経静脈的な糖質の補充をする.

糖質反応性インスリノーマに対するメトホルミン投与は,反応性低血糖の防止に有効.

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