インスリノーマ Insulinoma

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

インスリン自律性分泌を特徴とする膵β細胞由来の機能性腫瘍であり,インスリン過剰産生によって低血糖を呈する.神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)に分類される.

疫学

2010年の本邦の疫学研究では,1.27人/10万人・年.
機能性の膵臓NETの中で最も頻度が高い(60%)

約90%が単発の良性腫瘍.5~10%が悪性(肝臓やリンパ節転移が多い),5~10%で腫瘍が膵臓内に多発する.

70~80%は膵体尾部に発生する.

腫瘍径は<1cm:4 0%,<1.5cm:6.6%,<2cm:90%と小さい.

男女比は1:1.7と女性に多い.

本邦の好発年齢は50~60歳代であるが,10%以上が70歳以上の高齢発症.

MEN1(多発性内分泌腫瘍症1型)の7.4%にインスリノーマが合併する.
・MEN1に発生するインスリノーマは全体の5~10%をしめ,より若年に発生し,その25%程度が悪性.
→20歳より若年で発生した場合,孤発例でもMEN1の遺伝子検査が勧められる.

病態

多くはグルコース応答性が欠如し,血糖値に関係なく,自律的にインスリンを分泌する.
・グルコキナーゼ応答性が欠如している.
・グルコース感知受容体(Glucose sensing receptor;GSR)に対してカルシウム感知受容体(calcium-sensing receptor;CaSR)が過剰発現している.
・膵β細胞上のグルコーストランスポーターの異常な発現

膵insulinomatosis

2009年に提唱された疾患概念.Am J Surg Pathol 2009; 33: 339-346

同異時性に膵インスリノーマが多発し,インスリノーマの前駆病変があり,転移自体は稀であるが,病変摘出後に高頻度に高インスリン血症性低血糖症を再発し,MEN-1や他の孤発性インスリノーマとは異なる.

16例の報告しかない.

診断

Whippleの三徴候

①空腹時の低血糖症状
②低血糖症状出現時の血糖値が低値〔血糖値<50mg/dL〕
③血糖の上昇処置で症状が改善

低血糖症状は,頭痛,脱力,傾眠傾向,意識消失,痙攣や昏睡などの意識障害や神経学的異常.

交感神経緊張による発汗,心悸亢進,脱力,振戦,空腹感,悪心などが出現する.
・診断されない期間が長い症例では自律神経症状を呈さないことも多い.

長期にわたり診断されないと,低血糖防御のための食欲亢進に基づく体重増加や,低血糖による中枢神経障害である記憶障害,知能低下をきたすことがある.
・摂食過多による肥満や精神科疾患と誤診されることもある.

内因性インスリン分泌過剰

空腹時の血糖/インスリン値測定でインスリンが高値(IRI>6μU/mL)となる.

プロインスリンはインスリン分泌に占める比率が高く,診断に有用.

Fajan’s index
血漿インスリン濃度/空腹時血糖>0.3
<0.3の症例が約2割存在することが報告されているが,CPR・プロインスリンは高値を示す.

Taminato index
(100-PG)×(IRI-3)≧280

血糖に影響する薬剤やコルチゾールなどのホルモン欠乏や膵島腫瘍以外の腫瘍の除外も重要.

空腹時低血糖時の反応

低血糖発作時のIRI(>6μU/mL),Cペプチド(>0.6ng/mL)
+グルカゴンを投与後30分以降に血中βヒドロキシ酢酸(βHBA)濃度と血糖を測定し,βHBAが変化しないが2.7mmol/L以下で,血糖値が低値から25mg/dLを超えて上昇する場合,インスリノーマである可能性が高い.
(インスリン or IGF-1を介した作用亢進により脂肪分解・ケトン体産生抑制,肝臓におけるグリコーゲン貯蔵低下を伴わない証拠になる)

健常人では,24時間以上絶食すると肝グリコーゲンは枯渇し,外的にグルカゴンを投与しても血糖は上昇しない.
脂肪組織では,脂肪を分解して遊離脂肪酸(FFA)を動員し,肝でのβ酸化によりケトン体を生成し,エネルギー源になる.

インスリノーマでは,絶食下でもインスリン分泌が十分に抑制されないため,肝グリコーゲンは枯渇せず,外的にグルカゴンを投与すると血糖が上昇するとともに,インスリン作用により脂質分解が抑制され,ケトン体産生が抑制されるため,FFA・ケトン体の血中濃度は上昇しない.

72時間絶食試験

約20%が50mg/dL以下の低血糖を示さない.
→診断のために医療監視下の絶食を継続する.

感度・特異度ともに高い.
・48時間の絶食で93%,72時間で99%が低血糖が生じる.

低血糖(≦55mg/dL)が生じるまで6時間ごとに採血し,血糖,IRI,Cペプチドを測定するとともに低血糖症状の出現をみる.

血糖<60mg/dLより1時間ごとに採血し,血糖<45mg/dLで検査を終了する(最長72時間).
検査終了時にグルカゴン(1mg)を静注し,血糖の上昇をみる.
→あとは上記参照

euglycemic hyper-insulinemic clamp(人工膵臓)

overnight絶食後に行う.

正常では内因性インスリン分泌が抑制されるが,インスリノーマでは抑制されないため,血中CPRが低下しないか,奇異性に上昇する.

低血糖を生じることがなく,安全で最も感度が高い診断法.

局在診断

インスリノーマは腫瘍径が小さいことや複数の腫瘍が存在することがあり,術前の局在診断が困難なことがある.
→術前に局在診断ができず術中の超音波検査に依らなくてはならない場合もある.

腹部超音波検査

検出率は腫瘍径や部位によって異なる(10~60%).

造影CT

動脈早期相で濃染する.陽性率はさまざまな報告があり,MDCT(多列検出器)など機器の進歩による検出感度の向上が期待されている.

pNETは血流が豊富であるため,造影CTにおいて動脈相早期の造影効果が高く,検出感度は約70~95%.

MRI

T1強調像で低信号,T2強調像で中等度の高信号を呈する.

腫瘍径が1cm以上ではCTと同程度の感度であるが,1cm未満になると感度が低下する.

超音波内視鏡検査(EUS)

検出率の高い報告もあるが,膵臓内の好発部位である膵尾部の検出能は他の部位に比べ低い.

造影CTやMRIで発見しえなかった病変の検出に有用.

感度約90~95%,特異度98.0%と極めて良好.

穿刺細胞診を施行すると病変の質的診断が可能.

ソマトスタチン受容体(SSR)シンチグラム

インジウム-111で標識されたオクトレオチド(111I-pentetreotide)のシンチグラムで,欧米では膵臓NETに広く用いられている.

ただし,インスリノーマでは他のpNETに比べSSR2の発現率が低いため,検出感度が約50~60%.

選択的腹部動脈造影

腫瘍が濃染する.

診断率は70~80%であるが,2cm以下の小さな病変は描出が困難なことがある.

選択的動脈内刺激物注入試験 selective arterial secretagogue injection test;SASIテスト

インスリノーマの約90%が膵内に局在し,Ca感知受容体の発現が豊富であることを利用

右肝静脈にカテーテルを留置した後,グルコン酸Ca(カルチコール®)0.025mEq/kgを胃十二指腸動脈,上腸間膜動脈,脾動脈からそれぞれ選択的に注入する.
右肝静脈に留置したカテーテルから静脈血を採取し,IRIとCPRを測定する(注入前と20秒おき120秒まで).

インスリン濃度の上昇(過大反応)によりインスリノーマの局在領域を決める.

診断率は94%と高率.

治療

90%が良性で膵内に局在するため,根治が期待できる外科的切除が第一選択.

外科的切除

腫瘍を含めた膵臓の切除が原則.
・局在によっては核出術が施行される.

術前に病変が確認されていれば腹腔鏡手術などの縮小手術も許容され,リンパ節郭清も不要とされている.
*腫瘍が大きく悪性を疑う場合にはリンパ節郭清を伴う膵切除が必要となる.

外科的制御可能な肝転移・リンパ節転移を有する場合は,転移巣とともに原発病変の手術適応であり,90%以上の病変摘出ができれば,予後改善が期待できる.

切除術後の術中にCa負荷検査を施行し,インスリン値を術中迅速測定し完全切除を確認する.

内科的治療

ジアゾキシドの他に,ソマトスタチンアナログ,ストレプトゾトシン,分子標的薬などが選択される.
・ジアゾキシドに抗腫瘍効果は期待できないが,ストレプトゾトシン,ソマトスタチンアナログ,分子標的薬は抗腫瘍効果もあることから,悪性インスリノーマにもその効果は期待される.

ジアゾキシド

2008年からはジアゾキシド(アログリセム®)が使用可能になった.
・膵β細胞上のに作用して,インスリン分泌を抑制する.
・嘔気,浮腫,うっ血性心不全,多毛,高血糖,ケトアシドーシスなど様々な服用を引き起こす可能性がある.

ジアゾキシドは,膵β細胞に存在するATP感受性K チャネル(KATP channel)を開口させ膜電位を再分極化し,電位依存性Ca2+チャネルを閉鎖することにより細胞内Ca2+濃度を低下させ,インスリンの分泌を抑制する.

ジアゾキシドの副作用としては,嘔吐などの消化器症状,体液貯留による浮腫やうっ血性心不全,多毛,血小板減少,ケトアシドーシス,薬疹などがあり,重症薬疹例ではスティーブン―ジョンソン症候群を来した報告もある.

本邦高齢者に対するジアゾキシド長期有効例に関するこれまでの報告からは,投与量は75~250 mg/日(1.25~2.7mg/kg/日)と添付文書の記載量である3~8 mg/kg/日に比べていずれも少量.

ジアゾキシドの有効率は50~60 %程度との報告が多いが,インスリノーマの腫瘍径が15 mm 以上のものや増大傾向にあるもの,転移のある症例は効果が期待しにくいとされている.

ソマトスタチンアナログ

外科的切除不能G1の機能性pNETに対しては,ソマトスタチンアナログが投与されるが,インスリノーマではSSRの発現は他のpNETに比べ低く,奏功しない場合がある.

ソマトスタチンアナログであるオクトレオチドやそのマイクロスフェア型徐放性製剤の高齢者インスリノーマに対する有効性に関する報告は比較的多く,本邦でも長期有効例が報告されている.

オクトレオチドの作用効果は主にソマトスタチン受容体(SSTR)2を介して得られるが,SSTR2 を発現しているインスリノーマは50~70 %程度とされ,一般に有効率は50 %程度.

オクトレオチドの半減期は2~3 時間と短く,通常1 日3 回の皮下注射が必要であるが,効果発現は投与直後から見られるため,オクトレオチドの効果予測として,オクトレオチド負荷試験が有用であるとの報告もある.

オクトレオチド徐放性製剤は,高齢者のインスリノーマ症例に対して,低血糖の防止とともに血糖変動の安定化にも有効であったことも報告されている.
・月1 回の投与が可能であるため,アドヒアランスの観点からも,自己管理の困難な高齢者に対して有用.

オクトレオチドは成長ホルモンやグルカゴンの分泌を抑制する効果もあるため,低血糖が増加することがあり,注意が必要.

副作用として胆汁鬱滞や脂肪便等,栄養吸収不良のリスクがある.

ストレプトゾトシン

抗腫瘍性抗生物質であり,DNA合成阻害により膵β 細胞を選択的に破壊する.

欧米ではインスリノーマに対して多く用いられており,約50 %に腫瘍の縮小効果がみられるとされている.

神経内分泌腫瘍に対して保険適応が認められているが,腎毒性予防として十分な補液が必要であるため,心・腎の予備機能の低下した高齢者には慎重な投与が必要.

mTOR阻害剤

エベロリムスが悪性インスリノーマに対して抗腫瘍効果と同時に低血糖予防効果をもたらしたことが報告されている.

mTOR阻害剤は腫瘍の増殖抑制効果とともに,膵β 細胞でのインスリン分泌の抑制や末梢でのインスリン抵抗性増大効果を有することが低血糖改善の作用機序として考えられている.

対症療法

低血糖に対する経口的あるいは経静脈的な糖質の補充をする.

糖質反応性インスリノーマに対するメトホルミン投与は,反応性低血糖の防止に有効.

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