インスリン受容体異常症,インスリン抵抗症 Insulin resistance syndrome;IRS

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なすび医学ノート

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インスリンがインスリン受容体に結合することがインスリン作用のメカニズムにおけるfirst stepであり,その後チロシンキナーゼドメインにおける自己リン酸化を経てインスリンシグナルの下流の分子にシグナル伝達が行われる.
→インスリン受容体遺伝子の異常に伴いインスリン抵抗性をきたす複数の疾患が知られているが,受容体の機能の障害の大きさに応じてそれぞれ重症度が異なる.

インスリン受容体遺伝子(INSR)異常
インスリン受容体異常症A型,Donohue症候群など
1)インスリン受容体発現低下によるもの
2)受容体の細胞膜輸送障害によるもの
3)インスリン結合親和性低下によるもの
4)チロシンキナーゼ活性障害によるもの
5)受容体の分解亢進によるもの

自己抗体による受容体機能障害
インスリン受容体異常症B型

インスリン受容体 insulin receptor

インスリン受容体は,細胞膜上に存在するチロシンキナーゼ型受容体.

ヒトのインスリン受容体遺伝子は19番染色体に存在し,22個のエクソンからなる.

蛋白質としては,1382個のアミノ酸からなり,切断されてαサブユニットとβサブユニットになる.
αサブユニットとβサブユニットがS-S結合によりつながり,細胞膜上にはホモダイマーとして発現する.
→αサブユニットにインスリン結合部位があり,βサブユニットにインスリンシグナル伝達に重要なチロシンキナーゼが存在する.
→インスリンが結合すると,βサブユニット内チロシン残基が自己リン酸化され,細胞内にシグナル伝達される.

インスリン受容体は,肝・骨格筋・脂肪に限らず,中枢神経や骨芽細胞などの様々な組織に発現し,糖代謝や分化・増殖作用など多彩な生理作用を示す.

インスリン受容体は,インスリン様増殖因子-Ⅰ(IGF-Ⅰ)受容体と相同性が高く,インスリン受容体とIGF-Ⅰ受容体のハイブリッド結合体は,IGF-Ⅰに高い親和性を示す.

インスリン受容体は,IGF-Ⅱにも親和性を示す.

Donohue症候群

最重症.極めて稀.

生後2歳未満で死亡することが多く,死因は感染症が多いとされる.

臨床所見として,子宮内胎児発育不全・生後の成長遅延,黒色表皮腫,脂肪萎縮,筋発達の障害,小顎症・大きな耳介・鞍鼻などの特異的顔貌を示し,高度インスリン抵抗性・空腹時低血糖や糖尿病を認める.

Rabson-Mendenhall 症候群

次いで重症度が高い.極めて稀.

黒色表皮腫,高度インスリン抵抗性,糖尿病,歯牙・爪の形成不全,軟部組織の過形成などの所見を認める.若年のうちに糖尿病ケトアシドーシス,血管合併症で死亡することが多い.

インスリン受容体異常症A型 type A insulin resistance

先天的なインスリン受容体遺伝子の異常により著明なインスリン抵抗性を示し,糖尿病を発症する病態.

典型的には,黒色表皮腫多毛を認め時折低血糖をきたすことがあり,女性では思春期の頃に希少月経,高アンドロゲン血症を呈する.

インスリン受容体異常症A 型及び同疾患に付随する糖尿病は,30歳台になるまで診断されずに経過することも多い.

インスリン受容体遺伝子異常を含む重症インスリン抵抗性症候群を示唆する臨床的特徴の例として,内因性インスリン高値(空腹時インスリン値>150 pmol/L),BMI<30 kg/m2,インスリン注射の必要単位数>2-3単位/kg 体重,黒色表皮腫,希少月経,高アンドロゲン血症,脂肪組織の分布異常などの所見も示されている.

糖尿病2019;62(8):471-473

治療

稀な疾患であり,効果的な治療に関するデータは未だに十分ではない.

著明なインスリン抵抗性を改善するために,治療開始初期は食事療法や運動療法に加え,メトホルミン投与が開始される.

血糖コントロール目的にて,多量のインスリン投与やIGF-1投与が行われる場合もある.

最近では,SGLT2阻害薬が本症に有効であったとする報告もある.

リコンビナントIGF-1 製剤は,IGF-1 受容体のみならずインスリン受容体にも作用し,血糖コントロールを改善する可能性がある.
・適切な用量調整は明確ではなく,また治療効果が報告によって一貫しないことがある.

複数の経口血糖降下薬を組み合わせて治療を行なった例なども報告されている.

インスリン受容体異常症B型 type B insulin resistance

後天的に産生されるようになった抗インスリン受容体抗体によりインスリン受容体の機能障害が起こる病態.

疫学

1976 年にKahn らにより初めて報告され,世界で100例以上の報告がある.

本邦におけるインスリン抵抗症の全国調査では,30例のB型インスリン抵抗症が報告された.

空腹時低血糖および食後高血糖のパターンを示すことが報告されている.

空腹時低血糖を生じる機序
・抗インスリン受容体抗体は受容体刺激抗体と阻害抗体が混在するpolyclonal 抗体であり,インスリン様作用を有する受容体刺激抗体の報告もある.
・マウスにヒト血清投与を行った実験系で,健常者血清より患者血清でマウスの血糖値が有意に低下したこと,CHO-IR細胞において患者血清でインスリン様作用によるインスリン受容体のチロシンリン酸化が認められたことより,抗インスリン受容体抗体が低血糖を惹起していた可能性が確認されている.

膵腫大
・高度のインスリン抵抗性を呈するインスリン受容体ノックアウトマウスでは,膵腫大が認められるという報告がある.

治療

高血糖の是正を目的とした対症療法と,抗インスリン受容体抗体価の低下を目的とした根治療法の2 つがある.

高血糖是正

インスリンのみを使用する場合は数十~数千単位/日と大量に必要となり,インスリン単独での血糖コントロールは困難.

他の糖尿病治療薬として,ピオグリタゾンやビグアナイド,さらにはリラグルチドの使用報告例が散見されるが,その有効性は明らかではない.

抗インスリン受容体抗体価の低下

これまで副腎皮質ステロイド,シクロスポリンなどの免疫抑制薬,抗CD20 モノクローナル抗体リツキシマブ,免疫グロブリン大量静注療法,血漿交換などが試みられているが,併発する自己免疫疾患の活動性が高く,その疾患に対する治療が主になることも少なくない.

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