感染性心内膜炎 infective endocarditis;IE

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なすび医学ノート

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心内膜,特に弁膜およびその支持組織に疣贅vegetationや膿瘍などの感染巣を有する敗血症.

通常の敗血症と異なる点は,治癒傾向がきわめて乏しく不適切な治療を行えばほとんどが死亡することにある.

疫学

感染性心内膜炎の頻度は人口10万人当たり年間1.9人,一般病院入院患者の約0.1%を占め,人工弁置換術後の患者では年間0.7~3.0%と高頻度である.

最近は罹患年齢が高くなり,急性細菌性心内膜炎の割合が増加している.

主に市中発症であるが,10~20%は院内発症で,市中発症であっても医療関連感染としての発症が少なくない.

原因

皮膚粘膜膿瘍や手術・処置により一過性に菌血症をきたし,病原体が心内膜に定着・増殖して細菌集落を含む疣贅を形成することによる.
・心内膜は一層の扁平上皮に覆われており,病原微生物が常に拍動している心臓の内膜に損傷を与えて付着・菌の増殖は通常は困難

リスク因子

心臓弁膜症
僧帽弁逸脱症(心雑音を伴う)
先天性心疾患
心内膜炎の既往
人工弁患者
心臓埋め込み型デバイス(ペースメーカなど)
リウマチ熱の既往

血液透析(一般の健康人に比較して20倍の発症リスク)
血管カテーテル留置
手術/ICU管理

口腔内衛生状態不良
薬物中毒者

一過性菌血症をきたす手術・処置

歯科治療
扁桃摘出
消化管・気管粘膜を含む手術
気管支鏡
食道静脈瘤の硬化療法
尿道カテーテル,尿道手術,前立腺手術
感染巣の切開
経腟的子宮摘出,感染時の経腟分娩
静脈内カテーテル留置
麻薬・覚醒剤常習による不潔な静注など

非細菌性血栓性心内膜炎 nonbacterial thrombotic endocarditis;NBTE

・人工弁置換術後,感染性心内膜炎の既往,先天性心疾患,弁膜症およびその術後,閉塞性肥大型心筋症や逆流を伴う僧帽弁逸脱症など基礎疾患のある患者にみられやすい.
・健常者の場合,心内膜は感染や血栓形成に対して抵抗性であるが,弁逆流やシャントによるジェットや乱流などにより心内膜が傷害されると,その部位に血栓が付着して菌が定着・増殖しやすくなる.

起因病原体

1960年以前は緑色レンサ球菌(S. viridans)が60~70%を占めたが,1970年代以後は35%程度に減少し,ブドウ球菌が25%,腸球菌(Enterococcus)が10%を占めている.
→緑色レンサ球菌とは肺炎球菌(S. pneumoniae)を除くαレンサ球菌で,S. mitis,S. sanguis,S. mutansなどを含む.
*特にMRSAでは,診断に至っても治療に難渋することがあり,死亡率>20%と高い.

HACEK群細菌と呼ばれるHaemophilus spp.,Actinobacillus actinomyce-temcomitans,Cardiobacterium hominis,Eikenella corrodens,Kingella kingaeおよびQ熱病原体のCoxiella burnetiiなどによる心内膜炎は経過が長い.

病態

弁装置の破壊・疣贅の形成

本疾患の本体は感染に伴う炎症による弁装置の破壊である.

・急性細菌性心内膜炎において大動脈弁が侵される頻度は15~26%,僧帽弁が38~45%,両弁共は23%で,亜急性ではそれぞれ18~25%,30~35%,15~20%である.
・麻薬・覚醒剤常習者ではまれに三尖弁,ごくまれに肺動脈弁が侵されることがある.
・病巣は,ほとんどの場合に大動脈弁では左室側,僧帽弁では左房側にみられ,心内膜より突出して疣贅を形成する.
・疣贅の数,大きさおよび形態はさまざまで,脆弱で剥がれやすいためしばしば塞栓症を合併する.
・疣贅はフィブリン・血小板血栓と細菌集落により形成され,種々の程度の壊死を伴った非特異的炎症細胞浸潤がみられる.
・急性細菌性心内膜炎では好中球優位の細胞浸潤を伴う壊死が著明で膿瘍を形成し,膿瘍はしばしば弁輪に及ぶ.
・治療により治癒機転がみられるようになった病巣部では肉芽組織が侵入し,硝子化や石灰化した疣贅の表面が内皮細胞で覆われる.
・その他の弁病変として瘤形成,穿孔,亀裂および腱索断裂がみられる.

心外臓器合併症

塞栓症

急性感染性心内膜炎で40~60%,亜急性では12~40%の頻度に起こる.

脳,腎,心臓,脾臓,皮膚などに病巣を形成し,脳塞栓症が最も重要

病巣は梗塞巣として認められるほか,膿瘍や感染性動脈瘤を形成することがある.

中枢神経系合併症

出現頻度は20~40%で脳塞栓症によるもののほか,感染性脳動脈瘤破裂による頭蓋内出血,髄膜炎,脳膿瘍や中毒性脳症などがある.

皮膚血管病変

点状出血,爪床下線状出血,Osler(オスラー)有痛性結節や無痛性のJaneway(ジャニウェイ)皮疹などがある.
現在は,数%しか認めない上に,数日~1週間程度で消失する.

Osler結節
手足指部にできる赤紫色の有痛性紅斑,免疫現象の1つ.

Janeway病変
微小膿瘍とされ,手掌や足底に複数ヶ所認められる.痛みを伴わない.

腎病変

亜急性細菌性心内膜炎では腎臓に自己免疫機序による巣状壊死性糸球体腎炎やびまん性糸球体腎炎を認めることがある.

化膿性脊椎炎

数%~30%程度に合併する.

分類

(1)臨床経過にしたがって急性および亜急性感染性心内膜炎に,(2)起因病原体の種類により細菌性心内膜炎bacterial endocarditisや真菌性心内膜炎などに,また,(3)感染弁の種類により自己弁心内膜炎native valve endocarditis(NEV)と人工弁心内膜炎prosthetic valve endocarditis(PVE)に分類される.

急性感染性心内膜炎

・経過は通常1.5か月以内.
・主な起因菌が黄色ブドウ球菌で,基礎心疾患のない患者にしばしばみられる.
・敗血症や塞栓症による所見が主.
・重篤な経過をとる.

亜急性感染性心内膜炎

・経過は1.5~3か月.
・主な起因菌が緑色レンサ球菌(viridans group streptococcus)で,基礎心疾患を有する場合が多い.
・心病変や免疫複合体病による所見が目立つ.
・適切な治療を行えば経過が比較的良好である.

人工弁心内膜炎 prosthetic valve endocarditis;PVE

・さらに術後2か月以内に発病する早期人工弁心内膜炎と,それ以後に発病する晩期人工弁心内膜炎に分類される.
・前者は術後感染に起因しブドウ球菌やグラム陰性桿菌に,後者は自己弁心内膜炎の場合に類似してレンサ球菌,腸球菌やブドウ球菌などによることが多い.

臨床経過

症状としては発熱,悪寒・発汗,体重減少・食欲不振,動脈塞栓症状,筋肉痛・関節痛が多い.
・発熱は重要な徴候で,急性細菌性心内膜炎においては突然に悪寒戦慄を伴って高熱をきたし弛張熱が持続する.
・体重減少・食欲不振および免疫機序による筋肉痛・関節痛などを伴うことが多い.

関節痛,背部痛,筋肉痛などの症状が20~30%の患者でみられる.
→関節痛・関節炎の症状(大関節),下背部痛,全身の筋肉痛,大腿部・下腿腓腹筋部痛があり,発症初期の症状であることが多い.

多彩な症状のため,患者の1/3は診断までに1ヵ月以上かかっている.
・素因を有する患者に1週間以上続く弛張熱と炎症所見などを認める場合は本疾患を疑う.
・亜急性心内膜炎では緩徐に発病し,弛張熱の程度も軽度であるため不明熱として扱われることがある.

IEを疑うきっかけ

1)不明熱を含む原因のはっきりしない発熱
2)心雑音や弁膜症の既往のある患者の発熱
3)心不全のある患者の発熱
4)発熱を伴う脳出血,くも膜下出血,出血性梗塞
5)若年者の痙攣,髄膜炎の疑い
6)化膿性脊椎炎
7)侵入門戸・感染巣不明の持続する菌血症
8)適切な抗菌薬投与にても持続or繰り返す菌血症
9)血液培養で黄色ブドウ球菌やα-溶連菌が陽性
10)一時的に抗菌薬(外来・内服)の効果があるが,再燃する発熱
11)膠原病や血管炎疑いの患者,特に経過が合わない場合
12)ピアス使用者,アトピー患者の発熱

身体所見

心雑音,特に心雑音の変化や新たな出現は診断のための重要な所見で,そのほかに貧血,脾腫および諸臓器の塞栓所見をしばしば認める.

血管病変所見として皮下出血,結膜出血,Janeway疹(無痛性紅斑),Roth(ロス)斑(眼底における中心部が白色の出血性梗塞),Osler有痛性結節(手掌,足底などの圧痛を伴う細菌性塞栓による皮疹)などがあるが非特異的所見で,最近は頻度が低い.
画像が含んであるスライド(他サイト)

血液検査

・末梢血検査で白血球増多(核の左方移動を伴う),赤沈促進およびCRP陽性などの急性炎症所見がみられ,亜急性細菌性心内膜炎では経過とともに鉄欠乏性貧血(総鉄結合能低下,血清鉄減少,網状赤血球数正常),低アルブミン血症,高γグロブリン血症,免疫複合体増加,リウマチ因子陽性などをしばしば認める.

貧血 70~90%
末梢血白血球増多 50~80%
血沈促進 >90%
CRP高値 >90%
尿潜血陽性 25~60%
リウマチ因子陽性 5~20%
血清低補体価 5~15%

細菌学的検査

・血液培養は診断のみならず治療にきわめて重要である.
・動脈・静脈採血による陽性率の差は少ないが,Duke診断基準に使用できる方法で採血すべきである.
・抗生物質を中止した後,3検体以上を異なる部位より採血する.
 臨床的に余裕がない場合は2セットでもOK.
・汚染による偽陽性を避けるため厳重な皮膚の消毒と検体の取り扱いが必要.
・検出した起因菌については必ず感受性試験を行い,最小発育阻止濃度(MIC)を測定して抗生物質の種類と量を決定する.
・後に起因菌株が必要になることもあるため保存しておくべき.

黄色ブドウ球菌による菌血症患者の5~30%程度が感染性心内膜炎によると報告されている.
→ルーチンで経胸壁心エコーを行う.

培養陰性心内膜炎 culture-negative endocarditis;CNE

・本疾患と考えられるにもかかわらず血液培養が陰性のもの.
・起因病原体として,真菌,Brucella,Bartonella,Legionella,Coxiella,HACEK群細菌などを忘れてはならない.
・最近はわが国でもCoxiella burnetii(Q熱病原体)によるものが報告されるようになったため注意を要する.

画像検査

心エコー

約90%で疣腫が認められる.
本検査は診断にとどまらず病態の把握や経過観察に欠くことができないため,感染性心内膜炎を疑えば積極的に心エコー検査を行うべき.

疣腫検出の感度は,自己弁で経胸壁で約70%,経食道では90%以上,人工弁で経胸壁で50%,経食道では90%以上とされる.
・特異度は経胸壁・経食道ともに90%以上
・経食道心エコー検査は侵襲度は大きいが疣贅の検出感度・特異性ともに高く,特に人工弁心内膜炎や弁周囲膿瘍の検出に優れている.
・経食道でIEに該当する異常所見が指摘できなくても,臨床的に疑う場合には,3~7日の経過で再施行する.

本疾患を支持する重要な心エコー所見として,(1)疣贅,(2)膿瘍,(3)人工弁の縫合不全,(4)弁逆流増強や新たな出現などがある.
・疣贅は直径が2mm以上(10mm以下では偽陽性率が高い)であれば断層心エコー図で弁および支持組織や人工弁の上に塊状,ひも状あるいは多層エコーとしてみられ,Mモード心エコー図では細動する異常エコーとしてとらえられる.
・疣贅と鑑別するべきものに断裂した腱索,心臓腫瘍,弁尖の結節性肥厚,血栓,人工弁のパンヌスなどがある.
・合併症として塞栓症が重要で,疣贅の長さが10mm以上で60%,15mm以上で可動性が著しい場合には83%に塞栓症が認められる.

CT検査,頭部MRI,MRA

・塞栓症および塞栓症による梗塞巣や膿瘍の検索に有用.
→中枢神経徴候がなくとも,脳MRI(DWI,FLAIR,T2強調画像,MRAを含む)を撮影する.

(18F-FDG PET/CT)

国内における保険適用は主に悪性腫瘍の診断であり,感染性心内膜炎に適用は有さない.

人工弁例や植込み型心内デバイスを有する症例の診断においては,有用性が報告されている.

診断

臨床所見が(1)感染よる全身所見,(2)心臓局所所見,(3)塞栓症よる所見,よりなり多彩であるため必ずしも容易ではなかったが,最近は心エコー検査が普及し,診断感度および特異性ともに高くなった.

Dukes診断基準

厳密には病理組織学的に心内膜や弁に疣贅または膿瘍を認め,病巣部に細菌を証明することにより診断するが,臨床ではDuke診断基準が広く用いられる.
・血液培養で本疾患に特徴的な病原体,心エコー検査で疣贅,膿瘍あるいは新たな弁逆流を検出することが重要とされる.
・心雑音の出現や変化,貧血,脾腫,皮下出血,結膜出血,Janeway疹,Osler有痛性結節,Roth斑なども診断を支持する根拠となる.

日内会誌2016;105:245-252

IE可能性ありと判定された場合

自己弁→心エコー,塞栓症の画像チェック,心臓CT

人工弁→心エコー(経胸壁・経食道),血液培養再検,18F-FDG PET/CT,心臓CT,塞栓症の画像チェック

治療

治療の原則は,疾患早期より適切な抗生物質を大量かつ長期間投与することであるが,心臓手術が必要な場合もあり,その時期を逸してはならない.
・患者の約半数は初回入院時に手術が必要となる.

内科的治療

原則は同定した起因菌に対して感受性の高い抗生物質を大量にかつ長期間使用する.
→病巣が弁などの抗生物質療法上不利な部位にあるため,抗生物質の血中濃度が最小発育阻止濃度の6~10倍になるように大量,かつ4~6週間の長期間投与する.
→抗生物質の副作用を熟知する必要がある.

重要なことは血液培養の陰性化であり,臨床的に炎症の改善がみられた場合でも治療開始1~2週間以内に血液培養陰性化を確認する.

炎症が改善しても,原則的に推奨期間は抗菌薬治療を継続する.
○適切な抗菌薬の選択にもかかわらず,炎症の改善がみられない場合は,弁輪部膿瘍の合併などを疑う.

日内会誌2016;105:245-252
日内会誌2016;105:245-252

レンサ球菌,特に緑色レンサ球菌はペニシリンGが第1選択薬で,相乗作用を期待して初めの2週間はゲンタマイシンを併用することがある.

腸球菌にはペニシリンGまたはアンピシリンを用い,ゲンタマイシンとの併用が推奨され,セフェム系抗生物質は効果が期待できない.

ブドウ球菌は90%以上がペニシリン耐性で,メチシリンやクロキサシリンが入手困難なため第一世代セフェムにゲンタマイシンを併用する.
・起因菌がメチシリン耐性であったり,患者がペニシリンアレルギーである場合はバンコマイシンを用いる.

外科的治療

手術適応は,感染性心内膜炎の活動性や自己弁か人工弁かなどの条件により異なる.
感染や心不全がコントロールできない場合や塞栓症をきたした場合などは手術適応となる.

日内会誌2016;105:245-252

・一般に活動性感染性心内膜炎の手術成績は悪く,治癒期の感染性心内膜炎では通常の弁膜症と同等である.
・手術に先立っては弁輪部や心筋内膿瘍の有無や広がりのみならず塞栓症や感染性動脈瘤についても十分な検索が必要である.
・人工弁心内膜炎における手術適応はうっ血性心不全,大きい可動性著明な疣贅,塞栓症の既往,コントロール不能な敗血症,急性腎不全,重篤な不整脈がある場合である.
・黄色ブドウ球菌による人工弁心内膜炎は内科単独より外科療法のほうが死亡率が低い.

予防

予防的抗菌薬投与

・以下に挙げる症例もハイリスクとし,観血的処置を行う場合に抗菌薬の予防的投与が勧められている.
・最も一般的な抗菌薬の予防的投与法は,処置1 時間前のアモキシリン2 g単回の内服である.
・エビデンスは少なく,ガイド ラインによっても対象患者が異なっている.

ClassⅠ
特に重篤な感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高い心疾患で,予防すべき患者
・生体弁,同種弁を含む人工弁置換患者
・感染性心内膜炎の既往を有する患者
・複雑性チアノーゼ性先天性心疾患(単心室,完全大血管転位,ファロー四徴症)
・体循環系と肺循環系の短絡造設術を実施した患者

ClassⅡa
感染性心内膜炎を引き起こす可能性が高く予防したほうがよいと考えられる患者
・ほとんどの先天性心疾患
・後天性弁膜症(詳細は本文)
・閉塞性肥大型心筋症
・弁逆流を伴う僧帽弁逸脱

ClassⅡb
感染性心内膜炎を引き起こす可能性が必ずしも高いことは証明されていないが,予防を行う妥当性を否定できない
・人工ペースメーカあるいはICD植え込み患者
・長期にわたる中心静脈カテーテル留置患者

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