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全身の諸臓器に腫大や腫瘤,肥厚性病変がみられ,検査所見では,高IgG4血症と組織中に著明なリンパ球・IgG4陽性形質細胞浸潤と線維化を認める疾患.
中高年男性に好発し,ステロイドが著効する例が多いが,既存のリウマチ性疾患や悪性腫瘍と誤診される場合もあり,疾患の理解が重要.
疫学
中高年男性に好発(男女比4:1,年齢中央値67歳).
本邦の335例の多施設後方視調査では,唾液腺72.7%,涙腺57.1%,リンパ節57.1%,膵臓25.5%,肺23.4%.
・約90%が複数の臓器病変を有し,平均罹患臓器数は3.2,単臓器のみは11.4%.
原因
今のところ原因は明らかになっていない.
獲得免疫
IgG4産生が高まる理由として,免役グロブリンのIgG4へのクラススイッチが重要.
↓
クラススイッチを引き起こすサイトカインとして,IL-4(Th2由来)とIL-10(Treg由来)が知られている.
IGG4-RDでは,特に涙腺や唾液腺病変を中心に多数の胚中心形成が認められ,そこではIL-4やIL-21が産生されていることから,胚中心でIgG4へのクラススイッチが行っていると考えられる.
濾胞性ヘルパーT細胞(follicular helper T;Tfh)は,リンパ濾胞における胚中心で,B細胞の成熟に関与する重要な細胞であり,IL-21などのサイトカイン産生を通じて働く.
→胚中心のB細胞は,抗原に親和性の高い抗体を産生するメモリーB細胞や長期生存形質細胞に分化する.
自然免疫によって生じる説
IgG4-RDにおいては,障害臓器に多くのCD163陽性のM2マクロファージが浸潤していることが報告されている.
・M2マクロファージは,IgG4のクラススイッチに重要なIL-10・IL-33を産生しており,ケモカインであるCCL-18を発現していると報告された.
アレルギー疾患において重要な役割を担う組織の肥満細胞や末梢血中の好塩基球が,IgG4-RDでも重要な役割を果たしていると報告されている.
病態
従来,Mikulicz病と呼称されていた涙腺・唾液腺病変と自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis;AIP)を二大病変とし,加えて,胆管,腎,後腹膜・大動脈周囲・肺などに時間的多発性をもって病変が出現する.
全身に病変を来たすが,唾液腺,涙腺,膵臓,肝胆系,後腹膜,腎,肺,リンパ節が好発臓器であり,罹患臓器の95%以上を占める.
*複数の臓器病変が同時期に出現するとは限らず,時間経過を含めて評価しなければ全体像が把握しにくい.
気管支喘息やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を合併する頻度が高く,血清IgE高値や好酸球増多を認めることが多い.
症候
初発症状は,①顎下腺腫脹(涙腺含む),②後腹膜線維症関連,③自己免疫性膵炎関連の順で多いという報告がある.
複数臓器に病変を認めるものが多いが,単一病変もある.
・複数臓器の場合,病変は必ずしも同時に発症するのではなく,時間を置いて出現する場合もある.
発熱等の全身症状には乏しく,臓器腫大の自覚,圧迫症状や画像診断で偶然発見される場合が多い.
血液検査
しばしばアレルギー疾患を伴い,末梢血好酸球増多もみられるが,通常,CRP(C-reactive protein)は低値.
血清IgG4の上昇
よくみられるが,診断のためのgold standardではない.
・血清IgG4≧135mg/dLを満たす症例は51%しかなく,特異度も60%であると報告されている.
・日本を含めた大規模コホート調査では,有用性80%以上と報告されている.
→海外では,血清IgG4濃度は軽視されており,組織所見が非常に重視されている.
低補体血症
約30~40%に認めるとされる.
メカニズムは明らかではないが,IgG4は,IgG1,IgG3などと異なり,補体活性能を有さないため,IgG4の増加のみでは低補体血症は説明できず,同時に増えているIgG1により古典的補体経路の活性化にて惹起されている可能性が考慮されている.
画像検査
(18F-FDG-PET/CT) 保険適応なし
従来のCTに比べ,検出の感度が優れている.
生検部位の特定率が20%上昇.
病理
IgG4-RDは細胞浸潤と共に線維化を認めるのが特徴的で,特に花筵状線維化(storiform fibrosis)といわれる,細胞成分を含んだうねるような独特な線維化は診断的価値が高い.
IgG4陽性形質細胞浸潤
臓器によって異なり,通常,膵臓・肺・胆管・腎臓・動脈・後腹膜病変に比べ,リンパ節・涙腺/唾液腺,皮膚などの臓器で多くみられる.
多発血管炎性肉芽腫症,関節リウマチ,Castleman病等種々の病態で認められ,特異的な所見ではないため,この所見のみで診断してはいけない.
→IgG4陽性細胞の絶対数ではなく,IgG4陽性細胞数/IgG陽性細胞数(IgG4/IgG細胞数)の比がより重要(ほとんどの症例で40%を超えている).
花筵状線維化 storiform fibrosis
紡錘形細胞と炎症性細胞と繊細な膠原繊維が流線型に配列したもの.
閉塞性静脈炎
炎症細胞を伴った血管の線維性閉塞
陰性所見
好中球浸潤や壊死等はIgG4-RDに否定的な所見.
診断
涙腺・唾液腺や膵などの好発臓器の腫大や高γグロブリン血症・高IgG血症などの血清学的異常から疑う.
改訂包括診断基準2020
①単一または複数臓器にびまん性or限局性腫大,腫瘤,結節,肥厚性病変を認める.
②血清IgG4上昇(≧135mg/dL)
③病理学的診断
1)著明なリンパ球とIgG4陽性形質細胞浸潤を認める.
2)IgG4陽性形質細胞浸潤:IgG4/IgG陽性細胞比≧40% and IgG4陽性形質細胞≧10個/HPF
3)線維化とくに花筵様線維化or閉塞性静脈炎のいずれかを認める.
確診群(difinite):①+②+③
準確診群(propable):①+③
疑診群(possible):①+②
*準確診群と疑診群でも,IgG4関連臓器別診断基準で確定診断されたものは確診群
*現在までに膵臓,胆管,涙腺/唾液腺(Mikulicz病),腎臓,眼,呼吸器の6 つの臓器別診断基準が作成されている.
①~③は全てIgG4-RDに特異的な所見ではなく,悪性腫瘍,膠原病,血液疾患,種々の炎症性疾患でも認め得るため,できるだけ生検を行い,総合的に診断する.
2019ACR/EULAR IgG4関連疾患分類基準
アメリカリウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会から2019年に発表.
臨床的側面,血清学的側面,画像的側面,病理学的側面の4つの側面からバランスよく評価する.
感度82.0%,特異度97.8%.
全身性疾患であるSjögren症候群やANCA関連疾患などとの鑑別に優れており,感度・特異度ともに高いと報告されている.
Entry Criteria
典型臓器における特徴的な臨床像、放射線学的な所見あるいは病理学的所見.
(膵臓,唾液腺,胆管,眼窩,腎,肺,動脈,後腹膜,肥厚性硬膜炎,甲状腺[Riedel’s甲状腺炎]のどれか1つを満たす)
Exclusion Criteria
臨床・血清・画像・病理の領域における除外項目の有無と特定疾患の除外
Clinical:発熱,ステロイド不応性
Selological:原因不明の白血球減少,血小板減少,好酸球増多,ANCA 陽性 (PR3- or MPO-),抗SS-A(Ro) or SS-B (La) 抗体陽性,抗dsDNA抗体, 抗ribonucleoprotein抗体 or 抗Smith (Sm)抗体陽性,他の特異的自己抗体,Cryoglobulinemia
Radiology:明らかな腫瘍像,感染症像,急速な進行変化,長管骨異常(Erdheim-Chester disease),Splenomegaly
Pathology:腫瘍浸潤,inflammatory myofibroblastic tumor,好中球による炎症像,壊死性血管炎,著明な壊死,肉芽腫像,単球・組織球による異常
既存疾患:Multicentric Castleman’s Disease,Crohn disease or Ulcerative Colitis
Inclusion craiteria
病理・免疫染色,血清IgG4,涙腺/下顎腺・胸部・膵/胆管・腎・後腹膜などにおける各所見の点数化


IgG4+細胞数/HPF:400倍強拡大視野あたりのIgG4陽性形質細胞数
IgG4/IgG比:組織に浸潤しているIgG陽性形質細胞中のIgG4陽性形質細胞の比率
評価不能(indeterminate):IgG4/IgG比検討の際,特にIgG染色のバックグラウンドが過染色されることにより,IgG4/IgG比を計算できない症例がある.少なくとも多数のIgG4陽性細胞浸潤があると判断される場合にのみindeterminateとする.
Total inclusion points
exclusion criteriaの項目を除外し,inclusion criteriaの項目が20点以上の場合にIgG4-RDと診断
治療
IgG4-RDと診断しても,全て治療が必要というわけではない.
・顎下腺腫大のみ,画像異常のみで自覚症状や機能障害を伴わない場合等では,無治療で経過観察のみ行う場合も多い.
無治療の場合であっても,数カ月に1 回程度から始め,その後は半年に1 回程度,血液検査・尿検査で臓器合併症のチェックを行い,1 年に1 回程度はCTで全身検索を行う.
・腎臓病は自覚症状がなく,腎機能低下が進行していくため,腎機能は必ずチェックする.
・低補体血症を認める症例は活動性が高く,腎障害を来たしやすいため,要注意である.
治療の絶対的適応
・自覚症状を伴う自己免疫性膵炎
・後腹膜線維症による水腎症
・間質性腎炎による腎不全
・眼病変による眼球運動障害・視力障害
・肥厚性硬膜炎による神経障害
など後遺症を残す病変は,迅速に治療を開始する.
ステロイド内服
プレドニゾロン 0.6mg/体重kg/dayによる寛解導入(2~4週)
→2~3ヶ月で漸減(2~4週間継続後に減量し,維持量にもっていく)
→3年を目安に5~7.5mg/dayの維持療法を行う.
ほとんどの例が改善するが,中止あるいは少量維持療法中でも30%近くに再燃を認める.
・通常,2週以内に治療効果を認めるため,画像による評価を行う.
・ステロイドで改善しない場合は,他疾患の可能性あり
・ステロイド再増量で多くは改善するが,ステロイドを長期継続することとなり,骨粗鬆症や糖尿病等の合併症が問題となる.
IgG4関連血管病変の大動脈瘤には注意.
・特に径が大きな瘤はステロイド内服による破裂などが報告されている.
・血管外科へのコンサルトなど,慎重な対応を行う.
(免疫抑制薬)
・有効性にははっきりしたエビデンスがない.
リツキシマブ(抗CD20 抗体)
・CD20陰性のPBや形質細胞への直接傷害性はないが,B細胞が枯渇することで自己抗体の産生やT細胞への抗原提示が抑制され,病態改善が期待される.
・欧米ではリツキシマブ(抗CD20 抗体)の有効性が報告され,ステロイドなしでの治療も試みられているが,本邦では保険適用はなく,また,その有効性・安全性について検証されていない.
悪性腫瘍のスクリーニング
・悪性腫瘍合併率が高く,さらに,悪性腫瘍の発生に有意に関連することが報告されている.
・診断時悪性腫瘍のスクリーニングを行うと共に,経過中も発症に注意する必要がある.