特発性血小板減少性紫斑病 idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP

スポンサーリンク
なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

自己免疫機序による血小板破壊の亢進および血小板産生障害により生じる血小板減少症.

血小板減少は免疫学的機序に起因することが明らかなにされたこと,紫斑等の出血症状を示さない例も少ないことから,primary immune thrombocytopeniaの名称が定着しつつある.
・国際的には免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia;ITP)のうち,血小板減少を来たすその他の疾患が存在しないprimary ITPに分類される.
・本邦では難治性疾患に指定されており,特定疾患治療研究費補助金の助成対象疾患であるため,手続き上,従来の名称を使用することが多い.

副腎皮質ステロイドと脾摘が治療の中心であったが,ヘリコバクターピロリ菌の除菌やリツキシマブの有効性が明らかとなり,さらにはトロンボポエチン受容体(thrombopoietin receptor;TPO-R)作動薬が開発されたことで,ITPの治療戦略は大きな変貌を遂げつつある.

疫学

2004~2007年のデータベースの解析から,本邦では約25,000名が罹患しており,年間の新規発症数は10万人あたり2.16人と推計されている.

6歳以下の小児(やや男児に多い),20~34歳の女性ならびに高齢者に好発し,近年は特に高齢の症例が増加している.

病態

主に血小板膜糖蛋白GPⅡb/Ⅲa(CD41/CD61)やGPⅠb/Ⅸ(CD42)を標的とする抗血小板自己抗体によりオプソニン化された血小板が,脾臓などの網内系細胞のFc受容体を介して捕捉され,貪食されることが血小板減少の主因.

血小板蛋白は網内系細胞内でプロセッシングを受け,そのペプチド断片がHLA上に表出される.
→認識した自己応答系T細胞は,サイトカインの分泌やCD154/CD40の相互作用を介して自己応答性B細胞を活発化することにより,自己抗体産生が促進される.
(慢性ITPでは,この悪循環が持続することにより,血小板減少が慢性化する)

Th1/Th2バランスの異常,制御性T細胞(regulatory T cell;Treg)の機能低下などのT細胞の異常が自己抗体の産生およびその維持に関与していると考えられている.

血小板産生の障害も重要な要因と考えられている(TPO-R作動薬の高い有効性から)
・抗血小板自己抗体は巨核球の成熟障害やアポトーシスを誘導することが報告されている.

抗血小板自己抗体が検出されないITP症例も少なくなく,免疫複合体・補体ならびに細胞傷害性T細胞などの多彩な免疫異常が血小板減少に関与していると考えられている.

症候

血小板減少および出血症状の経過,先行感染の有無,合併症および服用薬剤,家族歴の有無を確認する.

出血症状

紫斑は点状~小斑状出血であることが多い.

粘膜出血(鼻出血・消化管出血・血尿など)は,血小板数≦1万/μLの重篤な血小板減少例で認められることが多い.

致命的な脳出血は,成人の1%,小児の0.4%程度で生じる.

成人例においては,出血症状を認めないことも少なくない.

血液検査

末梢血塗抹

血算とともに末梢血塗抹標本の丁寧な観察が重要.

血小板凝集塊→採血手技の不備,偽性血小板減少の可能性

著明な巨大血小板の増加→Bernard-Soulier症候群,MYH9異常症(May-Hegglin異常など)の可能性を考慮

EDTA依存性偽性血小板減少症
・発生頻度は0.1~0.2%.
・抗凝固薬として採血管に添加されているEDTA-2Kの作用で血小板が凝集し,自動血球計算器で血小板として認識されないため,「見かけ上」血小板数は低値となる.
・抗凝固薬を用いずに採血直後に測定することで正常値を呈する.
・EDTA-2K入りの採血管で採血し,経時的な血小板減少や塗抹標本で血小板の凝集塊を確認することも診断の参考になる.

網状血小板比率 percentage of reticulated platelets;RP%

*保険適応なし

幼若な血小板の割合を示す.
自動血球測定装置で測定される幼若血小板比率(percentage of immature platelet fraction;IPF%)も同等の有用性がある.

ITPでは血小板寿命が短縮しているため,高値となることが多い.

血中トロンボポエチン濃度

*保険適応なし

ITPでは正常~軽度高値で留まる.
・ITPでは巨核球が数的には減少しないことでpositive feedbackが作動しない,あるいはTPO受容体を発現している血小板に結合したTPOが血小板の破壊に伴い著しく消費されているなどの機序が考えられる.

骨髄低形成による血小板減少で著明な高値を示す(positive feedback).

抗血小板自己抗体 platelet-associated IgG;PAIgG

保険収載あり

ITPに対する特異性が低く,診断的価値は低い.
→診断基準から除外されている.
・90% 以上のITP症例で上昇しており,感受性は高い.
・再生不良性貧血などの血小板減少症でも高値となる.

血小板に結合した抗GPⅡb/Ⅲa抗体や抗GPⅠb/Ⅸ抗体の検出
抗GPⅡb/Ⅲa抗体産生B細胞の検出(ELISPOT法)
・ITP診断に有用である可能性がある.
・検査可能な施設は限られており,保険適応もなし

骨髄検査

ITPに特異的な骨髄検査所見はなく,診断に必須ではない.

赤血球や白血球系に異常を認める場合や治療抵抗例では,他疾患の除外(再生不良性貧血や骨髄異形成症候群など)のために行うことが望ましい.

診断

疾患特異的な検査法が確立されておらず,基本的に除外診断

1)血小板減少(10万/μL未満)を認めるが,赤血球系(出血あるいは慢性鉄欠乏による貧血を除く)および白血球系は正常
2)全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病やリンパ増殖性疾患,HIV感染症など,他の免疫性血小板減少症を除外できた場合にITPと診断.

診断後3ヵ月以内の場合を新規診断(newly-diagnosed)ITP,診断後3~12ヶ月間,血小板減少が持続する症例は持続性(persistent)ITP,12ヶ月以上血小板減少が持続する場合は慢性(chronic)ITPと分類される.

治療

治療の目標は,血小板数を正常に戻すことではなく,重篤な出血を予防しうる血小板数(通常3万/μL以上)を維持すること.

血小板数を正常化するための過剰な薬剤の長期投与は,その副作用のためにQOLを低下させることが多く,避けるべき.

Helicobacter pylori(H.pylori)の感染の検査

本邦ではHP菌の保有率が高く(性差はないが,加齢に伴い陽性率が高くなり,中高年層のITP患者の70% 以上が陽性),除菌の有効率も高いことから,緊急治療を要さないITP症例では血小板数に関わらず治療前にHP菌検査(尿素呼気テストか便中HP抗原)を行い,陽性の場合にはまず除菌療法を行うことが推奨されている.

HP菌陽性のITPに対する除菌療法は2010年5月に保険適用となっている.

除菌成功例
50~70%で血小板数の増加がみられる.
→この場合には「ピロリ関連ITP」として経過を観察する.

HP菌陰性例や除菌が無効であった症例
血小板数が3万/μL以上かつ出血症状がない→無治療で経過を観察する.
血小板数が2~3/万μLかつ出血症状がない→注意深く経過を観察することを推奨している.
血小板数が2万/μL以下または重篤な出血症状,多発する紫斑,点状出血,粘膜出血を認める場合→治療適応.
血小板数が1万/μL未満の重篤な血小板減少例→積極的な治療適応

副腎皮質ステロイド

first line治療

抗血小板抗体産生の抑制

初回治療としては,通常,プレドニゾロン(prednisolone;PSL)0.5~1mg/kg/dayを2~4週間の経口内服を行う.

その後,8~12週かけてPSL 10mg/day以下にまで漸減することを目指す.

約80%の症例で反応がみられるが,減量に伴い,血小板数が減少することが多い.
→ステロイド依存性の可能性が高いので,再増量せずに,second line治療へ移行する.

治療効果がみられない,副作用や合併症のためにステロイドが使用できない場合は,second line治療に移行する.

近年,デキサメタゾン大量療法(high-dose dexamethasone;HD-DEX)を初回治療にした報告が増えているが,エビデンスに乏しい.

トロンボポエチン受容体作動薬 thrombopoietin receptor agonists;TPO-RA

second line治療

巨核球および造血幹細胞に発現するTPO受容体(c-Mpl)に結合し,巨核球分化・成熟を促進し,血小板産生を亢進する.

eltrombopag レボレード® 経口薬 グラクソスミスクライン社 2010年12月保険収載
romiplostim ロミプレート® 皮下注製剤(週1,通院が必要) アムジェン社 2011年4月保険収載

産生された血小板数が破壊された血小板数を上回ることで,血小板数が上昇するのではないかと考えられている.

いずれも80%以上の高い有効率が報告されているが,一部を除いて継続的な治療が必要.

いずれも1回の投与で用量依存性に血小板が5~8 日目に増加し始め,12~16 日の間でピークに達し,28 日までにはベースラインに戻る.

血栓症を増加させる可能性があり,血栓症ハイリスクの患者(血栓症の既往,担癌患者ならびに抗リン脂質抗体陽性など)においては,その使用を慎重に判断する必要がある.

骨髄の線維化が懸念される.
・長期にわたる使用で骨髄線維化の進行を示した明確な証拠はない.
・末梢血所見に注意し,必要に応じて,骨髄検査.

併用薬や食事の影響を受けて吸収率が低下するので,服薬4 時間前後は制酸薬や多価陽イオンを含む製剤の服用を控え,乳製品やミネラルサプリメントなどの摂取を避けるなどの注意が必要.

リツキシマブ

second line治療

B細胞に発現するCD20抗原を認識するヒトマウスキメラモノクローナル抗体であり,B細胞を減少させ,抗体産生を抑制する.

2017年3月よりITPに対し,適応拡大.

375mg/㎡を週1回,4週間の点滴静注により,短期的には50~60%の効果が期待できるが,長期的に寛解維持できる症例は20~30%にとどまる.

脾摘

second line治療

脾臓は,血小板の貪食部位であるだけでなく,抗血小板自己抗体の主たる産生部位でもある.
→脾摘は,約2/3の症例において長期的寛解(治癒)が期待できる.

手術関連合併症の可能性(イレウス,腹腔内出血,門脈血栓症,感染症など)

生涯にわたる肺炎球菌・髄膜炎菌などに対する防御能の低下や静脈血栓症のリスクの増加が指摘されている.

免疫抑制薬

third line治療

アザチオプリン
シクロスポリン
シクロホスファミド など

エビデンスレベルは低い.

Syk(spleen tyrosine kinase)阻害薬

third line治療

fostamatinibが最近欧米で承認.

Sykは,Fc受容体の下流に存在する非受容体型チロシンキナーゼ
→fostamatinibは,Fc受容体を介したマクロファージによる血小板貪食作用を抑制する.

緊急時,外科的処置など

血小板著減に伴い重篤な出血を生じている場合,あるいはその危険性が高い場合や,観血的処置を予定している患者では,速やかに血小板数を増加させる必要がある.

免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin;IVIG)

メチルプレドニゾロン療法

血小板輸血

妊娠合併

TPO-RAやリツキシマブは安全性は確立されておらず,副腎皮質ステロイドおよびIVIGが治療の中心

妊娠初期および中期→血小板数3万/μL以上

経腟分娩→血小板数5万/μL以上

区域麻酔下における帝王切開→血小板数8万/μL以上

タイトルとURLをコピーしました