低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素阻害薬(HIF-PH阻害薬) Hypoxia Inducible Factor Prolyl Hydroxylase inhibitor

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なすび医学ノート

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低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor;HIF)の発現量を調節するHIF-prolyl hydroxylase(HIF-PH)を阻害することで,HIFを安定化させ(HIF stabilizer),腎性貧血を改善させる.

理論上は低酸素に対する防御機構を誘導することによる生体保護効果が期待できる一方,がんや網膜疾患など血管新生が疾患の増悪に働くような病態では HIF による防御機構の発動に起因する副作用の可能性も懸念されている.

薬理

HIF経路の活性化

内因性エリスロポエチン

赤血球産生の誘導

低酸素誘導因子 hypoxia-inducible factor;HIF

組織低酸素に対する生理的反応を司る主要な転写因子.

代表的なターゲット分子として赤血球を増加させることで臓器に対する酸素供給を増やすエリスロポエチンや,血管新生を促すことで酸素供給を助ける vascular endothelial growth factor (VEGF) などがある.

酸素依存性に活性を持つプロリン水酸化酸素(prohyl hydroxylase domain enzyme;PHD) が,HIF (α鎖)を水酸化し,ユビキチン・プロテアソーム分解を導くことでHIFを制御している.

HIF-2α

主に心臓,肝臓,肺,腎臓,腸管腔に発現している.

作用:エリスロポエチン産生,鉄代謝と活用

HIF-1α

体内の細胞に一様に分布している.

作用:鉄代謝と活用,血管新生と臓器保護

期待される付随効果

・コレステロール低下

・乳酸アシドーシスの改善

治療適応

腎性貧血は十分な鉄補充の後,ESAもしくは HIF-PH阻害薬を用いて管理する.
*ESAとHIF-PH阻害薬の併用は想定されておらず,行うべきではない.

保存期CKD のターゲットヘモグロビンは11~13g/dL,透析期CKDのターゲットヘモグロビンは10~12/dLを参考値として,個々の症例の病態に応じた目標 Hb値を定め治療する.

ESAとHIF-PH阻害薬の選択は,個々の患者の状態や嗜好,通院頻度,ポリファーマシーや服薬アドヒアランス等に応じて,医師が判断する.

HIF-PH阻害薬を使用する際は,事前に悪性腫瘍,網膜病変の検査を行い,合併がないか,適切な治療がなされているかを確認した上で開始すべきである.
→これらの合併症が管理不十分な場合,長期の安全性が確認されていないため,そのリスクを評価した上で適応の可否を特に慎重に判断する.

添付文書上に血栓塞栓症の警告がなされていることを鑑み,虚血性心疾患,脳血管障害や末梢血管病(閉塞性動脈硬化症や深部静脈血栓症など)のある患者については,そのリスクを評価した上で適応の可否を慎重に判断する.

通常用量のESAを投与しても貧血の治療目標を達成できない場合,まずESA抵抗性の原因を検索する.
→ESA抵抗性の原因が不明もしくは対応が困難な場合(鉄利用障害など)には,HIF-PH阻害薬への変更を考慮してもよい.

高用量のESAからの切り替え直後にHb値の低下が認められることがあり,Hb値の推移を十分に観察してHIF-PH阻害薬の用量を調節する.

鉄補充

HIF-PH阻害薬投与においては,鉄が十分補充されていることが肝要.
・十分かどうかは,貯蔵鉄の指標となりうるフェリチンと,循環している鉄の指標になるTSATの両者で判断する.
・HIF-PH阻害薬自体によって鉄の利用障害が改善されるため,フェリチン<100 ng/mLまたはTSAT<20%をHIF-PH阻害薬使用中の鉄補充のカットオフに設定することが妥当と考えられる.

HIF-PH阻害薬の添付文章上に血栓塞栓症の警告がなされていること,および鉄欠乏が血栓症と関連することを鑑み,HIF-PH阻害薬投与中はフェリチン<100 ng/mLまたはTSAT<20%の状態になれば,すみやかな鉄補充療法を推奨する.
・特に血液透析患者ではフェリチン<100 ng/mLまたはTSAT<20%の状態にならないように鉄補充療法を調節する.

目標ヘモグロビンに到達しない場合、HIF-PH阻害薬の増量よりも鉄欠乏状体を評価した上で鉄補充を優先する.

HIF-PH阻害薬開始時に急激に造血が亢進することで,TSATやフェリチンが著しく低下する症例があるため,薬剤開始1か月後には,再度これらのマーカーを評価し,鉄欠乏があれば鉄を補充する.

HIF-PH阻害薬投与中は,消化管からの鉄の吸収が改善するために経口鉄の効果が従来よりも期待できる.
→経静脈的な鉄補充の必要性は慎重に判断する.
*重症心不全やプロトンポンプ阻害薬投与中など経口鉄の吸収がよくない場合や,経口投与では副作用やアドヒアランスの点で心配がある場合などには経静脈投与が選択される.

クエン酸第二鉄やスクロオキシ水酸化鉄などの鉄含有リン吸着薬によっても鉄が補充されることを考慮する.

懸念されている副作用

HIFの関連する生体反応は多岐に及び,予期せぬ副作用が出現する可能性あり.

悪性腫瘍

1)投与開始前には悪性腫瘍の精査を行うことを推奨する.
2)悪性腫瘍の治療中もしくは治療後で再発リスクが考えられる患者においては,HIF-PH阻害剤の利点と欠点を慎重に考慮し投与決定を行うことを推奨する.
3)投与中においては注意深い患者診察とともに,特に最もリスクの高い腎では適切な画像検査による投与前,および投与中の定期的な経過観察を行うことを推奨する.
・HIF-PH阻害剤投与前,投与開始後は定期的(少なくとも年に1回程度)に,MRI,造影CT,超音波などの適切な画像検査を用いて評価,経過観察を行うことが必要と考えられる.

HIF-PH阻害剤のこれまでの臨床試験ならびに動物実験の結果から,本薬剤が腎がんやその他の悪性腫瘍の発生頻度を増加させるというエビデンスはない.
・既に悪性転化した細胞の増殖や浸潤能,転移能については,HIF-PH阻害剤によるHIFの活性化が促進的に作用する可能性は否定しきれない.

大部分の淡明細胞型腎癌では,VHLがん抑制遺伝子の変異・不活性化が起きており,その結果,転写因子であるHIFの活性化とさらにその下流で転写調節されるがん細胞の増殖,浸潤や転移に関わる多数の遺伝子群の発現亢進が起きている.

腎癌以外にも多くの固形がんにおいて,HIF-1αタンパクの発現亢進とがんの進行・転移との正の相関関係が示されている.

細胞の悪性転化についてはこれに決定的に働くドライバー遺伝子変異の蓄積が必要であり,この過程をHIF-PH阻害剤が促進するエビデンスは現時点ではないと考えられる.
・癌化した細胞の分裂や転移,遊走能といった事象についてはHIF活性化の影響は上記の理由から十分予測される.

糖尿病網膜症,加齢黄斑変性症

1)網膜出血を発現するリスクが高い患者(増殖糖尿病網膜症,黄斑浮腫,滲出性加齢黄斑変性症,網膜静脈閉塞症等を合併する患者)に対しては特に注意して投与する(推奨).
2)本薬剤を開始後には,定期的に眼科で網膜の状態について評価を受ける(推奨).

糖尿病網膜症および加齢黄斑変性症(AMD)は,その発症・進展にHIF-1αとHIF-1αにより誘導されたVEGFが深く関連している.
→HIF-PH阻害薬はHIFの活性化を介して,VEGFの発現を亢進,血管新生が亢進する可能性があり,HIFの安定化による網膜病変の増悪,特に透析患者において合併が多い糖尿病網膜症への影響が懸念される.

現在まで報告されている臨床研究では,網膜症の増悪に関連するものはなく,治験時の結果からはいずれの薬剤においても,網膜出血はHIF-PH阻害薬群と対象薬(ESA)と同等の頻度であったとされている.
・VEGFが網膜局所で発現し,autocrine,paracrine的に作用する可能性や,エリスロポエチン自体が網膜症と関連する可能性も示唆されている.
・多くの臨床試験では,網膜出血のリスクが高い患者が除外されていたことなどから,HIF-PH阻害薬使用中は,網膜症の増悪がみられないか,特にすでに網膜症が存在する患者では注意を払う必要がある.

肝機能異常

HIF-PH阻害薬の投与開始前には肝機能障害の有無,程度を評価する(推奨).
・投与開始後は,肝機能障害の有無について定期的に評価を行い,基準値を大きく逸脱した場合には薬剤の中止を検討する.
・中等度以上の肝機能障害(Child-Pugh分類B)を認める患者では,減量を考慮することを推奨する.

治験では,HIF-PH阻害薬と対照群との間で肝機能障害の頻度に差がみられなかったことが報告されている.
・本邦のHIF-PH阻害薬の非臨床試験および臨床試験の双方において,肝機能障害の発現(AST・ALTの上昇)を示唆する結果が認められ,海外の臨床試験においては,薬剤の中止により回復し,劇症肝炎・死亡にいたった例はないものの,中等度から重篤な肝機能障害が認められたことが報告されている.

中等度以上の肝機能障害が存在する場合には,HIF-PHの血中濃度におけるCmax(最高血漿中濃度)及び AUCinf(血中濃度-時間曲線下面積)の上昇が示されている.
いずれのHIF-PH阻害薬もChild-Pugh分類Cの高度肝機能障害を認める患者における検討は行われていない.

高血圧

HIF-PH阻害薬投与中は高血圧関連事象の発現状況に注意することを推奨する.

HIF-PH阻害薬はESAと比較して高血圧または血圧上昇が臨床上問題となる可能性は低い.

ESA の添付文書では,血圧上昇を認める場合があり,血圧の推移に注意しながら投与する旨を注意喚起している.
ESA では血圧上昇に伴う高血圧性脳症の発現が報告されていることから,HIF-PH阻害薬でも高血圧関連事象の発現状況については注意する必要がある.

高カリウム血症

HIF-PH阻害薬投与前および投与中は定期的な血清カリウム濃度の測定を行うことを推奨する.

詳細な機序は不明であるが,第Ⅱ相試験および第Ⅲ相試験の一部においてHIF-PH阻害薬により高カリウム血症の発現率が高いことが報告されたが,ESAと比較して大きな差は認められなかったとする報告もある.
→現時点でHIF-PH阻害薬が高カリウム血症を引き起こすかどうかは結論付けることができない.

腎性貧血患者は高カリウム血症のリスクが高いため,定期的な血清カリウム濃度の測定を推奨する.

血栓塞栓症

血栓塞栓症(深部静脈血栓症,肺塞栓,心筋梗塞,脳梗塞,バスキュラーアクセス血栓等)の既往のある患者では血栓塞栓症のリスクが高いため,本薬の投与の是非を慎重に考慮するとともに,血栓塞栓症を思わせる症状がHIF-PH阻害薬投与中にみられた場合には,HIF-PH阻害薬を中止することを推奨する.

血栓塞栓症は血液が急激に粘稠になることでも惹起されうるので,ヘモグロビン値の上昇速度が0.5 g/dL/weekを上回らないようにする.
→HIF-PH阻害薬の増量は各薬剤の添付文書に従い,適切な増量間隔をあけたうえで徐々に増量する.

投与中に血栓塞栓症が疑われる徴候や症状の発現に注意する.
・具体的に疑われる症状は,下腿浮腫の著しい左右差(深部静脈血栓症の疑い),バスキュラーアクセスの脱血不良(バスキュラーアクセス閉塞の前兆),一過性脳虚血発作(脳梗塞の前兆),突然生じる急激な視力低下やかすみ目(網膜静脈閉塞症の疑い)などがある.
→症状が出現した場合は,その際のヘモグロビン値の評価に加え,それぞれFDPの評価,バスキュラーアクセスエコー,脳MRI,眼科での評価などを早急に行い,速やかに対応する.
→症状が,HIF-PH阻害薬開始後に明らかに増えた場合は,HIF-PH阻害薬を中止する.

血管石灰化

HIF-PH阻害薬を投与する際は、血管石灰化をモニタリングすることを推奨する。

基礎研究からHIF-PH阻害薬が血管平滑筋細胞の石灰化病態を増悪させる危険性が指摘されている.
HIF-PH阻害薬を投与する際は,血管の理学的診察を丁寧に行うと共に,必要に応じて血管超音波検査,CAVI/ABIやCT検査を併用し,慎重に経過観察する.

肺高血圧症/心不全

HIF-PH阻害薬の投与により肺高血圧症を発症する危険性に十分注意し,HIF-PH阻害薬の投与に際しては運動耐容能の低下が無いかを丁寧に問診し,右室負荷所見の有無をチェックし,必要に応じ循環器内科への紹介を検討することを推奨する.
既に肺高血圧症を発症している症例へのHIF-PH阻害薬投与については,極めて慎重に判断すべきと考える.

HIF関連遺伝子に変異を有する症例や,モデル動物を用いた研究でHIFシグナルの恒常的な活性化が肺高血圧症を増悪させる可能性が指摘されている.
酸素環境に対する肺血管反応の特性を考えると,HIF-PH阻害薬の投与により肺高血圧症を発症する危険性に十分注意する必要がある.

HIF-PH阻害薬の投与に際しては運動耐容能の低下が無いか,丁寧に問診を行う.
定期的に心電図検査および心臓超音波検査を施行し,右室負荷所見の有無をチェックする.
特に三尖弁逆流ピーク血流速が3.4 m/秒以上になった場合には,循環器内科への紹介を検討する.

現時点で日本人におけるHIF-PH阻害薬と心血管系事象との関連性は明らかではないが,動物実験においてHIFシグナルの恒常的な活性化が心不全を引き起こすとの報告がなされていることに留意する必要がある.

HIF-PH阻害薬の投与に際しては,定期的に胸部レントゲン撮影および心臓超音波検査を施行する(推奨).
・血中BNP値については腎機能だけでなく,HIF-PH阻害薬の投与により直接的にその発現が誘導される可能性があることに注意.

嚢胞の増大,多発性嚢胞腎(polycystic kidney disease)

多発性嚢胞腎患者にHIF-PH阻害剤を投与する場合は、投与中は少なくとも年に1回は画像検査による経過観察を行うことを推奨する.

動物モデルを用いた実験で,進行した多発性嚢胞腎のモデルにおける腎嚢胞の増大にはHIF1αが関与しているという報告がある.
・この動物実験では,軽症の多発性嚢胞腎のモデルでの腎嚢胞の増大は認められなかった.

多発性嚢胞腎においては嚢胞による圧迫のための血流低下により既に腎臓局所の HIF の活性化が起きているという報告もあり,多発性嚢胞腎患者においてHIF-PH阻害剤により更に HIF の活性化が誘導されるかは分かっていない.

多発性嚢胞腎患者を含む治験において嚢胞の増大は認められていないが,治験の期間は短いため,影響についての判断には更に長期的な評価をすることが必要と考えられる.

糖・脂質代謝への影響

1)HIF-PH阻害薬によるコレステロール低下に伴う心血管系合併症への影響や,インスリン抵抗性や脂肪肝に対する影響は、今後の検討課題と考える.
2)HIF-PH阻害薬の種類によっては、スタチンとの併用に注意が必要なものがあるので注意する。

動物実験により,HIF-PH阻害薬が全身の脂質代謝,さらにインスリン抵抗性などのエネルギー代謝に影響を及ぼす可能性が指摘されている.

遺伝子改変動物による実験ではHIFの活性化,不活化が肥満や脂肪肝,インスリン抵抗性に及ぼす影響についてのデータは一定ではない.
HIF-PH阻害薬による動物実験では HIFの遺伝子改変による影響とは異なり,肥満,インスリン抵抗性を軽減する効果がある可能性が示唆されている.
HIF-PH阻害薬による中性脂肪やインスリン抵抗性については,ヒトに関しては検討がなされていない.

臨床研究においては,薬剤によって血清コレステロール濃度の低下が報告されているものとコレステロール値の変化は認められなかったとするものがあり,脂質代謝への影響には薬剤間の違いやHIF誘導の差異が関連するかもしれない.
HIF-PH阻害薬によるコレステロール低下に伴う心血管系合併症への影響は現時点では明らかではない.

薬剤各論

ダプロダスタット daprodustat

ダーブロック® 錠1mg/2mg/4mg/6mg 協和キリン
1日1回内服

・保存期CKDで使用可能.
・連日内服で徐々にHb増加
・ヘプシジンは増加傾向,VEGFが増加

ロキサデュスタット roxadustat

○連日内服
○炎症状態でも貧血改善が期待できる.
○用量依存的にヘプシジンが低下
○エポ濃度が1/5程度
○コレステロールが低下→HMGが阻害される.

バダデュスタット vadadustat

○ヘプシジンは有意に低下

モリデュスタット molidustat

○血圧上昇は伴わない

エナロデュスタット Enarodustat

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