甲状腺機能低下症 hypothyroidism

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

組織に甲状腺ホルモンが作用しないことにより起こる病態.

1)組織に甲状腺ホルモンが作用しないのは「血中遊離甲状腺ホルモン欠乏」あるいは「組織の甲状腺ホルモン不応」のどちらか.
→一般には甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモン欠乏を指す.
2)「組織の甲状腺ホルモン不応」により起こる甲状腺機能低下症は「甲状腺ホルモン受容の異常」であり,甲状腺ホルモン不応症という.稀.

潜在性甲状腺機能低下症 subclinical hypothyroidism;SCHypo
FT4基準値内でTSHが基準値を上回るもの.

・TSHは一過性に変動することも多いため,慢性的に異常値を呈するかどうか1~3ヶ月あけて再検査を行う.

疫学

女性に多い病気で,男女比は1:3~7.
30~60歳代に多い.

原因

①甲状腺性(原発性)
②視床下部性,下垂体性(二次性)
③末梢性甲状腺機能低下症=甲状腺ホルモン不応症
の三つに分類できる.

甲状腺性(原発性)甲状腺機能低下症

頻度としては自己免疫による慢性甲状腺炎が多く,慢性甲状腺炎には甲状腺腫のある慢性甲状腺炎(橋本病)と甲状腺を触れない萎縮性甲状腺炎とがある.

1)萎縮性甲状腺炎ではブロッキング抗体(TSH受容体抗体;TRAb)が陽性になる.
・このブロッキング抗体がTSHの作用をブロックし,甲状腺機能を抑制する.
2)血中甲状腺ホルモンと下垂体TSH分泌との間には負のフィードバックがあり,甲状腺性甲状腺機能低下症では血中TSHが増加する.

視床下部性,下垂体性(二次性)甲状腺機能低下症

下垂体からのTSH合成,分泌の低下による.

下垂体そのものの障害によるTSH分泌の低下と視床下部からのTRH(TSH放出ホルモン)の合成,分泌障害によるものとがある.
→後者の視床下部性のものを三次性という(稀).

甲状腺ホルモン不応症(全身型)

血中甲状腺ホルモンが正常か,高値であるのにTSHが上昇しており,甲状腺機能低下症の症状を示す.

甲状腺ホルモン受容体の遺伝子異常.

生下時から甲状腺機能低下症があると,独特の顔貌,低身長(四肢の長さが短い),知能低下になり,クレチン症cretinismという.

1)クレチン症の大部分は甲状腺の先天性異常である.
2)本邦では新生児スクリーニングで甲状腺機能をみており,新生児スクリーニングで発見されるクレチン症は20,000人に1人である.
3)ヨード欠乏地域では,クレチン症が多発し,ヨード欠乏による地方病性クレチン症endemic cretinismという(本邦ではヨード欠乏地域はない).巨大甲状腺腫がある.

病態

慢性腎臓病との関連

しばしば甲状腺機能低下症がみられ,CKDステージ3以降では20%もの患者で合併し得る.

1)要因は種々と考えられるが,腎排泄低下に伴う無機ヨード蓄積によるWolff-Chaikoff効果などにより,甲状腺ホルモン合成が抑制傾向となる.
2)T3 は低下するがreverse T3 は通常上昇せず,慢性炎症と区別される.
3)尿素やクレアチニンなどの尿毒素がFT4の蛋白結合を阻害するため,T4は正常ないしやや低値となる.
4)慢性腎臓病・透析患者では,non thyroidal illness syndrome(NTIS)が見られ,末梢におけるT4からT3への変換が抑制される.
・低栄養もT3への変換を抑制する.
・エネルギーが消耗しないように基礎代謝を低下させる一種の代償機転.
5)TSH(thyroid-stimulating hormone)は一般に正常であるが,TRH(thyrotropin-releasing hormone)に対する反応は減弱・遅延している.
6)サイロキシン結合蛋白(thyroxine binding globulin:TBG)はネフローゼ症候群でなければ低下しないが,尿毒症性物質の存在によりT4とTBGの結合が抑制される.
7)甲状腺機能低下症は腎不全と症状が類似するため,よく混同されやすい.
8)甲状腺腫の合併や臨床所見などから診断し得るが,定期的な血液検査も重要である.
9)治療は通常の甲状腺機能低下症に準じて行う.

糖尿病との関連

1)肥満を来しやすく,メタボリックシンドロームのハイリスクとなる.
2)腸管よりの糖吸収低下や肝糖新生低下の一方で,インスリン分泌低下や末梢のインスリン抵抗性を示す.
3)治療中の糖尿病患者に合併すると遷延性低血糖を来すこともある.
4)最近のメタ解析では2型糖尿病における潜在性甲状腺機能低下症の頻度は10.2%(相対リスク1.93)であり,潜在性甲状腺機能低下症では糖尿病合併症のリスクも高まると報告されている(腎症1.74倍,網膜症1.42倍,PAD1.42倍,神経障害1.87倍).
5)コントロール不良の糖尿病では,NTI(Nonthyroidal Illness)として甲状腺機能に影響する.

高血圧

心拍出量,心収縮力の低下,徐脈に加え,末梢抵抗の増大,血管内皮由来放出因子(EDRF)の低下の結果,高血圧を合併することがある.
心臓は拡大し,時には胸水や腹水を伴う.

Schmidt症候群(シュミット)

自己免疫による副腎皮質機能低下症(Addison病)と橋本病の併発をSchmidt症候群という.
autoimmune polyglandular syndromeの一つ.

皮膚の色素沈着があればSchmidt症候群を考える.

粘液水腫性昏睡 myxedema coma;MC

重症の原発性または中枢性の甲状腺機能低下症が長期に及び,さらに薬剤や感染症などがきっかけになって引き起こされ,循環不全、呼吸不全、低体温症による中枢性神経機能障害を呈する病態で,死亡率の高い(25~30%)内分泌緊急症.

・重篤になると体温低下,意識障害,やがて粘液水腫性昏睡myxedema comaになる.

・中~高齢者に多く,性差は少なく,冬季発症が多い.

・救命のためには迅速に甲状腺ホルモン製剤の投与を行う(可能なら静注)とともに呼吸,循環管理,抗菌薬投与,副腎皮質ステロイド投与などの集学的治療が必要.

症候

甲状腺ホルモン欠乏による新陳代謝低下の症状

1)典型例は,特有の顔貌,声,話し方から診断できる.
・甲状腺ホルモンが欠乏すると声帯に浮腫が生じ嗄れ声になる.
・舌の運動が悪く,会話がのろくなり,難聴も生じるため会話が難しくなる.
・特徴的な声から電話でも診断できる.

2)初期の症状はさまざまで非特異的であり,見落としやすい.
・自覚症状としては,浮腫(浮腫感),寒がり,易疲労感,動作緩慢,精神鈍麻,眠がり,難聴,皮膚乾燥(肌荒れ),脱毛,体重増加,便秘,月経過多などがある.
・精神活動が鈍っており,患者が積極的に体の異常を訴えないため見逃されやすい.
・精神活動は低下し傾眠傾向,言語,動作は緩慢になる.

粘液水腫様物質浸潤による症状

粘液水腫性浸潤はヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸に富むムコ蛋白の組織間隙への沈着による.

1)粘液水腫様顔貌,手足に浮腫があり,この浮腫は圧痕を残さない(non-pitting edema)
2)甲状腺機能低下症に心不全,低蛋白血症を合併すると,圧痕を残す浮腫pitting edemaがみられる.
3)体重は増加する.

甲状腺腫

・甲状腺腫があれば,慢性甲状腺炎,先天性の酵素欠損などを考える.
・高齢者に急速な甲状腺腫大を認めた場合,甲状腺悪性リンパ腫の合併を疑う必要がある.

その他の所見

口唇や舌は厚く(巨大舌),頭髪の脱毛があり,眉毛も外側1/3が薄い.
皮膚は乾燥し,粗ぞうであり,黄色(カロチン血症)になる.
無気力様顔貌がみられる.
筋力は低下するが,筋萎縮はない.
筋は肥大し,仮性肥大を示す.
腓腹筋のけいれんは比較的早期に出現する.
アキレス腱反射の弛緩相延長(診断的価値あり).
腸運動が低下し,便秘になる.
女性では月経異常,月経過多がみられる.

甲状腺機能検査

・血中甲状腺ホルモン(T3,T4,FT3,FT4)は低値を示す.
・甲状腺性の甲状腺機能低下症では,TSHが高値となる.
・下垂体性,視床下部性(二次性)のものでは一般にはTSHが低値になる(TSHが正常あるいはわずかに上昇することもある).
・臨床症状が出ていない潜在性甲状腺機能低下症でも,TSHは高値となり,早期診断に役立つ.

・橋本病では甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体,抗TPO抗体)が陽性になる.

血算

正~大球性貧血
←エリスロポエチン産生低下による赤血球生成低下,VitB12・葉酸不足

生化学

脂質異常症
甲状腺ホルモンは肝臓のLDLレセプターを活性化させて,コレステロール処理をよくするため,甲状腺機能低下症では血清LDLが増加する.

低Na血症
進行例

高CK血症

TTT/ZTT上昇,γグロブリン増加

中毒症と違い,低血糖は起こらない.

内分泌検査

高プロラクチン(PRL)血症
・血中甲状腺ホルモンが低下し,負のフィードバックで視床下部からのTRH分泌が亢進し,このTRHがPRL分泌を刺激するため.
・PRL分泌亢進の結果,乳汁分泌症をみる.月経過多になる.

GH分泌低下
・特に夜間睡眠時のGH分泌が低下する.

その他の検査

胸部X線写真
心陰影の拡大

心電図
徐脈,低電位,Tの平低・陰性化がみられる.

長期の甲状腺機能低下患者では動脈硬化が進行していることが多く,甲状腺ホルモンによる代謝亢進に対応できるか評価しておく.

治療

甲状腺ホルモン補充

甲状腺機能低下症患者の血中甲状腺ホルモン濃度を正常に保つことを目的とする.

1)補充療法であり,原因療法ではない.
2)治療開始前に,一過性甲状腺機能低下症や薬物の副作用の可能性を検討する.
 ヨウ素過剰摂取や造影剤の影響による一過性の可能性がある場合には,ヨウ素制限(極端にヨウ素含有量が多い昆布の摂取制限)のみで経過をみてもよい.
3)甲状腺ホルモン開始時には,副腎機能低下の可能性について注意を払い,副腎不全を伴う場合にはその治療を優先する.
 下垂体性甲状腺機能低下症あるいはSchmidt症候群で副腎皮質機能が低下している患者に甲状腺ホルモンを投与すると,副腎不全を引き起こすことがある.
 副腎不全を起こしそうな患者では,甲状腺ホルモンを投与する前に,副腎皮質ホルモンを1~2週投与し,その後T4を投与する.
4)甲状腺ホルモン補充療法を行えば正常人と同じ生活ができる.
5)多くは生涯にわたって甲状腺ホルモンを服用する.
・中には甲状腺ホルモン服用を中止できる患者がいる(可逆性甲状腺機能低下症).

種類(通常は合成T4製剤)

本邦で市販されている甲状腺ホルモン製剤には,乾燥甲状腺(チラーヂン,チレオイド),合成T3(チロナミン,サイロニン,1錠=5/25μg)と合成T4製剤(チラーヂンS,1錠=25/50μg)の3種がある.

合成T4製剤(通常はこれ)
・投与後に末梢組織でT3に転換するので,血中T3,T4濃度はT4投与のみで正常化できる.
・T4製剤はTmaxが6~7時間,半減期が1週間と長く,甲状腺ホルモン濃度の血中濃度も維持しやすい.
・T4維持量は体重1kg当たり1.5~2.5μg/日→75~150μg/日.

合成T3製剤
・腸管からの吸収がよく活性型であるため,血中半減期が約1日と短い.
→T4製剤に比べ,効果の発現が早いが,血中T3濃度を安定にするのは困難なことが多い.
・副作用が出やすい.
・T3抑制試験と粘液水腫性昏睡に限定.

乾燥甲状腺
有機ヨードの含量が0.3~0.35%になっているが,T3,T4含量は一定しない.

使用法

1)初回内服後,30分程度で動悸を感じることがあるので,事前に患者に説明しておく.
2)吸収効率を高めるためには,朝食30分前や眠前に他の薬と分けて内服するのが好ましいが,一般的には食後の内服でも構わない.
3)T4製剤の血中半減期が約1週間であるため,最初はTSHを1ヶ月毎に測定し,TSHが基準値内になることを目標に12.5~25μg/日ずつ増量する.
4)安定期には半年ごとに採血し,適正量を確認する.
5)成人では1.6μg/kg/日が平均的な必要量であり,150~200μg/日でもTSHが正常化しない場合には,内服コンプライアンスの問題や他の薬剤との相互作用を考える必要がある.
6)チラーヂンS®は25μg,50μg,100μgの3規格のみであるため,微調整が必要な時は,週に1~2度の休薬日を設ける.

副作用

1)投与過剰の場合は頻脈,動悸,不眠など甲状腺中毒症の症状がみられることがある.
2)軽度の過剰投与では自覚症状は出ないが,血中TSH濃度が基準域以下(潜在性甲状腺機能亢進症)となり,長期に続くと閉経後女性では骨粗鬆症による骨折,高齢者では心房細動のリスクが増加する.
3)甲状腺ホルモン投与は狭心症,心筋梗塞を誘発することがある.
心疾患,虚血性心疾患のある患者,高齢者では少量(T4 25μg/日)より投与開始し,心電図,CPKをみながら増量し,維持量にもっていく

T4の必要量が変化する状態

必要量が増加する場合
1)吸収不良:消化管疾患(腸短縮症候群など),糖尿病性下痢,肝硬変症,コーヒー摂取
2)妊娠
3)薬物相互作用
吸収を抑制する薬物:硫酸鉄,アルミニウム含有制酸剤,スクラルファートなど,コレスチラミン
T4のクリアランスを増加する薬物:リファンピシン,カルバマゼピン,フェニトイン
T4からT3への変換を抑制する薬物:アミオダロン
4)Basedow病の放射性ヨード治療薬

必要量が減少する場合
1)加齢(65歳以上)

原発性の顕性甲状腺機能低下症

FT4とTSHがともに基準値に入る量が維持量であるが,甲状腺ホルモンが正常となっても,TSHは新しいセットポイントで安定するには8~12週かかるのでこれを考慮した上で評価する.

高齢者,明らかな冠動脈疾患,不整脈合併例
T4製剤(チラーヂンS®)を少量(12.5~25μg/日)から開始し,時間をかけて増量
・心悸亢進,狭心症,不整脈を誘発しやすい

健康な若年者
T4製剤(チラーヂンS®)を25~50μg/日より開始する.

潜在性の顕性甲状腺機能低下症(TSHのみ上昇,FT4・FT3が基準値内)

抗甲状腺抗体が陽性で,TSHが10μU/mL以上であれば,4年以内に半数が顕性甲状腺機能低下症に移行し,また70歳以下の成人の場合は単独で動脈硬化の危険因子になるとの報告があるので,TSHが基準域に入るよう治療する.

1)時間を空けて再検し,再検してもTSH>10μU/mLとなった場合は,顕性と同様の治療を行う.
2)TSH<10μU/mLであっても,著明な甲状腺腫,脂質異常症,排卵異常,甲状腺機能低下症状を伴う場合にはT4製剤の投与を検討する.
3)欧米における臨床疫学研究からはTSHの目標値は年齢毎に異なり,かなり狭い範囲に設定される可能性が示されている.
4)甲状腺機能な正常の橋本病を追跡すると,5年後に4.9%,10年後に15.8%が機能低下症になったという報告がある.

周術期や内服困難時の管理

T4製剤の半減期が約1週間であることから1週間以内であれば,内服を中止しても問題ない.
・それ以上であれば院内調剤による注射薬あるいは坐薬を検討する.
・確実に投与量を調節するために,できるだけ注射薬を用いる.

一過性甲状腺機能低下症

橋本病の甲状腺機能は意外に変動しやすい.ヨード過剰摂取なども原因になる.
・5年間に17%,10年間に46%の症例で一過性の機能異常がみられた.
・機能低下症の橋本病を追跡すると,5年後に30%,10年後には40%の症例で機能が正常化した.

永続的になる因子
高抗体価[Tg抗体6400倍以上,TPO抗体25600倍以上],硬い甲状腺腫,男性,50歳以上,コレステロール高値,放射線ヨウ素摂取率35%以上など.

一過性の可能性が高い因子
出産後甲状腺炎後(再発率70%以上),無痛性甲状腺炎後,過剰のヨウ素摂取,放射線ヨウ素摂取率35%以上など.

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