下垂体前葉機能低下症 hypopituitarism

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
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下垂体前葉から分泌されるACTH,TSH,GH,LH,FSH,PRLの単独or複数のホルモン分泌障害により,主として末梢ホルモン欠乏による多彩な症状を呈する疾患.

ACTH,TSH,LH,FSHの低下は,それぞれの標的ホルモンである副腎皮質ホルモン,甲状腺ホルモン,性ホルモンの低下症を生じる.

GHの低下はGH分泌不全症,PRLの低下は乳汁分泌不全症を生じる.

汎下垂体(前葉)機能低下症
すべての前葉ホルモンの分泌が障害

複合型下垂体(前葉)ホルモン欠損症
2つ以上のホルモンの障害

下垂体前葉ホルモン単独欠損症
単一のホルモンのみ障害

疫学

5年間で898例(男女比1:1.3).年齢は60歳前後が最も頻度が高い.

分泌障害の頻度

ACTH84%,ゴナドトロピン76.1%,TSH74.8%,GH63.7%.
いずれも障害40%以上.

内科で発見される単独欠損症の多くは,ACTH・ゴナドトロピンであり,GHやTSHの単独欠損症は稀.

病態

ACTH単独欠損症

中高年男性に多く,倦怠感・食思不振・意識障害・低Na血症・低血糖が典型的な臨床像.

ACTHは感度以下に低下する.

副腎不全を誘因とする無痛性甲状腺炎を合併し,発見されることがある.
・甲状腺ホルモン過剰で副腎不全の症状が増強されるため診断の契機となる.

ゴナドトロピン単独欠損症

IHH(idiopathic hypogonadotropic hypogonadism)と呼ばれ,特に嗅覚障害を伴う場合をKallmann症候群と呼ぶ.
・2次性徴の欠如を契機に若年~青年期に発見されることが多い.
・原因の遺伝子異常は多岐に及ぶ.

原因

年齢,妊娠や出産との関連,頭痛や視野障害の有無,どの下垂体ホルモンの低下なのか,単独か複数の低下か,尿崩症の有無などから原因疾患を推定する.

成人下垂体機能低下症の原因(厚生労働省H13年報告)
下垂体腺腫(27.4%),頭蓋咽頭腫(13.3%),胚芽腫(7.6%),髄膜腫(1.4%),その他の腫瘍(3.9%),ラトケ嚢胞(2.7%),Sheehan症候群(6.4%),自己免疫性(3.0%),外傷性(1.3%),特発性(21.5%),その他(10.4%)

下垂体

腫瘍
下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫,転移腫瘍

炎症
感染(結核・真菌など),サルコイドーシス,ヘモクロマトーシス,ヒスチオサイトーシスX,リンパ球性下垂体炎

発生異常
低形成,異所性下垂体,Rathke嚢胞,くも膜嚢胞,類表皮嚢胞,類皮嚢胞

外傷
手術,放射線,事故

血管性
虚血性(Sheehan症候群・糖尿病・側頭動脈炎)

その他
特発性,原発性empty sella,転写因子異常(PIT-1異常など)

視床下部

腫瘍
神経膠腫,胚細胞腫,頭蓋咽頭腫,転移腫瘍,リンパ腫・白血病

炎症
サルコイドーシス,ヒスチオサイトーシスX

下垂体茎障害
外傷,手術,腫瘍・動脈瘤圧排

トルコ鞍近傍疾患

腫瘍
髄膜腫,視神経膠腫,脊索腫

薬剤
グルココルチコイド,甲状腺ホルモン,性ホルモン

big-ACTH

高分子量ACTH=生物活性の低いACTH

妊娠・出産に関連する下垂体機能低下症

Sheehan症候群

分娩時大量出血後に下垂体に虚血性壊死(梗塞)を生じ,下垂体機能低下症となる.

前葉ホルモンはACTHのみの低下から汎下垂体機能低下まで様々.

産後,PRL低下による乳汁分泌不全を生じる.

MRI所見は急性期では特に異常は認められなくても,慢性期ではempty sellaを呈することが多い.

リンパ球性下垂体炎

妊娠後期から産褥期に頭痛・視野障害・下垂体機能低下症で発見される例が多い.

尿崩症を伴う場合と伴わない場合.

一過性中枢性尿崩症

妊娠後期に発症し,出産後に自然軽快する.
 胎盤からのvasopressinase産生によるADHの分解亢進が原因.

肝機能異常をしばしば伴う.

症候

単独or複数の下垂体前葉ホルモンの分泌低下を生じ,それぞれの下垂体前葉ホルモンの欠落症状を認める.

ACTH欠落症状(コルチゾール低下)

全身倦怠感,食欲低下,易疲労感,体重減少,低血糖,微熱など.

感染などのストレスが加わると昏睡やショックに至る.

血液検査
低Na血症,低血糖,貧血(正球正色素性),相対的リンパ球増多,好酸球増多,CRP陽性.

TSH欠落症状(甲状腺ホルモン低下)

耐寒性低下,活発性低下,発汗減少,皮膚乾燥,徐脈,便秘,うつ症状,脱毛など.

血液検査
CK上昇,高コレステロール血症.

性腺刺激ホルモン欠落症状(LH,FSH)

倦怠感/易疲労感,性欲低下,眠気,ほてり,いらいら,陰毛・腋毛の脱落,骨量減少

思春期発来以前:2次性性徴発現の遅延,欠如.
成人男性:インポテンツ,筋力低下,恥毛・腋毛脱落,睾丸萎縮など.
成人女性:無月経,恥毛・腋毛脱毛など.

GH欠落症状

倦怠感・易疲労感,抑うつ,集中力低下,体脂肪率の上昇,脂質異常症,肥満,筋力低下,免疫力の低下(感冒にかかりやすい),創傷治癒の遅延,骨密度低下,肝不全.

小児期:低身長,全身発育不全,低血糖.

PRL欠落症状(頻度少ない)

産褥期の乳汁分泌低下,排卵障害.

原疾患による症状

腫瘍性・炎症性⇒頭痛,視力障害,視野狭窄
下垂体卒中⇒急激な頭痛,悪心
視床下部の器質的な病変⇒尿崩症,摂食障害,体温異常

診断

診断基準(ダウンロード)
http://immuno2.med.kobe-u.ac.jp/wp-content/uploads/2015/01/078-2.pdf

血中・尿中ホルモン基礎値測定

血中ACTH(早朝),コルチゾール(早朝),尿中遊離コルチゾール,血中DHEA-S(デヒドロエピアンドロステロンサルフェート)
*コートリル®を内服中であれば,朝のコートリル®を内服せずに血液採取し,その後に内服してもらう.
 内服後数時間で採血すると,コルチゾール20~40μg/dL程度になる.
*DHEA-Sは副腎性アンドロゲンで,ACTHにより合成が刺激されるため,ACTH分泌不全では低下する.
 日内変動がなく安定しているため,術後の副腎機能の回復の判定などに使用できる.

血中TSH,FT3,FT4
*TSHが基準値内でもFT4が低下する.
 TSHの糖鎖構造の違いにより生物活性の低いTSHが分泌される.

血中LH,FSH,性ステロイド(テストステロン・エストラジオール)

血中GH,IGF-Ⅰ(ソマトメジン)

血中PRL

血中浸透圧,尿中浸透圧,ADH

下垂体ホルモン刺激試験

ACTH系
CRH試験,インスリン低血糖試験

TSH系/PRL系
TRH試験

ゴナドトロピン系
GnRH試験

GH系
GHRH試験,GHRP-2試験,インスリン低血糖試験,アルギニン試験

原因診断

CT
MRI(ダイナミックスタディ)

治療

・グルココルチコイド,甲状腺ホルモン,性ホルモン,GHの補充療法.・PRLの補充の必要はない.

まずグルココルチコイドの補充を優先し,約1週間後から甲状腺ホルモンを補うのが超重要

ACTH系

ヒドロコルチゾン(コートリル®)を補充する.

・15mg/日を朝食後10mg,昼or夕食後5mgの2分割とし,患者の体調・血糖・電解質など治療効果を確認しつつ,内服時間や内服量の調整を行う.
・ほとんどの場合は10~20mg/日で問題ない.
・開頭手術のため,抗てんかん薬のフェノバルビタール,カルバマゼピン,フェニトインを内服するとCYP3A4の酵素誘導によりコートリル®の代謝が亢進し,補充量の増量が必要になる場合がある.
*Sick dayの対応の指導も忘れずに!!

TSH系

レボチロキシン(チラーヂンS®) 25μg/日の内服から開始し,徐々に増量する.

・TSH値は参考にならないため,FT3やFT4を正常域内にコントロールする.
FT4 1.1~1.4ng/dLを目標.
・無痛性甲状腺炎を合併することがあるので注意.

ゴナドトロピン系

男性

アンドロゲン補充療法(ART)

妊孕性回復を望む場合
・hCG 3000~5000単位とヒト閉経後ゴナドトロピン(human menopausul gonadotropin:hMG),ゴナドトロピン®あるいはリコンビナントヒトFSH 75~150単位を週2~3回筋注する.
・血中遊離テストステロンや精子検査を定期的に行う.

ホルモン補充のみの場合
・テストステロンエナント酸エステル(エナルモンデポー®) 125~250mgを2~4週ごとに筋注する.

除外基準
・前立腺癌,中等度以上の前立腺肥大症,PSAが2.0ng/mL以上

女性

女性ホルモン療法(HRT)
*50歳以上は適応にならない

妊孕性回復を望む場合
・hCG/hMG療法は,産婦人科管理のもとで卵巣過剰刺激症候群の発症に留意する.

ホルモン補充のみの場合(閉経後にはしない)
・Kauffmann療法を行う.乳癌・子宮癌・血栓症についての検索が必要.

小児期に発症し,成人後にはじめて治療する場合
・骨成熟や子宮発達を優先し,まずホルモン補充療法を行い,次いで性腺刺激療法へ移行する.

GH系

目的はGH分泌不全に起因すると考えられる易疲労感,スタミナ低下,集中力低下などの自覚症状を含めて,QOLを改善し,体脂肪量の増加,除脂肪体重の減少などの体組成異常および血中脂質高値などの代謝障害を是正すること.

2006年から保険適応となり,重症GH欠損のみ治療対象で,中等度は対象外.
適応については,QOL・内臓脂肪・脂質代謝などを検討して,慎重に決定(QOL尺度AHQ).

GH皮下注 3μg/kg/day(就寝前)から開始.
 50kgなら0.15mg/日.

・臨床症状やIGF-1値が年齢別正常域になるようにコントロール.
・3~6ヶ月はIGF-1を毎月測定,補充量が決まったら3~6ヶ月毎に測定する.
*最大12μg/kg日まで投与可能で,上限は1mg/日.
*高齢者では少量0.1mg/日から開始する.
症状は開始後1週間くらいで自覚することが多い.手足の浮腫,手根管症候群,関節痛,筋肉痛が出現しても一時的であることが多い.程度が強い場合は一旦中止し,症状がひいてから,少量から再開する.

禁忌
糖尿病患者,悪性腫瘍のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある女性.

副作用
手足の浮腫,手根管症候群,関節痛,筋肉痛,耐糖能悪化,椎間板ヘルニア悪化,悪性腫瘍の合併

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