下垂体炎 hypophysitis

医学ノート(なすび用)

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・下垂体炎は単一の病態ではなく,下垂体に慢性炎症が生じた病態の総称.
  原因→原発性と二次性
  主座→前葉炎,漏斗後葉炎,汎下垂炎
  組織像→リンパ球性,肉芽腫,その他
・リンパ球性下垂体炎(前葉炎)は頻度が高く,特徴的な臨床像を呈する.
・IgG4関連全身疾患の一部分症としての下垂体炎が,注目されている.

間脳下垂体機能障害の診断と治療の手引き(平成30年度改訂)
http://www.acromegaly-center.jp/medical/pdf/treatment_guidance.pdf

疫学

・1/900万人/年と稀.
・組織学的には,lymphocytic(68%),granulomatous(20%),xanthomatous(3%),IgG4関連(4%),necrotizing(<1%).

リンパ球性下垂体炎 lymphocytic hypophysitis;LH

下垂体や視床下部漏斗部に,T細胞・B細胞からなるリンパ球や形質細胞浸潤が認められる慢性炎症疾患.

下垂体炎の中で最も頻度が高い.
・欧米の年間発症率は,人口900万人に1人と概算されている(実際はより多いと推測される).
・約65%がLAH,約10%がLINH,約25%がLPHと報告されている.

原因は不詳.

発症初期は,リンパ球の浸潤と下垂体の腫大が特徴的で,下垂体細胞の破壊が続く.
典型的な自然史では,下垂体組織の線維化による置換を伴う進行性の下垂体萎縮を伴うとされる.

妊娠に関連する症例が多いとされる.
慢性甲状腺炎,副腎皮質機能低下症,副甲状腺機能低下症,萎縮性胃炎,全身性エリテマトーデス,Sjögren症候群などの他の自己免疫疾患を合併する疾患や,種々の自己抗体の陽性例があることから,自己免疫性の機序が想定されている.

MRI
均一に造影される腫瘤性病変を呈することが多く,中枢性尿崩症を来した例では後葉のT1強調高信号が消失する.
・下垂体腫大は,3病型全体の8-9割,鞍上進展も6-7割にみられる.経時的に軽快・消退するのが特徴的.

病理所見(下垂体生検)
下垂体や視床下部に,びまん性のリンパ球(T細胞・B細胞)浸潤が認められる.
53%に形質細胞も認められる.

リンパ球性下垂体前葉炎  lymphocytic adenohypophysitis;LAH

主たる病変部位が下垂体前葉.

女性:男性=6:1と女性に多く,分娩前後に好発し,女性の発症平均年齢は35歳(男性は45歳)
・57%が妊娠に関連し発症.
・中でも,妊娠の最終月 or 産後の最初の2ヵ月に多い.

腫瘤性病変による頭痛・視覚障害(約半数)

腫瘤性病変による圧排のため高プロラクチン血症(乳汁分泌・月経異常).約1/3.

疲労感などの下垂体ホルモン前葉ホルモン分泌低下症による症候.
・ACTH系障害が最も多く,次いでTSH系障害が多い(ACTH単独欠損も多い).
・約56%が二次性副腎皮質機能低下症.
・順序は,GH>LH/FSH>TSH>ACTH
・機序として,①腫瘤性病変による下垂体の圧排,②抗視床下部抗体,抗下垂体の存在が知られている.

約20~50%に自己免疫疾患(慢性甲状腺炎・自己免疫性副腎炎[Addison病]・悪性貧血・1型糖尿病など)を合併する.

MRIでは,前葉(時に茎部も)の対称性腫大.
造影MRIにおいて下垂体病変部位のびまん性均一な強い造影効果を認める.

腫大が軽快と消退し,empty sellaに移行する例もある.

リンパ球性漏斗後葉炎  Lymphocytic Infundibuloneurohypophysitis;LINH

主たる病変部位が下垂体後葉・茎.

女性・男性はほぼ1:1で妊娠との関連は認められない.発症平均年齢42歳.

多くの特発性中枢性尿崩症の原因はLINHと考えられている.
前葉機能は比較的保たれる.

自己免疫機序を示唆する自己抗体として,抗AVP抗体が報告されているが,特異性は高くなく,診断マーカーとしては有用でない.

最近は,診断マーカーとして抗ラブフィリン3A抗体が知られている.
→ラブフィリン3Aが病因自己抗原であり,ラブフィリン3Aに特異的に反応するリンパ球が病態に関与している可能性がある.

MRI
後葉高信号の消失と茎部の限局性肥厚または後葉の腫大を呈する.
造影では,病変部で強い増強増強効果を認める.
時に胚細胞性腫瘍,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織増加症などと類似する.

リンパ球性汎下垂体炎  lymphocytic panhypophysitis;LPH

下垂体前葉・下垂体後葉・茎が病変部位.

女性:男性=1.9:1と女性に多い.発症平均年齢42歳.

前葉と後葉ともに障害され,下垂体前葉ホルモンの1つ以上の分泌低下と中枢性尿崩症が認められる.

炎症の波及なのか独立した疾患概念であるのかは不明.
組織所見,他の自己免疫疾患の合併,抗下垂体抗体の存在,妊娠との関係などから自己免疫機序が考えられている.

造影MRI
病変部位の均一な強い造影増強効果を認める.

下垂体茎の生検で病変部位にリンパ球を中心とした細胞浸潤を認める.

二次性下垂体炎

・原因は多彩.
 頭蓋咽頭腫,ラトケ嚢胞,胚細胞性腫瘍,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球増加症,炎症性肉芽腫(真菌症・結核など),周囲組織からの炎症の波及(Tolsa-Hunt症候群・肥厚性硬膜炎など),IgG4関連疾患などが二次性下垂体炎の原因となる.
・頭痛,前葉機能障害,中枢性尿崩症,視障害などを呈し,特徴的所見を欠くことが多い.
・MRIでは,原疾患が明らかな場合を除き,特徴的所見を欠くことが多い.

IgG4関連下垂体炎

中高年男性に多く,汎下垂体炎(前葉障害と中枢性尿崩症)を呈する.
茎部を含む腫瘤性病変が多く,時に周囲の肥厚性硬膜炎や副鼻腔炎を合併する.

血清IgG4濃度の増加を認める(≧135mg/dL)
IgG4関連全身疾患は後腹膜線維症,Mikulicz病,唾液性疾患,自己免疫性膵炎,Riedel型甲状腺炎,間質性肺炎など.

病理でIgG4陽性形質細胞を多数認める.
*二次性に認めることがあるため,慎重に鑑別診断を(ラトケ嚢胞・頭蓋咽頭腫・悪性リンパ腫など).

下垂体MRI
下垂体のびまん性腫大 or 下垂体茎の肥厚を認める.

ステロイド治療によく反応する.

免疫チェックポイント阻害薬関連下垂体炎

下垂体前葉炎とACTH単独欠損症の2つの異なる臨床的特徴を有する.
下垂体機能低下症は,通常永続的.

発症者は非発症者に比し,生命予後が有意に延長することから,治療効果が高い患者の指標となる可能性がある.

抗PD-1・PD-L1抗体
・ACTH単独障害が大半.
・頻度は0.3~1.1%(前向き研究では6.0%).
・TSH抑制を伴わないFT3の上昇というSITSH様の変化が起こるため,注意が必要.

抗CTLA-4抗体
・頭痛や下垂体腫大を伴う下垂体炎を呈することが多い.
・頻度は1.8~13.6%(前向き研究では24.0%)
・最も頻度が高いのは,ACTH分泌低下症.TSH分泌低下,ゴナドトロピン分泌低下症を合併することがある.尿崩症は稀.
・投与から8~10週前後で診断されるケースが多い.

病理

病理所見による分類
1.リンパ球性下垂体炎
2.肉芽腫性下垂体炎
3.黄色性下垂体炎
4.壊死性下垂体炎

・リンパ球性下垂体炎では,主にリンパ球(特にCD4・CD45・CD8陽性T細胞)浸潤,前葉構造の破壊,間質の浮腫と線維化,時にリンパ濾胞の形成を認める.
・肉芽腫性下垂体炎の少なくとも一部は,ラトケ嚢胞が原因の二次性炎症.
・黄色肉芽腫の大多数も頭蓋咽頭腫やラトケ嚢胞に伴い,出現する.
・上皮成分を欠くとトルコ鞍部黄色肉芽腫と診断されるが,これは独立した疾患概念かどうかは不明.
・炎症細胞浸潤や線維化は下垂体炎に共通した所見であり,炎症の時期・ステロイド使用などにより変化するため注意が必要.

診断(リンパ球性下垂体前葉炎)

確実例:ⅠのいずれかとⅡのすべてを満たすもの.
疑い例:ⅠのいずれかとⅡの1,2,3,4を満たすもの.

Ⅰ.主症候

1.頭痛,視野障害,乳汁分泌などの下垂体腫瘤性病変による局所症候
2.疲労感,無月経などの下垂体機能低下症による症候

Ⅱ.検査・病理所見

1.血中下垂体前葉ホルモンの1つ以上の基礎値および標的ホルモン値の低下を認める.
2.下垂体前葉ホルモン分泌刺激試験における反応性の低下を認める.
3.画像検査で下垂体前葉のびまん性腫大を認める.
4.造影 MRI 検査において病変部位の均一な強い造影増強効果を認める.
*まれに嚢胞性病変を示すことがある.
5.下垂体の生検で前葉にリンパ球を中心とした細胞浸潤を認める.
*下垂体生検で肉芽腫病変,泡沫化組織球の細胞浸潤,壊死病変を認める場合は,肉芽腫性下垂体炎,黄色腫性下垂体炎,壊死性下垂体炎とそれぞれ呼称される.

Ⅲ.参考所見

1.女性,特に妊娠末期,産褥期の発症が多い.
2.高プロラクチン血症を認めることがある.
3.他の自己免疫疾患(慢性甲状腺炎など)の合併例が比較的多い.
4.抗下垂体抗体を認める例がある.
5.長期経過例ではトルコ鞍空洞症(empty sella)を示すことがある.

診断(リンパ球性漏斗下垂体後葉炎)

確実例:ⅠとⅡのすべてを満たすもの.
疑い例:ⅠとⅡの1,2,3を満たすもの.

Ⅰ.主症候

口渇,多飲,多尿

Ⅱ.検査・病理所見

1.中枢性尿崩症に合致する検査所見を認める.
2.画像検査で下垂体茎の肥厚または下垂体後葉の腫大を認める.
3.造影MRI検査において病変部位の均一な強い造影増強効果を認める.
4.下垂体または下垂体茎の生検で病変部位にリンパ球を中心とした細胞浸潤を認める.

Ⅲ.参考所見

1.下垂体前葉機能は保たれることが多い.
2.画像検査の異常は自然経過で消退することが多い.

診断(リンパ球性汎下垂体炎)

確実例:Ⅰの1,2とⅡのすべてを満たすもの.
疑い例:Ⅰの1,2とⅡの1,2,3,4,5を満たすもの.

Ⅰ.主症候

1.下垂体腫瘤性病変による局所症候および下垂体機能低下症による症候
2.中枢性尿崩症による症候

Ⅱ.検査・病理所見

1.血中下垂体前葉ホルモンの1つ以上の基礎値および標的ホルモン値の低下を認める.
2.下垂体前葉ホルモン分泌刺激試験における反応性の低下を認める.
3.中枢性尿崩症に合致する検査所見を認める.
4.画像検査で下垂体のびまん性腫大または下垂体茎の肥厚を認める.
5.造影MRI検査において病変部位の均一な強い造影増強効果を認める.
6.下垂体または下垂体茎の生検で病変部位にリンパ球を中心とした細胞浸潤を認める.

Ⅲ.参考所見

1.高プロラクチン血症を認めることがある.
2.視床下部性と下垂体性の下垂体機能低下症が混在する場合がある.

診断(IgG4関連下垂体炎)

確実例:ⅠのいずれかとⅡの1,2,4,6 or Ⅱの3,4,6を満たすもの.
ほぼ確実例:ⅠのいずれかとⅡの1,2,4,7 or Ⅱの3,4,7を満たすもの.
疑い例:ⅠのいずれかとⅡの1,2,4,5 or Ⅱの3,4,5を満たすもの.

Ⅰ.主症候

1.下垂体腫瘤性病変による局所症候または下垂体機能低下症による症候
2.中枢性尿崩症による症候

Ⅱ.検査・病理所見

1.血中下垂体前葉ホルモンの 1 つ以上の基礎値および標的ホルモン値の低下を認める.
2.下垂体前葉ホルモン分泌刺激試験における反応性の低下を認める.
3.中枢性尿崩症に合致する検査所見を認める.
*続発性副腎機能低下症が存在する場合に仮面尿崩症を呈する場合がある.
4.画像検査で下垂体のびまん性腫大または下垂体茎の肥厚を認める.
5.血清IgG4濃度の増加を認める.
*135mg/dL以上.ステロイド投与により低下することがあり投与前に測定することが望ましい.血清 IgE濃度が増加することがある.
6.下垂体生検組織においてIgG4陽性形質細胞浸潤を認める.
*IgG4陽性形質細胞が10/HPFを超える or IgG4/IgG 陽性細胞比40%以上.
*下垂体腺腫,ラトケ嚢胞,頭蓋咽頭腫,悪性リンパ腫,多発血管炎性肉芽腫症などで二次性にIgG4陽性細胞浸潤が軽度認められることがあるため慎重に鑑別する必要がある.

7.他臓器病変組織においてIgG4陽性形質細胞浸潤を認める.
*後腹膜線維症,間質性肺炎,自己免疫性膵炎,涙腺唾液腺炎などの臓器病変が多く認められる.

Ⅲ.参考所見

1.中高年の男性に多い.
2.ステロイド治療が奏功する例が多いが,減量中の再燃や,他臓器病変が出現することがあるので注意が必要.

治療

腫瘤性病変による圧迫性の視野障害や頭痛がない場合は,手術療法を控え,各種下垂体ホルモンの不足に対して適切なホルモン補充療法を行い,炎症性腫瘤の自然治癒を期待して,経過観察する.
定期的なホルモン検査と,MRIなどで形態学的変化を経過観察する.

腫瘤性病変による視野障害や頭痛がある場合は,グルココルチコイドの薬理量(PSL換算で0.5~1.0mg/kg/日,高齢の場合や病態に応じて調節)を投与し,症状の改善を認めれば漸減する.
・症例によっては,ステロイドパルス or ミニパルス療法検討する.
・多くの場合,グルココルチコイドによって腫瘤の軽減が期待される.
・下垂体機能障害を改善させるのに有効であったという報告もある.
・グルココルチコイド反応例での再発も多い.

Mass effectが著明でステロイドによる治療効果が乏しい場合は,外科治療(経蝶形骨洞的減圧術)も検討されるが,基本的self-limitedな疾患で長期的には自然寛解が期待できる.
一方で再発の可能性もある.

IgG4関連下垂体炎はステロイドが著効する(IgG4関連疾患の治療の手引き参照).

他の二次性下垂体炎は原疾患に応じた治療を行う.

自己免疫性視床下部下垂体炎

下垂体の腫大が著明で,腫瘤による圧迫症状(視力・視野の障害や頭痛)がある場合は,グルココルチコイドの薬理量(プレドニゾロン換算で 0.5~1.0 mg/kg/日,高齢の場合や病態に応じて調節)を投与し,症状の改善を認めれば漸減する.
・病態によってはステロイドパルスあるいはミニパルス療法を検討する.
・症状の改善が認められない場合は生検とともに腫瘤の部分切除による減圧を検討する.
・薬理量のグルココルチコイドを投与する場合には,全身検索や下垂体生検の必要性を検討し,結核などの感染症を十分に除外する必要がある.

下垂体腫大による圧迫症状がなく下垂体機能の低下が認められない場合は,MRI などによって下垂体腫瘤の形態学的変化を経過観察する.

下垂体機能低下症,尿崩症の評価を行い適切なホルモン補充療法を行う.

医学ノート(なすび用)
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なすび院長

勤務医に疲れ,定期非常勤と投資でなんとかしのごうというひっそり医.
好きな分野は,糖尿病・腎臓病です!(゚∀゚)

ネット上で念願のなすびクリニックを作るも,今日も改装中で,いつ再開するのやら・・・
勉強好きで,私用に細々とまとめています.

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事務長:かえる

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