低Na血症,低ナトリウム血症 hyponatremia

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

血清ナトリウム(Na)濃度が 135mEq/L 未満の状態

いくつかの例外を除けば,血漿浸透圧(張度)の低下を意味する.
=血液中のNaの量より相対的に水分量が多くなっている.

正常であれば,血清浸透圧の低下は口渇感の抑制,ADHの分泌抑制を起こし,水分摂取量が低下,尿自由水排泄が増加することにより,血漿浸透圧の上昇をもたらす.
→低Na血症の形成と維持には口渇の異常か尿自由水排泄能(尿希釈能)に異常があるはず.

疫学

日常臨床上最も頻度の高い水・電解質異常.
 一般人口で2~4%,高齢外来患者では7~11%に及ぶ.
 入院患者の3%,集中治療室(ICU)患者の30%.

低Naの頻度は50歳代から明らかに増加し,特に71歳以上では重症な低Na血症が増加する. Hawkins Clin Chim Acta 2003

病態

1)ナトリウム(Na)イオンの90~ 95%はNa+として細胞外液(extracellular fluid:ECF)中に存在し,血漿浸透圧を規定している.
2)体内総Na量の増減に並行して,ECFが増減し,Na濃度は一定の範囲(135~145mEq/L)に保たれている.
→ECFの調節障害によって低ナトリウム血症をきたす.

日内会誌2016;105:667-675

ECFは浸透庄調節系と容量調節系により調節されている.

血漿浸透圧の上昇
 視床下部の浸透圧受容体により感知され,口渇中枢を刺激するとともに,下垂体後葉からのarginine vasopressin(AVP)分泌を促進し,腎集合管での水の再吸収促進に働く.
→ADHの分泌は,わずかな変化にも反応する繊細なものであるが,量が少ない.

有効循環血漿量の低下
 容量受容体(心房壁),圧受容体(頚動脈洞・大動脈洞・腎輸入細動脈)により感知され,交感神経系,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の亢進,心房性Na利尿ペプチド(atrial natriurelic peptide:ANP)分泌抑制を介して循環血漿量の保持に働く.
 さらに著しい(5~10%)循環血紫量の低下はAVPの分泌を刺激する.
→ADHの分泌は,感度が低いが,分泌量は多い.

脳浮腫

低張性低Na血症では細胞内への水の移行により,細胞内が浮腫になり,硬い頭蓋骨に囲まれた脳細胞へ重大な影響をもたらす.

脳細胞はinositol,sorbitol,betaineなどの浸透圧物質を水とともに放出し,細胞内容量を保とうとする.防御機構の完成には2日かかるといわれ,それより早いtonicityの変化には対応できない.

低Na血症による脳浮腫のrisk factor
 術後の閉経前の女性,サイアザイド服用中の高齢女性,心因性多飲患者,低酸素血症,小児

慢性低Na血症

慢性低Na血症が続くと,非椎体骨折のリスクが上昇し,生存率が低下する.
注意力低下および歩行不安定性と関連することから,中枢神経系への影響が示唆される.

慢性低Na血症
→歩行障害 →転倒→骨折→QOL低下,生命予後の悪化
→骨粗鬆症 →骨折
→記憶障害・注意力障害

臨床症候

症状

125~135 mEq/L[軽症]:無症状
110~125 mEq/L[軽症]:食欲低下,頭痛,病的反射,傾眠
105~110 mEq/L[中等度]:悪心,嘔吐,人格変化,混迷
105 mEq/L未満[重度]:混迷,痙攣,脳浮腫による脳ヘルニア,死亡

症状は,血清Na濃度の絶対値が低いほど,また低下する速度が速いほど顕著となる.
・急性では症状が出現しやすいが,慢性の場合 125mEq/L 以下にならなければ顕性化しないことが多い.

慢性の低Na血症では脳細胞内の浸透圧物質が減少することにより,細胞内容量を正常に戻す機構(細胞容積調節 cell volume regulation)が働くため,症状が出る低Na血症は急性(2日以内)のものか,慢性でも120mEq/Lを下回ったもの,進行スピードの速いもの(0.5mEq/L/hr以上)に限られる.

身体診察

脱水
・体重減少,口渇,血圧低下,頻脈,腋窩乾燥,眼球陥没,毛細血管再充満(<4秒),皮膚ツルゴール(turgor)の低下.

体液過剰
・体重増加,浮腫,胸・腹水の貯留,心拡大.

検査所見

血清Na・K 測定,TP・Alb,BUN・Cr・UA,ADH,コルチゾール,アルドステロン,レニン,甲状腺ホルモンの測定,血液ガス分析などを行う.

浸透圧

浸透圧の計算(計算値)と実測値もオーダーする

血漿浸透圧(mOsm/kg)=(2×Na)+Glu/18+BUN/2.8
尿浸透圧(mOsm/kg) ≒2×[U-Na+U-K]+U-UN/2.8≒尿比重下二桁×35
 *Na(mEq/L),K(mEq/L),Glu(mg/dL) ,BUN(mg/dL)

尿中生化学

体液量低下による低Na血症では,代償機構により,尿中Na 20mEq/L未満となることが多い.

原発性副腎不全,利尿薬の使用等では,腎臓からのNa喪失が生じ,尿中Na濃度が増加する.

体液量の増加した低Na血症では,体液量が増加していても有効循環血液量が低下しているため,腎臓におけるNa再吸収は亢進して尿中Na濃度は低下する.
*腎不全では,尿中Na濃度は増加する.

フローチャート

日内会誌2016;105:667-675

高齢者の低Na血症をみたら,ACTH単独欠損症・MRHEを疑おう!
(コルチゾール・ACTH測定,ARB内服の確認)

1st STEP 血清浸透圧での分類

高張性低Na血症 Hypertonic hyponatremia

血漿浸透圧>295 mOsm/kg

血漿浸透圧上昇により細胞内から細胞外へと水が移動し,相対的な水過剰となる.

1)高濃度のマンニトールやグリセオール,高血糖などはそれらがeffective osmolesであるため,細胞内外の浸透圧格差を生じ、細胞内から外への水の移動を引き起こし、低Na血症を生じる.
2)ブドウ糖100mg/dLの上昇につき、2.4mEq/LのNaが低下する.

等張性低Na血症 Isotonic hyponatremia

偽性低Na血症pseudohyponatremiaとも呼ばれ,主に中性脂肪・コレステロールの増加やパラプロテイン血症(多発性骨髄腫など免疫グロブリン過剰)などによって起こる.

1)血清は蛋白と水からなり,蛋白は通常7g/dL,血清として7g/100mL含まれており,蛋白が異常高値になると,血清に含まれる水の絶対量が少なくなり,ナトリウムの絶対量も少なくなる.
2)血清としてのNa濃度は低くなってしまう.
 中性脂肪・コレステロールといった非水成分でも起こる.

低張性低Na血症 Hypotonic hyponatremia

血漿浸透圧<275 mOsm/kg

ほとんどの低Na血症はこの部類.
①NaまたはKの欠乏,②水の過剰,③①と②の両方によって起こる.

2nd STEP 細胞外液量の評価

日内会誌2016;105:667-675

細胞外液量増加(体内水分過剰)

浮腫/胸腹水の存在.
1)有効循環血漿量の増加⇒腎不全
2)有効循環血漿量低下(FENa低下)⇒心不全[心拍出量の低下]・肝硬変・ネフローゼ症候群[膠質浸透圧の低下]

心不全
1)RAS系亢進および頸動脈圧受容体を介したバゾプレッシン分泌増加(水再吸収の促進)
2)RAS系亢進によるアルドステロン増加(Na再吸収亢進)

細胞外液量減少(体内Na欠乏)

血圧低下などの脱水所見
1)FENa低下⇒消化管からの喪失(下痢,嘔吐,腸閉塞など),急性膵炎,3rd spacing,熱傷,K欠乏
2)FENa増加⇒利尿薬,浸透圧利尿,塩類喪失性腎症(間質性腎炎・慢性腎炎),副腎不全(Addison病)など.

細胞外液量正常

内分泌疾患
・副腎不全(ACTH単独欠損症):腎からのNa喪失とAVP分泌抑制不全
・抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)
・甲状腺機能低下症

薬物(サイアザイド)

水中毒(心因性多飲),マラソン中の多飲,ビール多飲(溶質不足)

ミネラルコルチコイド反応性低Na血症(MRHE)

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 syndrome of inappropriate secretion of ADH;SIADH
血漿浸透圧が低値であるにも関わらず、下垂体後葉からのバゾプレシン(arginine vasopression;...
ミネラルコルチコイド反応性低Na血症 Mineralocorticoid-responsive hyponatremia of the elderly;MRHE
・高齢者でみられ,腎性Na喪失(遠位尿細管での再吸収低下)により軽度の脱水を伴う低ナトリウム血症をきたす....

副腎不全
糖質コルチコイド欠乏→CRH増加→ADH分泌亢進
生理的な条件下で,ADHの分泌はコルチゾールによる抑制を受けている.

治療

補正速度

成因によって治療は異なるが,急速な低Na血症の改善は脳の浸透圧性脱髄症候群を起こすことが報告されており,改善の速度は0.5mEq/L/時間,10mEq/L/日を越えないことが望ましい.

急性(2,3日)の場合には12mEq/L/日以内を目標に輸液で是正する.
⇒脳細胞の浸透圧に対する防御機構が働くまで時間がかかるため,早急な治療が必要.

慢性の経過(わからなければ慢性)で症候性は8mEq/L日以内を目標に輸液する.
⇒すでに防御機構が働いており,内部のtonicityを細胞外と同じく低くするため,外部の急激なtonicityの変化により脳細胞内の水が一気に細胞外へ出て,致命的な細胞委縮を起こす可能性がある(浸透圧性脱髄症候群).

臨床症状の強くないものでは低Na血症の補正を急速に行う必要はない!
迷ったら,慢性に準じる.

症候性の低Na血症はそれが急性であろうと慢性であろうと,脳細胞への障害を意味しており,早急な治療が必要.

重篤な中枢神経障害を伴う低Na血症では血中Na濃度を125mEq/Lくらいまで,1~2mEq/L/時程度で急速に回復させ,その後0.5~1mEq/L時程度で徐々に回復させる.
ただし,まれではあるが急速に起きた(数時間の経過で)重篤な低Na血症は急速に改善させる必要がある.

過剰補正の際には,5%ブドウ糖液,デスモプレシン投与で一旦Na濃度を低下させることが有用とされている.

尿生化学による予測

尿中Na+K>血清Na⇒自由水排泄障害→進行
尿中Na+K<血清Na⇒自由水排泄あり→改善

輸液補正

細胞外液量が低下している病態
 1倍ないし1/2倍に希釈した生理食塩水などを用いて有効循環血漿量を回復させてやれば,自由水の排泄が増加し低ナトリウム血症は是正される. 

血清Na濃度の上昇の予測式

Adrogue-Madias式(輸液1Lと仮定,この式が成立するのは無尿の場合)
⊿[Na]=[輸液中(Na+K)-血清Na]÷(TBW+1)

単位→TBW(L),Na(mEq/L),K(mEq/L)
TBW:総体液量=体重×係数(男性0.6,女性0.5,高齢男性0.55,高齢女性0.45)

尿生化学も加えて,補正すると・・・
⊿[Na]=[(血清Na×TBW)+輸液中(Na+K)-尿中(Na+K)]÷(TBW+輸液量-予測尿量)
*不感蒸泄はなしとする

3%高張食塩水

0.9%生食400mL+10%食塩水20mL×6Aで完成.

1)3%食塩水1mL/kgBW/hrの投与で⊿[Na]は約0.7mEq/hr増加する.
2)体重kg当たり,0.5mL/hr(60kgの人で30mL/hr)で開始し,その後の⊿[Na]をみて,最大2mL/kgBW/hr程度まで必要に応じて増量する.
3)痙攣などの重篤な症状がある場合は,最初の数時間は2mL/kgBW/hrで開始し,1~2時間毎に血清Naをチェックして,必要に応じて減量していく.

水分制限

細胞外液量が増加している場合
水分制限が原則となる.
生理食塩水を投与しながらフロセミドを投与することもある.

SIADH
水制限(0.5~1L)が基本.
薬物療法として,V2受容体桔抗薬,デメクロサイクリン投与,並行して現疾患に対する治療を行う.

V2受容体拮抗薬

抗利尿ホルモンの一つであるバソプレシンのV2受容体への結合を選択的に阻害する経口選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬.

トルバプタン

サムスカ®
 心不全治療薬で,希釈性低Na血症に有効.

モザバプタン

フィズリン®
 悪性腫瘍による異所性AVP産生に伴うSIADHに対し適応

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