個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
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血清Mgは必ずしも体内の総Mgプールを反映せず,逆に血清Mgが正常であっても体内Mg欠乏の場合がある.

疫学
入院患者の11%,集中治療室患者の最大60%みられ,決して稀ではない.
・ICUの重症患者のような低栄養状態,利尿薬使用,下痢や腎でのMg排泄を亢進する薬剤(アミノグリコシドなど)の使用が増加する.
原因
腎外性
Mgは食物に多く含まれるので,健常者が摂取不足で欠乏症になることは稀.
■摂取不足や吸収不良
アルコール依存症(20~25%が低Mg血症を呈する)
吸収不良症候群(短腸症候群)
炎症性腸疾患
PPI長期使用
小腸切除術後
蛋白質・エネルギー欠乏症
Mg非含有の点滴
ビタミンD欠乏症
TRPM6変異
遺伝性腸性低Mg血症
プロトンポンプ阻害薬
1)血清Mg濃度が低下することが知られているが,その機序の1つとして,プロトンポンプ阻害薬による,腸内のpHの上昇により,transient receptor potential melastatin(TRPM)6の活性が低下することが考えられている.
2)透析患者や保存期CKD患者においても,プロトンポンプ阻害薬の投与により血清Mg濃度が低下することが示されている.
■消化管からの喪失
下痢・嘔吐(下部消化管分泌液はMg濃度が高い)
下剤乱用
■細胞内移行
refeeding症候群(細胞内Mg移行)
Hungry bone syndrome(PHPT術後のPTHの急激な低下)
急性膵炎
造骨性骨転移
■その他
熱傷
過度の発汗
授乳,妊娠(Mg必要量の増加)
腎からの喪失(腎性)
■多尿
糖尿病(浸透圧利尿)
AKI回復期
腎移植後
■細胞外液量増多(近位尿細管のMg再吸収が低下)
アルドステロン症(原発性,続発性)
■後天性尿細管障害
尿細管間質性腎炎など
■遺伝性疾患
Bartter症候群(NKCC2に作用し,傍細胞経路に資する電気勾配が低下)
Gitelman症候群(NCCの機能低下→TRPM6発現低下→Mg再吸収低下)
家族性低Mg血症
CaSR活性型変異(CaSR活性化→傍細胞経路の抑制)
代謝異常クラスター(ミトコンドリア異常症)
claudin-16,-19異常症
Kチャネル異常症(Kv1.1,Kir4.1)
Na-K-ATPase γサブユニット異常症(FXYD2)
■薬剤性
ループ利尿薬(NKCC2に作用し,傍細胞経路に資する電気勾配が低下)
サイアザイド利尿薬(NCCの機能低下→TRPM6発現低下→Mg再吸収低下)
抗EGFR抗体薬(EGFRシグナル下流のRac-1によるTRPM6の管腔側輸送を妨害)
プラチナ製剤(シスプラチン,カルボプラチン)
抗菌薬(アムホテリシンB,アミノグリコシド,ペンタミジン)
カルシニューリン阻害薬
■その他
高Ca血症(CaSR活性化→傍細胞経路の抑制)
アルコール多飲
原発性副甲状腺機能亢進症(P欠乏)
症候
1)低Mg血症には特異的な所見がない.
2)全身倦怠感,食欲不振,筋力低下,テタニー(Trousseau’s sign & Chvostek’s sign),痙攣,せん妄,昏睡,不随意運動などがみられる.
低K血症
1)低Mg血症の半分で低K血症を合併する.
2)皮質集合管主細胞のMg低下により,ROMK(renal outer medullary K channel)を介するK排泄が増加する.
・K channelがATP依存性に閉鎖されるのが,低Mg血症によるATPの枯渇により,K channelが開いたままとなる.
PTH分泌低下・抵抗性,低ビタミンD状態(低Ca血症)
1)高度の低Mg血症(<1.2mg/dL)では高率にPTH分泌低下と抵抗性による低Ca血症を合併する.
2)ビタミンDも低Ca血症の割に低値であることが多い.
3)原因は不明だが,MgがCa sensing receptorにアゴニストとして作用していることが考えられている.
心血管作用
1)心電図上,QRS拡大,T波増高がみられることがある.
2)低Mg血症の程度が高度になると,QRSの更なる開大とPR間隔延長,T波の消失がみられる.また心室性不整脈(特にVPCやtorsade de pointes)などを誘発する可能性がある.
診断
以下の場合は,血清Mgを測定すべき!
1)低Mgによる症状が疑われる場合
2)臨床経過から低Mg血症が疑われる場合(低Ca血症や低K血症がある場合など)
3)集中治療室患者
測定契機
・アルコール中毒
・慢性下痢
・低栄養
・利尿薬の使用(サイアザイド・ループ利尿薬)
・低K血症
・低Ca血症
・虚血性心疾患や心不全,心室性不整脈(循環器科領域)
原因の鑑別
腎機能正常の場合,FEMg>3~4% or 1日尿中Mg排泄量>24mgで,腎からのMg喪失と判断する.
→それ以外は,腎以外の原因
随時尿でのFEMg(fractional excretion of Mg;Mg排泄率)
FEMg(%)=(尿中Mg濃度×血清Cr濃度)÷(0.7×血清Mg濃度×尿中Cr濃度)×100
*係数0.7は,糸球体濾過される遊離Mg濃度を推測するため
*FEMgは糸球体濾過量と反比例するため,腎機能低下時は評価が難しい.
畜尿での1日尿中Mg排泄量
治療
治療適応は,
1)Mg欠乏症状や合併症(心疾患,痙攣ならびに重度の低K血症・低Ca血症)がある場合
2)重症例(Mg<1.4mg/dL)
軽度で症状がない
1)Mg欠乏量は,1~2mEq/kgと考えられる.
2)投与したMgの50%は尿中に失われるので,欠乏量の2倍を投与する必要がある.
最初の24時間で,1mEq/kgを補正し,その後の3~5日間で0.5mEq/kg/dayを補正する.
1)Mg>1mEq/Lであれば,経口のMg製剤を使用する.
→初日に1mEq/kg,その後の3~5日間で0.5mEq/kg/dayを補正する.
たとえば体重50kgの人なら,初日マグミット®330mg3T3×,2日目~マグミット® 500mg1T1×.
中等度(Mg<1.4mEq/L or 他の電解質異常を伴う)
目安,1日目は64mEq/day,2日目~は32mEq/day
1)硫酸Mg 6g(48mEq Mg)を250~500mLの生食に溶いて,3時間以上かけて投与
→マグネゾール® 3A(60mL=48mEq)を生食500mLに溶き,140mL/hr(4hr)
2)次の6時間で,硫酸Mg 5g(40mEq Mg)を250~500mLの生食に溶いて投与
→マグネゾール® 2.5A(50mL=40mEq)を生食500mlに溶き,90mL/hr(6hr)
3)その後5日間にわたり,12時間毎に硫酸Mg 5g(40mEq Mg)を250~500mLの生食に溶いて投与
→5日間にわたり,マグネゾール® 2.5A(50mL=40mEq)を生食500mLに溶き,45mL/hr(12hr)で投与する.
致命的(TdPなどの不整脈,全身痙攣を伴う)
ボーラス投与後15分で,血中濃度が再び低下してくるので,持続投与が重要.
・血中濃度は1~2日で正常化するが,体内の貯蔵量を補うには数日を要する.
1)硫酸Mg補正液®8~16mEq(0.4~0.8A)を生理食塩水50mLに溶かし,15分以上かけて経静脈投与する.
2)硫酸Mg 5g(40mEq Mg)を250~500mLの生食に溶いて,6時間以上かけて投与する.
→マグネゾール® 2.5A(50mL=40mEq)を生食500mlに溶き,90mL/hr(6hr)で投与
3)その後5日間にわたり,12時間毎に,硫酸Mg 5g(40mEq Mg)を250~500mLの生食に溶いて投与する.
・5日間にわたり,マグネゾールR 2.5A(50mL=40mEq)を生食500mLに溶き,45mL/hr(12hr)で投与する.
*腎不全患者であっても,Ccr>30mL/minでは,慢性もしくは重度の下痢があれば低Mg血症が起こりうるが,上記の50%以上は投与せず,慎重にモニターする.
Mg製剤
経口
酸化マグネシウム® 450~1800mg/day(分3)
酸化マグネシウム1g=Mg約0.6g(約50mEq)
重質酸化マグネシウム®,マグミット®(330mg, 500mg)
静注
硫酸マグネシウム
マグネゾール®(1A=20mL) 0.81mEq/1mL
コンクライトMg®(1A=20mL) 1mEq/1mL
注意点
急速に静注すると不整脈や血圧低下あるいはその他のMg中毒症状(顔面紅潮・腱反射低下・低血圧)を呈するので注意する.
・特に腎機能低下状態ではMg中毒を生じやすい.
血清Mgと体内Mg量の相関は低く,血清Mgは正常でも体内Mgは欠乏していることがある.
→血清Mg正常化後も数日間は治療を続ける.
Mg充足度は,経静脈的に投与したMg量の30%未満しか尿中に排泄されない場合は絶対的不足と判断され,50%以上排泄されれば充足したと判断する.
原疾患の治療
薬物性
薬物中止を検討.
中止後も遷延することもあり,高アルドステロン作用を持つ,K/Mg保持性利尿薬(アルダクトン®)を使用する.
内分泌性
原疾患の治療.
抗アルドステロン療法(K/Mg保持性利尿薬,ACE-I,ARB)も有効.