低血糖症 hypoglycemia

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

厳密には血糖低値だけで低血糖症と診断するべきではなく,低血糖症状が存在し,かつその際の血糖値が少なくとも60mg/dL以下の場合を,低血糖症とする.

慢性的に低血糖状態が持続しているような場合には症状に乏しいことがある.

低血糖の病態については,下記リンク参照

診断

低血糖の診断

成人において,インスリン or インスリン分泌促進薬を内服している糖尿病患者以外低血糖を起こすことは極めて稀.
→Whippleの3徴(空腹時低血糖症状,確認されて低血糖 Glu<50mg/dL,ブドウ糖投与による低血糖症状の改善)を認める場合に精査をすることが望ましい.

低血糖の確認は,臨床検査室 or 正規の検査機関での測定が必須!
*自己血糖測定による血糖値は用いない.
*検体採取の際にも,ブドウ糖分解阻害薬が入った試験管を用い,血球成分と血漿の分離を遅滞なく行う.
*上記の正しい方法でも血糖値が低値の場合,自覚症状がなくとも低血糖は否定しない.
*低血糖様症状がある場合でも,血糖値≧70mg/dLの場合は低血糖が否定できる.

内因性インスリン分泌過剰

低血糖症状 and そのときの採血された血糖値<55mg/dL

血中インスリン濃度≧3μU/mL(感度93%,特異度95-100%)

血中C-ペプチド≧0.6ng/mL(感度100%,特異度10~60-78%)
血中C-ペプチド≧2.3ng/mL(感度84%,特異度76%)

血中プロインスリン濃度≧5.0pmol/L(感度100%,特異度41~68-78%)
血中プロインスリン濃度≧27pmol/L(感度100%,特異度100%)

反応性低血糖症 reactive hypoglycemia

食後4時間以内に発生する自覚症状を伴う低血糖.

空腹時ではなく,食後約5時間以内にのみ低血糖症を認める場合には反応性低血糖症を疑う.
*空腹時に低血糖を認める場合はこれが原因ではない.

病態

過量の炭水化物を含む食事の後に起こることが多い.
→インスリンの過剰分泌が誘導される.

インスリン過剰分泌にインスリン分泌遅延が加わると,食後の血中インスリンのピークが血糖値のピークよりも遅れ,低血糖が生じやすい.
・GLP-1分泌亢進が関与し,過剰なインスリン分泌が誘導されることも明らかになっている.

副次的な要因としては,インスリン感受性の亢進と,インスリン拮抗ホルモンの異常が挙げられている.

中には,高インスリン血症を伴わない症例もある.
うち,15%に腎性尿糖がみられる→腎性グルコースの亢進により,血中インスリンと血糖のバランスが崩れることから低血糖が誘発されると考えられている.

原因

インスリン過剰分泌
代表例として,胃切除後患者における後期ダンピング症候群が挙げられる.
→食後30~60分に低血糖症状が生じる.

食後のインスリン分泌遅延・過剰分泌
インスリン抵抗性に起因することが最も多い.
→肥満を伴う早期2型糖尿病,境界型症例
→食後3~5時間に低血糖症状を認める.

原因を特定できない場合には特発性反応性低血糖症となるが,この診断のためには精神疾患を除外する必要がある.

後期ダンピング症候群

診断

診断に際しては日常生活上で生じる食後低血糖症を確認することが不可欠.

低血糖を示唆する自覚症状があっても,血液検査で低血糖を証明できないことは少なくない.

厳密にはWhippleの三徴を呈する場合に診断する.
1)低血糖の臨床症状が存在する.
2)血糖を測定すると低値である.
3)血糖値の上昇により症状が消える.

経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)やテストミール負荷試験が診断に用いられるが,偽陰性や偽陽性が多いため,必ずしも適切ではない.
→最近では,CGMを用いた血糖変動の観察が有用である可能性が示唆されている.

治療

一定の治療法は確立されていない.

食事療法

最初に試す.

急峻な血糖上昇を引き起こす原因となる高炭水化物食を避ける.
・吸収の速い砂糖を大量に含む食物や,ブドウ糖やショ糖を多量に含む清涼飲料水を避けるよう指導する.

6分食(後期ダンピング症候群)
1回の食事に含まれる炭水化物の比率を減らし,さらに血糖値が低下傾向となる食事と食事の間の時間に補食をすることで,低血糖を防ぐことができると考えられている.
・日常生活での実施が難しい場合もある.

水様性食物繊維
ペクチンやグアーガムなどの水様性食物繊維は,胃からの食物の排出を抑制し,腸管通過時間を長引かせることで血糖値の上昇を抑制し,インスリン分泌をも抑制することが知られている.

薬物療法

α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI) 第一選択

反応性低血糖に対して,理想的な作用を持つ.
→インスリン分泌の立ち上がりが改善し,遷延する過剰なインスリン分泌も改善する.
・早期GLP-1分泌が減少すると報告あり.

ジアゾキシド 高インスリン血症性低血糖症に保険適応あり.
膵β細胞の細胞膜ATP感受性Kチャネルを開口させることにより,インスリン分泌を抑制する.

ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドなど) 症例報告レベル
ソマトスタチン受容体に結合し,GLP-1やGIPの分泌を抑制し,インスリン分泌を抑制する.
食物の胃排出時間を延長させ,小腸への排出を遅らせる作用もある.

カルシウム拮抗薬(ベラパミル,ニフェドリン,ジルチアゼム) 症例報告レベル
膵β細胞に直接作用することにより,グルコース誘導性インスリン分泌を抑制することが知られている.

プロプラノロール 症例報告レベル
インスリン基礎分泌およびグルコース誘導性インスリン分泌の両方を抑制するとされる.

薬剤性低血糖症

糖尿病治療薬による血糖降下作用の増強で低血糖をきたすものや,糖尿病治療薬以外による副作用で低血糖をきたすものがある.

SU薬やグリニド薬との相互作用を有する薬剤

プロベネシド
腎排泄抑制

ワルファリン クロラムフェニコール
肝代謝抑制

スルファメトキサゾール フィブラート系薬物
血中蛋白との結合抑制,肝代謝抑制,腎排泄抑制

アゾール系抗真菌薬
血中蛋白との結合抑制,肝代謝抑制,CYP2C9阻害(グリメピリド)

サリチル酸 ロキソプロフェンなど
血中蛋白との結合抑制

β遮断薬
糖新生抑制,低血糖からの回復抑制,低血糖に対する交感神経症状抑制

MAO阻害薬
インスリン分泌促進,糖新生抑制

テトラサイクリン
インスリン感受性促進

シベンゾリン ジソピラミドなど
インスリン分泌促進

クラリスロマイシン シプロフロキサシン レボフロキサシン
機序不明

シクロスポリン
CYP3A4阻害(レパグリニド)

クロピドグレル
CYP2C8阻害

低血糖の原因となりうる薬剤

エタノール

降圧薬
エナラプリル,メトプロロール,ナドロール,ピンドロール,プロプラノロール

利尿薬
アセタゾラミド,フロセミド

非ステロイド系抗炎症薬
アスピリン,インドメタシン

睡眠薬
ベンゾジアゼピン系

向精神薬
クロルプロマジン,ハロペリドール,イミプラミン,リチウム,マブロチリン

抗不整脈薬
ジソピラミド,シベンゾリン,キニジン,リドカイン

消化性潰瘍治療薬
シメチジン,ラニチジン

抗菌薬
キノロン系抗菌薬,セフカペンピボキシルなど,ST合剤,オキシテトラサイクリン,ドキシサイクリン,ペンタミジン,イソニアジド,エチオナミド

抗ヒスタミン薬
ジフェンヒドラミン

禁煙補助薬
バレニクリン

気管支拡張薬
フェノテロール,テルブタリン

抗がん薬
インターフェロンα,オクトレオチド,エルロチニブ,イマチニブ,メルカプトプリン

血管拡張薬
イソクスプリン

抗てんかん薬
フェニトイン,ガバペンチン

子宮用薬
リトドリン

パーキンソン病治療薬
セレギリン,MAO阻害薬

抗血栓薬
ワルファリン

ピックアップ

シベンゾリン

シベノール® 多い

Ⅰa群抗不整脈薬で心房性不整脈に頻用されるが,許容上限血中濃度は250ng/mL.
800ng/mL以上の血中濃度で低血糖を来たしやすく,高齢者や腎機能低下症例には注意を要する.

SU薬と同様にKATPチャネル阻害作用による細胞膜脱分極に起因したCaチャネル開放とインスリン分泌亢進.低血糖が起きたときは遷延する可能性が高いため,入院管理を検討する.
・インスリン分泌はシベンゾリンの濃度依存性であり,血中濃度が中毒域である間はインスリン分泌が続く.
・腎機能障害例では,薬剤排泄に時間を要し,低血糖が遷延しやすい.

ジソピラミドも同様の機序.

キノロン系抗菌薬

低血糖をきたす頻度が高い.

ガチフロキサシン
膵β細胞のKATPチャネルのKir6.2サブユニットに結合し,チャネル活性を直接抑制し,インスリン分泌を促進することが報告されている.
→内服薬は販売中止

ピボキシル基を持つ抗菌薬

セフカペンピボキシル(フロモックス®),セフジトレンピボキシル(メイアクト®など)

吸収された後に加水分解でピバリン酸に分解される.
→ピバリン酸がカルニチン抱合を受けて尿中へ排泄→血清カルニチンが低下

カルニチンはミトコンドリア内での脂肪酸β酸化に必須な因子であり,カルニチン欠乏状態では空腹時の糖新生に障害をきたす.

ST合剤

高用量で低血糖を誘発することが知られている.
*腎機能低下例では注意

ペンタミジン

投与開始数時間~数日と突然生じることが多い.
再発することがあり,ときに致死的になることがあるため,注意.

危険因子としては,長期にわたる治療期間,高用量での使用,腎機能障害,全身状態不良など.
AIDS患者では低血糖のリスクが数倍上がることが報告されている.

機序としては,ペンタミジンは膵β細胞に対する毒性を有しており,細胞からインスリンが破壊性に放出されることが原因として考えられている.

低血糖が生じた場合はただちに投与を中止し,再投与は避ける.

βアドレナリン拮抗薬

健常者では低血糖を起こさないが,糖尿病患者の重症低血糖の原因として報告されることがある.

選択性,非選択性ともにリスクがあるが,選択性のものがリスクが低いとされている.

危険因子としては,長時間にわたる絶食や激しい運動などが挙げられる.

機序は複数あるが,β2受容体を介した肝臓における糖新生の抑制,筋肉におけるブドウ糖の取り込みの促進,脂肪分解の阻害などが挙げられる.

低血糖時にカテコールアミンによる血糖上昇を抑制し,また自覚症状としての交感神経刺激症状が出ないこともあるため,遷延性の低血糖に注意.

ACEI

非糖尿病患者でカプトプリルやラミプリルが原因と考えられる低血糖の症例報告や,糖尿病患者でACE阻害薬を使用すると低血糖のリスクが3~4倍に上昇するという報告がある.

骨格筋における血流改善や,アンジオテンシンⅡの血中濃度低下,ブラジキニン濃度上昇を介した細胞内へのブドウ糖取り込みを促進して,インスリン感受性を改善させている可能性が考えられている.

NSAIDs

非糖尿病患者においては症候性低血糖は稀であるが,小児ではサリチル酸の過量投与で重症低血糖をきたす可能性がある.

機序にはいくつか仮説があるが,肝臓における糖新生の抑制とインスリン分泌の促進で糖代謝に影響を及ぼす可能性や,インスリンクリアランスを低下させる可能性が示唆されている.

メクロフェナム酸は,膵β細胞のKATPチャネルを介してインスリン分泌を促進させていることが示されている.

サリチル酸は,ミトコンドリア内のNADHを減少させて糖新生を抑制すること,PGE2の産生を減少させてインスリン分泌を促進させること,ⅠκB kinaseの阻害によりインスリン感受性を亢進させていることなどが機序として考えられている.

トラマドール

機序として,セロトニンを介したインスリン分泌の増加やオピオイドμ受容体を介した糖代謝の亢進や糖新生の抑制などが考えられている.

抗マラリア薬

主にキニーネによるものが多く,用量依存性.
→キニーネの重症低血糖には,オクトレオチドが有用とされている.

アルコール性低血糖症

エタノールの過剰摂取と炭水化物摂取があいまって引き起こされる.

重症低血糖に占める割合が高いとされ,低血糖による意識障害の原因としても重要.

長期の飲酒歴や慢性の低栄養状態を反映した痩せ型の体型,発症時の低体温などが挙げられている.

予後については,糖尿病治療薬使用者の者で死亡率が高く20%台後半,アルコール単独でも10%台前半と報告されている.

アルコールは中枢神経系への作用により低血糖に対する自覚を鈍らせることがあり,アルコール多飲者で低血糖を繰り返しているうちに低血糖に対する交感神経刺激症状が欠如し,中枢神経症状で発症することもあり,重篤な低血糖につながる.

病態

糖新生の抑制

糖新生に対する反応のうち,乳酸からピルビン酸への変換やTCAサイクルの各段階の反応にはNADが必要であるが,アルコールを大量に摂取している場合には,糖新生に必要なNADが消費されてしまう.

慢性的な低栄養状態にある場合,絶食後6~12時間でグリコーゲンが枯渇する.

飲酒時に食事量が相対的に低下し,炭水化物摂取量が少ないことも想定される.
・炭水化物を含まないウイスキーや焼酎によるものが多い.

インスリン分泌の増強

直接的なインスリン分泌刺激作用はないが,グルコースやアルギニン,トルブタミドなどのインスリン分泌刺激症状作用を増強することが認められていている.
→炭水化物の多い食事との同時摂取で,反応性低血糖をきたす可能性がある.

糖尿病治療薬との相互作用

アルコールの肝での代謝経路の一部は肝マクロゾームのチトクロームP-450系酵素(CYP)を介するが,SU薬やグリニドもCYPにより代謝され,アルコールと競合する.
→薬剤の代謝遅延による薬効の増強

アルコール性ケトアシドーシス alcoholic ketoacidosis;AKA

アルコールで血糖値が低下
→インスリン分泌低下+インスリン拮抗ホルモンの増加
→遊離脂肪酸の合成やβ酸化を促進し,アセチルCoAが過剰に産生
→アセチルCoAがケトン体に代謝される(NADH/NAD比が高い条件下),ピルビン酸から乳酸への還元反応も促進
→アニオンギャップ開大を伴う代謝性アシドーシス

NADH/NAD比の増加でアセト酢酸はβ-ヒドロキシ酢酸に代謝されるため,β-ヒドロキシ酢酸/アセト酢酸の比率が高いことが特徴(DKAとの違い).
・3-OHBAは,尿ケトン体測定に用いるニトロプルシドナトリウム法では検出できないため,血中測定が必須.

高濃度のエタノールは体脂肪分解を抑制するので,飲酒を中断し,エタノール濃度が低下したころにケトアシドーシスをきたすことが多い.

脱水・電解質異常を伴う危険な病態.

診断

①飲酒後に低血糖が生じている
②ブドウ糖により低血糖発作から回復する
③他の原因による低血糖が除外されている
④低血糖発作時にインスリン値が低値である
⑤絶食後のアルコール負荷によって低血糖が誘発される(実臨床では難しい)
などが参考になる.

治療

糖質投与(ブドウ糖を経静脈的)に加え,AKAでは脱水の補正も必要.
*肝臓のグリコーゲンが枯渇した状態では,グルカゴンの効果は乏しい.
*低栄養状態では,ビタミンB1も枯渇していることが多いため,ビタミンB1も混注する.

低血糖が改善した後も栄養状態が改善されグリコーゲンが貯蔵されるまでは治療を継続する.
*低K血症,低P血症にも注意.

二次的低血糖症

血中インスリン値は低値(6μU/mL未満)であることが多い.
・血中インスリン値の評価は必ず低血糖症発生時の採血データに基づく.

各種ホルモン分泌不全(下垂体機能不全,成長ホルモン単独欠損症,ACTH単独欠損症,副腎不全)
敗血症
腎不全
肝不全
うっ血性心不全
乳酸アシドーシス
飢餓状態,神経性食欲不振症
ショック
非β細胞腫瘍(IGF-1 or -2産生腫瘍)
褐色細胞腫の切除後

インスリン抗体 anti-insulin antibody

factitious低血糖症 factitious hypoglycemia

インスリンや経口血糖降下薬を秘密裡に使用して,低血糖を起こすもの.

高インスリン血症を伴う低血糖症であるにもかかわらず,血中Cペプチドの値が0.6ng/mL(0.2nmol/L)未満であればインスリン投与による低血糖症が考えられる.
・この場合の血中インスリン値は高いことが多く,1,000μU/mL以上を認めることもある.

surreptitious低血糖症

低血糖になることを知りつつ,インスリン注射量を増量して注射し,医療者には極小量しか注射していないと報告するもの.

運動後遅発性低血糖症

日中に激しい運動を行って,運動後12時間過ぎに低血糖を起こしてくるもの.

激しい運動により肝グリコーゲンが消費されるためグリコーゲン合成が促進され,その結果血糖値が低下すると考えられている.
・その他に骨格筋細胞膜のGLUT4の増加,インスリン拮抗ホルモン(コルチゾール,GH)分泌反応の乳酸による減弱など.

運動を激しく行った1型糖尿病患者でみられやすい.

運動強度を増すとエネルギー消費が増加するにも関わらず血糖が下がりにくくなる(運動中).
・10秒間の全力疾走などの短時間高強度の運動や,ウェイトリフティングなどの無酸素運動.
・カテコラミン分泌による考えられている.
→終了後数時間たって,拮抗ホルモンの影響がなくなったころに低血糖症をきたしやすい.

インスリノーマ

薬剤性でも二次性でもない低血糖症で,低血糖症の際の採血で高インスリン高Cペプチド血症(血中インスリン値≧6μU/mL,血中Cペプチド値≧0.6ng/mL)を認める場合には,インスリノーマが疑われる.

機能的膵β細胞異常 nesidioblastosis

非インスリノーマ膵性低血糖

先天性高インスリン血症 congenital hyperinsulinism;CHI

膵島細胞症 nesidioblastosis
乳児持続性高インスリン血性低血糖症 persistent hyperinsulinemic hypoglycemia in infancy;PHHI

先天性インスリン分泌過多による持続性低血糖をきたす疾患群.

先天性高インスリン血症 : 小児期・移行期を含む包括的対応を要する希少難治性肝胆膵疾患の調査研究班
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業

新生児,乳児期に多く発症し,インスリン過多分泌により難治性の低血糖をきたす疾患群.

生後間もなく発症し生後3~4ヵ月以内に消失する一過性のものと,3~4ヵ月を超えて低血糖症状が持続するのがある.
・一過性のものが頻度が多く,低体重や出産前後の障害が関与し,一部を除き大部分は非遺伝的な要因になる.頻度は約17,000出生に一人.
・持続性のものは遺伝子変異によるものが多く,誘因なく発症する.頻度は約34,500出生に一人.

原因

持続性は大部分が遺伝性の要因によると考えられ,50%程度の遺伝子変異が同定されているが,残りは未だに原因遺伝子変異が解明されていない.

最も頻度が高いのは,膵β細胞に発現し血糖を感知してインスリン分泌調節を担うATP依存性Kチャネル(KATPチャネル)の異常で,ジアゾキシド不応性の約90%を占める.

症候

インスリン過剰分泌に基づく低血糖により新生児・乳児期に,冷や汗,ふるえ,意識障害などの症状をきたす.

一部の例では,年長になってから発症することもある.

低血糖は空腹時に多いが,食後1~2時間で出現することもある.

反復性・持続性低血糖を繰り返すと高頻度にてんかん,発達遅滞などの高度の中枢神経後遺症を残す.

診断

血糖<50 mg/dL時に,3基準のうち「2つ以上満たす場合」or「1つを満たし,既知の原因遺伝子変異を同定した場合」に確定診断,1つのみを満たす場合に疑診.

1)血中インスリン値(IRI)>1μU/mL
2)グルカゴン0.5~1mg筋注(静注)による15~45分後の血糖上昇>30mg/dL
3)正常血糖を維持するためのブドウ糖静注量(mg/kg/min)
 >7(生後6か月未満)
 3~7(生後6か月以降)
 >3(成人)

【補助的所見】
血中3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸)<2mmol/L(2000μmol/L)
血中遊離脂肪酸(FFA, NEFA)<1.5mmol/L(1.5mEq/L)

治療

内科的には,高濃度ブドウ糖輸液,胃瘻・経管などによる持続注入,コーンスターチ・糖原病用フォーミュラなどの栄養療法に加え,ジアゾキシドが使用される.
・一般的には,年齢とともに低血糖は軽快する傾向がある.
・自然経過で,治療不要になることがある.

変異KATPチャネルのため,本剤が無効な場合,オクトレオチド頻回・持続静注,グルカゴン持続静注,副腎皮質ステロイド静注,ニフェジピン内服などが行われる.

内科的治療が奏功しない場合,中枢神経障害を回避する目的で外科的に膵亜全摘を行う.
18F-DOPA PETを用いて,局所病変を検出し,外科的に摘出できると後遺症なく完治可能.
→90%以上がのちにインスリン依存性糖尿病になる.

胃バイパス術後低血糖

非インスリノーマ膵原性低血糖症 non-insulinoma pancreatogenous hypoglycemia;NIPHS

インスリノーマを除く内因性の高インスリン血症から低血糖を生じる症候群.

成人の高インスリン性低血糖の原因の0.5~8%を占める.

空腹時低血糖より食後低血糖が特徴.

膵内分泌細胞のびまん性過形成や膵島細胞症(nesidioblastosis)が認められる.

非膵島腫瘍性低血糖 non-islet cell tumor hypoglycemia;NICTH

インスリノーマ以外のさまざまな膵外腫瘍による低血糖.

本邦における内因性空腹時低血糖症を来たす原因疾患のうち,糖尿病薬による低血糖を除くと本症は全体の約25%を占め,インスリノーマに続いて多い.

典型的なものは,巨大な腫瘍に伴うことが多く,低血糖の機序として腫瘍によるブドウ糖の消費,腫瘍からのIGF-Ⅱ過剰(big IGF-Ⅱ),糖代謝調節機構障害が推定されている.

最も多く報告されているのが間葉系腫瘍であるが,本邦では,上皮性である肝臓がんが最も多く,間葉系は少ない.その他,カルチノイド,血液系悪性疾患が原因となる.

診断としては,低血糖を呈する膵外腫瘍において,Western immunoblot法などを用いて腫瘍組織によるbig IGF-Ⅱ産生を証明する.
*血中IGF-Ⅱ濃度のみでは診断できない.

70%が径10cmを超える腫瘍で,低血糖時にインスリン分泌過剰を認めず,IGF-1,GHの抑制,IGF-Ⅱ/IGF-Ⅰ高値を認めることが診断の補助になる.

治療の原則は,原因となる腫瘍摘出.
*腫瘍が巨大で全摘出が困難な場合でも,IGF-Ⅱ低下を目的として,腫瘍容積を減らす部分切除も行われる.

低血糖への対応として,グルココルチコイド,GH,グルカゴン投与の報告がある.

自己,虚偽性,故意など種々の原因による低血糖

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