(治療に伴う)低血糖 hypoglycemia

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

糖尿病治療中にみられる頻度の多い緊急事態.
1)動悸,発汗,脱力,意識レベルなどの低血糖症状が存在する
2)少なくとも血糖値が70mg/dL以下である
を満たした場合に低血糖と診断する.

一般には血糖の急速な低下によって,交感神経刺激症状(発汗,不安,動悸,振戦など)が生じ,50mg/dL程度で中枢神経症状(頭痛,目のかすみ,空腹感)をきたし,さらに30mg/dL程度に低下すると,重症低血糖となり,意識不明,発作,昏睡,心筋虚血,狭心症,神経障害後遺症などの重篤な障害を誘発し,死亡に至る可能性がある.

重症低血糖=血糖値や症状では決まらず,回復に他者の援助を必要する低血糖

は:腹が減り
ひ:冷や汗
ふ:ふるえ
へ:へんにどきどき
ほ:放置しておくと意識がなくなる

疫学

糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告

我が国の重症低血糖は,年間約2万件発生すると推測され,その60%がインスリン療法患者であり,1型糖尿病ではいずれの世代にも重症低血糖が認められ,2型糖尿病では高齢者においてその発現頻度が高率であった.

約1.4%が死亡と関連しており,また3.2%に認知症を含め,中枢神経症状が後遺した.

低血糖時の病態

血糖の恒常性維持は,生命維持にとって不可欠.

・健常人は通常80~120mg/dLの狭い範囲で維持されている.
・食物摂取後胃腸で消化されて単糖つまりブドウ糖となり,門脈から大静脈に入り,60%が肝臓に,25%が脳に,10 %が筋肉に,5%が脂肪組織に取り込まれ,TCAサイクルを経て, ATPが産生されてエネルギーとなる.
・余分なものは肝臓や筋肉内にグリコーゲンとして貯蔵される.

中枢神経系におけるブドウ糖

ブドウ糖は中枢神経系にとって最も重要なエネルギー源.

・脳は1時間あたり循環血液中のブドウ糖3~5gを消費するといわれるため, 5g×24時間として120gのブドウ糖(60kgの健常人なら1時間あたり2g必要),カロリーとして4kcal×5g×24時間と計算して1日480kcalを消費していることになる.
・脳は安静にしていても120gのブドウ糖を消費している臓器といえる.

・中枢神経系によるブドウ糖の取り込みは,GLUT1とGLUT2の2つのブドウ梢輸送担体により促進される.
→インスリンの調節を受けないため,低血糖時には,ブドウ糖のこの輸送系が律速となっている.
 慢性的な低血糖はブドウ糖輸送のアップレギュレーションを起こすといわれる.

中枢神経系におけるケトン体

・脳はブドウ糖が供給不足になったときは脂肪酸のβ酸化によって産生されるケトン体を利用することもできる.
・脳におけるケトン体の取り込みは,ケトン体の濃度に依存する.
・長時間の飢餓状態のように,ケトン体の循環血漿中の濃度が上昇しているときのみ,ケトン体の酸化により中枢神経系はエネルギーを調達する.
→血糖値は低いがケトン体濃度が高値のときは低血糖症から免れる.

血中インスリン値を上昇させる血糖降下薬やインスリン治療中の場合や,脂肪酸の酸化障害のとき,血糖値は低くかつケトン体産生が抑制される.

中枢神経系のエネルギー供給は枯渇し,低血血糖症が起こりやすく,かつ重症化しやすくなる.

低血糖に対する防御反応

血糖80~85mg/dL
・インスリン↓=最初の防御反応.

血糖65~70mg/dL
グルカゴン↑=最も重要な低血糖防御因子.低血糖に対する第2の防御反応.
エピネフリン↑=グルカゴン欠乏で重要.低血糖に対する第3の防御反応.
成長ホルモン↑,コルチゾール↑=これらも低血糖防御に含まれる.
*グルカゴンの欠乏+交感神経の抑制は重篤な低血糖をきたす.

低血糖時の症状

健常人では通常,静脈血糖値が60mg/dL以下となった場合に低血糖症状が出現する.
 さらに50mg/dL台で中枢神経機能障害が生じる.

交感神経刺激症状

・低血糖時に分泌されるカテコールアミン等による自律神経系の症状.
・血糖値が正常の範囲を超えて,急速に降下した結果生じる.
→発汗,不安,動悸,頻脈,手指振戦,顔面蒼白など

中枢神経症状

・ブドウ糖欠乏による中枢神経系機能低下に起因する症状.
・血糖値が50mg/dL程度に低下した頃に起こる.
→頭痛,目のかすみ,空腹感,眠気(生あくび)など.
→50mg/dL以下ではさらに意識レベルの低下,異常行動,痙攣などが出現し,昏睡に至る.

夜間低血糖 night hypoglycemia

・動悸,冷や汗,悪寒などで目が覚める
・不穏な行動,攻撃的な言動
・悪い夢を見る
・寝汗をかいて,うなされる
・朝,起きたときに頭が痛い
・朝もしくは朝食後の血糖が高い
・日中,体調がすぐれない(疲労,倦怠感,仕事ができない)

低血糖のリスク因子

・薬物の種類や量の誤り
・食事が遅れたり,食事量または炭水化物の摂取が少ない場合
・いつもより強く長い身体活動の最中または運動後,強い運動あるいは長時間運動した日の夜間および翌日の早朝
・飲酒
・入浴

重症低血糖がもたらす有害事象

けいれん,昏睡といった脳神経障害

交通事故

認知症←→重症低血糖

心血管疾患(2型糖尿病)

細小血管症(2型糖尿病)

Dead-in-bed syndrome(1型糖尿病) 突然の原因不明死
・慢性合併症を認めない1型糖尿病患者
・前日は健康なことを確認されている
・朝ベットで死んでいるところを発見される

メカニズム

著明な血圧上昇(2型糖尿病>1型糖尿病)
→心血管ストレス大→高血圧緊急症/切迫症
         →血管障害→心血管イベント

低体温,低K血症,QT延長→致死的不整脈,Dead-in-bed syndrome

意識障害
→交通事故,外傷
→脳神経障害,認知機能低下
→低血糖持続/初療遅れ→心血管ストレス持続
           →不整脈リスク上昇

治療

 医療機関であれば,まず直ちに血糖値を測定し,低血糖症であることを確かめる.

経口摂取が可能な場合

ブドウ糖10gまたはブドウ糖を含む飲料水150~200mLを摂取させる.
→約15分後,低血糖がなお持続するならば再度同一量を飲ませる.

ショ糖では少なくともブドウ糖の倍量(砂糖で20g)を飲ませるが,ブドウ糖以外の糖類では効果発現は遅延する.

α-グルコシダーゼ阻害薬服用中の患者では必ずブドウ糖を選択する.

補食
次の食事まで1時間以上あく場合
・マリービスケット1袋 糖質12.9g 72kcal
・おにぎり半分(ごはん50g) 糖質18g 84kcal
・ロールパン1個 糖質15g 95kcal 食パン6枚切り半分 糖質14g 79kcal

経口摂取が不可能な場合

・50%グルコース注射液20mL(20%グルコースならば40mL)を静脈内投与する.
(末梢の場合は,20%グルコースを選択したほうが無難.静脈炎のリスク)
・医療機関でない場合,ブドウ糖や砂糖を口唇や歯肉の間に塗りつけ,グルカゴンがあれば1バイアル(1mg)を家族が注射するとともに,直ちに主治医と連絡をとり,医療機関へ運ぶ.

グルカゴン

・通常1USP単位(1瓶)を1mLの注射用水に溶解し,筋肉内又は静脈内に注射する.
・低血糖を生じた患者にグルカゴンを投与すると通常20分以内に症状が回復するが,症状が改善しない場合でも,グルカゴンの反復投与は避け,直ちにブドウ糖等の投与など適切な処置を行うこと.
・回復した場合でも糖質投与を行うことが望ましい.

グルカゴン点鼻粉末
(バクスミー®点鼻粉末剤 イーライリリー)

予防

ブドウ糖あるいはそれに代わるものを必ず携行し,低血糖と感じたら,直ちに摂取する(絶対に我慢しない)ように指導する.
・吸収が速いのでブドウ糖がよい.
・市販ブドウ糖製剤もある.
・ブドウ糖を多量に含む各種飲料でもよい.
・ブドウ糖を含まない飲料もあるので注意.

低血糖認識トレーニング,血糖値自覚訓練(blood glucose awareness training;BGAT)

・血糖変動時の身体症状(冷や汗など),作業能力(集中困難など),感情(不安など)を自覚するように訓練し,食事,運動,インスリン治療などの外的因子が血糖値に及ぼす影響を理解して,日常生活の変化に対応できるようにする.

自動車運転

1)運転前と長時間運転時には,一定間隔で血糖測定を行いましょう.
2)運転時には,自己血糖測定器とブドウ糖を,常に側に置いて下さい.
3)低血糖のサインを感じたり,血糖値が70 mg/dL未満の場合は,運転を止めて,車を安全な場所に停めましょう.
4)血糖値が目標に達していることを確認してから,運転を再開しましょう.

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