個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
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血清補正Ca濃度が8.5mg/dL以下の場合
真の低Ca血症は血清イオン化Ca値が4.0mg/dL(1.00mmol/L)の場合をいう.
「血清中総Ca」=イオン化Ca[48~55%]+アルブミン結合Ca[40~50%]+クエン酸・リン酸などと結合[数%]
*生理的な作用をしているのは,イオン化Caのみ!
低Alb血症があると,見た目の総Caが同じでも,生理的に作用しているイオン化Caは増えているので,補正Ca=血清Ca+(4-Alb):Payneの式で補正して評価を行う.

病態
血清Ca濃度の調節因子は,急性的なものはP濃度であり,慢性的な維持はPTHとビタミンDである.
1)血清Ca濃度の低下は,副甲状腺に存在するCa感知受容体(Ca-sensing receptor;CaSR)によって感知され,PTH分泌を生じる.
2)PTHは,骨吸収促進による骨からのCa動員の増加と,腎遠位尿細管からのCa再吸収の亢進,さらに腎近位尿細管でのビタミンD合成の促進と,それに伴う腸管からのCa吸収の増加により,血中Ca濃度を上昇させる.
3)骨には血清Ca濃度を維持するために動員できるCaの大量の貯留があるので,慢性の低Ca血症は,PTHまたはビタミンDの産生低下もしくは作用不足がない限り起こらない.
PTH作用不全
PTH不足性
副甲状腺形成の異常
22q11.2欠失症候群(DiGeorge症候群1型)
副甲状腺におけるPTH合成・分泌の異常
PTH遺伝子異常
常染色体優性低Ca血症 autosomal dominant hypocalcemia;ADH
CaSR活性型自己抗体
低Mg血症(白金製剤・アミノグリコシドなど)

副甲状腺の破壊
術後性(頚部手術)
放射線照射
癌の浸潤
ヘモクロマトーシス
肉芽腫性疾患
熱傷後
自己免疫性多内分泌腺症候群1型(APS1型)
免疫チェックポイント阻害薬?(自己免疫的な副甲状腺の破壊 or CaSRに対する刺激型抗体)


PTH不応性
PTH受容体異常
偽性副甲状腺機能低下症
低Mg血症(白金製剤・アミノグリコシドなど)

ビタミンD作用不全
1)低Ca血症かつPTH高値を示す.
2)尿中Ca排泄<200mg/日,ALP高値(骨型ALP↑)を認め,くる病・骨軟化症の所見を伴う.
ビタミンD欠乏
ビタミンD欠乏(日光照射不足・ビタミンD摂取不足,消化管吸収障害など)
1)25位水酸化ビタミンD[25(OH)D3]が低値
2)小児で来しやすい.
3)成人の場合は,菜食主義者,日光忌避,胃切除後などで来しやすい.
→ビスホスホネート製剤を投与すると,低Ca血症を生じることがあるので注意.
抗痙攣薬使用
1)ビタミンD不活化酵素を誘導し,25(OH)D3産生障害をきたす.
ビタミンD活性化障害
低Ca血症,低P血症が存在するにも関わらず,1,25(OH)D3が相対的低値を示す.
慢性腎臓病
ビタミンD依存症1型
・ビタミンD活性化酵素である1α水酸化酵素の遺伝子異常
不応性
ビタミンD依存症2型(ビタミンD不応症)
・ビタミンD受容体の遺伝子変異
・これは1,25(OH)D3は著明高値を示す.
その他
腸管Ca吸収の低下~不足
高度のCa摂取不足
吸収不良症候群
下痢
慢性膵炎
骨形成の亢進,骨吸収の抑制
副甲状腺摘出後の高代謝回転骨(飢餓骨症候群 hungry bone syndrome)
・血中Caが骨に急速に取り込まれる.
骨形成型の骨転移(前立腺癌,乳癌)
薬剤性(抗RANKL抗体,ビスホスホネート製剤点滴投与)
1)デスノマブによる低Ca血症は腎機能低下例で生じやすく,定期的なCa値の評価を要する.
2)抗スクレロスチン抗体のロモソズマブについても,稀であるが,低Ca血症をきたすことが報告されている.
3)薬剤使用時は,天然型ビタミンDや,腎機能低下例では活性型ビタミンD製剤によりビタミンDを充足させておく.
血管,組織などへのCa結合・沈着
薬剤性(クエン酸,EDTAなど)
高P血症
急性膵炎
急性呼吸性アルカローシス
尿中へのCa喪失
尿細管障害(尿細管性アシドーシス,Fanconi症候群)
副腎皮質ホルモン薬の投与
Cushing症候群
ループ利尿薬の投与
腎性高Ca尿症
低Mg血症
MgはPTH分泌やPTH作用の発現の発現に必須であり,血清Mgが1.0mg/dL未満の高度の低Mg血症では,PTH分泌低下型を呈することが多い.
1)低Mg血症はPTH分泌不全とその作用不全を同時に生じるため,低Ca血症時の血中PTH濃度は基準値を下回る低値から基準値を大きく超えるものの相対的には不足状態であるという場合までさまざまな値をとることに注意する.
2)Mg欠乏時には低K血症を伴うことが多く,これは副甲状腺機能低下症では認められない.
→低K血症がある場合は,低Mg血症を想起する.
3)Mg欠乏はアルコール多飲者や短腸症候群患者,シスプラチンなどの白金製剤やアミノグリコシドなどの薬剤投与時にしばしば認められる.
いずれもビタミンD欠乏症を合併することが多いため,通常の副甲状腺機能低下症に比べて高リン血症を来しにくいという特徴がある.
4)Mg欠乏時にはMg補充が最も有用な低Ca血症の補正手段.
・低Ca血症時に血清Mg値が基準値下限以下であればMgを補充する.
・急性期は,硫酸Mg溶液20mLを5%ブドウ糖液500mLに溶解し,4~8時間で投与する.
・急速に静注すると不整脈や血圧低下あるいはその他のMg中毒症状を呈するので注意(特に腎機能低下状態).
・急性期を過ぎれば酸化Mg等の内服投与とする.
Caと活性型ビタミンD1による治療に対する反応性が乏しい場合にもMgの評価を!
症候
1)低Ca血症の症状は血清イオン化Ca濃度で決定される.
症状の程度は進行速度も関係する.
急性呼吸性アルカローシスでは急激にイオン化Caが下がり,低Ca血症の症状がでやすくなる(代表は過換気症候群).
慢性にゆっくりと低Ca血症が生じた場合(Ca 6mg/dL台でも)には症状が少なく,無症状のことも多い.
2)症状は基本的には筋肉と神経の易興奮性であり,その他に皮膚を含む外胚葉系,心,そして眼の機能異常がみられる.
精神・神経・筋症状
不穏,興奮,イライラ,怒り,痙攣,tetany症候(口唇のしびれ,手のこわばりやspasm,Trousseau徴候,Chvostek徴候).
原因不明のCKやLDH高値であれば,低Ca血症を疑う必要がある.
精神疾患やてんかんと誤診されやすい
Trousseau徴候
血圧計のマンシェットを収縮期圧+20mmHgで3分間保ち,手指筋の緊張性痙攣によって起こる助産婦手位.
Chvostek徴候
耳介前方の顔面神経走行部を打腱器で軽く叩くと,口輪筋や眼輪筋が収縮する.
消化器症状
悪心,嘔吐,下痢
循環器症状
低血圧,不整脈,心電図異常(QTc延長),収縮力低下,心不全
* QTc:心拍数補正した修正QT時間=QT/√RR.440msec以上をQT延長と定義
その他
皮膚の乾燥
頭部CTのおける大脳基底核の石灰化は,低Ca血症が長期にわたり存在することを示唆する.
診断

血清補正Ca濃度の算出
補正Ca=血清Ca+(4-Alb)
病歴,身体診察,腎機能検査,アミラーゼ
・家族歴,慢性腎不全の有無,甲状腺などの手術・治療歴の聴取
・腎不全,急性膵炎,腫瘍溶解症候群が除外できれば,PTHやビタミンD産生もしくは作用が減少する疾患の可能性が高い.
血清P濃度,血清PTH(intPTH),尿中Ca排泄量
1)P≧3.5mg/dL,eGFR<30mL/min/1.73m2,intPTH<30pg/mLであれば,PTH不足性
2)血清P値が低値の場合,活性型ビタミンDの不足が原因(PTH作用不足が原因のものも含む).
2)正常時は尿中Ca排泄量≦200~250mg/日
早朝第2尿Ca/Cr≦0.3
尿中FECa≦1.0%
FECa=U-Ca×S-Cr/[S-Ca×U-Cr]
血中ビタミンD代謝物
カルシジオール[25(OH)D3]やカルシトリオール[1α,25(OH)2D3]
骨代謝マーカー
骨代謝回転の速さを類推する.
治療
重症度,基礎疾患の有無,症状の有無により異なる.
1)症状がある場合は,直ちに治療する.
2)補正Ca 8.0~8.5mg/dLなら,原則として投薬不要.
3)補正Ca 8.0mg/dL未満では,活性型ビタミンD製剤を用いる.
ビタミン製剤
1)副甲状腺機能低下症,ビタミンD欠乏状態,慢性腎不全などによる低Ca血症でビタミンDが使用される.
2)ビタミンD代謝製剤には,それぞれ肝または腎で水酸化の必要なアルファカルシドール1α(OH)D3とカルシジオール[25(OH)D3] ,そして代謝による活性化を要さないカルシトリオール1,25(OH)2D3がある.
・後者ほど作用発現時聞が早く,作用時間が短い.使用に際しては1.5~ 2.0gのCaを補う必要がある.
3)注意点は高Ca血症と高Ca尿症で, 長期化すると尿路結石,腎石灰化,腎不全の危険がある.
生理的補充
アルファカルシドール1α(OH)D3 0.5~1.0μg/日(分1)
→肝臓で代謝されて活性型に変わり,作用を発揮する.
カルシトリオール1,25(OH)2D3 0.25~0.50μg/日(分2)
→活性型ビタミンD3で代謝を必要とせずに直接作用を発揮.
ロカルトロールのほうが効力が強く,アルファロールやワンアルファの約1/2量で同じ薬効を示すといわれている.
Caの補給
一般的に行われるが,骨にはCaの十分な蓄えがあり,低Ca血症はCaバランスの異常であるため,Ca製剤の投与は一過性の効果しかない.
血中・尿中Caの大幅な変動を来しやすく,通常十分量の活性型ビタミンDが投与されれば必要ない場合が多い.
血清イオン化Ca値が2.8mg/dL(総Caとしては7mg/dL)以上のときは通常は無症状であるため,低P血症がない場合には食事によるCa補給を開始する.
緊急補正
補正Ca<7.5mg/dLかつ痙攣やテタニー発作が頻発する場合
Caの静脈内投与
1)静注用Ca(8.5%グルクロン酸Ca Ca含有量7.86mg/mL:カルチコール®)で10mL)を10分以上かけて,ゆっくり静注.
2)改善しない場合は,8.5%グルクロン酸Ca(Ca含有量7.86mg/mL)を5%ブドウ糖に添加し,8~10時間の間に0.5~1.5mg/kg/hrで点滴静注を行う.
・Caは静脈刺激となるため,希釈して投与.
・急速な静脈内投与は,房室ブロックや心停止などを誘発する可能性があるため,心電図と血清Caを1~4時間毎に測定しつつ,緩徐に是正する.
3)患者の状態が安定したら,活性型ビタミンD3の投与を速やかに開始する.
・活性型ビタミンD3に対する反応性には病型による差や個体差があるため,少量から開始し,漸増しながら至適用量を決める.
・治療開始後,Ca濃度が8mg/dL未満の時期には,Ca製剤を使用してもよいが,8mg/dLに達していたらCa製剤は中止する.
処方例:アルファロール1μg 2Cap(1×),乳酸カルシウム 2g(2×)
慢性期
目標としては,血清Ca 7.8~8.5mg/dL程度,尿中Ca/尿中Cr比≦0.3,Ca×P積≦55mg2/dL2に保つ.
原因が副甲状腺
活性型ビタミンDによる治療は,病因に基づく治療法とは言えず,本来はPTH自体の補充が望まれる.