妊娠高血圧症候群 hypertensive disorders of pregnancy;HDP

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なすび医学ノート

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妊娠20週以降に初めて収縮期血圧140mmHgもしくは拡張期血圧90mmHg以上になり,かつそれが分娩後12週までに正常に復する場合

疫学

全妊娠の3-5%に発症する.

妊産婦死亡の主要な原因の一つ.
・WHOによると,2005年の世界の妊産婦死亡数は53万人でそのうちの12%が妊娠高血圧症候群によるとされ,年間約6.4万人の妊婦が妊娠高血圧症候群で死亡していると推測されている.

病態

正常の妊娠中の血圧は妊娠直後から下降しはじめ,20週を過ぎるころに少しずつ上昇し,分娩が近くなる35週ころにほぼ妊娠前の血圧に復する.

妊娠成立後

1)母体・胎児・胎盤の各々からホルモンや生理活性物質が分泌され,全体として胎児の発育に必要な栄養素や胎盤血流が確保されるように適応する.
2)母体循環血液量は徐々に増加し,最大30~50%増加するが,妊娠成立直後から血圧は低下し、分娩後もとに戻る.

正常の妊娠中
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が亢進するにも関わらず,プロスタサイクリン(PG-I2)・一酸化窒素(NO)・EDHF等の増加することにより血管トーヌスが低下し,アンジオテンシンⅡ・ノルエピネフリン・バゾプレシンに対する昇圧反応も低下する.

妊娠高血圧症候群
体液量増加が少なく,全身の血管抵抗性が上昇するため,ERPF,GFRの生理的上昇が起こらないと言われている.
・正常妊娠と比較して,アンジオテンシンⅡによる血管収縮性の亢進およびAT1受容体抗体の出現が認められる.

妊娠高血圧症候群ではアンジオテンシンⅡに対する反応性が亢進しているのがポイント

原因

発症には遺伝的素因とリスク因子が関与する.

発症の危険因子として高齢,肥満,多胎妊娠,高血圧や糖尿病の遺伝的素因,高血圧,腎疾患,抗リン脂質抗体陽性などがある.

主な病態は胎盤発育不全による胎盤虚血,それに起因する母体の血管内皮細胞障害と高血圧,および子宮内胎児発育遅延であり,蛋白尿を呈する場合は「妊娠高血圧腎症」と称する.

腎疾患はリスク因子であり,加重型妊娠高血圧腎症を合併しやすい.

two step theory

現在考えらている主体は,妊娠初期絨毛の子宮脱落膜への浸潤傷害や母体らせん動脈の血管内皮細胞へのリモデリング不全.

1)絨毛間腔への母体血流が十分に確保されず,絨毛細胞は低酸素負荷を受ける.
2)絨毛細胞の機能に影響し,それに反応して各種蛋白を産生し,母体血流に放出することが,発症につながっていると言われている.

第1段階

first trimesterに起きる胎盤の形成不全

第2段階

second trimester以降に起こる単板に由来する分泌因子による母体全身の血管内皮細胞の傷害

可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt-1)が注目され,さらにsFlt/placental growth factor(P1GF)比が高い状態が診断に有効であるという報告がある.

高血圧,蛋白尿,子癇,HELLP症候群など

病型分類

外来血圧基準に従って,診断を行うのが原則

家庭血圧,ABPMに関しては,HDPの早期発見に役立つという報告もある(白衣高血圧・仮面高血圧の除外).

妊娠高血圧腎症 preeclampsia;PE

妊娠20週以降に初めて高血圧を発症し,かつ蛋白尿を伴うもので,分娩後12週までに正常に復する場合

妊娠20週以降に初めて発症した高血圧で,蛋白尿を認めなくても以下のいずれかを認める場合で,分娩後12週までに正常に復する場合
1)基礎疾患のない肝機能障害(肝酵素上昇 ALT or AST>40IU/L),治療に反応せず他の診断がつかない重度の持続する右季肋部痛 or 心窩部痛
2)進行性の腎障害(SCr>1.0mg/dL,他の腎疾患は否定)
3)脳卒中,神経障害(間代性痙攣,子癇,視野障害,一次性を除く頭痛など)
4)血液凝固障害(HDPに伴う血小板減少 Plt<15万/μL,血管内凝固症候群,溶血)

妊娠20週以降に初めて発症した高血圧で,蛋白尿を認めなくても子宮胎盤機能不全(胎児発育不全 FGR,臍帯動脈血流波形異常,死産)を伴う場合

妊娠高血圧 gestational hypertension;GH

妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し,分娩後12週までに正常に復する場合で,かつ妊娠高血圧腎症の定義に当てはまらないもの

加重型妊娠高血圧腎症 superimposed preeclampsia;SPE

高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に尿蛋白,もしくは基礎疾患のない肝腎機能障害,脳卒中,神経障害,血液凝固障害のいずれかを伴う場合.

高血圧と蛋白尿が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降にいずれかまたは両症状が増悪する場合

蛋白尿のみを呈する腎疾患が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に高血圧が発症する場合

高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,妊娠20週以降に子宮胎盤機能不全を伴う場合

高血圧合併妊娠 chronic hypertension;CH

高血圧が妊娠前あるいは妊娠20週までに存在し,加重型妊娠高血圧腎症を発症しない場合

付記

妊娠蛋白尿

妊娠20週以降に初めて蛋白尿が指摘され,分娩後12週までに消失した場合をいうが,病型分類には含めない.

高血圧の診断

白衣・仮面高血圧など,診察室での血圧は本来の血圧を反映していないことがある.
特に,高血圧合併妊娠などでは,家庭血圧測定あるいは自由行動下血圧測定を行い,白衣・仮面高血圧の診断およびその他の偶発合併症の鑑別診断を行う.

子癇 eclampsia

妊娠20週以降に初めて痙攣発作を起こし,てんかんや2次性痙攣が否定されるもの.

痙攣発作の起こった時期によって,妊娠子癇・分娩子癇・産褥子癇と称する.

子癇は大脳皮質での可逆的な血管原性浮腫による痙攣発作と考えられているが,後頭葉や脳幹などにも浮腫をきたし,各種の中枢神経障害を呈することがある.

HDPに関連する中枢神経障害

皮質盲,可逆性白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome;PRES),高血圧に伴う脳出血および脳血管攣縮などが含まれる.

HELLP症候群

妊娠中・分娩時・産褥時に溶血所見(LDH高値),肝機能障害(AST高値),血小板減少を同時に伴い,他の偶発合併症によるものではないものをいい,いずれかの症候のみを認める場合は,HELLP症候群とは記載しない.

■Sibaiの診断基準
溶血:血清間接ビリルビン値>1.2mg/dL,血清LDH>600IU/L,病的赤血球の出現
肝機能:血清AST>70IU/L,血清LDH>600IU/L
血小板減少:血小板数<10万/mm3

肺水腫

HDPでは血管内皮機能障害から血管透過性が亢進し,しばしば浮腫をきたす.
重症例では,浮腫のみでなく肺水腫を呈する.

周産期心筋症

心疾患の既往がなかった女性が,妊娠・産褥期に突然心不全を発症し,重症例では死亡に至る疾患である.

HDPは重要な危険因子となる.

症候による亜分類

重症について

次のいずれかに該当するものを重症と規定する.
なお,軽症という用語は高リスクでない妊娠高血圧症候群と誤解されるため,原則用いない.

妊娠高血圧腎症・妊娠高血圧・加重型妊娠高血圧腎症・高血圧合併妊娠において,血圧が次にいずれかに該当する場合
収縮期血圧≧160mmHg,拡張期血圧≧110mmHg

妊娠高血圧腎症・加重型妊娠高血圧腎症において,母体の臓器障害または子宮胎盤機能不全を認める場合
*蛋白尿の多募による重症分類は行わない.

症候

検査所見

血清Ht上昇
・妊娠高血圧症候群ではアンジオテンシンⅡに対する反応性が亢進しているため,血液の濃縮,循環血漿量の減少,体液の血管外での増加が認められる.
・ヘマトクリット値は正常妊娠では体液量増加のため低下する

血清尿酸値上昇,尿酸クリアランス低下
・尿酸は産生亢進ではなく,尿酸クリアランス低下による上昇が示唆されている.

その他にも,尿中カルシウム排泄低下,血清コレステロール増加,血小板減少などが知られている.

腎病理

光学顕微鏡

軽症時には,糸球体は大きく,係蹄はボウマン腔一杯に腫大.係蹄内腔はメサンギウム細胞や内皮細胞の腫大によって狭小化している.毛細血管係蹄は拡張.

重症になると内皮細胞の腫大が顕著になり,内腔の狭小化や分節状に血栓を形成する(thrombotic microangiopathy).

内皮症(endotheliosis)が強くなると,輸入細動脈を含め小動脈系にフィブリノイド壊死や内腔にフィブリン塊が観察されることがある.

免疫蛍光抗体

特異的な所見はなし.

糸球体係蹄内皮側に沿ってフィブリンやフィブリノーゲンが観察される.

電子顕微鏡

糸球体内皮細胞の腫大によって係蹄内腔は狭小化し,内皮側は浮腫性拡大し,内皮細胞の陥入が観察される.

メサンギウム細胞,基質の増加も観察される.

原発性巣状糸球体硬化症に類似の形態変化を呈することもある.

治療

HDPの根本的な治療は,妊娠の中断.
妊娠高血圧の降圧療法に関しては,まず母体保護を第一にする.

1)治療の基本方針は早期発見,母体循環・子宮胎盤血流の改善,児の娩出時期の決定(妊娠のターミネーション;児を可及的速やかに娩出させる)の三つである.
2)特に妊娠20週以降は児の娩出を含め,産科医に委ねることが望ましい.
3)重症度が高くなると母体の臓器障害を招きうる一方で,過度な血圧低下は胎児循環の低下から胎児機能不全を招く恐れがある.

安静

安静により母体の循環系の負担が軽減され腎血流の増加が,さらに子宮胎盤循環の改善が期待される.

食事

カロリーの制限(比較的高蛋白で糖質,脂質を制限)およびビタミン類,Ca,鉄の十分な摂取を原則とし,食塩制限は浮腫・高血圧が高度のときのみ行う.

エネルギー

非妊娠時BMI≦24:30kcal×標準体重(kg)+200kcal
非妊娠時BMI≧24:30kcal×標準体重(kg)/日

予防的には以下の適切な体重増加が勧められる.
 BMI<18:10~12kg増
 BMI 18-24:7~10kg増
 BMI>24:5~7kg増

塩分

減塩(6g/day未満)は推奨されない.

1)7~8g/日の制限が推奨されている.
2)予防には10g/日以下が推奨される.

蛋白質

1)標準体重×1.0g/日
2)予防には標準体重×1.2~1.4g/日が望ましい

薬物療法(降圧薬など)

薬物療法は母体の症状の悪化を防ぐ対症療法であり,必要に応じて降圧薬,鎮痙薬,鎮静薬,抗凝固・線溶薬(ヘパリン,ATⅢ製薬など)などが使用されるが,胎児や胎盤機能に対する影響を考慮して選択する.

妊娠中毒症の発症予防の目的で低用量のアスピリンが投与されるが,効果は一定ではない.

高血圧合併妊娠

どのような降圧治療を行うのか,また降圧目標はどこに置くかはエビデンスになる十分な成績が示されていない.

重症高血圧

脳血管,心,腎などの母体臓器障害を防ぐための速やかな降圧治療が必要.

1)具体的な薬物療法の開始基準については,SBP 160~170mmHg,拡張期血圧105~110mmHgと提唱者により差がある.
2)子癇発症の前駆症状がある場合は,速やかな治療が必要.

緊急症

妊婦あるいは産褥女性にSBP≧180mmHg or DBP≧120mmHgを認められた場合は高血圧緊急症と判断し,ただちに降圧薬を開始する.

降圧目標

どこまで降圧するかは母体および児の状態がから判断すべきであり,産科医との密接な連携が必要.

降圧薬の選択

第一選択は,メチルドパ,ラベタロール,ニフェジピン(妊娠20週以降)を用いる.

メチルドパ
1日500~2000mg,乳汁移行性ほぼなし
・中枢性交感神経抑制薬で,現在でも最もよく用いられている.
・40年以上にわたり使用されており,母体および児にほとんど重篤な副作用が報告されていない.
・副作用としては,眠気,口渇感,全身倦怠感,溶血性貧血,肝障害など

ラベタロール
・α1β遮断薬.
・欧米では比較的よく用いられており,安全性の面は大きな問題はない.
・ヒドララジンと比較して,母体への副作用の面で優れていることがメタ解析で示されている.

ヒドララジン
1日30~200mg,乳汁移行性ほぼなし
・血管拡張薬で,一般には副作用が多く通常はほとんど使用されていない.
・比較的多くの産科医が使用しているが,最近報告されたメタ解析ではラベタロールよりは降圧薬として劣ることが報告されている.

利尿薬
胎盤血流を減少させ胎児死亡を起こす危険があるので,肺水腫以外は使用しない.

ACEI,ARBは妊娠中禁忌!
・妊娠前に降圧薬を使用していた場合には,妊娠が判明次第すぐに中止
・妊娠中に服用すると羊水過小症,催奇形性や腎の形成不全が起こることが報告されている.

1剤で効果が不十分の場合,メチルドパ+ヒドララジン(20週以降はニフェジピンも可),あるいはラベタロール+ヒドララジン(20週以降はニフェジピンも可)の組み合わせが推奨される.

メチルドパとラベタロールは交感神経抑制薬,ヒドララジンと徐放性ニフェジピンは血管拡張薬に分類されており,異なる作用機序の組み合わせにする.

高血圧緊急時にはニカルジピン,ニトログリセリン,ヒドララジン塩酸塩静脈投与を考慮する.

使用する場合は,児の状態に留意し,胎児心拍数モニタリングを行う.

termination(中絶)

適応指針としては下記の通り

●母体側因子
1.治療に関わらず病態が改善しない。
2.母体合併症(子癇,重症常位胎盤早期剝離,眼底出血,高度の胸・腹水,肺水腫,頭蓋内出血,HELLP症候群などの併発)
3.腎機能の悪化
4.血液凝固異常の出現(血小板 10万/μL未満,DIC スコア上昇傾向など)

●胎児側因子
1.胎児発育停止 妊娠28週以降で2週間の発育停止
2.胎児心拍モニターの異常所見
3.胎児胎盤機能の悪化(biophysical profile score 6点未満,羊水量減少)があげられる

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