
より早く,より厳格な,24時間にわたる降圧!!
降圧薬・生活指導は↓
総論・診断は↓
なすび専用のまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
ちゃんとした正書や情報提供サイトを強く推奨します.
当ブログは一切の責任を負いません.
治療の目的
1)高血圧の持続によってもたらされる脳心血管病(特に脳卒中)の発症・進展・再発の抑制とともに,それらによる死亡を減少させる
2)高血圧者がより健康で高いQOLを保った日常生活ができるようにように支援する
降圧薬治療のメタ解析によると,収縮期血圧10mmHg or 拡張期血圧 5mmHgの低下により,発症リスクは,主要心血管イベントで約20%,心不全で約40%,全死亡で10~15%,それぞれ減少することが明らかになっている.
イベント準備段階
動脈硬化の抑制,心肥大の抑制を目指す.
イベント発症直前
不安定な時期では,血圧サージが循環器疾患のトリガーになる(プラーク破綻,血管裂傷,心臓の高負荷)
イベント発症後(二次予防)
血圧のレベルと変動を管理
治療対象者
すべての年齢層の高血圧者
80歳以上の超高齢者に降圧薬治療を行ったHYVETでも,脳卒中死亡,心不全などの脳心血管病や全死亡が減少する成績が得られている.
初診時の高血圧管理の流れ
血圧高値が継続的であることの確認とそのレベルの評価
まずは日を改めて外来での血圧測定,最近の健診の血圧データの確認,家庭血圧測定をすることで,継続的に血圧が高いかどうかを確認する.
家庭血圧測定では,白衣高血圧,白衣現象,仮面高血圧の有無も確認する.
→疑わしい場合は,24時間自由行動下血圧測定(ABPM)を検討
診察室血圧値と家庭血圧値 or ABPMでの血圧値との乖離が大きい場合には,家庭血圧やABPM値を重視する.
二次性高血圧の除外
頻度の高いものとして,腎実質性高血圧,原発性アルドステロン症,腎血管性高血圧,睡眠時無呼吸症候群などがあり,病歴・診察所見・検査所見から鑑別を行う.
予後影響因子の評価
年齢:65歳以上
男性
脂質異常症:HDL-C<40mg/dL,LDL-C≧140mg/dL,TG≧150mg/dL
*TG 400mg/dL以上や食後採血の場合は,non HDLを使用し,non HDL-C≧170mg/dL
喫煙
肥満:BMI≧25mg/㎡,特に内臓脂肪型肥満
脳心血管病(脳出血・脳梗塞・心筋梗塞)の既往
家族歴:若年(50歳未満)発症の心血管病
非弁膜症性心房細動:高血圧の臓器障害
糖尿病:FPG≧126mg/dL,75gOGTT2時間値≧200mg/dL,PPG≧200mg/dL,HbA1c≧6.5%
蛋白尿のあるCKD
リスク層別化を行い,治療方針を決定
血圧値とリスク層からリスクステージを決定する.
【ポイント】
1)脳心血管病をすでに有する場合は,二次予防対象者として高リスクとする.
2)心房細動を有する場合は高リスクとする.
3)蛋白尿を有するCKDや糖尿病は,これまでの本邦のエビデンスから高リスクとする.
4)その他の患者については,JALS(Japan Arteriosclerosis Longitudinal Study)および久山町研究に基づく危険因子を用いたリスクスコアの計算により複合脳心血管イベント発症の絶対リスクを算出し,リスク評価の参考とする.
5)実際の臨床では,絶対リスクの算出は容易でないため,下記の表を利用して,低リスク・中等リスク・高リスクに分類する.


降圧目標の設定
心血管イベントの抑制のために,高血圧の治療目標は130/80mmHg未満を推奨する.
診察室血圧<130/80mmHg 家庭血圧<125/75mmHg
1)75歳未満の成人
2)脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)
3)CKD患者(蛋白尿陽性)
・随時尿UPCR≧0.15g/gCrを蛋白尿陽性とする
4)糖尿病患者
5)抗血栓薬服用中
・頭蓋内出血の危険因子であるため,厳格な血圧管理を行う.
診察室血圧<140/90mmHg 家庭血圧<135/85mmHg
1)75歳以上の高齢者
・腎障害などへの臓器血流障害に注意が必要
・忍容性があれば,個別に判断して上記へ治療強化
2)脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり or 未評価)
3)CKD患者(蛋白尿陰性)
過度の降圧
1)非高齢者では120/80mmHg未満,高齢者では130mmHg未満に降圧させた場合には,脳心血管イベントや有害事象が誘発される可能性に注意.
2)初期治療においてまずSBP 130mmHg未満まで降圧し,低血圧による症状や所見がなければ,次に120mmHgまで降圧すると,過降圧は起こりにくい.
まずは家庭血圧の測定
家庭血圧やABPM(ambulatory blood pressure monitoring,自由行動下血圧計)で測定した診察室外血圧が,将来の臓器障害や循環器疾患発症とより強く関連するエビデンスが確立している.
→家庭血圧の活用が推奨
1日2回,朝晩の安静時に座って測定する.
朝=起床後1時間以内,排尿後,食前・服薬前,1~2分の安静後
晩=就寝前,1~2分の安静後
部屋:静かで過ごしやすい温度
姿勢:椅子に足を組まず腰かけ,カフと心臓の高さを合わせる
測定の前:喫煙・飲酒しない,カフェインを摂らない
測定中:話をしない,動かない,力を入れない
記録:原則2回測定し,すべてを記録する
血圧計は,上腕にカフを巻くタイプが推奨される.
*手首に巻くタイプは数値が不正確
生活習慣の修正
1)修正だけでも有意な降圧作用がある.
・高血圧者に限らず,正常高値血圧者や低・中等リスクの高値血圧者などの薬物療法を開始しない対象者の対策として重要.
2)降圧薬の作用を増強するため,薬物療法を受けていても有用
3)特に脂質異常症,糖尿病,メタボリックシンドローム,肥満などの他の生活習慣病が併存する場合には,重要性が高く,低コストで安全にこれらの危険因子も減らせる.
薬物療法
降圧目標値および降圧薬治療開始時期を決定し,治療方針を患者に具体的に説明し,患者の理解を深め,患者と共有したうえで開始する.

血圧日内変動が個別の患者リスクを反映
血圧にはさまざまな変動性がみられ,これまでにエビデンスの集積があり,臨床的な意義が最も明確なものは日内変動異常.
1)24時間血圧レベルの低下
2)血圧日内変動異常の修正
3)過度の血圧変動性の抑制
血圧モーニングサージ
血圧は夜間から早朝にかけて上昇する.
ある程度の上昇は生理的現象だが,それが過度になると循環器疾患のトリガーとなる.
→過度の血圧モーニングサージが,血管・臓器障害や循環器疾患の発症リスクとなる.
1日1回朝投与の降圧薬の薬効が最も切れやすい早朝血圧は,現在の降圧目標の盲点となる.

降圧治療の第一歩は,家庭血圧で評価できる早朝高血圧をターゲットにする!!
夜間高血圧
高齢者や糖尿病,慢性腎臓病や睡眠時無呼吸症候群などの疾患を有する患者に多い.

次に夜間高血圧を早期に検出し,治療管理することが重要.
夜間高血圧が,診察血圧や早朝家庭血圧とは独立して脳卒中リスクとなっている.
夜間血圧が上昇するRiser型高血圧は,正常dipper型に比し,強力な心不全リスク(2.45倍)
夜間睡眠中は臥位により静脈還流が増し,さらに組織間質液が中心循環へ還流することから,左室前負荷が増大する.
→前負荷が増大した状態で,後負荷である夜間高血圧が加わることにより,さらに左室収縮期緊張力が増し,心負荷となる.
non-dipper/riser型夜間高血圧は,循環血漿量の増加によるNaを排出する代償反応.
→まずは減塩,そして利尿効果のある降圧薬が重要
昼間(ストレス)高血圧
働き盛りのストレス下にある青壮年に多い.
個人の置かれている生活習慣・ストレス・昇圧特性により決定され,これらの血圧を変動させるトリガーの時相が重なった場合にさらに大きく増幅し,心血管イベントにつながる病的なサージ血圧を生み出す(血圧サージ共振仮説).
問題点
多くの優れた降圧薬が開発され,実地診療においても容易に使用可能であるにも関わらず,降圧療法中の患者の多くの循環器疾患が発症している現状は,「ハイパーテンション・パラドックス」といわれる.
・本邦の血圧コントロール率は30%程度.
患者のアドヒアランス不良
医師が考えているほど患者の服薬アドヒアランスは良好ではない.
・きちんと毎日決められた降圧薬を服用している患者は60%にも満たないとの研究がある.
医師のクリニカル・イナーシャ
医師側の降圧レベルに対する認識の甘さ.
治療イナーシャ
ガイドラインで示されている降圧目標値よりも高いにも関わらず,治療を強化せずそのまま様子をみること.
「まだ少し高めだけど,ずいぶん下がったらからまあいいか」
「降圧薬をこれ以上に強化すると副作用のリスクが増大するし,薬代が高くなって患者が嫌がるかもしれないので,やめておこう」
診断イナーシャ
血圧コントロール不良の原因を精査しない.