個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
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疫学
全世界で約20億人が感染しており,うち2.57億人がHBs抗原陽性のキャリアと推定される.
本邦では100万人以上のキャリアが存在し,既往感染例も含む感染者は1000万人以上に上り,特に50歳以上の年齢層では感染率は20%以上であると考えられている.
病態
ウイルス学的特徴
ヘパドナ(hepaDNA)ウイルス科の2本鎖閉鎖環状(covalently closed circular;ccc)DNAが形成され,これを鋳型として,pregenome RNAを介する複製と,構成および非構成蛋白の転写が行われる.
急性肝炎で臨床的に治癒した一過性感染例でも,肝細胞の核内にはcccDNAが残存し,生涯に亘って消えることはない.
→成人期の性行為による一過性感染後の既往感染例は,出産時の垂直感染によるHBs抗原陽性のキャリアと,遺伝子レベルでは同等とみなされる.
臨床経過
4つの病期に分類される.
免疫寛容期(無症候性キャリア) immune tolerance phase
垂直感染の場合,幼少時は感染肝細胞に対する免疫反応が作動せず,肝炎を発症しない無症候性キャリアの時期が続く.
ALT→正常
HBs抗原→陽性
HBs抗体→陰性
HBe抗原→陽性
HBe抗体→陰性
HBV-DNA→高値
免疫応答期(慢性肝炎) immune clearance phase
成人になると免疫反応が惹起され,慢性肝炎を発症する.
HBVは免疫反応を回避するため遺伝子が変異する(特に多いのはpre-core領域とcore-promotor領域の変異).
→非構成蛋白であるe蛋白の転写が停止ないし抑制され,宿主はHBe抗原陽性からHBe抗体陽性へと移行する(seroconversion).
ALT→上昇
HBs抗原→陽性
HBs抗体→陰性
HBe抗原→陽性から陰性へ
HBe抗体→陰性から陽性へ
HBV-DNA→中等値
低増殖期(非活動性キャリア) low replicative phase
さらに多彩な遺伝子変異が蓄積すると,HBVは複製能が低下する.
→肝炎は鎮静化
ALT→正常
HBs抗原→陽性
HBs抗体→陰性
HBe抗原→陰性
HBe抗体→陽性
HBV-DNA→低値
寛解期(既往感染) remisson phase
低増殖期が長期にわたると,HBVは転写能も低下し,HBs抗原量が陰性化する.
ALT→正常
HBs抗原→陰性
HBs抗体→陰性~陽性
HBe抗原→陰性
HBe抗体→陽性
HBV-DNA→未検出
診断
HBs抗原陰性,HBc抗体 or HBs抗体陽性(既往感染)
急性肝炎の治癒性(一過性感染)→HBc抗体が低力価,HBs抗体は高力価の場合が多い
寛解期のキャリア→HBc抗体が高力価,HBs陰性の場合が多い(再活性化の頻度が高い)
治療
目標は,HBVの増殖を抑制することで,肝炎を鎮静化させ,HBVの増殖を抑制することで肝炎を鎮静化させ,慢性肝炎から肝硬変・肝不全や肝癌への進展を阻止し,WOLおよび生命予後を改善すること.
最も有用なsurrogate markerはHBs抗原.
→長期目標はHBs抗原消失
指標として,以前はALT正常化,HBe抗原セロコンバージョンSeroconversion,HBV-DNAの陰性化が用いられてきたが,HBs抗原陰性化により発癌率が低下し,生命予後が改善するエビデンスが集積しつつあるため,国外のガイドラインでは理想的な目標をHBs抗原の陰性化としている.
非活動性キャリア
抗ウイルス治療がなされていないdrug freeの状態で,1年以上の観察期間のうち3回以上の血液検査で①HBe抗原が持続陰性,かつ②ALT値が持続正常(30U/L以下),かつ③HBV-DNA量が2000IU/mL(3.3LogIU/mL)未満のすべてを持たす症例は治療対象外.
慢性肝炎
ALTが異常値,HBV-DNAが高値ならびに組織学的な肝病変の存在があり,具体的にはALT≧ 31U/L and HBV-DNA≧3.3 Log IU/mL(2000 IU/mL)が治療対象
・上記を満たさなくても,線維化が進展し,発癌リスクが高いと判断される症例は治療対象となる.
・ALTが軽度or間欠的に上昇する症例,40歳以上でHBV-DNA量が多い症例,血小板数≦15万未満の症例,肝細胞癌の家族歴がある症例,画像所見で線維化進展が疑われる症例では,肝生検or非侵襲的方法による肝線維化評価を施行することが望ましい.
原則としてペグインターフェロン治療を検討するが,治療前に反応を予測することは困難であり,多彩な副反応や週1回の通院のデメリットであるため,ペグインターフェロン治療を希望しない症例には核酸アナログ製剤治療を行う.
肝硬変
ALT値に関わらず,HBV-DNAが陽性であれば治療対象
・肝不全/肝癌への進展リスクが高いため,より積極的な治療介入が必要
肝不全や重篤な感染症を惹起するリスクがあるため,IFN治療は禁忌.
→核酸アナログ製剤が第一選択
・核酸アナログ製剤によりHBV増殖を抑制することで,代償性肝硬変から非代償性への進展が阻止される.
・長期継続治療は,肝硬変においても線維化を改善する.
・中止後の再燃は,肝不全を誘発するリスクがあるため,生涯にわたる治療継続を基本とする.
治療薬各論
ペグインターフェロン pegylated interferon;Peg-IFN
ウイルスの増殖を抑えると共にHBV感染細胞を排除する免疫賦活作用を有する.
・反応例では投与終了後も治療効果が持続し,長期経過の後,HBs抗原が高率に陰性化する.
・反応例は,HBe抗原陽性の約20~30%,HBe抗原陰性の約20~40%にとどまる.
治療終了後,24~48週時点で,ALT正常化,HBV-DNA量低下(HBs抗原量低下),さらにHBe抗原陽性例ではHBe抗原陰性化を参考とし,反応性を評価する.
HBe抗原セロコンバージョン率やHBV-DNA陰性化率が必ずしも高くないこと,個々の症例における治療前の効果予測が困難であること,予想される副作用などを十分に説明する.
核酸アナログ製剤
HBV増殖の抑制効果が高く,背景因子に関わらず有効.
治療を継続することで持続的にHBV増殖を抑制するが,HBs抗原陰性化率は,ペグインターフェロンより低率.
挙児希望者あるいは妊娠中の女性には,催奇形性のリスクについて十分リスクを説明する.
治療開始時に,腎機能障害・低P血症ならびに骨減少症・骨粗鬆症を認める場合には,ETV or TAFが第一選択.
長期継続投与が必要なこと,耐性変異のリスクがあることを十分に説明する.
治療開始12ヶ月の時点で,HBV-DNA陰性化という継続治療(ontreatment)における短期目標が達成できているかにより,治療方針を再検討する.
治療アドヒアランスを確認!
↓
効果不良(HBV-DNA陽性)
治療薬変更
ブレイクスルー(治療中にHBV-DNA≧1.0Log IU/mL)
迅速に治療効果変更
↓
・単剤に対する治療抵抗性であれば,原則として交叉耐性のない薬剤を選択し,単剤で治療することを推奨.交叉耐性のない薬剤を追加した併用投与も選択肢.
ETV→TDF or TAF or ETV+TDF or ETV+TAF
TDF→ETV or ETV+TDF or ETV+TAF
・併用に対する治療抵抗性であれば,併用投与で治療することを推奨.
ETV+TDF or ETV+TAF
エンテカビル entecavir;ETV
中止後再燃時の再治療基準
HBV-DNA≧100,000IU/mL(5.0LogIU/mL) or ALT≧80U/L
テノホビル・ジソプロキシルフマル酸塩 tenofovir disoproxil fumarate;TDF
低リスクのエビデンスあり.
腎機能障害・低P血症ならびに骨減少症・骨粗鬆症がある場合は他剤を選択!
テノホビル・アラフェナミド tenofovir alafenamide;TAF
HBV再活性化
HBV感染患者において,免疫抑制・化学療法等により,HBVが再増殖することをHBV再活性化という.
HBV再活性化による肝炎は重症化しやすいだけでなく,原疾患の治療を困難にさせるため,発症を阻止することが最も重要.
キャリアからの再活性化と既往感染者(HBs抗原陰性+HBc抗体 or HBs抗体陽性)からの再活性化(de novo B型肝炎)に分類される.
要因
以下の3要因の影響がたまたま一致した際に起こる現象.
ウイルス
血清HBV-DNA量が高値
・4.0LogIU/mL未満で肝炎を発症することは通常ない.
宿主
免疫反応が作動していることが必須.
低増殖期,寛解期のキャリアのみならず,一過性感染後の既往感染例も,免疫反応が作動した既往があり,血清HBV-DNA量が高値になると,肝炎を発症する.
薬物
免疫抑制はHBV再活性化を促す一方で,肝炎発症を抑制することに留意する必要がある.
副腎皮質ステロイドは,核内受容体と結合して2量体を形成し,これがHBV-DNAのsteroid-responsive element(SRE)に作用し,複製を亢進させる.
↓
免疫抑制薬,抗悪性腫瘍薬の作用で血清HBV-DNA量が上昇した後に,これら薬剤の減量・中止ないし薬効の減退などの薬物要因が加わると,免疫反応が賦活化されて肝炎を発症する.
リスク
臓器移植後の免疫抑制療法が最も高い(ほぼ全例).
次いでリスクが高いのは,血液領域の悪性腫瘍(約8%).
関節リウマチは3.2%(治療開始~治療法変更6ヵ月後まで)
固形癌に対する化学療法は1%程度.
対応
HBV再活性化のリスクを有する免疫抑制・化学療法を行う全ての患者に,治療前にHBV感染をスクリーニングすることが推奨される.
1)HBs抗原を測定し,陽性例は肝臓専門医にコンサルトする.
2)HBs抗原陰性の場合には,HBc抗体・HBs抗体を測定し,陽性である場合は既往感染者であるため,リアルタイムPCR法によりHBV-DNAを測定する.
HBV-DNA≧20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)
速やかに核酸アナログ製剤の投与を開始する.
HBV-DNA<20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)
治療中・治療終了後にHBV-DNA量のモニタリング(1~3ヵ月に1回)を行い,HBV-DNA≧20 IU/mL(1.3 Log IU/mL)となった時点で核酸アナログ製剤を開始する.
核酸アナログ製剤は,ETV,TDF or TAFが推奨される.