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診断
gold standardは肝生検による病理組織学的診断であるが,侵襲的な検査であり,sampling errorと評価者間の組織診断の不一致という限界がある.
非侵襲的な方法として,血清線維化マーカー,複数の血液生化学的検査所見を組み合わせたスコアリングシステム,超音波エラストグラフィやMRエラストグラフィなどの画像診断により総合して診断する.
リスク群の抽出
本人:B型肝炎,C型肝炎,飲酒,輸血,肥満,糖尿病,肝機能異常など
家族:肝疾患家族歴,吐血歴など
身体所見で疑う
酒皶(しゅさ),手掌紅斑,クモ状血管腫,女性化乳房,黄疸,脾腫大,腹水,肝左葉腫大,腹壁静脈怒張,下腿浮腫,掻痒感など
スコアリング
FIB-4,APRI,Hapascore,C型肝硬変の判別式など
肝生検
肝線維化マーカー
肝線維化診断のゴールドスタンダードは肝生検による組織学的診断であるが,侵襲性やコスト面からも何度も繰り返し行うことは非現実的であり,動的な評価ができない.
→肝線維化マーカーの測定は有用.
Ⅳ型コラーゲン,Ⅳ型コラーゲンS
基準値:Ⅳ型コラーゲン≦150ng/mL,Ⅳ型コラーゲンS≦4.4ng/mL
基底膜の主要構成成分.
肝線維化の過程で,肝類洞の基底膜化が起こり,Ⅳ型コラーゲンが産生され,その一部が血清中に出現する.
→慢性肝疾患の進行とともに値は上昇し,炎症所見には影響を受けないとされている.
Ⅳ型コラーゲンSは,血中でも安定しているN末端7S領域を認識する抗体を用いた測定法.
プロコラーゲンⅢペプチド procollagen-Ⅲ-peptide;P-Ⅲ-P
基準値:0.3~0.8U/mL
Ⅲ型コラーゲンの切断されたペプチドであり,各臓器から大循環中に移行する.
・コラーゲン分子は,コラーゲン産生細胞(線維芽細胞)からプロコラーゲンとして産生され,プロテアーゼによってN末端・C末端ペプチドが切断されてコラーゲンとなる.
Ⅲ型コラーゲンの産生量を反映.
*活動性の線維増生の指標にはなるが,既に沈着した線維量の指標にならない.
*臓器特異性がないため,他臓器の線維化でも変動する.
ヒアルロン酸
ヒアルロン酸≦50ng/mL
生体内結合織に幅広く存在する酸性ムコ多糖類で,他のECMとともに組織の安定性・弾力性の維持や水分の調節に関与している.
組織中で生じたヒアルロン酸はリンパを介して血中に運ばれ,その大部分は肝臓のLSECで受容体を介して分解・異化される.
肝線維化では,HSCによるヒアルロン酸産生の増加,門脈圧亢進によるリンパの体循環流入の増加に加え,線維化の進行とともにDisse腔に基底膜が形成されるcapillarizationが生じ,ヒアルロン酸受容体が消失して,ヒアルロン酸の処理能力が低下することが挙げられる.
Mac-2結合タンパク糖鎖修飾異性体 Mac-2 binding protein glycosylation isomer;M2BPGi
基準値:判定-
Mac-2結合タンパクは,Mac-2のリガンドとして知られる分泌性の糖タンパク質であるが,肝線維化の進展に伴って糖鎖構造が変化した異常な異性体(M2BPGi)が増加する.
→これに特異的に結合するレクチンを用いて測定.
肝生検による組織所見との高い相関が確認されている.
肝細胞癌の発生との関連も報告されている.
オートタキシン autotaxin;ATX
男性基準値:線維化進展≦0.910mg/L,肝硬変≦1.690mg/L
女性基準値:線維化進展≦1.270mg/L,肝硬変≦2.120mg/L
細胞運動促進因子であり,さまざまな生理活性を有する脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸の産生酵素活性を有する.
→肝線維化進展に伴う類洞の基底膜化によってATXの取り込みが減少し,血中濃度が増加する(肝線維化と強く相関して増加).
画像検査
画像で認められる画像変化は,
①肝表面の凹凸などの輪郭,区域性の萎縮,辺縁の鈍化
②浮腫,腹水,側副血行路の存在

感度はCTがよく,特異度は超音波がよい.
腹部超音波(Bモード)
原疾患により,若干実質エコーの相違を認める.
B型→結節が比較的大きい.
C型→結節が小さい
アルコール性・NASH→結節は小さく,脂肪化を伴うことがある,不規則な高エコー
上部消化管内視鏡検査(食道胃静脈瘤)
エラストグラフィ elastography
肝線維化を定量評価できる画像診断法.
超音波とMRIによる方法がある(MR elastographyは保険適応外).
→体外からの機械的圧迫や音響放射力(acoustic radiation force impulse;ARFI)により肝組織の硬化を評価する.
超音波は線上の伝搬(一次元)を測定するため,診断精度はMRエラストグラフィが高いが,簡便さでは超音波が勝り診断能も遜色ない.
結果の解釈では,肝硬度値は,種々の潜在的な交絡因子を入れる必要がある.
Transient elastography;TE
FibroScan® shear wave imaging法
2011年10月~保険収載
炎症や脂肪の沈着,うっ血などさまざまな影響を受ける,NASHにおいても診断の信頼度は高い.
肝エラストグラフィのカットオフ値
肝硬度≦5.0kPa(1.3m/sec):正常
肝硬度<9.0kPa(1.7m/sec):肝硬変との鑑別が必要
肝硬度 9.0~13kPa(1.7~2.1m/sec):肝硬変の疑い
肝硬度>13kPa(2.1m/sec):肝硬変
肝硬度>17.0kPa(2.4m/sec):門脈圧亢進症の疑い
測定上の注意
①検査前4時間の絶食
②右腕挙上肋間,仰臥位 or 30°の左側臥位
③自然な呼吸停止 or 自然呼吸
④pSWEでは肝表から15~20mmの部位で測定
⑤2D-SWEでは計測ROIの上端は肝表から15~20mmの深さに設定する
⑥結果はkPa or m/secで記載
⑦Push pulseが届くのは探触子から4~4.5cmで5~7cmでは減衰する
⑧AST and/or ALT値は基準値上限の5倍以下,胆汁うっ滞・うっ血肝・急性肝炎・代謝性肝疾患は除外
⑨pSWEは10回測定中央値とIQR/Mを示す.IQR/Mが良ければ5回でよい.
⑩2D-SWEは5回測定中央値とIQR/Mを示す.
⑪基準:kPaの場合IQR/M≦30%,2D-SWE m/secの場合IQR/M≦15%
⑫適切にBモードを撮像する.
治療
ウイルス性肝硬変の治療
C型肝炎ウイルス hepatic C virus;HCV
B型肝炎ウイルス hepatic B virus;HBV
核酸アナログが登場してから生命予後は著しく改善.
非ウイルス性肝硬変の治療
自己免疫性肝炎→ステロイド治療が推奨される.
アルコール性肝硬変→基本的に断酒
NASH→食事運動療法による減量が中心
栄養療法
肝臓は,栄養・エネルギー代謝制御において中心的な役割を果たす臓器であるため,肝予備能が低下した肝硬変患者では,さまざまな栄養障害を合併する.
特に蛋白・エネルギー低栄養(protein-energy malnutrition;PEM)の悪化に関与しているため,適切な栄養評価と栄養療法を行うことが重要.
・過剰な蛋白負荷は肝性脳症を誘発する可能性があるが,蛋白質を適切に摂取することは,血清アルブミン値や骨格筋量の維持において重要.
エネルギー摂取量
耐糖能異常がない場合,25~35kcal/標準体重kg/日
耐糖能異常がある場合,25~30kcal/標準体重kg/日
蛋白質必要量
蛋白不耐症がない場合は,1.0~1.5g/kg/日
蛋白不耐症がある場合は,低蛋白食(0.5~0.7g/kg日)+肝不全用経腸栄養剤
脂質必要量
エネルギー比 20~25%
食塩
腹水・浮腫(既往歴を含む)がある場合 5~7g/日
分割食
飢餓状態を短くするために,約200kcal程度の就寝前軽食(late evening snack;LES)を含めた1日4~6日の分割食が推奨されている.
分岐鎖アミノ酸 branched-chain amino acid;BCAA
低アルブミン血症を認め,経口食によって十分な蛋白質摂取ができない場合に検討.
効能効果は,「食事摂取量が十分にも関わらず低アルブミン血症を呈する非代償性肝硬変患者の低アルブミン血症の改善」.血清アルブミン値≦3.5g/dLが適用対象.
肝不全用経腸栄養剤
効能効果は,「肝性脳症を伴う慢性肝不全患者の栄養状態の改善」
初期評価
①蛋白低栄養(血清アルブミン≦3.5g/dL)
②Child-Pugh B or C
③サルコペニア(JSHの基準を用いて判定)
3項目のうち1項目でもあれば,下記のフローチャートに従って介入する.
すべてなし
BMI<18.5
栄養食事療法・指導+一般経腸栄養剤(+BCAA含有食品)
BMI 18.5~25.0
栄養食事療法・指導
BMI>25
栄養食事療法・指導+生活習慣改善
いずれかあり
栄養食事療法・指導(分割食・LESを含めて検討)+肝硬変合併症に対する薬物療法
↓
定期的な栄養状態・食事摂取量の評価
肝予備能,蛋白不耐症,サルコペニアの評価
↓
腹水 or 肝性脳症があれば,肝不全用経腸栄養剤
低アルブミン血症があれば,分岐鎖アミノ酸顆粒
↓
2ヵ月介入して効果判定
*改善がない場合は,他の治療に切り替えるなど適切な処置を行う.
就寝前軽食(late evening snack;LES)
1日の総摂取カロリーより約200kcalを分割し,就寝前に摂取・補食することで,夜間・早朝のエネルギー不足を改善する栄養療法.
特にBCAA含有肝不全用経腸栄養剤を用いたLESは,血清アルブミン値を上昇させ,肝硬変患者の病態/予後/QOLを改善することが報告されている.
経口BCAA製剤
肝硬変栄養療法におけるkey drug.
・補充投与によって,栄養障害,肝不全,サルコペニア,肝発癌が抑制される可能性がある.
・分割食やLESを含む栄養管理を行っても改善しない場合,低アルブミン血症,腹水・肝性脳症などの合併症がある場合は,速やかに開始する.
経口BCAA製剤には,BCAA高含有肝不全用経腸栄養剤とBCAA顆粒製剤の2種類がある.
BCAA高含有肝不全用経腸栄養剤
・特にPEMや肝不全の既往,腹水や肝性脳症などを有する肝硬変患者の栄養サポートに有用.
BCAA顆粒製剤
・食事摂取量が十分にも関わらず低アルブミン血症(≦3.5g/dL)を呈する非代償性肝硬変の症例が適用対象.
・非代償性肝硬変患者の血清アルブミン濃度を維持・上昇させ,肝不全の悪化などの複合イベントの発症を抑制すること,肥満を合併した肝硬変患者の肝発癌を抑制することが報告されている.
合併症の治療
肝性腹水

肝硬変患者に初回腹水が出現した場合には,鑑別診断のために腹水穿刺を行うことが推奨されている.
腹水の性状観察,細胞培養,腹水蛋白・アルブミン検査を行う.
↓
腹水の好中球数≧250/mm3 or 細胞培養陽性の場合は,特発性細菌性腹膜炎と診断する.
腹水総蛋白・アルブミン濃度(SAAG)≧1.1gであれば,漏出性と判断され,肝性腹水の可能性が高くなる.
安静,中程度の塩分制限で改善しない場合は利尿薬の投与を行う.
→肝硬変ではレニン・アルドステロン系が活性化されており,抗アルドステロン薬であるスピロノラクトンが第一選択薬となる.
Grade1(少量)
塩分制限(5~7g/日)
場合によっては利尿薬治療
Grade2~3(中等量~大量)
塩分制限(5~7g)+利尿薬治療(スピロノラクトン25~50mg/日±フロセミド20~40mg/日)
・フロセミド80mg,スピロノラクトン100mgまでは増量可能.腎機能の悪化に注意.
・スピロノラクトン・フロセミド治療開始後,4日以上経過しても0.8kg以下の体重減少しか認めないものや,尿中Na排泄量がNa摂取量よりも少ないことなどは,抵抗性と診断する.
治療抵抗例・不耐例
トルバプタン3.75~7.5mg/日内服(入院の上で開始)
・トルバプタン投与後1週間の時点で,1.5kg以上の体重減少が得られ,臨床症状(浮腫・呼吸困難・腹部膨満感)の改善が得られたものを有効する.
・急激な水利尿のために1日尿量が4,000~6,000mL程度に増加することもあり,これが高度脱水や高Na血症からの意識障害・橋脱髄症候群を起こす可能性があるため,入院の上で導入し,開始後の電解質を確認する.
トルバプタン抵抗例
アルブミン製剤投与+利尿薬静注治療(カンレノ酸カリウム100~200mg+フロセミド20mg静注)
・血清Alb値≦2.5g/dL
難治性腹水
腹水穿刺排液(+アルブミン製剤投与)
・大量穿刺排液(5L以上)を行う際には,穿刺後循環不全を予防するためにアルブミン投与(8g/L)を併用する.
・腹水が完全に消失するまで頻回に腹水排液を行い,その都度血漿増量薬を静注投与する方法は,全身循環動態,肝・腎機能,生存率に悪影響を及ぼさず,肝性脳症や腎障害などの合併症発生が有意に低下することが報告されている.
腹水濾過濃縮再静注法 cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy;CART
・著効例が多くみられることから広く行われている.
上記抵抗例
腹腔-静脈シャント
肝移植
(総頚静脈肝内門脈大循環シャント術 transjugular intrahepatic portosystemic shunt;TIPS) 保険適用外