ヘリコバクター・ピロリ Helicobacter pylori

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

Helicobacter pyloriH. pylori)の感染は,慢性胃炎・胃潰瘍や十二指腸潰瘍のみならず,胃癌や MALTリンパ腫やびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などの発生に繋がることが報告されている他,特発性血小板減少性紫斑病,小児の鉄欠乏性貧血,慢性蕁麻疹などの胃外性疾患の原因となることが明らかとなっている.

細菌学的特徴

体長約3μm,幅約0.5μm,の微好気性グラム陰性らせん状桿菌.
・複数の鞭毛をもち,コイル状の運動形態を持つ.

多くは胃粘膜内に存在し,一部は粘膜上皮に接着因子を介して強固に粘着している.
生命活動における至適pHは6~7であるが,ウレアーゼと呼ばれる酵素を産生しており,この酵素で胃粘液中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し,生じたアンモニアで局所的に胃酸を中和することによって胃へ定着感染している.
・この菌の発見により動物の胃に適応して生息する細菌が存在することが明らかにされた.

病原因子としては,ウレアーゼ,サイトトキシン関連蛋白(CagA),細胞空砲化毒素(VacA),活性酸素,炎症性サイトカイン(IL-1,IL-6,IL-8,TNF-α)などがある.

通常,幼少期に胃粘膜に感染した後,慢性持続的に感染状態を継続する.

疫学

・先進国では10歳代での感染率は10~20%で低く,40歳代でも30~40%程度の感染率.
・開発途上国では年齢に関係なく,感染率は70~90%と高値.
・日本は1960年代生まれ以前では70~80%と高率であり,20歳代は20~30%.年齢とともに感染率は上昇する.

慢性胃炎の約80%,胃潰瘍の約80%以上,十二指腸潰瘍の90%以上に感染.

危険因子

子供時代の衛生環境,生活状態,出生地および成人以後は社会生活クラス(経済条件)など

関連疾患

慢性萎縮性胃炎

HP感染患者の胃には組織学的に好中球や単球などの炎症細胞浸潤が認められ,多くは活動性胃炎像を示す.また,ヒトボランティアや動物の感染実験で,HPの胃内への定着と急性胃炎の発症,さらに慢性胃炎への進展が確認されている.萎縮性胃炎

胃・十二指腸潰瘍

疫学的に胃・十二指腸潰瘍患者におけるHP感染率は高いが,HP除菌により潰瘍再発率が有意に抑制される.

60歳未満の場合は,約80%以上の出血性胃潰瘍患者でH.pylori感染自体が最も重要なリスク因子.
70歳代以上では,H.pylori感染率は約60%程度に低下し,半数以上がNSAIDs・アスピリン内服歴を有している.

胃癌

萎縮性胃炎の広がりとH.pylori感染は,いずれも胃癌発生のリスクファクター.

HP感染の発癌における関与としては発生した腫瘍の増殖・成長を促進する発癌プロモーター作用を主体にしたものと想定されている.
HP感染は胃粘膜萎縮,さらに不完全型・完全型腸上皮化生を来たし,胃癌の発生につながると考えられている.

発癌因子としては,CagA(cytotoxin-associated gene A)がある.
・CagAはH.pyloriの有するⅣ型分泌装置と呼ばれる特殊な分泌機構によって,直接宿主細胞内に注入される.
・CagAは細胞極性を制御するPAR1 kinaseの阻害,さらにSHP-2 phosphataseの異常活性化により,細胞の癌化につながる異常な分裂・増殖シグナルを来たす.
・CAPZA1過剰発現細胞は,オートファジーが抑制され,がん幹細胞様細胞(cancer stem-like cell)と想定されるCD44 variant9(CV44v9)陽性細胞の前駆細胞と考えられている.
→CV44v9陽性早期胃癌では,陰性胃癌と比較し,内視鏡治療後の異時性胃癌発生率が高くなる.

H.pylori感染ディスペプシア

H.pylori感染自体が組織学的胃炎・内視鏡的胃炎を来たすこと,H.pyloriが胃前庭部粘膜に感染し,酸分泌過多を生じさせること,H.pylori感染がCCKの過敏性を増強することが原因となる.

H.pylori感染がグレリン,レプチンなどのホルモン動態に作用する.

胃MALTリンパ腫

胃原発MALTリンパ腫の発症・増殖にHPが深く関与しており,HP除菌により55~80%の改善が認められる.

H.pylori陽性胃MALTリンパ腫の60~80%は,H.pylori除菌によって病理組織学的所見の改善,内視鏡的改善,リンパ腫の寛解が得られる.

免疫性血小板減少性紫斑病

H.pylori陽性ITP患者の単球は,食作用能力が増強しており,抑制性Fc-gamma受容体ⅡB(Fcgamma-RⅡB)が低レベル.

H.pyloriの病原性タンパクCagAと抗血小板抗体が交差反応を示す.

日本を含む東アジアでは,ITPに対するH.pylori除菌治療の有効率は50%以上であり,ITPの第一選択治療に位置付けられている.

鉄欠乏性貧血

発症機序としては,宿主因子・菌株因子の両方が推定されている.

宿主因子
1)H.pylori感染による慢性萎縮性胃炎の進展に伴い,胃酸分泌の減少,胃内アスコルビン酸濃度の低下が鉄吸収効率の低下を来たす.
2)びらん性胃炎による慢性持続的な微量出血

菌体側因子
1)H.pylori自体の鉄消費
・H.pyloriは転写制御因子Furを介して効率的鉄奪取機構で抗酸化システムを維持している.
・鉄収奪能の高い遺伝子変異を持つH.pyloriの存在

慢性蕁麻疹

メタ解析では,H.pylori感染と慢性蕁麻疹との相関は,わずかであるが,有意に高い.

原因となる可能性としては,
1)H.pylori抗原やH.pylori関連リポタンパク質に対するIgG,IgA,IgE抗体の関与
2)H.pylori感染に伴う胃粘膜炎症によりIgE抗体産生を惹起する
3)IL-1,TNF-α,LTC4,PAFなどのH.pyloriに対する免疫応答で放出される炎症性メディエーターの関与
4)H.pylori感染による胃粘膜バリア機能の低下により食餌由来のアレルゲンが血流内に侵入しやすくなる.
5)H.pyloriによって活性化された好酸球によって分泌される好酸球カチオン性タンパクの関与

胃食道逆流症(GERD) *抑制

GERDとH.pylori感染率は逆相関(アジアで傾向が強い).
Barret食道発生に対しても抑制的役割を果たしていることが報告されている.

H.pylori感染胃炎が胃体部まで及んだ場合,胃粘膜萎縮を来たし,酸分泌は機能的に低下する.
→GERDに抑制的になる.

H.pylori除菌後逆流性食道炎の発症率は約5~20%で比較的軽症例が多い.
・約80%は改善がみられ,悪化は8.9%.
→GERDのリスクは除菌のメリットよりも上回らない.

検査

内視鏡検査

これなしに,ピロリ菌の診断はできない.

感染を示唆する所見

胃粘膜全体:萎縮,びまん性発赤,腺窩上皮過形成ポリープ,黄色腫,腸上皮化生,粘膜腫脹
胃体部:皺壁腫大,蛇行,白濁粘液
胃体部~穹窿部:点状発赤
胃前庭部:鳥肌

未感染を示唆する所見

胃粘膜萎縮がない.
胃体部~穹窿部:胃底腺ポリープ
胃体下部小彎~胃角小彎:RAC(regular arrangement of collecting venules)

内視鏡生検検査

迅速ウレアーゼ試験 rapid urease test;RUT
尿素とpH指示薬が混入された検査試薬内に,胃生検組織を入れる.胃生検組織中にHPが存在する場合には,本菌が有するウレアーゼにより尿素が分解されてアンモニアが生じる.
→これに伴う検査薬のpHの上昇の有無,pH指示薬の色調変化で確認する.

組織学的検査(鏡検法)
組織切片を HE染色あるいはギムザ染色により染色し,顕微鏡で直接観察する.

培養法
胃生検切片からの菌の分離培養によって,HPの存在を確認する.
・長所は菌株を純培養し入手できる点であり,この菌株を薬剤感受性(MIC)測定や遺伝子診断など他の検査に利用することができる.
・欠点は培養には3~7日を要する点.

尿素呼気テスト urea breath test;UBT

13C -尿素を含んだ検査薬を内服し,服用前後で呼気に含まれる13C -二酸化炭素の量を比較する.本菌に感染していると,そのウレアーゼによって胃内で尿素がアンモニアと二酸化炭素に分解されて,呼気中の二酸化炭素における13Cの含有量が,非感染時より大きく増加するため,間接的な診断ができる.

血中・尿中抗H.pylori IgG抗体検査

HPが感染すると,本菌に対する抗体が患者の血液中に産生される.
→血液や尿を用いてこの抗体の量を測定し,HP抗体が高値であれば本菌に感染していることが認められる.

HP感染の有無を検索するスクリーニング検査として現在最も一般的な方法.

尿を検体とする場合は判定が迅速で20分程度で判定が可能.

尿中H. pylori抗体検査は,蛋白尿であれば偽陽性となることが報告されており,2段階の検査が望ましいと考えられている.

便中H.pylori抗原検査

診断や研究用途に作られたヘリコバクター・ピロリに対する抗体を用いた抗原抗体反応による検査.この抗体が,生きた菌だけでなく死菌なども抗原(H.pylori抗原)として認識し,特異的に反応することを利用し,糞便中H.pylori抗原の有無を判定する.

診断

早期発見

血液検査によるスクリーニング検査である胃癌リスク健診.

胃粘膜の萎縮の程度を反映する血清ペプシノーゲン値と血液H.pylori IgG抗体検査を組み合わせてリスク評価を行う方法.

中学生に対する尿中H.pylori IgG抗体検査

企業の入社時健診における血清H.pylori IgG抗体検査

できる限り若年で内視鏡検査を行うことも重要.

治療

胃癌発症を3~4割減らせるとして,除菌が推奨されている.
・早期胃癌内視鏡治療後の症例において,除菌治療は異時性胃癌発生リスクを抑制するだけでなく,発生率を約1/3まで低下させる(HR 0.339)
・2013年2月からピロリ菌感染の慢性胃炎(上部消化管内視鏡検査で確認)に対し,除菌療法の適応拡大がなされ,保険診療で治療が可能になった.
・適応疾患は胃MALTリンパ腫,早期胃癌内視鏡的切除後胃,特発性血小板減少性紫斑病まで拡大.

3剤併用療法(PPI+抗菌薬2剤)が基本

CAM耐性菌の増加に伴う一次除菌率が低下してきたが,2015年カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(potassium-competitive acid blocker;P-CAB)でるボノプラザン(vonoprazan;VPZ)が除菌療法にも用いられるようになり,一次除菌率は90%台に回復した.
・PPIの胃酸分泌抑制効果は,その代謝酵素であるCYP2C19の遺伝子多型の影響を受け,CYP2C19の活性が高くPPIの代謝が速いextensive metabolizer(EM)ではPPIの効果が不十分となりやすい.
→VPZはそれ自体の力価が高く強力で,個体間格差がないため,除菌療法に必要な胃酸分泌抑制を安定的に達成できる.

なすび院長
なすび院長

感受性試験に応じた抗菌薬の選択は,除菌率の向上のために必要.
ただし,MNZの一次除菌使用と,感受性試験がともに認可されないと現実的にできない.

H.pylori除菌に用いる薬剤の全てに薬物間相互作用の懸念があるため,注意が必要.

CAM+ピモジド・シサプリド・アステミゾール→QT時間延長→心室性不整脈などの不整脈(併用禁忌)
CAM+エルゴタミン→血管収縮作用を増強(併用禁忌)
CAM+テオフィリン→頭痛・横紋筋融解症
CAM+ワーファリン→PT-INR延長
CAM+Ca拮抗薬→徐脈,低血圧
CAM+カルバマゼピン→酩酊,傾眠
CAM+SU薬→低血糖
CAM+ドンペリドン→QT延長

MZNはワーファリン・アルコール摂取の代謝を抑制→アルコール摂取禁止
MNZ+SU薬→低血糖

初回治療

現在世界的にプロトンポンプ阻害薬(PPI)と抗菌薬2 剤を用いたPPI を含む三剤療法がH. pylori 除菌治療の 主流であり,80~90%の除菌率が報告されている.

本邦ではメトロニダゾール(MNZ)は,抗原虫薬であることなどから,一次除菌治療の薬剤には含めないとの考えが主流.

PPI+AMPC+CAM による除菌治療では,PPI+CAM+MNZよりも除菌不成功後のCAM に対する耐性獲得が少ないことが報告されている.

プロトンポンプインヒビター(PPI) 2倍量/日
クラリスロマイシン(CAM) 400 or 800 mg/日
アモキシシリン(AMPC) 1500 mg/日

例)タケキャブ20mg 2T(2×朝夕食後),サワシリンカプセル250mg 6T(2×朝夕食後),クラリスロマイシン200mg 2T(2×朝夕食後)
*腎機能障害がある場合は,サワシリンを2T or 4Tに減量.

再除菌療法

除菌不成功の最大の原因はCAM耐性菌であり,二次除菌においてはCAMを含んだレジメでは低い除菌率しか期待できない.
→CAMを含まない二次除菌のレジメが必要となってくる.

一次除菌としてPPI+AMPC+CAMで除菌失敗した症例に対して,二次除菌としてCAMをMNZに変えたPPI+AMPC+MNZの除菌率が検討され,5~10日間投与でITT除菌率は81~96%と有効性が認められている.
→二次除菌法としてはPPI+AMPC+MNZ(PPI/AM 療法)がもっとも推奨される.

プロトンポンプインヒビター(PPI) 2倍量/日
メトロニダゾール(MNZ) 500 mg/日
アモキシシリン(AMPC) 1500 mg/日

副作用

下痢・軟便,発疹,味覚異常など.まれに抗菌薬起因性出血性大腸炎やショック,アナフィラキシー様症状

腎機能低下例

抗菌薬の用量を減じると共に適応については慎重に判断する.
→必要に応じ,腎臓内科専門医に相談する.
→用量の調節が不可能なパック製剤は使用すべきではない.

血清Crが2~4mg/dL程度の腎機能低下症例での除菌療法に関して,LPZ/CAM/MNZとLPZ/CAM/AMPCの比較試験において,除菌療法後者では血清クレアチニンが上昇し,その後改善しなかったことが報告されている.
→除菌療法を契機に腎機能に非可逆的な悪影響を引き起こす可能性があるため,除菌の適応に関してリスクとベネフィットバランスを考慮するなど,十分な検討が必要である.

AMPCの添付文書にも「腎障害の程度に応じて投与量を減量し投与の間隔をあけて使用すること」とあり,AMPCの投与は慎重に判断すべきである.

CAMもCYP3A4で代謝された代謝物は腎排泄であり,一般的には,腎機能高度低下例では,200mgの1日l回投与が推奨されている.

MNZも250mgの1日l回投与が推奨されている.

救済療法

PPI+AMPC+STFX
・PPI bid or qid+AMPC 500mg qid+STFX 100mg bid/week

PPI+MNZ+STFX
・PPI bid or qid+MNZ 250mg qid+STFX 100mg bid/week

PPI+AMPC
・PPI qid+AMPC 500mg/2weeks

若年者除菌

若年者が親世代前に除菌することで次世代への感染を限りなくゼロにすることが可能.

学校検尿を利用して尿中H. pylori抗体を調べ,陽性者については,尿素呼気試験か便中抗原検査でH. pyloriの確定診断を行う.

陽性が確定した後,そのまま除菌を行うか,クーポン券などを配布し,高校生あるいはそれ以降に除菌を行うか,各自治体によって方法は異なっている.

実際の除菌に関しては,若年者ではクラリスロマイシン耐性率が高いため,レジメン選択が重要視されている.

H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2016

1)H.pylori感染のスクリーニング検査は中学生以降であれば可能.
2)青少年期の除菌治療は次世代への感染対策として有効.
3)青少年期のH.pylori感染のスクリーニング検査として,尿中抗体測定法or便中抗原測定法が推奨される.
・偽陽性を考慮にいれた対応が必要.
4)青少年期でのH.pylori感染検査として精度の高い尿素呼気試験が推奨される.
5)本邦の青少年ではH.pyloriのCAM耐性率が高いため,薬剤感受性試験を実施した上で治療法を選択することが望ましい.実施できない場合は,CAM耐性を考慮して治療法を選択する.

小児期ヘリコバクター・ピロリ感染症の診療と管理ガイドライン2018

胃癌の予防のために無症状の小児にH.pylori感染検査を行い,陽性者に内視鏡検査を施行せずに除菌治療を行う(test and treat)を行わないことを推奨する.

胃癌の家族歴(1親等,2親等)を有し,除菌を希望する場合は除菌療法を行うことを考慮する.

除菌判定

除菌判定は除菌治療薬中止後4週以降に行う.
→除菌判定前にPPIが使用されていると、30-40%に偽陰性になることが知られている.

除菌治療後のH. pylori 感染の診断には尿素呼気試験 およびモノクローナル抗体を用いた便中H. pylori抗原測定が有用である.

<ユービット®,ピロニック®:尿素呼気試験薬>
ユービット:服用後30分に呼気し採取.
ピロニック:服用後10分に呼気を採取.

予後

HP発見以前は,消化性潰瘍は極めて再発しやすく,維持療法は必須だった.
→HP除菌に成功すれば,その後の再発率は年間数%となるため,維持療法の対象疾患は,HP陰性潰瘍,HP除菌非適応例,除菌不成功などに限局されつつある.

HPの再感染率は年0~2%程度.

除菌後に一時的に逆流性食道炎が出現.または増悪することがあるが,除菌治療の妨げにはならない.

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