熱中症 Heat illness

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なすび医学ノート

個人的なまとめノートで,医療情報を提供しているわけではありません.
診療は必ずご自身の判断に基づき,行ってください.
当ブログは一切の責任を負いません.

暑熱環境に対する身体適応の障害によって生じる状態の総称.

人は暑熱環境など外的な要素にさらされた場合や運動によって熱産生が増加する場合でも体温上昇を防ぐように恒常性が保たれている.

しかし,長時間この様な環境や状況が続き,身体の反応が低下すると,平熱体温に維持するための生理的機能(末梢血管拡張と発汗による気化熱放散)が破綻して恒常性維持の限界を超える.
 この経過中に様々な症状・兆候をきたし終末像として体温が上昇して高体温に至る病態を熱中症と呼ぶ.

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日内会誌2019 108(12) p2443-2453

病態

暑熱環境のおいて,生体の熱産生と外界からの熱吸収とによって生じる温熱ストレスに対して熱放出をはじめとした生体調節が不十分になって生じる.

人体における熱産生と放出

生体における体温の調節は,熱の産生と放出のバランスによってなされる.

その調節は,視床下部を中枢とし,自律神経機能,神経筋活動,内分泌活動によってなされる.

熱産生

代謝
基礎代謝 60~70kcal/hr
身体活動 ~900kcal/hr

吸収
太陽の放射熱 300kcal/hr

熱放出

放射(体温>気温の場合)
電磁波 熱放出の65%,皮膚血流↑によって放射熱↑

対流(体の周りの空気などの対流)
熱放出の10~15%(風速の影響を受ける)

伝導
熱放出の2%(水浸漬↑)

蒸散
水では0.58kcal/mL
発汗により熱放出の25%
(人では呼吸による蒸散の熱放出は有意でない)

熱刺激に対する生体の適応現象

表皮の血管拡張・収縮,発汗によるNaと水分喪失に対するレニン・アルドステロン系の作動などがある.

危険因子

脱水,小児,肥満,発熱性疾患,着衣,甲状腺機能亢進症,低身体活動度,薬物依存・アルコール依存,発汗不足,低所得,心血管疾患,最上階居住,皮膚疾患,エアコンのない住居,高齢者,長時間の運動

分類

熱失神 heat synscope(I度)

熱による皮膚の末梢血管拡張とそれによる静脈灌流の減少

相対的な脱水状態

起立時の低血圧を来たすが,迷走神経反射が惹起されて失神or失神前状態になる.
・自律神経機能や熱への適応力が弱い高齢者に発生しやすい.

なすび院長
なすび院長

心原性失神などの通常の失神の鑑別を必ず行う!

通常,体温上昇は認めない.

温熱環境の補正(涼しい環境)と仰臥位安静で速やかに回復する.
・有意な脱水を合併しないため,補液は必ずしも有効とは言えない.

熱痙攣 heat cramp(I度)

ふくらはぎをはじめとした骨格筋の痛みを伴う収縮.「足がつった状態」

発汗後の保水に塩分が含まれない場合に,NaやKが細胞レベルで相対的に発生して発生するとされる.

通常,体温上昇は認めない.

対応は,温熱環境の補正(涼しい環境)と安静と塩分を含む補液(経口補水を含む).

熱疲労 heat exhaustion(Ⅱ度)

更に発汗が続くことで高度の脱水になり,頭痛,嘔吐,思考異常などの様々な中枢神経症状や全身症状(脱力感・易疲労感)をきたし,失神や起立性低血圧,洞性頻脈も合併し得る.

体温調節機能は保たれており,高体温による臓器障害(脳含む)はない.
・発汗もある.
・体温は正常から40℃未満(著明な高体温はなし)
・高体温を示していても,涼しい環境で速やかに体温は正常化する.

生理食塩水をはじめとした経静脈的補液(1~2L)を行うことが基本.

診断は,感染症をはじめとした疾患の除外診断に基づく.

熱射病 heat stroke(Ⅲ度)

体温調節機構が失われ,蓄熱し,高体温のため,脳をはじめとした臓器障害が多臓器に発生する.
・意識障害など様々な中枢神経障害,呼吸・循環不全,肝・腎障害,DICなどに陥り生命の危険性が高い.

古典的な三徴は40.5℃を超える高体温,意識障害,発汗停止であるが,三徴を認めなくても,体温と環境温度に起因する意識障害を認めれば,熱射病と診断する.
・敗血症などを鑑別する.

発汗する水分が枯渇し,皮膚は却って乾燥している.

古典的な熱射病

年齢層:小児,高齢者
発生状況:熱波など,非活動時
健康状況:慢性疾患あり
内服状況:常時内服薬あり
機序:環境暑熱の吸収と乏しい熱放出
発汗:発汗停止(乾燥した皮膚)
意識障害:あり
酸塩基平衡:呼吸性アルカローシス
横紋筋融解:少ない
肝機能障害:軽度
腎不全:少ない
DIC:軽度
ARDS:多い
CK:軽度上昇
Ca:正常
K:正常

運動誘発性の熱射病

スポーツ中の熱射病では,代謝による熱産生が先行することをしばしば経験する.

年齢層:活動的な成人
発生状況:運動時
健康状況:健常
内服状況:なし
機序:熱放出を上回る過度な熱産生
発汗:発汗あり(湿潤下皮膚)
意識障害:あり
酸塩基平衡:代謝性アシドーシス
横紋筋融解:多い
肝機能障害:重度
腎不全:多い
DIC:重度
ARDS:多い
CK:著明に上昇
Ca:低値
K:高値

診断

深部体温の測定

体温測定は,通常,腋窩温とはじめとした体表温を計測するが,環境障害を考慮する場合には深部体温測定が必須.
・通常の腋窩温計では,35℃未満や41℃以上の計測ができないものもみられる.

本邦における深部体温測定は,直腸温や膀胱温計測が一般的.

治療

 重症の場合,生命の危険があるので直ちにA(気道)B(呼吸)C(循環)の確保を行う.

I度

安静,経口的に水分とNa補給
・失われた水分の補給を行うが,水分のみの補給は希釈性低Na血症を生じるので,必ずNa(塩分)の補充を一緒に行う.

経口補充が可能であり通常入院治療は不要.

Ⅱ度

体温管理,安静と水分・Na補給(点滴)
・上昇した体温を冷却する必要がある.
・水分と塩分の補給が必要だが,I度に比べて患者の状態が悪く,点滴(細胞外液や生理食塩水)による補給が適切なことが多い.

通常入院治療が必要になる.
・早期に治療を開始しないとⅢ度へ進展するので注意が必要.

Ⅲ度

積極的な体温管理と集中治療
・呼吸・循環障害,肝・腎不全,電解質異常,低血糖など代謝異常・DICなど多臓器機能障害を生じるので,人工呼吸,透析療法や補充療法など様々な集中治療が必要になることがある.

現場対応

CPR
通常の初期・二次救急処置

深部体温
体温測定は直腸温が基本
古典的:蒸散(微温湯~常温水をスプレーし風を当てる)
運動性:水への浸漬

救急搬送
古典的:直ちに
運動性:39℃未満まで冷却してから搬送

救急外来での治療

深部体温
直腸温or膀胱温をモニターしながら38℃まで冷却
解熱剤は無効で有害
・ダントロレンにエビデンスなし

循環モニター
平均血圧>65mmHg目標に30mL/hrで補液
乳酸値の正常化を図る.
補液でも循環不全が軽快しないときは昇圧薬を使用

痙攣が出現した場合
ベンゾジアゼピンorフェニトインを使用

体温管理(冷却法)

 体温調節機能が破綻し,高体温になっている熱中症患者に対しては,積極的な冷却が必要.

1)常温の水(決して冷水ではない)を体表にスプレーし扇風機など風を当てる.
 体表に散布した水が蒸散する際の気化熱として体温を奪うことで冷却する.
 高体温患者の場合直ぐに水が蒸発するので,繰り返し実施する.
*冷たいものを体表に当てると血管が収縮して体温放散が妨げられ,時に震えが生じかえって熱産生を増やす結果になるので注意が必要.
*アルコール蒸散による気化熱冷却を用いる案が示されることがあるが,アルコールを受け付けない体質の患者が含まれている可能性があり安易に実施することは不適切.

2)冷たい水で濡らしたタオルなどで体表を冷却する時には震えが来ないようにマッサージをしながら行う.

3)重症例では胃,膀胱内に冷水を注入して体内から冷却する方法も考慮しても良いが,明確な効果は証明されていない.

解熱剤は意味がないので注意!
(体温中枢の設定温を下げても効果はない)

予防

高温多湿な本邦の夏季は,生体からの放熱の制限によって熱中症をきたしやすい.

水分補給

中等度以上の熱中症では補液を行うが,経口補水も有効と考えられている.

水分吸収は,小腸のおいてSGLT-1を介するため,Naとブドウ糖とを要する.
→水1Lに,食塩3gとブドウ糖20~40gを追加する.

市販されている飲料の組成
なすび院長
なすび院長

スポーツドリンクは,浸透圧約300mOsm/Lとisotonicを謳っているが,糖分が多いことに注意

運動制限

WBGT(Wet Bulb Globe Temperature)

気温の効果,湿度の効果,輻射熱の効果の和を示したもの.

WGBT>28℃で熱中症による救急搬送が急増することが示されている.

環境整備

日射の遮断,適切な休憩,給水

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