heart failure with preserved ejection fraction;HFpEF
左室駆出率(left ventricular ejection fraction;LVEF)≧50%,Na利尿ペプチドの上昇を認め,心エコーor心臓カテーテル検査で拡張不全が示唆される心不全.
Na利尿ペプチド=血中BNP(brain natriuretic peptide),NT-proBNP(N-terminal pro-brain natriuretic peptide)
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特徴
1)高齢者の女性に多い.
2)冠動脈疾患との関連が少ない.
3)高血圧や心房細動がある.
4)HFpEFの予後はHFrEFと同じ
5)心不全の半分を占める.
加齢や高血圧による拡張能障害を基盤とする心不全と考えられてきたが,心臓を含む全身性の炎症による冠微小循環障害の関与や,原疾患として野生型トランスサイレチン心アミロイドーシスの頻度が従来考えられてきた以上に高いことが明らかになってきている.
疫学
現在では,心不全症例の約半数が占める.
先進国においては成人の約1.1%が罹患していると推測されている.
高齢者,女性に多い.
高血圧,心房細動を高率に合併.
欧米においては,肥満・糖尿病・CKD・COPDなどの併存症を有する特徴.
(本邦では,肥満・糖尿病・COPDの合併率は少なめで,心房細動が多い)
HFpEFが外来・入院患者に占める割合は,51%(2000~2004年)から69%(2006~2010年に増加.
・背景には,人口の高齢化だけでなく,関連する併存症の有病率増加が関与.
病態
未だに十分解明されていない.
以下の病態が複雑に組み合わさることで,多様な臨床病型をもたらしていると考えられている.
①左室拡張機能障害に伴う左房圧上昇
②左房圧上昇に伴う後毛細血管性肺高血圧
③肺動脈の異常による前毛細血管性肺高血圧・右心不全
④容量負荷とそれに伴う心室相互作用による左室充満圧の上昇
⑤各種併存症によって生じる微小血管炎症を背景とした微小循環障害,心筋肥大・線維化
⑥心筋・骨格筋におけるミトコンドリア代謝障害
⑦心筋細胞におけるタイチンのアイソフォーム化や細胞外マトリックス増生による心筋スティフネス上昇
診断
症状,既往,患者背景,身体所見,心電図,胸部レントゲン,血中BNP・NT-proBNPなどによって臨床的に心不全を疑う
↓
心エコー上でLVEF≧50%+拡張機能障害を認めた場合に診断できる.
BNPは,左室拡張末期壁応力の増大に応じて分泌されるため,
左室肥大を呈し,左室内腔の拡大を認めないHFpEFでは,
左室拡張末期圧の上昇が同等のHFrEFと比較すると低くなることが知られている.
内臓脂肪の蓄積は,Na利尿ペプチドのクリアランス受容体を増加させる.
→肥満患者の心不全重症度の過小評価に注意!
拡張機能障害の指標
左室流入血流速波形のE波,僧帽弁輪部速度波形のe’波のピーク速度の比(E/e’)
e’
三尖弁逆流速度(tricuspid regurgitation velocity;TRV)
左房容積係数(left atrial volume index;LAVI)
HFA-PEFFスコア
心エコーの各指標と血中NT-proBNP値 or BNP値による指標の中で,
大基準(Major)は1項目2点,小基準(Minor)は1項目1点として加算し,
5点以上の場合にHFpEFと診断する.
2~4点の場合は,運動負荷心エコーを施行し,その結果により安静時 or 運動負荷時の心臓カテーテル検査を行う.
機能評価
大基準(Major)
Septal eʼ<7cm/s
or
Lateral eʼ<10cm/s
or
平均E/eʼ≧15
or
TR velocity>2.8m/s(PASP>35mmHg)
小基準(Minor)
平均E/eʼ 9~14
or
GLS<16% GLS=global longitudinal strain
形態評価
大基準(Major)
LAVI>34mL/㎡
or
LVMI≧149/122g/㎡(男性/女性)
or
RWT>0.42 RWT=relative wall thickness
小基準(Minor)
LAVI 29~34mL/㎡
or
LVMI>115/95g/㎡(男性/女性)
or
RWT>0.42
or
LV wall thickness≧12mm
バイオマーカー
大基準(Major)
NT-proBNP>220pg/mL(洞調律)>660pg/mL(心房細動)
or
BNP>80pg/mL(洞調律)>240pg/mL(心房細動)
小基準(Minor)
NT-proBNP 125~220pg/mL(洞調律)365~660pg/mL(心房細動)
or
BNP 35~80pg/mL(洞調律)105~240pg/mL(心房細動)
原因の鑑別
冠動脈疾患→冠動脈CT,冠動脈造影
肥満・COPD・CKDに伴う呼吸困難→心肺運動負荷試験(CPX)
治療
疾病管理と対症療法
長期予後を改善する治療法は十分に確立されていないが,
肺うっ血の解除,増悪因子の是正+病態に対する根本的な治療
である点はHFrEFと同様.
心房細動合併の有無によって大きく異なることが明らかになっている.
洞調律
血圧上昇による後負荷増大が最も大きな要因
→血圧管理がより重要
心房細動(全体の半数以上)
血圧上昇よりも,水分・塩分制限の不徹底や不整脈,感染などを契機に入退院を繰り返す.
→生活習慣の改善に加え,利尿薬などによる体液コントロールが重要
薬物療法
ACEi,ARB,MRA,ARNIが,無作為化比較試験で検証されてきたが,いずれも心血管死・心不全入院などの主要評価項目を改善していない.
↓
①併存症の存在により病態が多様.
②HFpEFでは圧容量曲線の特性から血管拡張薬によってHFrEFのように1回拍出量の増加が得られにくく,むしろ過降圧をもたらす可能性
などが考えられている.
最近では,SGLT2iの有効性が報告され,大きくパラダイムシフトすることが予想される.
EMPEROR-Preserved試験
機序としては,Na利尿効果など直接血行動態に影響を及ぼすことによって有効性を発揮している可能性.
利尿薬としては,ループ利尿薬に加えてMRAの投与が心不全入院を抑制する可能性がある.
β遮断薬に関するエビデンスはこれまでに示されていない,
心拍数を低下させることが必ずしも症状・予後の改善にはつながらないことが,イバブラジンの大規模臨床試験で報告されている.
非薬物療法
心房細動合併時
安静時心拍数<110bpmになるようにコントロール.
レートコントロール困難な症例や,発作性心房細動に伴い心不全の増悪をきたす症例には,除細動の上カテーテルアブレーションの適応を考慮する.
心臓リハビリテーション
最大酸素摂取量,6分間歩行距離を改善し,運動耐容能改善に有効.
IASD(interatrial shunt device)
心房中隔にシャントを作成して,左房圧を下げるデバイス.
経皮的に留置することで,運動負荷時のPCWPが有意に低下することが報告されている.
QOLに対する大規模臨床試験中.